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【幕間】ロイとシアン

クリスマスプレゼント。

どうするかを問われて、ロイは間抜けな声を返した。

「は?」
「は?じゃないですよ、ロイさん。プレゼント、用意したんですか?」
「えーっと、クリスマスは部隊のみんなで料理作ってふるまって、プレゼント代わりにするんじゃなかったっけ」
「そうじゃなくて。大切な人のですよ」

腰に手を当てて、説教のように頬を膨らませているのは、赤雫☆激団メイドのドロシーだ。
親切で世話焼きなドロシーは、親切に世話を焼いて、ロイに尋ねたのだ。
『ご家族や、彼女さんに、プレゼントはいいんですか?』と。

家族にも、用意はしていた。
今度、空間が開くときに、帰って、家族と共に食事をとって、義父母には衣類を、義妹にはうさぎのぬいぐるみを、義弟にはサッカーのチケットを、それぞれ準備している。
ロイは、「チキュウ」の「日本」生まれで、その地で言う「水曜日」に、力が強まり空間を開き、好きな時空に移動することができる力を持っていた。
丁度、クリスマス当日が水曜日だ。帰ったらすぐさま実家に行って、祝い事を口にすればいい。
問題は、もう一つの方。

「うーん」

やっぱり、何もしないわけにはいかないだろうかと、眉を寄せる。

「シアンちゃん、きっと楽しみにしていますよ」

名前まで出されると、深くため息までつきそうになって、ぐっとこらえた。
シアン。
ロイの懇意にしている少女。
今は、元の世界に帰っていて、オーラムにいないが、一度はここブリアティルトで、ロイを支えていたこともある少女だ。
ロイはこのブリアティルトに残り、彼女は元の世界に戻ったので、長い間会っていない。
故郷日本とは違う世界にいる彼女には、ロイが会いにいかないと会えないのだ。
彼女とロイは、相思相愛。付き合っていると言われる仲。
一応、とつけたくなるのは、まだ覚悟が足りないからだろうか。
大事に思うことに嘘偽りないが、たまに苦く思うのも本音だ。

何せ彼女は、天真爛漫…と言えば聞こえがいいが、傍若無人を絵に描いたような女の子。
ロイも何度も何度も泣きを見たことはきっちりと覚えている。
それでも何故好きだと思うのかというと…
まあ、やっぱり、そういうことで…

「…ドロシー、おれ、ちょっとしばらく留守にする」
「はい。行ってらっしゃいロイさん。お帰りお待ちしておりますね」

と、いうことで、思い立ったら吉日。
その日のうちに、ロイは空間を開いた。
別に、会いたくなったわけでもない。たまたま今日が水曜日だっただけだ。
空間を開き、紋様を空に描く。
魔神アスタロトの力を正確に発揮して、正しい魔方陣が出来上がると成功だ。
次の瞬間に、ロイは思い描いた世界に辿りついていた。





「あれ?ロイ。来たの?」
「……うん」

いつもの召喚室から出ると、くだんの彼女がアンパンを頬張っているところに出くわした。
桃色がかった髪を肩まで揃え、好奇心を目に宿していつもらんらんとしている女の子。
服装は、馴染みの軽装、ミニスカートと白いシャツ。もう少しスカートは長い方がいいといつもロイは言っているのだが、聞きはしない。白色と桃色を基調とした恰好をしている彼女は、この世界の巫女なんてしている。
魔力を感じ、神の力を感じるとかなんとか言っていたが、ロイは詳しくは知らない。
そんな彼女は、ロイの姿を見て目をぱちくりさせると、そのままアンパンに向かいなおって、もぐもぐしたあと飲み込んだ。
小動物みたいでかわいらしいと、つい思ってしまうロイは、自分が毒されていることを自覚している。

「…えっと、急に来て悪いな…」
「何言ってんのよ気持ち悪い」

久しぶりに会うのだから、もっと感激して欲しかった。というわけではないが、アンパンなんて頬張っていた彼女に、ちょっと拗ねたように言うと、もっと冷たい言葉が返ってきたので、ロイは少しだけ傷ついた。
そんなロイに気づいてか知らずか、シアンは機嫌良さそうにロイの腕をつかんで、ぐいと引っ張った。

