【幕間】ふゆじたく

リエールさんの企画に参加。
テーマ:探し物

■□■□■□■□


箪笥の中にもなかった。
机の上にもない。
ベットの中にもあるわけなくて。
自分の部屋はもちろん、玄関、客間、台所、家中を彷徨い歩きながら、ダリアは途方に暮れた。

「何探してんの?ダリアちゃん」

冷蔵庫の中を覗き込むダリアに、後ろから声をかけたのは、赤雫☆激団の一員、傭兵セリラートだ。

「手袋よ」
「そっか。うん。冷蔵庫にはないんじゃないかな…」
「もふもふしてるから、身体を冷やしに行ったのかと思って…」
「ごめん、ちょっと俺には理解できない」

ダリアが探しているのは、白いもこもこふわふわな手袋。
先日友人にもらったばかりの手袋は、暖かいだけでなく、その触り心地は羊のようにもこもこふわふわ。天国のようにふわふわ。天国など行ったことがないが、ダリアにはわかる。あれは天国の雲で出来ているに違いない。ふわふわ。もこもこ。言葉に表せない最高の手袋だ。
一目でダリアも虜になった一品。
もらってからというもの、出かけるときは必ず手に嵌めていたし、家の中でも大事に大事にしまっていたのだ。
その手袋が見当たらないなんて、想定外の事態。
ダリアは、未だかつてないほど動揺していた。

「まさか…家出かしら…?」
「ダリアちゃんの手袋にそんな意思があったなんて、おれも知らなかったよ」

焦っていて見つかるものではないが、そうは言っても気持ちを抑えるのに苦労する。
ダリアがこんな風に、何かモノをなくしたのは、初めてだ。
「仕事」で隠されたものを探すことはあるが、その意図して隠されたものを探すことと、意図せずに消えたものを探すこととは、こんなに違うものなのかと思う。
今までは、何かものに執着することなんてあまりなかったので、消えた、あるはずの物を思って心が落ち着かないなんて、どうすればいいのかわからない。

(落ち着かないと、ダメだわ)


これはたぶん、仕事と同じだ。
目的を遂げるために一番大切なのは、冷静さ。消えた手袋を探すためには、心を一度凍らせて、冷静に、俯瞰しなければならない。
呼吸を正して、ダリアは頭をクリアにした。

「まずは、身代金の準備が必要ね」
「落ち着いてダリアちゃん」

誘拐の可能性が一番高いと思ったのだが、セリラートはそうは思わなかったらしい。
苦く笑いながら手をぱたぱたと振ってダリアを宥める。

「手袋探してんなら俺も手伝うけど。どっか行くの?出かけるなら、おれの手袋貸そうか?」

そんな風に、いつもの調子の軽薄さで、ニヤッと笑って。

「それとも、俺がダリアちゃんの手袋になりますか?」

などと言うので、ダリアもようやく落ち着きを取り戻した。
出かける予定はある。今日は約束の日だ。
手袋をつけて出かけたいのはやまやまだったが、それがどうしても必要というわけではない。
焦らずとも、あの手袋も昨日はあったのだから、落ち着いて探せばきっとみつかるはず。
今日の所は我慢して手袋なしで出かけて、帰ってきてからきちんと探そう。
そのときに、ドロシーを呼んで一緒に探してもらえば、きっと見つけることができるはず。
と、探し物名人のメイドの顔を思い浮かべて、ダリアはようやくほっとした心持になった。

「おーい、ダリアちゃーん。無視?」

手袋なしで出るのは寒くはあるが、耐えられないほどではない。
よし、と決意して、ダリアは立ち上がって玄関に向かった。
そこで思い出したかのように振りむいて。

「…セリ。荷物持ちするなら、ついてきていいわよ」
「手袋にもなるぜ?」
「もふもふになってから出直してきなさい」

玄関を開けると、ふわりと白い靄が舞った。







「うう、さむっ」

外に出た途端体を震わせるセリラートを一瞥して、ダリアは市場の方に向かう。

「冬の買い出し?」
「そうよ」

手温めてあげるよなどというセリフは無視して、聞かれたことだけ短く答える。
市場は、冬でも活気があった。
冬を越すための食べ物をちらりと横目で見る。食べ物は、ドロシーが用意してくれるから大丈夫なはずだ。
ダリアが用意すると、味気のない保存食ばかりになるのに、ドロシーは冬でも美味しく新鮮で、バリエーション豊かなものを食卓に並べてくれる。とてもありがたい。
ダリアが用意しないといけないのは、それ以外の物。
さすがに、全てをドロシーに任せるのは、部隊長としては問題があるだろう。

ちらりちらりと並ぶ露店を横目で見ながら奥に足を進めて、色とりどりの布が並びだしたところで、ダリアは足を止めた。
それから、多くの露店の中の一つに足を向けて、店員に声をかける。

「頼んでいるもの、できたかしら」
「はいはい。できてますよ」

にこやかに答えて出てきたのは老婆だった。
色とりどりの布をかきわけて、奥をごそごそと漁ったあと、ダリアに頷きながら大きな布を差し出す。
赤い布と碧の布。
それを受け取ったダリアは、代金を老婆に渡した後、ふう、と息をついてから、セリラートを手招きした。

「セリ、首を貸しなさい」
「は?」

返事を待たずにダリアは、セリラートの首元をぐいと引き、つんのめった彼の首に、すばやくその布を巻く。

「へ?」

布ではない。毛糸だ。
セリラートは、きょとんとして首に巻かれたものを見つめた。
緻密に編みこまれた毛糸は、まるで一枚の布のように滑らかで、それでいて暖かかった。
つまりこれは…

