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12期その5

意を決して、それでもすぐには聞けなくて、言葉をいくつか探した後、もしかしたらなんだけどと、リオは横たわって腹を擦るジェインに尋ねた。
微笑みながら、なあに、と上げるジェインの表情は、やっぱりいつもと違って見える。
これは、リオの知らない顔だ。
それを見て、リオは疑いが現実のものだと悟った。
最近感じるようになった違和感。
彼女はもう、以前のジェインではないのだ。









「ジェインは進化しちゃったのよ…」
「へえ…」


赤雫☆激団別邸。通称秘密基地。
小さな部屋が三つと、リビングと呼ぶには小さな食事部屋を有するその家で。
車椅子を玄関に置き、食卓に腰掛けたリオは、テーブルに伏せつつ呟いた。
応じるソウヤは、気のない風に、それでも無視することなく相槌を打っている。

「さすがジェインよね。人の進化の道はとても険しいというけれど…」
「進化論で来たかぁ」
「少しさびしいけど、応援しなきゃ。選ばれし人しか進化できないっていうのに、ジェインは選ばれたんだから」
「コウノトリ説よりはマシなのかな」
「進化の最終章での儀式、ジェインが再生するためには、選ばれし人が必要なのよね」
「あ、マシでもなかった」
「ジェインのための選ばれし人って、誰なのかしら…ワタシが選ばれたら、ジェインに悲しい思いなんてさせないわ…」
「これっておれが性教育までしなきゃいけない流れ?」

俯き呟いているリオは、ソウヤのやる気のない相槌を聞いてはいないらしい。
しかし、もう呟き飽きたのか、ようやく顔を上げて、やる気を表明するように、とん、とテーブルに手を打った。

「ジェインが自分から言ってくれなかったことはショックだけど、ちゃんと、応援しないと!ね!」

ね!と訴えられたソウヤは、勢いで頷きそうになったが、はあと息をついて肩をすくめるに留めた。


ジェインが妊娠している。


ヒューイが【子守り人形】なんて拾ってきて半年。
ジェインの腹もすっかり大きくなって、ようやくその事実にリオも気が付いたらしい。
ジェインの腹の中の人物を知っているソウヤとしては、複雑な気持ちでいっぱいだが、事実を知っていてもなお、いつの間にと思わざるを得ない。
ジェインもヒューイも、仲が悪くはないが、夫婦になるほど仲が良いとも思えなかった。
この巡りの間に、仲を深めて行くのだろうかと思ったが、そんな傾向もなく。しかし突然、降って湧いた結果に、複雑な気持ちを禁じ得ない。

(いつの間にというか読めないというか…)

ソウヤは、ジャラヒの家族について、詳しいわけではない。
今、ジェインの腹の中にいるのは、ジャラヒの兄であろうとは思うが、その人物についても、以前の巡りで顔を合わせたことはあるが、話したことなどほとんどなかった。
仲間のダリアの幼馴染で、何を考えているのかわからない冷酷な暗殺者。そんな対外的な印象でしか知らない。同じ触れ込みの冷酷な暗殺者のはずのダリアは、案外抜けている普通の女の子だということは知っているが…あの青年にも、そんな普通の一面はあったのだろうか。
何を考えているかわからないという点では、あの青年の父親であるところのヒューイもそうだ。
が、ソウヤも、最初にそうだと気が付かないくらい、ヒューイの印象は地味で、暗殺者(ジェラルドのことだ)やギャングをやるような青年(ジャラヒのことだ)の父親になるような男には見えなかった。ジェインもそうだ。明るくて、思いやりを持つ普通の女性。息子がそんな日の当たらないことをするなんて、思いもしないだろう。
ジャラヒの口から両親について言及されたこともほとんどなかったので、実際目にするまで想像もしていなかったし、まさか目にするとも思っていなかったのだけど。

「ソウヤくん!聞いてる?ワタシたちが応援しないと、ジェインは進化の儀式を越えられないんだよ!」

この巡りの中で唯一、ソウヤの見知った存在であるところのリオは、何やら明後日の方向に張り切っている。

「……」

見知った、とはいえ、ここにいるリオもソウヤの知っているリオではない。
この目の前のリオは、ソウヤの知っている14歳の少女ではなく、20前の妙齢の女性だ。
あのお気楽ご気楽元気娘とは違って、思慮深いところだって見せてさえいるオリジナルの女性。
20前の女性が何やら妙なことを信じている様子は、不思議といえば不思議だが、でもまあ、あの子のオリジナルだと思うと、らしいと言えばそれらしくもあった。

