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【12期】その3

その日。

家出をする。
そうジェインが決めたのは、突然だった。
突然で唐突。でも、気まぐれでも思いつきなんかでもない。
もっと早く決意してもよかったし、もう少し後だったとしても、きっといつかは決めていただろう。

「リオ、私、家を出るわ」

胸に宿った決意を、ジェインは一番に彼女に報告した。
ベッドの上に腰掛けて、きょとんとしているのはリオ・ディーラ。
ジェインの一番の親友である。
小さな羽を持つ、青い髪を肩より少し下に伸ばしている、笑顔が優しい女性。
彼女は『ディーラ』の一族の生き残りであり、幼いころ、ジェインの祖父が屋敷に連れてきた。
初めてジェインが彼女と逢ったのは、彼女が6つか7つか、そのくらい。
リオは、実際年齢よりも幼くて、うまく言葉も喋れない様子で、いつも屋敷に閉じこもっていた。
ジェインは年上ぶって彼女の面倒を見るつもりで、一緒に絵を描いたり、物語を読み聞かせたり、彼女の部屋で過ごしていたのだけど。外であったあれこれや、悩み事をいつもニコニコと聞いてくれるリオは、いつのまにかジェインの支えになっていた。

リオがどういう目に遭ってキャスケルの屋敷に来ることになったのかを知ったのは、ジェインが10の時。
その衝撃は、今でも忘れられない。
いつも朗らかにニコニコ笑っているリオは、足を悪くしているから屋敷から出れないのだと、そう知ってはいたけれど。
翼をもがれ、暴行を受け、傷めつけられて、足を悪くして、言葉も失って。
そうして、この屋敷にやってきたことを、ジェインは知らなかった。
リオが歩けないことも、飛べないことも、外が、争いが怖いことも。
すべてが結びついた。
でも、いつもリオは笑っていたのだ。
笑って、ジェインが学校であった話を聞いて、父親に対するグチも頷いて、ジェインの話す空想に、手を叩いて喜んで。
そんなリオが。
そんな優しいリオが、幼いころ、そんなひどい目に遭っていたなんて。
ジェインは知らずに、いろんな事をリオに話していたのだ。

何故襲われたかについて、リオも詳しくは知らないという。
ジェインも、詳しく問いただす気にもなれなかった。
ただ、もう胸が痛くて、苦しくて、ぼろぼろと涙が零れ落ちるのを止めることができなくて。
リオが、ごめんねと微笑みながら頭を撫でるのを、必死で首を振ることしかできなかった。

『泣かないでジェイン。ワタシは大丈夫なの。だって、ヒーローが助けてくれたのよ』

そう、リオは笑う。

『キラキラ輝く、お星様みたいなヒーローがね、お星様みたいだねって、ワタシのことを言ってくれたのよ』

だから、大丈夫なの。

そう言って、なんでもないことのように、笑う。

なんでもないわけはない。大丈夫なわけなかった。
だって、リオはもう歩けないし、翼ももう小さくて飛べやしないし、外に出るのだって怖がっているのを、ジェインは知っている。
助けてくれたというヒーローを、ジェインは知らない。
命を助けてくれたこと、リオの心が亡くならなかったこと、それには感謝しなければならないが、もっと早く助けてくれたらと、思う。もっと早く、ちゃんと助けてくれたなら、リオはこんなにたくさんのものを失わずにすんだ。
何も知らなかったジェインには、何も言えないけれど。

だからジェインは、お話を作ることにした。
キラキラした、お星様みたいなお話。
リオが、笑顔になれる話。
リオが大好きだって言うお星様を、お星様みたいなキラキラしたリオが、手に入れる話。
ジェインが知っているお伽話をちょっと混ぜて、たくさんの幸せをブレンドした、夢みたいな話だ。
完成するまではまだ少し遠いけど、いつかできたら、リオに読んで聞かせるのだ。
そう、ジェインはずっと思って生きてきたのだった。