「さあ、付き合ってもらうわよ!」

何に付き合わされるのか、悪い予感しかしないが、久しぶりに触れた手の小ささと暖かさに、満更でもない気持ちになっている自分が憎い。
そう思いながら、ロイは息をつく。

「…お手柔らかに頼む」








彼女のお願いは、とてもシンプルだった。

「前にね!ロイが言ってた、クリスマスってやつ私もやってみたいのよ。クリスマス!ツリー!ねえ、ツリー作って!」

と、歩きながら捲し立てられ、久しぶりに彼女と歩く心地よさにどこかふわふわした気持ちになっていたロイは、森の中、モミの木の前で我に返った。
村から離れて、どこに連れて行かれるのかと思ったら、人のいない森の中。
目の前にあるのは、大きなモミの木。
モミの木。だろう。ほんとのところはわからない。日本じゃない、異世界の木の種類なんてロイは知らない。
ロイが手を伸ばしても両手の長さをはるかに上回る巨木。

その横のニコニコしたシアン。

「えっと、これをここで飾り付けるの?おれが?」

ちなみに、天高くそびえたその木の高さは、ビルの5階建て分くらい、だろうか。

「え?飾り付けもだけど、これ切って、家の近くに置きたいのよね」
「そういう無茶はルウィンに言えよ。おまえの下僕に」
「ルウィンは実家に帰ってるわよ。あれ?実家って私の家の隣なのに、変よね。どこに帰ったのかしら」

きっと逃げたに違いない。
シアンのお目付け役兼護衛をしているルウィン。
シアンの幼馴染である彼は、気が弱い風だが強かで、大事な時にはすぐ消える。
今までもそうだったので今回のも、何かを察知して逃げた後なのだろう。相変わらず危機察知能力の高さには感嘆する。

「切っても運べないだろこれ。飾りつけだけで我慢しとけよ」
「えー。家で見たかったのよ。ツリー」
「家で見るより、ここの方がいいだろ。…ほら、誰も気づかないだろうし、おれたちだけの秘密っていうか…」
「ロイがロマンチストなのは知ってるけど、そういうセリフは、全部終わってから言ってほしいわよね」



木登りなんてしたのは、子供の頃以来だ。
結局、シアンは飾り付けだけしてクリスマス気分を味わうという案に賛成してくれた。
こんな巨木を持って帰りたいとか、どういうつもりだったのか知らないが、承諾してもらえて安堵する。と同時に、いや、でもこれを飾り付けるのも酷く大変だと気が付いたが、にこにこした彼女の顔を見ると、やっぱりなしとも言えなかった。

「ロイ!遅いわよ!」

その彼女は、今はロイの頭上にいる。
すいすいと木を登る様は、ロイが見ても圧巻だった。素直にすごい。さすが野生少女。田舎生まれの巫女は一味違う。こんなでかい木もすいすい登れるくらいだから、お目付け役のルウィンも手を焼いたものだろう。同情はしないが。
一方ロイも、なんとか彼女にくらいついていた。
現代男子学生としては、かなり頑張っていることは認めてほしい。
トレーニングだって欠かしていないし、力もある、剣の技術も、傭兵として鍛えたこともあって、自信はあった。
彼女に野性的木登りの才能があるだけで、別にロイが悪いわけではない、と思いたい。

「…ねえ、ロイのその魔神の便利な力で、ちょちょいとツリーくらい飾れないの?」
「…無茶を、いうなよ」

たまに彼女は、ロイの力を、まるでどこかの便利な猫型ロボットのように言うが、ロイの力にだって、できることとできないことがある。
ロイに出来ることは、水曜日に異空間を自由に行き来することと、魔神の増幅された魔力による剣術くらいだ。
もう少し力を使うと、ターゲットの過去と未来を自由に見る力と、召喚者の何かの勝利を一つだけ約束することができる力があるが、この場合それが何の役に立つのだろう。
もっと、最大限に魔力を開放すると、どんなものの過去や未来をも言い当て、しばらくの間どんなことにも勝利する力を与えることも出来る。いわゆる何でもできると言える状態になるので…それを魔力に変換しどうにかすれば、モミの木を飾ることも出来るのかもしれないが、それはしたくなかった。
最大限に魔力を開放すると、人間としてのロイはなくなる。
100%魔神の力が体に行きわたり、このロイの姿はその間取れなくなるのだ。
ロイの姿が取れなくなるとどうなるかというと、絶世の美女魔神アスタルテの姿になる。女だ。彼女といるのに女の姿になるのはごめんだ。

ロイが唸りながら手を伸ばしている間も、ひょいひょいと次の枝に移ったシアンは、ポケットからキラキラ輝く玉のような飾りを出して、枝にくくりつけていく。
ロイも、金色に輝く紐をくるくると巻きながら、そのあとを追った。

どれくらい登っただろう。もう少しだと良いんだが。
下を見るとくらりとするその高さを、気にしないようにして、ロイは少し先を行くシアンを見上げた。
するとシアンは、こちらを見ていないのに、それに応えるように声を上げる。