(こういうの、ジャラヒならどうするのかね)

彼女を、リオのことを一番想っているだろう金髪男を思い浮かべる。
昔の両親や成長した姿の想い人を前にしてしまったら、きっと彼はそれどころではなくなるのだろうけど。
ともかく、彼女を観察対象として見ているソウヤが出来ることと言ったら、ため息をついて、彼女の考えを正す努力を見せるだけだ。

「応援ねえ。あいつらに任せて、手伝いくらいしか出来ないと思うけど。それに、ドロ…子守りの本職も付いてるし」
「あいつら…って、お人形さんとヒューイ?だったらワタシたちもよ。がんばらないと!」
「まあ、手伝いはするけど、本職と当事者が真っ先にがんばるべきっていうか…」

現在、父親と母親、それにベビーシッターまで揃っているのだ。
手伝いはするが、あくまでも手伝い。そういうスタンスをソウヤは保ちたい。
さもないと、ジャラヒやジェラルドの育て親なんてなってしまったら、笑えないどころではない。考えただけで背筋が寒い。
リオの知ったことではないだろうが、将来的に好きな子が育ての親だったなんて要素をジャラヒに与えるのも、これ以上の悲喜劇は勘弁してやりたい。
鳥肌を立てるソウヤの前で、リオは何を言っているのかわからないという風に、きょとんと首を傾げていた。

「当事者??」

(あ、そこからなんだ…)

「えーっと、…そうだな。つまり、子どもが産まれるのは、ある日、愛する男女が、えーっと、なんていうか、おしべとめしべで説明すると…」
「???」
「…なんかもう面倒くさいから直球で言ってもいいかな」
「??」
「あいつら、いつの間にか二人で」
「ああ!そっか!わかった!!儀式のことね!ジェインの為の選ばれし者は、ヒューイだったってこと?」

わかった!と、両手で挙手するリオの得意顔に、一瞬考えた後、ソウヤは手で丸印を描いて答えた。わかってくれたならもう何でもいい。間違ってはいない。

「でも、おかしいなあ。ジェインに聞いたら、それはわからないって言ってたのよ?」
「ん?」
「選ばれし人!誰なのって聞いたの。いないなら立候補しようと思って。だけど、どうだろうって、わからないって言ってた。だから、立候補するよって言ったら、考えとくって…」

選ばれし人とは一体何なのかという疑問はさておき。
おそらく、そのニュアンスからすると父親のことだろう。
リオは、ジェインに父親が誰なのかを聞いた。
その答えは、明確には返ってこなかった。ということだろうか。

(リオの言ってる意味が、ジェインにはわかってない…ってこと、だといいんだけど)

なんとなく。
そんなことはない気がした。
ジェインはリオの幼なじみだ。きっとリオの言いたいことはわかっている。
それでいて、親友であるリオに、そのことを隠したのだ。
リオにすら言いたくないことなのか。
言えないことなのか。
どちらにしろ、何か含みを感じさせた。

(嫌な予感、ってほどじゃないけど)

違和感だ。
ソウヤは、事実、父親がヒューイだと知っている。
最初はそうと気づかなかったが、名前を聞けば確信せざるを得なかった。
『ヒューイ・ワートン』が、ジャラヒ・ワートンの父親でなくて何だと言うのだ。
未来のワートン財閥総帥が、こんなに普通の地味な男だとは思わなかったが、彼がそうには違いない。
そして、母親のジェイン。
見た目もあの兄弟にそっくりな女性。
その名前も、ソウヤには聞き覚えがあった。
ワートン兄弟の兄は、本名であるジェラルドではなく、ジェインという偽名を名乗って、ブリアティルトにやってきたことがある。
その偽名は母親の名前だと、趣味が悪いと、その弟であるジャラヒは苦笑していた。
それらは、赤雫☆激団にこの巡りで出逢った二人――ヒューイとジェインにしっかりとしっかりと繋がっている。

だとしたら。

(なんだかなあ…)

それを隠す理由が、ジェインにはあるのだろうか。
それにヒューイ。
子守り人形なんて連れ帰ったんだから、父親としての自覚があるのだろうと思っていたが、リオが気がついていないくらい、彼は自分が父親だと主張していないのだろうか。

(いや、おれは、ただ見守るだけのつもりなんだけど)

だけど、と胸の内で言い訳したが、ソウヤの内のもやもやは消えない。
お節介は嫌いだし、そもそも、ソウヤの役目は、リオを見守ることで、ジェインやヒューイのことはどうでもいいはずだった。
当のリオは、何故か成長した知らないリオになって目の前にいるのだが、それならそれで、彼女がどうなるのか、見届けるのがソウヤの役目。
決して、リオの友人夫婦がどうなろうと、知ったことではない。

