スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

【戴き物】【SS】未だ遥かなる黄金郷

N.H.N.B隊様から頂きました。
ジャラヒが10期、ダリアから逃げつつ、リオと再び逢う手がかりを探している時の話です。
N.H.N.B隊様ありがとうございました!

N.H.N.B隊ジャーナリスト、弧月が出逢った男は―――


□■□■□■□■□■□■

 オーラム共和王国首都・アティルトのスラム街。
 その一角にある雑居ビルから取材を終えて出た弧月を迎えたのは、護衛と案内のために雇っていた傭兵ではなかった。
 口元に人の良さそうな、しかしなんとなく不敵にも思える笑みを浮かべた青年。
 ブロンドの長くない髪をポニーテールのように束ね、オーラムのファッショントレンドを意識したカジュアルで身を固めている。
 ともすれば軽薄な、チャラい若者に見える出で立ちだが、治安の悪い場所の只中で緊張感をほとんど感じさせない様子は、堅気のものではない。
 その顔立ちは20歳前後の若さを感じさせながらも、些か面やつれしているようでもある。
 そのくせ眼光だけは、歳相応の攻撃性を持って弧月を逃すまいと見据えていた。
「肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに炯々として」(中島敦『山月記』)とまでは言わないまでも、何かに追い詰められた者のような凄みを感じさせる顔立ちは、明るめな装いとのミスマッチにより、却って不気味な存在感を放っていた。
 弧月の思考と動きは強ばった。
 ビルを出るときに上着の中に手を入れ、忍ばせたショットガンをいつでも抜けるようにしていたが、手はそのまま固まっていた。
 青年は腰に手を当てている。拳銃や短剣といったものも、見えるところには見えない。
 しかし、だからといって丸腰と言える保証はなかった。指や目から魔光線を放つなら、早抜きの必要などない。
 弧月はすくみあがっていた。
 彼女とて、セフィド軍の臨時動員兵として訓練されているし、いくらかの危険もくぐり抜けてきている。凶悪なだけのゴロツキになら、遅れは取らない。
 残念ながら、この青年はただのゴロツキではなさそうだった。
 彼の表情は、目的をはっきりさせた人間の大胆さに満ちていた。少なくとも、行き場のない欲求不満を暴走させた酔漢の顔ではない。
 弧月は彼の表情と視線、佇まいだけで射すくめられたのだ。
「驚かせてゴメンな」
 青年は口を開いた。若者らしい声。気さくそうな口調。だが、姿勢に揺らぎはない。
「俺は……ウォルト。ウォルト・レディンだ。初めまして、だな。コヅキ・ツカハラさん?」
 この挨拶は、弧月にとって更なる威圧となった。
 青年は自分のことを知った上で接触してきた。……よりによってこんな場所で。
 そこから考えられることは、彼が表通りで話せない立場であること。
 そして、なぜか弧月を尾行していたことだ。
 弧月は目だけを動かし、周囲を窺った。傭兵の姿は見えない。
 ……が、わずかながら地面に血痕が見える。
 その血の赤は、弧月の体の体感温度を急激に下げ、口の中を震わせるだけの意味を持っていた。
 蛇に睨まれた蛙とは、まさにこのことだ。
「……まぁこんなところでいきなり顔合わせて、信用しろって方が無理だけどさ。けど、なんだ。俺って、今うかつに表歩けない身だから、これしかなくてさ」
 レディンと名乗った青年は、なんでもないことのように、自分が後暗い人間であると明かした。
「さっきの兄さんにも、やっぱり信用してもらえなかったから、……あとはお察しな」
 何をしたのかは知らないが、この青年はハッタリではないプロの傭兵を排除して、疲れや負傷の一つも見せていない。
 首から上だけは世間話でもするように振る舞い、下は一切隙を見せない。
 多少なりとも戦闘術をかじっているからこそ、弧月はレディンがかなり場慣れしていることを確信していた。
 ……つまり、彼の意思一つで、自分はたやすく食われるだろうと。
 スラム街のある廃屋の中、二人は対面していた。
 レディンは床に正座して両手を首の後ろに置き、弧月はすぐに肉薄されない距離を開けて、彼にショットガンを向けている。
 しかしこの状況をセッティングしたのは全てレディンだ。
 ここに来るまでの間、レディンは銃を向けられながら、弧月をこの場に先導した。比較的安全な場所で本題に入るためだという。
