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12期その6

ヒューイ・ワートンがブリアティルトに来たのは、ジェインたちに付き添うはめになる数年前のことだった。
たしか、スクール帰りだったはず。
帰ったら、父親の仕事の秘書の真似事をすることになっていて、スクールから職場に向かって帰宅中。面倒くささを心の隅で弄びながら、それでも足を早めていた、いつもの放課後。
いつもと変わらない日だったはずなのに、気がついたらヒューイは見知らぬ森の遺跡の中で。
薄暗い森の中――黄昏の聖域に放り出され、途方にくれて空を見上げていた。
そこを実際に助けてくれたのは、帽子を深く被った、銀髪のガンナーだった。
ヒューイは動転していて満足に礼も言えなかったが、そんなヒューイを気にもせず、慣れてでもいるように、タバコを片手にそのガンナーは、ヒューイを街道まで連れ出し、通りかかった初老の商人に預けて去っていった。
その、通りかかった商人こそが、先代キャスケル男爵。
ジェインの祖父である。

親切にも彼は、街に着いてもヒューイを放り出したりせず、何が気に入ったのか、行くあてもないヒューイを手元に置くようになった。
ヒューイも秘書の真似事には慣れていたので、貴族付き合いのサポートにもすぐに対応することができ、一年後にはキャスケル老の懐刀として貴族の間でこっそりと噂されるような存在になっていた。
最初はヒューイをばかにしたような態度をとっていた男爵の息子、現キャスケル当主も、次第にヒューイの手腕に思うところがあったのか、積極的にヒューイを利用するようになった。
ヒューイも、別に文句があるわけでもなく、このままキャスケル老の元で、静かに仕えていくものだと思っていたのだが。

ある日、キャスケル当主に呼び出され、ヒューイの未来は大きく変わることになった。


「ヒュー坊、ちょっと話があるんだけど」
「ヒュー坊ってなんですかそれ。体調でも悪いんですか当主」
「父上には呼ばせておいて、僕には呼ばせないんだ…もう家族も同然だと思ってたのに…」
「さて、ご用件をどうぞ」

父親のキャスケル老とは違って、普段はどちらかというと頭の固いキャスケル当主だが、場を和ませようとすると空回る癖があった。
その癖のおかげで、最近は妻や娘とも上手く行っていないという噂。その噂が本当かどうか、ヒューイは知らないが。

「娘が…また振られた」
「ああ。例のお見合い騒ぎですか。よく続けますね。娘さんも嫌がってるみたいだし、諦めたらどうですか」
「僕だって、娘は可愛いし手元に置いておきたいよ。
とかやってたら、あのじゃじゃ馬娘ももうすぐ20!あっというまに行き遅れ!イイトコの貴族と結婚させようと思ってたのに、あっというまに行き遅れ!片っ端からお見合い全部ぶち壊すクラッシャー娘に…!」
「あ、僕、そういう話興味ないので、奥様やお父上にグチってください」
「あれにも父上にも既にグチり済みだ」

妻や父親では足りないからと、父親の部下を呼び出してまだグチを言うとは、敏腕当主の名が泣くに違いない。
豪快な先代とは違っているが、消極的ながらも堅実確実に事を進めていく当主には、ヒューイだって一目置いている。
一目置いているが、こういうところは尊敬できないな、と冷ややかに当主を見つめ返した。
が、そんなヒューイの視線にびくともしない当主は、伊達に末席とはいえ貴族の当主を勤めてないということだろう。

「そう、実はな。父上に良い案をいただいてな」
「はあ」
「あのバカ親父もたまにはマシな提案をするのだと、少し見直したのだが…」
「老と当主の仲が良いのか悪いのか、僕にはたまに掴めなくなります」
「まあそう言うな。僕は、今まで君のことは、また親父が拾ってきた変な胡散臭い地味野郎と思っていたのだが」
「僕、帰っていいですか?」
「これからは義理とはいえ親子になるんだ。歩み寄らなくてはな」
「は?」

当主はにこやかにそう言い切った。
当たり前のことを当たり前に言うように。
しかし、その発言を、ヒューイの方は受け付けられなかった。
意味がわからない。
やりとりのどこかにそれがわかる答えはあったのかと、脳内で反芻してみたが、やっぱり意味がわからなかった。

「当主、すみません、どういう…」
「君はもっと察しのいい男だと思っているが…」

にこりと、当主は笑った。
有無を言わせぬ笑み。彼が男爵という末席の貴族であるのに、社交界で渡り合えるのは、この笑みのせいだとわかる貴族たらしめるそのスマイル。
嫌な予感がヒューイの背中を走り、身をよじると、カタリと椅子がなった。
だがいつのまにやら。ヒューイは両手をぐっと握られ、逃げることが出来なくなっていることに気がつく。

「娘と君が結婚すれば丸く収まるんだ」
「は?」

娘、というのは言うまでもない。ジェイン・キャスケル嬢。キャスケル老の溺愛する孫娘にして目の前の当主の一人娘である。
ヒューイは、彼女と直接話をしたことはない。
もちろんその顔は知っている。一度パーティの付き添いで老の後ろで控えていたとき、見かけたことはあった。
金色に輝く綺麗な髪。宝石のような瞳。長い睫。
祖父に見せる綺麗な笑顔。
まるで人形のように整ったその顔は、ヒューイの印象にも強く残っている。