ともかく、そうして、その日リオを訪ねたジェインは、リオに決意を告白した。
家を出ること。
もう決意は揺るがないことを。

「何かあったの?ジェイン」

心配そうに首を傾げるリオに、ジェインは首を振る。

「婚約者が、決まっちゃったのよ」
「あらまあ」

あらまあ、という反応は、ジェインの胸の内そのものだ。
ジェインは、あらまあどころか、思わず椅子ごとひっくり返ってしまったけれど、驚いたという事実は同じだと思う。

「でも、おめでとう?えっと、確か、ジェインのお友達のマルグレーテさんの嫁ぎ先が決まった時、ジェイン、寂しいって言ってたじゃない。これで、ジェインもお仲間じゃない?」
「いやいや、あっちの超貴族と、こっちの低男爵と、貴族は貴族でもぜんぜん違うわよ」

貴族たるもの、結婚なんて夢を持つものではないと、ジェインだって知っている。
結婚なんて、政の道具にしか過ぎない。
その道具にすらなれずに、もう20になろうとしているジェインは、貴族の間では、行き遅れですらあったのだが。
その行き遅れを甘んじていたのには、わけがあった。

「でも、ふふ。ジェインは可愛いもの。もっと早く決まるかと思っていたわ」
「1回お見合いしたら二度と逢いたいと言わせないのが私よ。
 いいの!敢えて、逢いたいと思わせないようにしてたんだから!」

結婚なんて、したくない―――とまで、言うつもりもない。
男爵家とはいえ、曲がりなりにも貴族の末席にいるのだ、政略結婚だって、仕方ないと思っている。
だけど。

(まだ。まだしたくないのよ。だって、まだ完成しないんだもの)

政略結婚したところで、末席の男爵家だ。野心なんて持ったところでどうしようもないのだから、まだいいじゃないかとジェインは思う。
20にもなるというのに、何を言っているのかとは思うが、まだジェインには、やりたいことがあった。
あと少しだけ。
幼い頃から考えている物語を。せめて、もう少し、形になるまで。
それくらい、待って欲しいと思う。

「ジェインが、結婚したくないって言うなら、仕方ないけど…。相手のひと、いい人じゃなかったの?」
「まだ逢ってもないわ」
「え??逢ってもないのに、決まっちゃったの??」

実際、逢う気もなかった。
年頃になる前は、もっとお見合い話もいっぱいあって、家の顔を立てるために、ジェインだってお見合いに出ていた。
出て、二度と逢いたくなられないように、精一杯の創意工夫を凝らし、数々の『お断り』を頂き、最近は、お見合い話も出てこないようになっていたのに。

(お見合いどころか、顔も合わせずに速攻婚約なんて、ろくな人じゃないわ)

娘の縁談のまとまらなさに、焦ったキャスケル男爵が、急ぎ足で縁談を固めたのだろうか。
にしても、こんな落ちぶれ貴族の縁談に乗っかるなんて、ろくな男ではないことは間違いない。

「お顔くらい、見たんでしょう?ほら、写真とか」
「向こうはどうだか知らないけど、私は速攻捨てちゃったわ」
「ジェイン…」

大きくため息をつくリオに、少しだけ胸が痛む。
リオは、真剣にジェインの幸せを願ってくれているのだ。

「結婚が、嫌だから家を出るの?」

そう改めて言われると、図星をつかれた気になる。

(そうじゃなくて、まだ少し、時間がほしいのよ)

結婚が嫌なわけではない。時間がほしいのだ。
貴族に生まれて結婚が嫌なんて、そんな子供のようなことを、思うつもりはない。
ないけれど、でも、もしかして、自分の心の底では、それが本心なのだろうか。

(ううん、完成させるまで、待って欲しいだけ)