 状況が完全に相手に握られていることを意識しながらも、弧月はどうにか声を発するだけの余裕を取り戻していた。
「何が目的ですか?」
 得体の知れない男のセッティングした場で、彼女はようやく、単純にして根本的な質問を発した。
「探し物しててな」
 レディンは答えた。すぐに動けない状態で散弾銃を向けられながらも、動揺は全く見せない。
 しかし、その口調からは先までの軽さが影を潜めていた。彼にとってそれだけ重要な案件なのか。
「弧……塚原さん。あんた、文学に詳しいジャーナリストなんだってな」
 レディンの視線は、弧月にまっすぐ向けられていた。
 弧月にとって、人と目を合わせ続けるのは軽くないストレスだったが、今目を逸らすのはあまりに危険だとも思っていた。
「どこからそんな話を?」
 弧月にとっては、それが一番の疑問だった。自分がピンポイントで狙われるような名声や実績、コネを持っているとは思えない。
 ……いや、コネなら一応ある。叔父が高名な医者だ。が、医学会以外でも知られているかは疑問だった。それに、叔父への接触が目的なら、レディンのやり方は回りくどすぎる。
「それは……探し物のことを知ってそうな人を調べてるうちに行き着いたんだ。何か知ってそうで、かつ割と会いやすい人ってな」
 レディンのその返答は、先までの言葉に比べて明瞭さに欠けていた。それを自分で分かっているのか、彼は弧月から視線を逸らした。
「絵本を探してるんだ。けど、出回ってないのか、全然見つからなくてさ」
 絵本という単語に、弧月は内心少々面食らった。
 表通りを歩けないような男が、無名のジャーナリストを捕まえて、絵本を探している。
「けど、今の俺が文学者とか出版業者に会うのは、正直無理そうだからな。
 それで、文学方面に詳しくて、できるだけ安全に会えそうな人はいないかって思ってたら、たまたまあんたの記事が目に付いたんだ。フォーネル・クロッシングに、いくつか書いてたよな?」
 確かに弧月は、フォーネル・クロッシングという文芸誌に、文豪ゆかりの地の写真とともに、何度か寄稿文を載せてもらっていた。
 巻末の寄稿者プロフィールに、副業で傭兵をやっていることも書かれていたはずだ。
「……それで?」
 可能な限り冷静そうに振舞おうとしながら、弧月は最低限の言葉で話の続きを促した。
「あとは、セフィドの傭兵組合に問い合わせて、仕事って名目で呼びつけて、話すつもりだったんだけどさ……」
 そこまで続けたところで、レディンは再び弧月に視線を戻した。……口元を微かに、不敵に歪めながら。
「質問タイムは終わりな」
 その視線と声は、先よりも一段低く冷たいトーンを持っていた。
 視線を逸らされたことでいくらか落ち着いていた弧月にとって、それは不意打ちとなった。
 彼女は再び気圧されたのだ。
 弧月の表情が固まったのを一瞬で見て取ると、レディンは後頭部に回していた両手を素早く振り下ろした。
 そして振り下ろされた両手から何発かの魔光弾が放たれ、弧月の両脇をかすめていった。
「…ぁっ!」
 弧月は喉の中で、短く切れたような小さい悲鳴を上げた。
 すくんで固まった彼女の足は反射的に(遅すぎる)回避運動をしようとしたが、それはかえって、自身のバランスを乱すだけだった。
 崩れそうな足を持ち直そうと踏ん張った時、思わず力んだ右手がショットガンの引き金を引いてしまった。
 上向いた銃身から、轟音と共に散弾が発射され、その音と反動で弧月は左斜め後ろに倒れた。
 尻の右側を打ち付けて上ずった呻きを上げながら、彼女は右腕で受身を取り、上半身を床に打ち付けるのだけは防いだ。
 取り落としたショットガンが、むき出しの硬い床に落ちて乾いた音を立てたとき、腰と右腕の痛みに呻く弧月に、レディンが声をかけた。
「こっち見ろ」
 言われるがままに弧月が目を向けると、目に入ったのは、レディンの足だった。
 彼はすぐ近くまで来ていた。
 弧月は彼の顔を見るために視線を上げたが、すぐに後悔した。
 弧月のすぐ前で、無表情のレディンが、開いた右手を彼女に向けながら、彼女を見下ろしていた。
「あんたは俺の質問に答えりゃいい。そうすりゃ、何事もなく表に帰してやる。余計な気を起こしたら……」
 先までよりもトーンが落ち、テンポの遅くなった声と共に、レディンの右手の周囲に、可視化された魔力が発生した。
 暴漢に襲撃されたような体勢で身を震わせる弧月の、涙で潤んだ視界の中央で、レディンは口元を歪めた。