「…うちの娘が気に入らないとでも言うのかね」
「い、いえ、そういう問題ではなく」

キラリと当主の目が光って、ヒューイはあわてて首を振った。
気に入るとか気に入らないとかそういう問題ではない。
むしろ、どんな問題にもならないと思っている当主側の方がおかしい。
そもそも、結婚が嫌で見合い話をぶち壊している娘に、さらなる見合い話を持ち込んで何が変わるというのか。

「娘さんは、結婚がまだ嫌だと言ってるんでしょう。相手が誰でも関係ないんじゃないですか」
「うむ。婚約者が決まったと報告したら、逃げ出す準備を始めたらしい」
「って、見合いすっとばかして婚約者だと報告したんですか…」
「ああ、まどろっこしいのが嫌なのかなと思って」
「そういう問題じゃないでしょう」
「写真も見ずに突っ返してきたよ。家出するとな、父上には言ったらしい。僕には内緒で」

数々のお見合い話を壊してきたジェインに、お見合いどころか、決まった婚約者だなんて報告したら、どうなるかは日を見るより明らかだ。
空気が読めないどころの話ではない。
敢えて彼女の地雷を踏み抜いてどうするというのだ。
もしかしたら、娘が家での算段をしているのは、今回の件があってだけのことではないかもしれない。

「…もう放っておいたらどうです?」

だが、ヒューイがひっかかるのはそれだけではない。
貴族に生まれながら、その責任を放棄しようとしている娘に対してもだ、呆れてしまう。
貴族に生まれたのだから、生まれた時から結婚に自由がないことくらいわかっているはず。
今更逃げるなんて我が儘、ふざけている話だ。
彼女の気持ちもわからないではないとはいえ、ヒューイはどうしても、まあ、言っていることは多少むちゃくちゃではあるが、恩義を感じているキャスケル男爵たちの肩を持つ方が、心情的にも自然ではあった。
勝手な娘だ。同情しなくはないが、それでも彼女に好感を持つことはできない。
放っておいて、野垂れ死にすればいいとまでは思わないが、苦労すればいいのだ。
もっとも、目の前の彼女の父親や祖父としては、どんな無責任な娘だろうと、見捨てることは出来ずに、こうやっていろいろ裏でしているのだろうけれども。

「…そうだな、放っておこう」

ところが、返ってきた当主の答えは、少し予想外のものだった。

てっきり、連れ戻して来いと命令されると思っていたので拍子抜けする。
すると、当主は笑みを崩さずに、続けて告げた。

「君には、ジェインについて行ってもらいたい」
「は?」
「表向きは、あの子の護衛として、父上がつけたということにする」
「いや、表向きはって…」
「もちろん、君の役目は、あの子と好い仲になることだ。おせ!おしまくれ!おしたおせ!」
「えっと」
「孕ませてこい。できれば跡取り。男の子がいい」
「ちょっとま…」
「たのんだぞ」

なんということを言うんだこの父親は。
娘を簡単に売ってしまうこの強引さは、さすがは貴族というところだろうか。
こちらの意思も知ったことではないらしい。
助けてもらった恩もあるので、彼らに基本的には逆らうつもりもないが、だからと言って、さすがにホイホイと全てをのむわけにはいかない。

「まさか、聞けないわけじゃないだろうね」
「いや…でも、僕は貴族でもなんでもないですよ?当主はずっと、娘を貴族に嫁がせたいって…」
「そんなものは諦めた。…というか、もう若手貴族には全部断られたし、さすがに娘を脂ぎった爺さん連中に嫁がせるつもりはない。それに、お前の力は、僕もそれなりに認めているんだよ」

出逢った当初はあんなに、なんだこのガキはという態度でつっかかってきたこの男が「認めている」と発言したことは、感慨深いことではある。
しかし、それにも勝る胡散臭さがそこにはあった。

「よろしく頼む息子よ」

ようするに、傀儡にしたいだけだろう。
恩があり、身寄りもなく、どんな扱いをしても文句も出ない。
どこの馬の骨ともしれないが、黄金の門を通ってきたということは、ブリアティルトに何の後ろ盾も持っていないことだけは確かだ。
それは弱点でもあり、武器でもあった。
そして当主には、弱点を帳消しにして、武器として活用する道が見えているのだろう。
そのことを、ヒューイは理解していた。
百も承知で、それを十分に吟味した後。
ため息を付きながらも、頷いて、是を示した。