「もうちょっとよロイ。てっぺん!てっぺんに星、飾るんでしょう?」

それから彼女は、そのままロイが上がってくるのを待って、ロイが息を切らしながら隣に来ると、にこりと笑った。

「はい、星」
「…いいよ。おまえやれよ、そういうの好きだろ」

一緒にケーキを食べても、ショートケーキのイチゴはシアンのものだ。
最初にそれを求められたときは、彼女の強欲さと本気で喧嘩をしたものだったが、慣れてきたのか飼いならされたのか、今となっては、何も言わずとも、ロイはシアンにイチゴを与える。
だから、今度もそうだとロイは言うと、何故だかシアンは頬を膨らませた。

「こういうのは、一緒にやるの」

どうやら、ロイに譲るつもりというわけではなかったらしい。
それから、一言付け加える。

「それと、他の子のこと考えちゃだめよ」

言われて少しどきりとしたのは、その星型の飾りを見て、思い出す少女がいたからだ。彼女は星が大好きで、よく飾りを身に着けていた。青い髪の元気な少女。今はいないリーダー。

普段どうでもいいようなことを言いながら、シアンは見るとこ見てるんだな…なんて感心しながら、ロイは頷く。

「そんな余裕あるように見えるか?飾るぞ。てっぺんな。バランス崩して落ちないように」
「ロイじゃないんだから」

手を伸ばして、てっぺんに被せる。
そっと被せて、それからそっと手を放した。
モミの木の大きさに比べれば、小さな手のひらサイズの星。
派手ではなく、光ったりもせず、どちらかというと地味なその星飾りは、握っているときはただの飾りだったけれど、モミの木のてっぺんに置かれると、それはまさしくツリーの星。
ただのモミの木は、これでクリスマスのツリーになった。
こんなにでかいんだから、立派なものだ。


「ふふふ、クリスマスツリーね」
「ああ。メリークリスマス」
「そう言えばいいの?メリークリスマス」

ロイの言葉を反芻して、シアンはたどたどしくそう言った。
人の口から聞くクリスマスが、こんなに新鮮に耳に届くなんて、ちょっとした驚きだ。
クリスチャンでもなんでもないロイに、クリスマスなんてそんなに深い意味はない。
だから、こうやってクリスマスを祝うのも、ただの会う口実の一環で、プレゼントをどうやって渡そうとか、そんなことしか考えていなかった。
だけども、シアンのわがままのおかげで、ロイにとって、今日は疑う余地もなく、今までのどんなクリスマスよりもクリスマスだ。
こんなでかいツリーを飾り付けたのだから、クリスマス以外の何物でもない。

「あ、そうだ」

がさごそとポケットを漁ったのはほかでもない。
渡すとしたら、このタイミングしかないだろう。

「なになに?」
「クリスマスプレゼントだ。今日は、渡そうと思ってこっちに来たんだけど…」
「え?クリスマスってプレゼントもらえる日なの?すばらしすぎるわねクリスマス…!」

感激してキラキラ目を輝かせているシアンの手を、そっと取る。
それから、その手首にくるりとそれを巻いて止めた。
チェーンと皮ひもが組み合わされた先に、薄桃色の石。
取れないよう結びつけて、ロイはうんと頷いた。

「…ブレスレット?」
「お前の好きな高いもんじゃなくて悪いけど。桃色水晶の石、魔力上がるらしいぞ」
「すごいじゃない!」
「いや、日本には魔力なんてないけどな」

そんな効能があるといいな、くらいで思っておいてくれ、と言うと、シアンは意外にも、こくりと素直に頷いた。
それから、じっと手首に巻かれたブレスレットを見ている。
彼女が、もらったものに文句も言わないなんて、珍しい。
それどころか、にこにこして、きらきらして。
ロイは、なんだかもうしわけなくなってきた。
似合うかも、くらいでアクセサリー屋で買った安物だ。
もうちょっといいものをあげたら、もっと喜んだだろうか。
たかがクリスマスなんて思わずに、もっといいものをあげたらよかった。
もっともっと、喜ばせたかった。