(でもまあ、なんか曲がり間違って、ジャラヒが生まれなかったら、それはそれで困る、のか)

思いついた言い訳は、とても都合がよかった。

(あの二人に何があって、ジャラヒが生まれなかったら、あのリオも生まれないわけだし)

ここにいるリオをモチーフにして、ジェインが書いた話の主人公が、ソウヤの知っている『リオディーラ』だ。
『リオディーラ』は、ジェインの手で生まれ、ヒューイが絵本にし、ジャラヒが現実に具現化させた少女。
そして、ジャラヒによってハッピーエンドを向かえ、消えてしまった。
その更に先の結末を見るのが、ソウヤの使命だ。
だからジャラヒの両親が、曲がり間違って一緒にならなければ、話も始まらない。

「どうしたの?ソウヤくん」
「いや、別に…」

何か問題でもあるのかと心配そうに首を傾げるリオに、大丈夫だと苦笑を返す。

「リオの言うとおり、まあ、ちょっとだけお節介しようかなあと」
「お節介じゃないよ!お手伝いよ!」

胸を張るリオはさておき。
不慣れなお節介の実行のため、ソウヤは立ち上がって、ふうと息をついた。



*******







さて、一体どうしよう。
ジェインがそれに気がついた時、最初に思ったのは、当然今後の不安だった。
身に覚えも予感もあったので、疑いはない。
だけど、それをなかったことにすることは、何故か頭を過ぎらなかった。
腹の中にある小さな命は、もうそこにあるのだから、振り返ってどうこう考えるより、未来に悩むほうが建設的だ。

(お父様は、卒倒するわね…)

縛られるような結婚が嫌で逃げ出したのに、よそで子どもが出来たなんて冗談にもならない。
これで婚約破棄は確実になっただろうが、じゃじゃ馬なんて言われていたとはいえ、曲がりなりにも良家のお嬢様として育てられたジェインとしては、そのことに多少の罪悪感は拭えなかった。

(しばらくしたら、帰ろうと思ってたんだけど)

リオと旅に出て、彼女の話を書けるくらいの何かを得たら、帰って大人しく結婚しようと思っていた。
夢の様な冒険を経て、その夢を子どもに語って、平凡に生きるのだと、漠然と。
だけど、子どもが出来たなんて聞いたら、父は許さないかもしれない。
帰っても、ジェインを認めずに、受け入れてなんてくれないかもしれない。

(…私は、帰りたかったのかしら)

何かがつんと鼻をついて、慌ててジェインは首を振った。
考えても仕方のないことは考えない。
現実逃避なのかもしれないけれど、ジェインは不安に心が揺れた時は、目を閉じて、自分の大切な役目を果たすことに専念することにした。
目を閉じて、考えるのだ。
創らないといけない。
楽しい世界。
リオが…それからこの子が幸せになれる、とっておきの話を。



ソウヤが本拠地を訪れると、家の中にいたのは、部屋で横になっているジェインと、その世話をしている子守り人形だった。
甲斐甲斐しく動き回る子守り人形。
その姿を、ソウヤは知っている。
似ているだとか、そんなもんじゃない。顔形、姿、全てがそのままだ。
だから、彼女がドロシーだということは、疑う余地もなかった。
違うのは、きょとんとした焦点の定まらない表情と、舌っ足らずな口調。
黙って紅茶を入れているその姿は、前の巡りまで共にいたドロシーそのままで。
その正体が、人間でなく人形だなんて知ってしまった今となっては、何をどう受け止めたらいいのか、ソウヤにだってわからなかった。

(…いや、ドロシーのことは関係ない)

そう自分に言い聞かせる。
ドロシーは、ソウヤの目的には無関係だ。
リオがどうなるか、ジャラヒはどうするのか、それを見届けるのがソウヤの役目。
ドロシーの生まれがどうであれ、それは関係ない。
だけども、彼女を見ると、どうしてもソウヤは冷静でいることに苦労してしまう。

「リオ、悪いけど」

関係ないと言い聞かせながら、ソウヤは後ろのリオに頼む。

「ドロシーと、買い物行ってきてくれる?そろそろ夕飯の買い物しなきゃいけない時間だろ?」
「???どろしー??」
「…あの子守り人形だよ。…人形だって、買い物くらい出来るだろう」

