【8期】その後の話

ロイが将軍職になったらしい。
その知らせを聞いて、シアンが感じたのは、喜びではなかった。
不快とも少し違う。
何故ロイが。…あのロイが。
いきなり将軍??と、この世界に初めて来た時の、ロイの戸惑う顔を思い出して、浮かぶ疑問符。
だって、あのヘタレで、綺麗なお姉さんと見たら鼻の下伸ばして張り切って、強くなりたいと筋トレばかりするくせに、シアンの買い物にはなかなか付き合ってくれず、たまに付き合ったら荷物が重いと文句ばかり言い、そのくせ重かった?と聞くと、これくらいどうってことないと子どものような意地を張るロイが…
1000回の筋トレ中に声を掛けたら数がわからなくなって疑問符を顔中に浮かべながら5000回くらい筋トレするロイが…
肉ばかり食べて、野菜を食べるときは平気な顔しながら泣きそうになってるロイが…

(しょうぐん、ねえ)

そして、同時に思い浮かぶ、対照的なここ最近の彼の行動。
不可解、という言葉が近い。


「むー…」
「ん、なんだシアン。何か用か?」

先日、森から帰ってきたロイは、少し大人になっていた。
いや、見た目はそう変わらない。出会った頃より、背は少し伸びたけれども、ロイはロイ。知ってるロイだ。
この、今目の前にいる男は、シアンの知っている岸辺ロイという男に間違いはない。
シアンもそう思うし、誰に聞いてもそう答えるだろう。
正しい。
そう、見た目はロイだ。

シアンがじっと見つめると、ロイは少し微笑んで手を振った。


「シアン?」

そう呼びかける声も、瞳の色も、髪も顔も、知ってるものと同じ。
違うのは

「なあシアン。そんなに見つめられると、ちょっと照れる」

こうやって、首を傾げて、少し意地悪そうに笑う顔。
見知った顔が、見たことないような少し大人びた表情に揺れて。

「な、にひゅんはほ?」

思わずシアンは、目の前の顔の、柔らかい頬の部分をぐいと引っ張った。
ロイの顔が歪んで、それを見て、ようやくシアンは溜飲を下げて手を離す。

「あ、ごめんロイ。気持ち悪かったからつい」
「謝る気ないよなそれ」

ジト目で睨まれて、シアンはどこか安心する。そして、ふうと息をついてソファに腰掛けた。
シアンやロイたちがここにくる前からあった、赤雫☆激団、居間にある、少し古びたソファ。
少し硬めの弾力が、シアンの身体を支えて揺れる。
それに続いて、ロイもその右横に腰を下ろした。
なんのためらいもなく。


「…近くない?」
「気のせいじゃない?」

と、言いつつロイの足は、シアンに触れるか触れないかの距離で。
その手はシアンの肩に乗ってはいないものの、ソファの後ろから伸ばされ、シアンの肩のすぐ左にある。

「…むー」

思わず、頭を抱えたくなる。

最近のロイは、いつもこうだ。
気がついたらそばにいて、目があったら少し微笑む。
なんだかとても優しそうに。そして、どこか楽しそうに。

前のロイは、近くにいても、目があってもこうではなかったし、もっと態度も自然だった。
顔を合わせると、今度は何をしたんだとため息をついてきて、飛び出る皮肉は辛辣だったが、それでもこちらを邪険にしているわけではなく、一緒にいてもとても自然で、落ち着く存在だった。
今のロイだって、自然でない、というわけではない。…と、思う。
むしろ、自然にこんな風に笑うから問題なのだ。
今の彼の自然さは、前のロイとは少し質が違うような気がする。
このロイも皮肉だって言うし、ため息だってつくけれど、それでもシアンに向ける目はとても優しくて、落ち着いていて…。

「どうしたシアン?何か言いたいことがあるなら、聞くぞ?」

なんて、以前なら「聞きたくないが、聞かない方がまずい事態が起きるだろうから聞くけど、ちょっと待って、心の準備する」などと情けないことを言っていたロイのセリフとは思えない。