とはいえ。

正直なところ、本当はどうでもよかったのだ。
もちろん、あのわがまま娘をどうにかしようとするほど、彼女に興味を持ってはいなかった。
命令故にと考えなくもなかったが、積極的にどうこうしようとは思っていなかった。
どうでもいいし、どっちでもいい。断固拒否する気もないが、積極的にも動かない。考えることを放棄して、まあいいかと深く考えずに同行したのだけど。
共にいる中、わかったこと。どうやら彼女は、本気で逃げようとしているつもりはないらしい。
数年ふらついたあとは、家に帰って、今度は結婚を受け入れるつもりだと彼女は言う。
どうしても、結婚前に家を出てみたかったのだと。
それならヒューイは、その帰った時に彼女の意思を当主につたえ、彼女に結婚の条件に合う適当な貴族を充てがってもらうように進言すればいいだけだ。数年経てば、彼女の悪い噂も消えて、貴族の結婚相手でも簡単に見つかることだろう。
そう思っていたのだが。


(適当に、家出の相手をするだけのつもりだったんだけどな)


気がついたら、市場で布を買って、よだれ掛けまで作ってしまっていた。
この間は、雑貨屋で買った入れ物に砂を詰めて、音の鳴る簡易おもちゃまで作ってしまっている。
店で見つけた可愛らしいクマのぬいぐるみも、つい部屋に招き入れてしまって、シンプルなこの部屋には、完全に不似合いなものになっていた。もう誰もこの部屋に入れたくない。


つまり。

(わからないもんだなあ)

父親になることが発覚してから、ヒューイは日々そわそわしっぱなしだ。
あまり顔に出るタイプではないが、浮き足立っていると自分でも思う。

(当主や老になんと言うべきか…)

間違いなく、でかした!と言うに決まっている。
念願の跡取りが出来るか、娘なのか、それはまだわからないが、二人の思い通りになったのだから、ヒューイも使命を果たしたのだといってもいい。
だが、一方、困っているのはジェインに対してだ。

(ジェインは、怒るだろうな…)

最初から、仕組まれていたと知ったら、きっと彼女は怒るだろう。
厳密に言うと、ヒューイは乗り気ではなく、どうでもいいと思っていたので、積極的に仕組んだわけではないのだが、何にしろ、彼女にとっては気に食わないことだろうと思う。
だから、ヒューイは彼女に何も言えなかった。
もう少し、落ち着いて、子どもが生まれてから…と思う自分は、情けないという自覚もある。
落ち着いて、というのは、臨月が近くなってからというもの、ジェインの様子が少しおかしいからだ。
そわそわして、不安げで。どうしたのかと聞いても、頑なに、大丈夫と言うだけ。
何か言いたいことがあるなら言え、と言いたいところだが、彼女を興奮させたくもない。
妊娠中は気が立つ女性が多いと聞いたこともあるし、そっとしておこう、と思っていたのだが、きちんと話し合うことも大事だと、わかってもいた。

(話し合う、か)

正直なところ、ヒューイが一番苦手なことである。
誤解されやすい性質を、わかってくれる相手ならまだしも、ジェインのような我が強い相手と、向かい合うことも正直苦痛だ。
その性質を、ジェインは最初から見抜いていたように思う。
彼女には、性格が悪いとか、人の心が薄いとか、散々に言われた。
図星すぎて腹が立つくらいだ。
他人に何を言われようとも、普段は気にならないのだが、彼女の言葉は、何故かヒューイの心をささくれ立てた。
何度も喧嘩をし、気に食わないと思いつつ、その喧嘩の延長線上でこういうことになってしまったが、結局のところ、喧嘩になるくらい、彼女が気になった、ということだろう。
と自己分析をし、ヒューイは首を振った。

(…悪いことしたな)

こんなはっきりとした罪悪感を持ったのは、初めてのことだ。
子どもの頃から、他人が何を思おうとどうしようと、関係ないと思っていた。
他人とは、自分が利用できるものと、自分を利用しようとしているものと、その両方と、そんなカテゴリーの中でしかなかった。
拾ってくれた男爵たちには、利用されてもいいかと割り切っていたけれど、それを許容すれど、それだけだ。利用されることを許容するだけ。その中で何を考えていようが関係無かった。
だけど。

と、手にしたよだれ掛けを見る。
なんとなく、布を買って、それから作ったもの。
作りながら考えていたのは、これからのこと。生まれてくる子どものこと。
それから…生まれてくる子どもの、母親の事。
ジェイン。
子どもが出来たことを、最初彼女はヒューイに言おうとしなかった。
身体がだるいと言って、味覚も変わって、何を食べてもすぐに洗面所にむかう彼女に、もしかしてと気がついたのはヒューイの方だ。彼女は何も言わなかったが、身に覚えもある。だとすると自分の子だと、すぐにわかった。
それからだ。
遺跡で古代の遺産の子守り人形を見つけた時も、すぐに彼女を思った。
何かを見て、意図せず誰かを思うなんて初めての事だった。
正直なところ、悪い気もしない。
よだれ掛けなんて作ってしまう日が来るなんて思いもしなかったが、それもまた悪くはなかった。

(…話す…ついでに、他に何が必要か、聞いてみようか)

赤ん坊の必要なものなんて、ヒューイに想像つくものはそこまでだ。
話をしなければ、ならない。それから、少しの謝罪を。
意を決して、というほどの覚悟ではないが、それでも少し、慣れない緊張のようなものを感じながら、ヒューイは席を立った。
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2014-08-13 : SS : コメント : 0 :
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