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【SS】赤雫☆物語第9期【その5】

英雄戦に選出が決まった。
勅書を手に取りガッツポーズを決め、恥ずかしくなってそれを隠す。
これですべてが上手く行く気がした。
国を代表する一戦。
この戦に加わるというだけでも名誉な話だ。
手柄でもたてて帰ってきたら、みんな大喜びするに違いない。
ダリアだって、もうジャラヒを殺すなんていう話を取り消すに違いないし、あの日からどこか元気がないドロシーも、喜んでくれるに違いない。
二人にも、じっくり話をしよう。
それから…

(リオと、ちゃんと話す)

ロイが言っていたことは気になるけれど、もう一度、じっくりリオと話をして、それからリオと二人で考えればいい。
二人で考えたら、きっと怖いものはない。

英雄戦に勝てば、すべてが上手く行くに違いなかった。

「じゃ、行ってくるわ!」

玄関から声を上げると、返ってくる答えはなかった。
後ろ姿のダリアが、がんばってくればいいわとでも言うように、振り向きもせず手を振っているのが見える。あれでも精一杯の励ましのつもりだろう。いつもの彼女は、手を振ることすらないのだから、充分な励ましだ。
その素直じゃなさに苦笑しながら、頷いて、ジャラヒは家を出た。




結果はというと。
もちろん、予想通りだ。
満足しながら戦地を後にしたジャラヒは、英雄たちと共に街に帰り、労いの交わされる中、花道をそっと抜けた。
高揚感を味わうのもいいが、正直な所、気持ちはもうそれどころではなかった。
アティルトの入り口を越えると、早足になる。
早く、会いたい。
目指すは一つだ。
柄にもなく、胸が高鳴る。
リオはどこにいるだろうか。
別邸の方にいるのか、赤雫の本邸で待っているのか。
今日という日に、遊びに行ってるとは…ちょっと思いたくないけれど。
それもまあ、ありえる可能性として、心の準備をしておく。

街の中は大賑わいだった。
いつもより人通りが多い。
英雄たちの帰還だ。その帰りを待ち構えていた人たちが、大遠りに向かって、花を投げている。
交じる歓声と熱狂。
騒がしいのは好きではないが、これも、英雄戦を戦った英雄たちに向けての声援なのだから、ジャラヒも悪い気はしなかった。
逆に、励まされている気がする。
あんな英雄たちと共に戦ったという誇らしい気持ちを武器に、自分を奮い立たせる。

大丈夫。
リオが家にも別邸にもいなくて、もし遊びに行っているのなら、探せばいいのだ。
帰りを待つなんて、しなくていい。
ちゃんと、自分から探して、連れだして、話をしよう。
ちゃんと言うのだ。
見守るだけじゃなくて、一緒にと。

そうする理由も資格も、ちゃんとある。


と。

「ジャラ~!」
「うわ」

突然どこかから、ふわりと明るい声がして、暖かい何かに腕を掴まれたと思った瞬間、くるりとジャラヒの体が回った。

「おめでとう!ジャラ!」

つんのめりそうになりながら、体のバランスをようやく取り戻す。
何事だと腕の方を見ると、久しぶりに見る、一番見たかったものが、唐突にそこにあった。

「や~やっぱりジャラはすごいね!ちゃーんと英雄戦出れたもんね!帝国行ってきたんだって?すごいすごい!」

すごいすごいを連呼しながら、ジャラヒの腕を振り回す少女。
言うまでもない、赤雫☆激団の、本当のリーダー。リオディーラ。
リオ。
リオだ。
ジャラヒの大切な少女。
なんだか、すごく久しぶりに会った気がする。
心の中にはいつもいた、おひさまみたいな笑顔。
久しぶりで、懐かしくて、幸せで、どうしてこれがなくて今まで耐えられたんだろうと、不思議に思う。

「あ…うん、ありがとう。リオ…あの、おれ…」

あれほど言いたいことを考えたのに、言葉にならない。
何を言ったらいいものやら。
会えたとたんに霧散してしまった。
まるで、これでもう全部満足したみたいに。
だけど、これだけじゃダメなのだ。
ジャラヒは今まで、何度も満足だと思っていたけれど、そうではなかった。
そうではないから、彼女の幸せを、心から笑ってやれない。
もうそれは、嫌だ。
リオはというと、きょとんと首を傾げて、言葉を待っている。
が、しばしつっかえて、言葉を探しているジャラヒに、にっこりと笑って、ぽんと、その背中を叩いた。