「…ロイ、よね?」

そう思わず確認してしまうくらい。

「なに?おまえが8歳までおねしょしてたことも知ってる。ご存知岸辺ロイだよ?」
「だ、だだ誰に聞いたのよー!!そんなのロイに言った覚えないわよーー!」
「ルウィン情報」
「ルウィンね…!おぼえてらっしゃい!」

ボディーガード兼幼馴染の名前を心の中に刻み、復讐を決意。
ぐっと拳を固めると、ロイはくっくと笑って続けた。

「で、おまえの嫌いな食べ物はキノコとピーマン。好きな食べ物は骨の少ない焼き魚と焼きたてのパン」
「…あんたは肉ばかりよね。わたしの分まで取られたわ」
「その代わり、魚の骨取ってやっただろ」

おれ、骨取るの得意だからなと笑うロイは、やっぱりシアンの知っているロイだ。

「それでもおれを疑うなら、確かめてもいいよ?」
「確かめる?」

笑いながら、ロイは続ける。
シアンの馴染みのない、少し意地悪な顔で。

「好きなように。髪の毛の先から足の先まで。そうだ。ほくろの数でも数えてみる?」
「?あんたのほくろの数とか知るわけないじゃない……って」

彼のその表情から、言わんとしていることを察し、押し黙ったシアンは、無言でロイの胸に肘鉄を食らわせた。
すぐさま彼は笑ったので、その攻撃は効いてないようだったが。

「…もう、なんなのよ。なんの嫌がらせか知らないけど、どうしたっていうのよ」

ここのところずっとそうなのだ。
おかしなロイは、ロイの顔で、自然におかしなことをする。
これがいつものシアンのワガママに対する意趣返しとか、嫌がらせだというのなら、大成功だ。
そう思って睨んでやると、ロイは、近づけた顔を、きょとんと傾けて

「嫌がらせ???」

まるで、こちらが何か変なことを言ったかのような顔で、眉を潜めている。

「ほら、こーいうのよ」

いつの間にやら彼の手がシアンの肩に乗っていたので、それを持ち上げてやると、ロイは素直に腕を退けながら、まだ解せないという顔をして、シアンの顔をまじまじと見て、それから。

「…あれ、え、あ…あー…」

などと呻いたあと、

「そりゃ、そうだよな、そうか、確かに、まだだ…まだだった…」

何やらショックを受けた顔で頷いて、そそっとシアンから、距離を取る。
まだ充分近い距離だったけど、先ほどより拳2つ分離れているので、許容範囲と言えなくはない。
ようやく落ち着いた心地がして、シアンはロイに向き直った。

「で、なんなの?」
「記憶が戻ったばかりで、若いシアンに舞い上がってたけど、まだシアンとそーいう仲でなかったのを忘れてた。ごめん」
「はあ」

言っていることはさっぱりわからないが、殊勝な顔で謝っているので、それ以上つっこむのはやめて、黙って続きを聞くことにする。
シアンが先を促すと、ロイはバツが悪そうな顔で、言葉を選んだ。

「どうせ今回の巡りが終わったら、君も思い出すんだろうし、もう少し待てばいいかなって思うんだけど…」
「意味はわからないけど、ロイがまた意気地なしなことを言っているんだろうなってことはわかるわ」

そう言ってやると、押し黙ったロイは
「そうだよな…もう一度やりなおそうって言ったもんな…」などと呟いて、よし、と唾を飲んで顔をあげた。
先ほどまでの大人びた顔は何処に行ったのか。困ったような顔を、少し赤く染めて。

「シアン、初めて会ったときのこと、覚えてる? おれが向こうの世界から迷い込んで、おまえがおれを勇者だとか騙して…」
「騙したとは失礼ね!勇者様だって思ったのよ。確かに、誰でもいいから会った人を勇者にしようって思ってたけど、一目でわかったもの。ロイは勇者だわ!」