現在、子守り人形に名前はない。
彼女を拾ってきたヒューイは、無頓着な性格だったので、拾ってきた人形に名前をつけようとはしなかった。
リオやジェインは、何かしらのアダ名を呼んでいたようだが、彼女を避けてきたソウヤは知らない。
だから、つい出してしまった名前は、元々彼女自身が名乗っていたものだ。
その知らない名前にきょとんとしたリオだが、特に気にならなかったのか、うんと頷いて答えた。

「ドロシーちゃん?ふふ、良い名前ね!今度からワタシもそう呼ぼうかな。うん、お買い物行ってくるね!」

リオが手招きすると、ドロシーは困ったように首を傾けたが、ソウヤが「ジェインは見ておくから」と言うと、しばらく迷った仕草を見せた後、こくりと頷いた。

「了解できました。マスターから指示がないため、第三指示者、リオ・ディーラ   の指示で上書きするのでます。サポート者、ソウヤ  の状況確認。問題あるません」
「やっぱり言葉の勉強は必要だよね…」


ともあれ。
ドロシーとリオが買い物に行き、ヒューイがどこかにいない今、本拠地にいるのはジェイン一人だ。
ジェインやヒューイ、リオがこの本拠地にやってきてから一巡り。年月にして2年少し。ソウヤは本拠地の客間より奥に足を踏み入れたことはなかった。
だからといって、ソウヤは彼らが来る前から、本拠地よりは、秘密基地と言われる別邸の方を主な住まいとしていたので、2年ぶりに奥に足を向けても、それほど懐かしさのような感慨を抱くこともないのだけども。
目的の部屋の前まで来て、ノックを2回。この部屋は、以前はジェインの息子が使っていた部屋だ。ソウヤも、ジャラヒを呼びに何度かこの部屋をノックしたことがあった。
「はい」と、ノックに答えた声は、当たり前だが、以前住んでいた男の声とは違う声。それから、それに応じて開けた扉の向こうも、以前見た風景とは違っていて、感慨とまではいかないが、何か不思議な心地がする。

ピンクの布を引いたベッドの上に、ジェインは横たわっていた。

「大家さん?珍しいわね」

起き上がって招こうとするジェインを制して、ソウヤはベッドの脇に腰を下ろ…そうとして、机から椅子を引っ張りだして、それに腰掛けた。

「気にしなくていいのに。紳士なのね」
「臥せっている女性の元に手土産もなしに突然来るのが紳士って言うならね」
「臥せってるっていっても、病気じゃないもの。ちょっとだるいだけ」

口元で笑って身体を起こしたジェインは、そっとその腹に触れた。

「やっとね。実感が湧いてきたのよ」

優しい顔。
おそらく、これが母親の顔というものだろう。
と、ソウヤにだってひと目でわかる。
彼女はちゃんと子どもを望んでいて愛している。
子どもは望まれて生まれてくる。
それを確認して、ひとつソウヤはほっとした。

「父親はヒューイ?」
「……」

前置きなしにそう尋ねる。
しかし、ジェインは反応を返さなかった。
俯いて、腹に触れたまま、沈黙を破ろうともしない。

「おれには言えなくても、リオには言うべきじゃないか?親友なんだろ?」

言う気はないらしいジェインに、そう促す。
すると、そこでやっと顔をあげたジェインは、先ほどの優しい顔とは打って変わって、冷ややかとすら言える熱のない目をソウヤに向けた。
一瞬、どきりとする。

「…リオに何を言ったの?」
「何って、リオから相談してきたんだ。ジェインが妊娠してるって」
「あの子は、そんなこと言わないわよ」

ぜったいに、言わない。
そう言い切ったジェインは、まるで何かソウヤが問題あることを言ったかのように――実際言ったのだろう、ひと睨みして、冷たく繰り返す。

「あの子は、何も知らないもの」
「…たしかに、変なことは言ってたけど、君が妊娠していることは気がついてたよ」
「あの子は知らないわ」

何を言っているのか。
怪訝に思って、ソウヤは眉をしかめた。
たしかに、進化だとか儀式だとか変なことは言っていた。
だけど、リオは、ジェインの変化にちゃんと気がついている。気がついて、ジェインの力になりたいと、心から想っているのは、ソウヤにだってわかる。

「リオが…私を心配して、力になろうと思ってくれていることは、わかってる」

ソウヤが口を開く前に、ジェインは続けた。
躊躇いながら、言いたくないことを振り絞るように、言葉を選んで。

「でも昔、リオは…辛い目にあったから…。リオには、ほんとはそういう心配、させたくないの」

選んで言ったらしいその言葉は、ソウヤを納得させはしなかった。
心配させたくないと言っても、既にリオは、もう心配している。
ジェインが何も言わないことの方が、彼女の心配を助長させるというのに。