「マフラー?」
「貴方いつも寒そうなんだもの。魔法の糸で編みこまれたマフラーだから、防御力もあるし、重くないから動きやすいし、丁度いいと思って」
「ダリアちゃん…!」
「それ、滑らかで結びやすいから、敵を拘束するのにも使えるわよ」
「実地で教えてもらわなくても大丈夫ですダリアちゃん!苦しい!」

もがくセリラートを離してやる。
解放されたセリラートは、しばし首元に手を当てて、マフラーを整えた後、「ありがとう」ともう一度礼を言った。
それになんとなくくすぐったくなる。
別に、プレゼントのつもりはない。
ただ、こんなに寒い冬に、あんなに寒そうな恰好で遠征に出られて動きが鈍ったら、迷惑するのはダリアの方だ。
そんなことをぶつくさとセリラートに言い聞かせたが、彼は全く理解してはくれなかった。




帰宅して部屋に戻ると。

(…やっぱり)

ベッドの上にあったのは、お気に入りの白いもこもこ手袋だ。
それと、その下にあるのは……。

手袋を手にして、その下の物体に手を触れる。
白くて、ふわふわのもこもこ。
防御力なんてなさそうだけど、暖かさと手触りだけは何にも負けない、白いもこもこマフラー。手袋とまったく同じ素材のもの。もちろん、そんなマフラー、ダリアに見覚えはない。
そのさわり心地に、ダリアは思う存分もふもふしたあと、ふうと息をついた。


「いるんでしょ、ジェイン」

声をかけると、男はいた。
どこから現れたとか、今までそこにいたのかとか、考えるのもめんどくさくなる、神出鬼没な男。
ジェイン。
ダリアの幼馴染の男は、いつも通りの何を考えているのかさっぱりわからない顔で、ダリアの目の前に立った。
それに動じずに、ダリアは男の首元に巻かれているネクタイを強くひっぱってやる。
強く引っ張って、それから…

「気をきかせてしゃがみなさいよ」
「悪かった」

背の高いジェインを少しかがませて、その隙に、碧色のマフラーを巻いてやった。

「…もこもこではないんだな」
「もこもこは私のよ」
「いつか奪ってやろう」
「もう充分よ。黙って取らないでちょうだい」

物騒でもないことを言うジェインに、ダリアは一歩後ろに引いて、マフラーと手袋を抱きしめた。

「返しただろう」
「身代金の準備が必要かと思ったわよ」

出かけ前に無くなった手袋。
疑うまでもない。ダリアがどこかにやってしまったのではないのなら、ダリアからそれを盗み取れる者なんて限られている。
そんなことがしれっとできる男は、憮然と、不服そうにダリアを見ていた。

「おまえが、その手袋を気に入っていたからな。
 同じものを用意してやろうと…」
「で、黙って持って行って、同じもののマフラーを用意してくれたってわけね」

皮肉っぽく言うと、ジェインの眉が少し下がった。
さきほどからずっと無表情にしか見えないが、何を言いたいかは手に取るほどにわかる。
なぜダリアが頬を膨らませているのか、理由がわからないのだろう。
一声かけてくれれば、という気持ちは、きっと彼にはわからない。
だけど、そう思っていることは、ダリアにはわかった。わかってそれから…。

「…もこもこマフラー欲しかったから、嬉しいわ」

諦めて、彼の望む言葉を告げることにする。

「ありがとう。ジェイン。それから、共犯の、そこに隠れてるセリにも」

気配がびくりと動いた。が、姿を現す気はないらしい。
セリラートは恰好を気にする男だ。最初から知らないふりをした手前、それを通すつもりなのだろう。
その心意気に乗って、深く追求しないことに決めたダリアは、マフラーを首元に巻いた。
ふわふわのもこもこ。天国の肌触り。
防御性能は一切ないけれど、この手触りだけで、なんだか強くなった気がする。

「…何見てるのよ?」

夢中になって撫でていたが、さすがにじっと見ていられると気になる。
頬を膨らませると、ジェインは少し口元をゆるませた。
微かでも笑うなんて珍しい、そう思って首を傾げると、ジェインは頷く。


「迷ったが、それにしてよかったなと」
「そ、そう?」
「本当は、そのマフラーと、うさ耳帽子と、ふわふわ毛糸のパンツとの三択で揉めたのだが…」
「……」
「うさ耳のロマンと、もこもこパンツのロマン、どちらが勝利するか奴は白熱していたが、俺はマフラーがいいと思ってな。気に入ってくれてなによりだ」
「…ちなみに、その二つは誰の発案なの?」
「セリラートだ。あれだ…中々面白いことを言う男だな、あれは」

ジェインが他人のことを評するなんて珍しい、と思う前に、ダリアはドアに手をかけた。
そっと、気配が逃げるのを感じる。
だが、今度は逃がすつもりはない。

「ちょっと本気でお礼をしなきゃダメみたいね」

ドアを押し開け、そのまま赤いマフラーに向かって、ダリアは銃口を構える。
セリラートの逃げ足の早さは知っているが、こちらも必中暗殺者だ。そう簡単に逃げきれると思われると困る。
銃を構えながら駈け出して、ダリアは男を追った。

そして、部屋に残されたジェインは、しばし無表情につっ立っていたが、…残された手袋にそっと触れ、何やら一つ頷いた。



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tag : ダリア 第10期 ジェイン セリラート

2014-02-09 : SS : コメント : 0 :
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