お目付役のルウィンを連れて村を出て、このオーラムに来たとき、とても心細かった。
でも、夢を抱えてこの街に来たのだ。
シアンは、故郷の村で巫女の長をやっている。
その地位を、村長をやっている父のコネだとか力もないくせにだとか、陰口をうんざりするほど叩かれる毎日。
幼い頃は違った。代々シアンの一族は類稀なる巫女の力を持っていて、シアンももちろんそうだった。その力を褒めはやした村人たちが、まだ幼かったシアンを、巫女の長なんて地位に祭り上げたというのに。
日々薄れていくシアンの巫女の力を見て、彼らは掌を返して、影で罵倒したのだ。
力もないくせに。
コネでしかないのに。
役立たず。
なんでここにいるんだと。
そんな日々に嫌気がさして、シアンは旅に出た。
まだ巫女の力が薄れる前に、シアンが確かに聞いた、「勇者が現れる」という神の信託を叶えるために。
勇者を村に連れて帰ったら、もうバカにされることもない。
村だって栄えるし、世界だって救えるし、良いこと尽くめだ。

旅に出て、この街について、大家さんに会って家を借りて。
心細いながら、何かが始まりそうな生活。赤雫☆激団を名乗って。
それからロイと出会った。

「うん、おれはさ、おまえにそう言われて、嬉しかったんだよ。別に勇者とかじゃないけど。全然違うんだけど。」
「ロイは勇者よ」
「おまえは何があってもそう言うだろ。おれが情けないことしても、ボロボロになっても」
「確かにロイは情けないし、すぐ負けてボロボロになるわね」

それでも。
なぜだろう。
シアンにとって、ロイは「勇者」だった。
近所のおじさんに頭を下げて謝ってる姿を見ても、敵に負けてひーひー言ってる姿を見ても、肉に噛り付いて、優雅さの欠片もない姿を見ても、めんどくさいと言うばかりでだらしない姿を見ても。
こんなのが勇者なんて、と言ったことはあるけれど、情けないと思っていても、こんなロイでも、シアンにとって、彼は勇者でしかない。

「ロイだもの。情けなくても仕方ないわ。でも、ロイは勇者よ」
「うん。おれは、それをいつも聞いていて、勇者でありたいと思うようになった」
「良い心がけだわ。もっと強くなって、魔王を倒しましょうね」

この世界にそんなものがいるのかどうかなんて、シアンにもわからないけれど。
情けないことを言うロイに、励ますつもりでシアンは言う。
でもロイは、少し耳を赤くしながらも、目を逸らそうともせず、情けないことを言っているようなのに、しっかりとした口振りで、頷いて、それから強く、シアンの目を見た。
途端、シアンの方が目を逸らしたくなったのだけども、もう、その捉えられた目から、逃れることは出来なかった。
ピリリと、ロイの力を、肌で感じる。
ロイが纏う、魔力のような力。
元々のロイが微かに持っていた力が、最近強くなったのは、シアンも感じていた。
その力が、少し震えている。

(緊張しているんだわ…)