リオを元気にする、物語が書きたい。
幼い頃から、ジェインの語る物語が好きだというリオに、とっておきの物語を聞かせてあげたい。
それが、ジェインの10歳の頃からの夢だ。
それから10年たって。
たくさんの小さな話をリオのために作ってきた。
だけどまだ、彼女に捧げるとっておきの話は、できていない。
もう少しで出来そうなのに、まだ何かが足りないのだ。
せめて、もう少し、何かきっかけがあれば、出来上がりそうな感覚はあるのだが、そのきっかけがうまく掴めなかった。
それを掴んで、とっておきの話が作れたら。
せめて、形だけでも。
もしくはひとつ、はじめの話だけでもできたら。

(できたら、私はもうどうなってもいいと思ってる)

きっと、結婚なんてしてしまったらできない。
単純な物語を作ることは出来ても、リオのために、リオの枕元で、話を作って聞かせるなんて、出来なくなることはわかっている。

(それまでは、リオから離れたくないもの)

結局は、それだ。

色々下手な理由を考えても、結局のところ、ジェインが強く思うのは、それなのだった。

「ずっとじゃないわ。家を出るのは、少しだけ」

少しだけ、と言い訳して。

「少しだけ――そうね、今、ちょっと戦争みたいなのおきてるでしょ。それが落ち着くまで、かな」

国が大変なのに、結婚なんて、落ち着かないし、と付け加えて。

「ちょっとだけ、家出――というか、考えたいことがあるの」
「そっか。ジェインがちゃんと考えたことなら、ワタシ、応援するね」

そんな、ジェインの言い訳を、何も言わずに受け入れて、リオは笑う。


ジェインが結婚なんてしたら、リオは一人になってしまう。
リオは、もう結婚なんて出来ない。
幼いころのそれで、『ディーラ』の血はもう残すことは出来なくなってしまった。
だからといって。
いや、だからこそ、キャスケル男爵が、最後の『ディーラ』であるリオを、手放すことはしないだろう。
リオはずっと、屋敷の中で暮らしていく。
ずっとずっと。
死ぬまでずっと、永遠に。
ジェインが結婚したら、もうこの屋敷に戻ってくることもほとんどないだろう。
だからリオは一人だ。

(そんなの、やっぱり嫌だもの)

ジェインが結婚することは、きっといつかは避けられないのかもしれないが、だったら、やっぱり、リオを元気にするとっておきの物語は、作っておかなければならないのだ。

「何言ってるのよ。リオ。応援なんて。あなたもよ」

だから、ジェインは決めたのだ。

「へ?」
「リオも行くの。いっしょに」
「え?え?どこに?」
「家出よ。まだ場所は決まってないけど。行くのよ。私と一緒に」

ベッドに腰掛けるリオに、手を伸ばす。

「行くって…ワタシ、歩けないし…」
「大丈夫。お祖父様に頼んで、とっておきの車椅子頼んでおいたの!」
「ジェインに迷惑かけるよ?」
「大丈夫。私のほうがリオに迷惑かける自信があるわ」
「二人でって、きっと危ないよ?」
「その点においても――お祖父様に、家出の条件で、ボディーガードつけられたから、大丈夫よ」
「ボディー、ガード??」

実際、苦く心配に思うのは、祖父の用意したそのボディーガードのことだったが。
と、何を考えているかわからない物静かな青年を思い出して、それから頭からそれを振るい払って。

「大丈夫」

もう一度、ジェインは言った。

「リオがいないと、私がダメなの。ついてきてよ」


いつか離れてしまわないといけないのなら。
きっと、今決断すべきは、一緒に行くことだ。
一緒に行って、過ごして、そうしたら。
きっと、とっておきの物語の、最初で最後の欠片を、見つけることが出来るはずだ。

ジェインの伸ばした手を、リオはじっと見つめた。
見つめて、それから顔を上げる。
不安げなリオのその顔に、もう一度ジェインは頷いた。
頷いて、恐る恐る伸びてきたその手を、ぎゅっと掴む。

「さあ、のんびりしてられないわね!行くわよ!リオ」
「えっと、うん、がんばろー!だね」

それから、やれやれと肩をすくめているボディーガードに、用意した車椅子を部屋に運ばせて、準備万端の家出は、こうして幕を開けたのだった。

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2014-07-07 : SS : コメント : 0 :
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