だけど。

(……あ)

ジェインの言う『そういう心配』の指すものに気がついて、ソウヤは口を噤んだ。

(リオが『何も』知らないのは、ジェインのせいか)

進化だとか儀式だとか、意味不明の言葉で煙に巻いていたのは、きっとジェインだ。
それはきっと、リオの足が動かないことの原因が理由。
リオはもう飛べないし、歩けないし、子供もできない。
探るのも、掘り返すのも憚られる「それ」を暗に示されると、ソウヤは返す言葉を持てない。

「…特に、あの子に何も言ってないよ。なに?進化の儀式だっけ?」
「ふふ、そう。特別な人間にだけ起こる進化の儀式。儀式を経て再生した人間は、自分の分身を生み出すことが出来るのよ」
「…どこからそーいうの思いつくわけ?」
「それから、選ばれし者は、パートナーとしてその手伝いができるの。リオったら、それを聞いて、選ばれし者になるにはどうすればいい?って。答えに困っちゃった」

くすくすと笑って。
そこには悪意も害意もなく、ただの彼女の優しさだけが見て取れた。
物語が好きだという彼女が、リオ語ったたくさんのおとぎ話のひとつなのだろう。
だとすると、ソウヤがそれに口出しすることは出来ない。
それなら、彼女たちの話はさておき、余計に気になるのがもう一人の人物だ。

「父親のこと、言いたくないの?あいつだろ?酷いことされたんなら、おれにも考えはあるけど…」

あからさまに口を閉ざされると、そんな風に勘ぐりたくもなる。
しかし、ジェインは慌てず騒がず、口元に苦笑を浮かべたままだ。

「あいつって…大家さんは、なんでわかってる風に言うのか、不思議だわ」

そんなに私はあの人と仲がよかったかしら、と首を傾げられると、ソウヤだって沈黙を返すしかなかった。
ワートンの名以外で、あの男をジャラヒたちの父親だと断言する理由はない。
ソウヤは、ジェインについて詳しいわけでも、ずっと追って見ていたわけでもない。
だから、外に仲の良い男がいたとしても、知るはずもなく、他に父親がいたとして、それを否定する材料も持っていない。
それでも、あの男が父親なのだろうと納得する気持ちも確かにあった。
彼のあの、どこか狡さを感じさせる生き方は、あの兄弟に少し似ている。

「私には…あのひとが何考えてるか、よくわからないんだもの。何も言わないし、止めないし」

ソウヤが黙っていると、ぽつりとジェインが示したのは問いの肯定。
ゆっくりと、責めるわけでも悔やむわけでもなく、怒りも悲しみも見せずに、まるで、自分自身に確認するように。

「言おうかどうしようか迷っていたら、いきなり、わかってるみたいに子守り人形だなんて連れてくるでしょ。だけど、それだけ。何も言わないんだもの」

乱暴されているわけではない、と、付け加えられて示された答えは、ようするに、ソウヤの望んでいたものだ。
母親と父親が彼らなら、ジェラルドが産まれる未来は、おそらく変わりない。
だけど、その答えはやっぱり歯切れの悪いもので。
ここからどうやって次男が生まれるのだろうかという疑問が禁じえない。
なんだかなあ、とソウヤは息をついた。

「ちゃんと話し合いなよ」

ようするに、よくある恋人同士のすれ違いだろう。
聞いただけでは、すれ違うどころか擦り合わせようともしていないように思える。
子どもにだってわかる。
わからないことは聞けばいい。
すれ違ったらきちんと話しあえばいいのだ。

「意味ないわ。私は決めたの。あの人は違う世界の人だから…。いつか、黄金の門を通って、帰る人」

時間を見つけては、ふらりと姿を消し、あんなに危険な黄昏の聖域に通う。
ヒューイはあまり考えを言わない男だから、どう思ってのことかは知らないが、危険を侵してまでそこを探るということは、きっとあの男だって、元の世界に帰りたいという思いを持っているのだろう。
その思いは、恋人がいても子どもが出来ても変わらない。
だからきっと、ヒューイは変わらず遺跡に通っているのだ。
だとしたら

「私は、いつか消える人と…消えたいと思っている人と一緒にいられるほど、強くないもの」

強くない。
そう言いながら、ジェインの眼差しはとても強くて。
やっぱり、ソウヤには、それ以上何も言えなかった。

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