「あのさ」

口をついたのは、今言おうとは、全然思ってなかったことだった。

「おれ、こないだ大学生になったんだけど」

ダイガクセイ、なんて、彼女にはわからない、関係のない言葉だ。
案の定、シアンはきょとんと首を傾げている。

「たまに、色々考えるんだ、おれの未来」
「…うん」

高校生の頃、初めて異世界なんてわけのわからないところに飛ばされて、シアンに会った。
それから、自分に何やらわからない力があるのを知った。
その力のおかげで、ロイには居場所がたくさんある。
一つは、生まれ育った故郷、日本。
血の繋がりはないけれど、育ててくれた義父母と、可愛い義妹に義弟。
それから、今までに出来た学校での友達。みんな大事なものだ。
一つは、シアンのいるこの世界。初めて来た異世界というのもあって、思い入れがある。自分のこの力のルーツでもあり、ここで過ごした長い時間は、日本と同じくらい、自分の故郷だと思える。
一つは、ブリアティルトのオーラム。
リオディーラという少女に召喚されて、彼女を助けていただけのつもりだったけれど、その家で落ち着いていると、そこもやっぱり、自分の帰る場所だと思える。
どれもこれも、大切なロイの居場所で、いつか大人になって、どれか選べなんてことになったら、ロイには選ぶことなど出来るはずがない、と思った。
別に、選べなんて言われてないのだけど、大学生なんてやっていると、たまに考えてしまう将来。

「決めなきゃとは思うんだけど、なかなか決心がつかなくて」

ロイには魔神として、未来を見通す力があるけれど、未来と言うのは無限にあって、その一つをどう選ぶかなんて、思うだけで立ちすくみそうになる。
未来が見えるなんて碌なことがない。それは本当に正しい。
だから、ロイはもう自分の未来なんて見ないことに決めている。

「卒業するまでには、決めようと思う」
「ソツギョウ?」
「あと…うーん、3年…4年、かな」

日本で就職して、休みの日に今みたいに異世界を飛び回る、というのもできるかもしれない。学生を続けるという道もある。それとも、いっそ、異世界に住んでしまうのもありかもしれなかった。シアンと同じ世界で暮らすのだ。きっと楽しい。
だけど、ロイには今それは選べない。

「…まあ、別にいいけど、なんていうか、それだけ待った結果、結局地獄に突き落とされるような答えは聞きたくないわね」
「あ、うん、それは…善処します。いや、ない、ないよ」

シアンが視線を外して呟いたので、ロイは慌てて首を振った。
ともあれ、何の話?と聞き返されなかったのだから、つまりは、そういうことだろう。
そのことに、胸を撫で下ろす。
『あなたの将来と私に何の関係があるの?』なんて言われたとしたら、男としてショックでこのまま木から地面に体を投げたくなるところだった。

「まあ、でも、よかった」

そう言ってシアンは腕を大きく伸ばした。
大丈夫とわかってはいるが、危なかしく思えて、彼女の腰を支える。
それから、少し震える彼女を支えて、彼女が言葉を迷いながら続けるのを待った。

「ロイ、あんまりこっちに来れないから、このまま忘れられるのかしらって、たまに思ってたの。まあでも、それはそれで仕方ないなって」

思ってたの、と明るく言うのは、シアンの強がりなのだろうか。
そうかもしれないし、でもシアンは強いので、本当にそう思っていたのかもしれない。そうだとしたら少し悲しいが、頻繁に来れない事実を考えると何も言えなくなる。

「でも、やっぱり、忘れてないのね。よかった」

よかったと繰り返して、シアンは目を伏せた。

「クリスマスって、素敵だわ」

クリスマスって素敵。
そんなこと、初めてロイも思った。

「ちょ、ちょっと、ロイ、落ちるわよ?」

思ったので、心の中でサンタに感謝して、ロイはシアンの腕を引いた。そのまま凭れ掛かってくるシアンを受け止めて、ぎゅっと、背中に手を回す。

「大丈夫。支えてるから。知ってるか、シアン。クリスマスの言い伝え、もう一個教えてやろう」

言い伝え、なんてちょっと曖昧だったが、そんなことどうでもいい。
今までほとんど気にしたことはなかったが、今日は特別だ。
信じれば、曖昧な言い伝えだって、本当になるに違いない。
何?と顔を上げたシアンに、ロイは微笑んだ。
それから

「モミの木の下でキスすると、永遠に結ばれるんだ」

そっと顔を近づけて、彼女の小さな唇に、自分のものを合わせた。
あの言い伝えは、ヤドリギだったかもしれないし、もっと違うものかもしれない。
だけど、そんなことより、今自分の気持ちをシアンに伝えるのにはこれが一番最適に思える。
そんな気持ちを込めたクリスマスの言い伝えが、どこまで伝わるかもわからないけれど。
数秒後、顔を赤くしたシアンは、照れたようにロイを睨んで、早口で言った。

「…ここ、モミの木の上じゃない」
「じゃあ、早く降りないとな」

そう答えると、シアンは赤い顔はそのままに、吹き出す様に笑って。
そうね、と言って、ロイの手を握った。
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tag : 岸辺ロイ 第10期 シアン

2013-12-26 : SS : コメント : 0 :
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