「赤い雨が降るぜ?」

 青白く光る魔力は、彼の手を中心にして、炎のように揺らめいていた。

*****
 ウォルト・レディン、本名ジャラヒ・ワートンは、内心で歯噛みしていた。自分が何者か明かさないようにしながら話すのは、思っていた以上に難しいものだった。
 顔を合わせた時の反応から、弧月がジャラヒのことを覚えていないのはほぼ間違いない。それがわかると、接触する相手を間違えたのでは、という懸念が彼の脳裏をよぎった。
 彼がかつて属していた集団、赤雫☆激団は、武勇とは違う形とはいえ、傭兵業界では広く知られた存在だ。現在その代表を務めているダリアが、殺気立った様子でジャラヒを探していることも、少なくともオーラムではよく知られている。
 有名な集団の代表が、ジャラヒの顔写真を公開し、血眼になって彼を探しているのだ。周期を認識しない弧月は、今のジャラヒを知り合いとは見ないだろう。
 もし彼の捜し物の手がかりがオーラム国内にしかなく、弧月が後でジャラヒの目撃情報をダリアに流した日には、極めて厄介な状況が出来上がってしまうだろう。
 かと言って彼女は、楽しい催しを通じて少しとはいえ語らった相手だ。スラムの悪党のように扱いたくはない。
 だが、こうして会って話しかけてしまった以上、もう後には退けなかった。それに、求める情報について心当たりがありそうな人物を、ジャラヒはあまり知らなかった。
 ダリアにしっぽを掴まれる前に事態を動かすためには、多少強引なやり方になってでも、情報を引き出さなければ。
 ダリアたちの間違った記憶通りの人間として振る舞うのは癪だったが、“あの娘”にもう一度会わない限り、もっとひどいことが避けられなくなる。
 “あの娘”の再来で、歪んだ全てが丸く収まってくれることを願いながら、ジャラヒは自ら捨て去った暗い淵を、もう一度覗き込んだ。

 気の毒なジャーナリストは、あまりにも容易くレッド・レインの術中にはまった。
 ようやくスムーズに問答ができそうになった頃には、弧月の表情は何とも虚ろなものになっていた。まるで死を前にした人間のように。

 ジャラヒはとても不愉快だった。
 かつての殺伐としたギャングとしての自分を、さしたる難もなく呼び戻せたことが。
 弧月に謝罪できるチャンスが来るかどうか、わからないことが。
*****