ロイが緊張している。
最近急に大人になったようで、それでいてやっぱり情けないようで、それで…
ロイはロイだ。

「なあシアン。おれは、おまえの…おまえだけの勇者でありたい」

自嘲するように少し笑って

「世界とかそういうのは、正直どうでもいいっていうか、…どっちかというとおれは害をなす方のそーいうのじゃないかなーとは思うんだけど。それでも…」

言葉を選びながら、緊張しつつ、それでもロイは、真剣に。

「これからどうなっても、何があってもずっと、シアンの勇者でいたい。ずっと。…これで…どうかな?」
「どうかなって?」
「意地が悪いなおまえ」

真剣に言いながらも、結局言葉を濁すのはロイらしい。
かっこいいこと言おうと思ってるなら、最後まで決めて欲しいところだ。

「当然よ。ロイが辞めたいって言っても勇者だもの。辞めさせないわ」
「…急に話が通じてるのか不安になってきたんだけど」

なんて、ちょっとだけいじめて、情けない顔をしたロイを笑ってやる。
それからシアンは、離れた距離を拳2つ分詰めて、彼の手をそっと握った。
手が触れた途端、ぴくりとロイの手が震える。
震えて、それから、彼はその手を強く握り返してきた。
彼の魔力が掌をから伝わってきて、シアンと混ざり合う。
緊張しているロイの魔力がピリピリと。
掌から、身体から、爪先から、髪の先まで。
それから、身体の奥深くまで。
シアンの全てをロイが包んで、混ざり合って、刺激して、それから…
シアンは全てを思い出した。

これまでのこと。
『初めて』ロイと出会ったこと、過ごしたこと、旅をしたこと、通じ合ったこと、ロイの力のこと、自分のこと、それから、ロイとの二年間をなかったことにして、この世界に来たこと。
もちろん、二度めにロイと出会って、オーラムで過ごした二年間も。

「シアン。これは…この手は、その、いいってことかな。おれと、その…」
「65点よ」
「は?」
「途中まではよかったのに。やっぱり情けないんだから」
「えっと、シアン?」
「外面は良いのに、いつもそうよね」

慌てるロイの顔を、正面からシアンは見た。
その顔になんとなく懐かしさを感じる。
ずっと一緒にいたのだから、そんなことはないのに。
記憶に留まるロイより、なんだかほんの少し若く感じるのは、気のせいなのかなんなのか。
そう言えばロイもさっきから、若いシアンだ、とか調子に乗っていたっけ。
若いって、二年ってそんなに変わらないわよ失礼ね。なんて思いながら、シアンはそっと、ロイの頬に口付けた。

「え?え?」
「ただいま、ロイ。お帰りって言った方がいいのかしら。わたしの勇者様?」

きょとんと瞬きしたロイは、それから目を見開いてシアンを見つめ、ぱくぱくと口を開け閉じしたあと、そのシアンを、正しく理解して、ぐっとその手を強く引いた。

「!!」
「ただいまシアン。おかえり。ありがとう。好きだ」
「ちょ、ちょっとロイ。わかったから離しなさいよ。どーどー!ルウィンが帰ってくるわよ!」
「あれのことはおれは知らない」

シアンの匂いだ…などと髪に顔を埋め、変態的なことをのたまっているロイを小突いて、ようやく引き剥がすことに成功する。
こんなにベタベタする男ではなかったはずだが、一体どうしたというのだろうか。
頬を膨らませて睨んでやると、バツが悪そうに…照れたように…笑ったロイが、ごまかすように手を叩いて立ち上がった。

「よし、もう少しでこの巡りも終わりだ」

そう挑戦的に笑って、手を引いてシアンも立ち上がらせる。

「これで終わり、と言いたいところだけど、もう一仕事がんばらないとな」
「何をするの?」

その手をとって立ち上がり、シアンが首を傾げる。
もう目的は果たしたはずだ。
身体の時間を戻して、もう一度二年を経験すること。そして自分を取り戻すこと。力を増幅するための計画は、彼の満足そうな顔を見ると、成功したのだろう。
だけど、欲張りな彼は、もう少し、と言う。

「おれの目的は、とりあえず終わった。あとは、ここ、赤雫☆激団の仕事をしないとな」

この二年少しを過ごした拠点、赤雫☆激団。
シアンは、それが何なのかを知らない。
知っているのは、ロイを召喚した女の子がいて、その子が作った部隊だということだけ。
それらしい人物に、シアンはここで会ったことはなかった。何をしている子なのだろう。どこにいるのだろう。
赤雫☆激団という部隊で過ごして、シアンだって、もはやそれは他人事ではないのだ。
シアンもここで過ごして、この世界が、オーラムが、赤雫☆激団が好きだ。

「わたしも手伝うわ!」

そう言うと、ロイは微笑んで、ありがとうと頷いた。ちょっと複雑そうな顔で。

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