「それは恐らく、ローベック原作の絵本ではないでしょうか」
 背中から小さな翼の生えた鳥族の女の子が、たどり着くと願いが叶うという黄金の国を目指して冒険する物語。
 ジャラヒが探している絵本についていくらかの解説をすると、弧月は虚ろな表情で俯いたままそう答えた。
「聞いたことないな。あんまり知られてない作家なのか?」
 ジャラヒの更なる問いかけに、弧月はすぐに返答を始めた。その言葉は、ややぎこちなさのあった先の詰問よりも、明らかにスムーズだった。
「ローベックは異界の作家で、ブリアティルトに来たこともありません。たまたまこの世界に流れ込んだ彼の一連の作品が、オーラムのオーデンス・ファウエル伯爵に気に入られ、写本が出版されました。そしていつしか、知る人ぞ知るジュブナイルの名作になっていったのです」
 弧月はそこまで解説して、ひと呼吸置いた。ジャラヒは感心しながらも、より肝心なところへ話を進めた。
「そのローベックの作品には、俺が言った絵本も入ってるのか?」
 弧月は一瞬上目遣いでジャラヒの顔を見上げ、話を再開した。
「はい。ローベックが、何巻にも渡る自分の長編を一冊に収めた、ダイジェスト版とも言うべきものです。残念ながら、この絵本はこちら(ブリアティルト)では大変貴重なものです」
「何でだ」
「文字は訳して書き写すことができますが、紙に描かれた絵を複製することはできません。帝国でそれができるマシンが開発されたそうですが、まだ一般普及できるコストではないようです」
 弧月の論述を聞いている間、ジャラヒは脳内で自分のするべきことを整理していた。焦燥で乱れた目的を、今一度確認する必要があったからだ。
 “あの娘”にどうすれば再会できるかは、はっきり言って分からない。だが、ジャラヒはなんとしても彼女に会いたいし、会わなければならなかった。
 そのためには、まずは彼女と関係のあるものを手に入れてみようと、ジャラヒは考えた。その代表格があの絵本だった。
 彼女の物語があの絵本だけでなかったのは興味深いが、今最も重要なのは、一番知りたいことがはっきりしてきたことだ。
 ジャラヒはようやく、今回最も聞きたい質問を口にした。
「異界から流れてきたあの絵本は、どうすれば手に入る?こっちで出版されたんじゃないやつだ」
 ブリアティルト側で出版されたものは、彼女を描いたものでも、ただの書籍でしかない。ジャラヒが求めているのは、黄金の門の影響を受けたものだ。
 弧月は顔を僅かに歪め、渋みのある表情になった。
「ローベック作品のオリジナルを手に入れるのは、かなり難しいでしょう。古本屋で見つかれば奇跡と言っていいでしょうし、今も持っているような所有者は、そう易々とは譲らないはずです」
「一応聞くが、持ってる人を知らないか?」
 そう問われた弧月の目に、いくらかの光が戻った。まずい兆候だ。恐怖で麻痺した感情が戻りつつある。
 他人の情報を流せという要求に、プライバシーに慎重な報道人のプライドを刺激されたのかもしれない。
「申し訳ありませんが……」
 弧月はいくらか沈んだ声でそう答えた。
 それを聞いたジャラヒは、再び考え込んだ。これ以上の情報を聞き出すのは難しいだろう。とはいえ、充分有力なものは得られた。
 ファウエル伯爵といえば、今の戦争が始まる数年前に亡くなっている。その遺産は、家督を継いだ嫡子に丸々相続されたという。
 ……ジャラヒは口元がにやけそうになるのを抑えた。どうやら道筋が見えてきたようだ。
 当面の目的を果たす目処がついたジャラヒは弧月に礼を言い、表通りの近くまでエスコートしていった。
 まだジャラヒ(レディン)への恐怖心が抜けきっていない弧月は、言われるがままに動いてくれた。ジャラヒが最後に心ばかりの謝礼金とともに渡したラムネの瓶も、素直に受け取ってくれた。
 別れる前にジャラヒは、そのラムネを必ず1時間以内に飲むように念を押した。
 それは、いざという時の切り札の一つとして、怪しげな魔術師から仕入れた秘薬だった。これを飲むと、飲む前の約6時間のことを忘れるという代物だ。
 効くかどうかは確かではなかったが、黄金の雫を使っているのだ。案外信用できるかもしれない。
 それが今のジャラヒにできるせめてもの罪滅ぼしであり、証拠隠滅だった。


 裏路地を去っていく弧月を見送りながら、ジャラヒは切に願っていた。
 弧月がジャラヒのことに気づき、ダリアたちに知らせないことを。
 絵本が“あの娘”につながるという勘がハズレでないことを。


*****
 二週間後、セフィドのある貴族の屋敷が窃盗被害に遭うというニュースが、新聞の一角に掲載された。
 屋敷からは少しの金目のものと、家主が大事に保管していた稀覯本が盗み出されていたという。
 だがその小さなニュースは、弧月にとってはどうでもいいことだった。
 その時の彼女には、記憶の一致しないメモと写真を頼りに書いた記事が、採用されるかどうかの方が問題だったからだ。
関連記事
スポンサーサイト

tag : 第10期 ジャラヒ 戴き物

2014-02-25 : いただきもの : コメント : 0 :
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

赤雫☆激団

Author:赤雫☆激団
英雄クロニクル サクセスサーバー
オーラム国の赤雫☆激団です

カテゴリー

タグリスト

最新コメント

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。