「もう、遠征、あんまりいかなくていいんだよね?ジャラ。ね?
じゃあねえ、いっしょにあそぼうよ!」

言って、ぴょんと体を弾ませると、ふわりと、踊るように背中を向ける。

「お、おい」
「ほら、こっちだよ!」

小さな手が差し出されて、ジャラヒはそれをそっと握った。
暖かい手が、ジャラヒの手を包む。ぎゅっと包まれて、それから、強く引かれた。

「まずはねー、一緒にヒーローごっこするの!ジャラが鬼ね!」
「って待ておい!それは鬼ごっこであって、ヒーローごっこではない!」
「あれ?えーっと、じゃあ何のヒーローごっこしよっか?」

ひっぱられるままになっていたジャラヒだが、とりあえずつっこんでおく。
だけどリオは気にもしてないようで、へへへと笑って、それからねーと言葉を連ねた。

「やっぱりジャラが魔王で、ワタシがヒーローかな!」
「やっぱりってなんだよ。魔王とか魔神とかはナシ。嫌なやつ思い出す」
「じゃあ、いっしょにヒーローしよう!あっちの広場でね、ヒーローっぽいこと、どっちがいっぱい出来るか勝負するの!」
「ヒーローっぽいことってなんだよ」
「えーっと、あ、ほら、ゴミ拾いとか!」
「…まあ、ゴミ拾いはいいことだよな」

久しぶりに、リオと街を手を繋いで歩く。
時折急に止まったり、飛び跳ねたりして振り回されるのも、なかなか楽しい。
そこには、ロイが言っていたような、ジャラヒを避ける言動は欠片もなかった。

(なんだ…)

やっぱり、ジャラヒが忙しくて、顔を合わせる暇があまりなかっただけだったのだ。
心配して損した。
と、気に入らない魔神を心の中で罵る。
リオが避けているとか、消えるとか、離れろとか、変なことを言うから、必要以上に心配してしまった。
だけど、実際リオを目にしてみると、そんな心配、なんでもなかったみたいで。
胸いっぱいの暖かさを感じながら、自然に笑みが溢れる。


「んー、でもさ、今日は、広場も騒がしいから、丘でも行って、ひなたぼっこしながら昼寝でもしようぜ」

はしゃぐリオに苦笑しつつそう言うと、振り向いたリオは、少し考えて頷いた。

「そっか、そうだね!」


それから。
人ごみを避けて、少し外れた丘に向かう。
商店街を越えて、橋を渡って、のんびりと。
日差しは柔らかで、暖かい。
英雄戦記念セール!なんてやっていた商店の通りをすぎると、人もようやくまばらになってきた。
いつもは、このあたりも人通りが多いのだが、今日は英雄たちの見学に出ているのか、人の数も少ない。
隣を見ると、鼻歌交じりでスキップしているリオ。
あまりにものどかすぎて、あんなに不安に思っていた自分が情けなくなる。
いつも通りのリオは、いつも通りに楽しそうで、いつも通りに笑っていた。
ジャラヒがいつも幸せに思うあの顔で。

そうして30分ほど歩くと、小高い丘についた。


適当な木の下に腰かけて、大きく伸びをする。
昼寝しようと誘ったというのに、きゃっきゃとリオは飛び跳ねていて、それをのんびりと見ながら、ジャラヒは口を開いた。
言おうと決めていたこと、今ならなんともなく言える気がする。

「なあ、リオ」

ふわりふわりと跳ねていたリオは、今度は座って地面を見つめていた。
足元には白い花が咲いていて、それを摘もうかどうしようかと思案しているようだった。
花を触りながら、リオは、なぁにと生返事をする。

「リオはさ、おれといると、楽しい?」
「??」

口にしてみると、変な問いだった。
案の定リオはというと、顔をあげて、ぽかんとジャラヒを見ている。
それから、

「あったりまえだよ。変なジャラ!」

にっこりと、笑ってそう答えた。
そう、そんな答えを得ることは、予想していた通りだ。
ジャラヒの好きなその笑顔で、きゃっきゃとためらいもなく答えてくれる。
リオは、その望んでいた答えを、望んでいた通りに答えてくれた。
これで…
これで良しと、するべきなのかもしれない。
リオが、隣で笑ってくれることがとても幸せで、それをリオが楽しんでくれるなら、それでいい。
ずっとそう思っていた。
だけど、本当は、それだけじゃなかったのだ。

「最近さ、ずっと、一緒にいられなかっただろ?」
「なあに?ジャラ!さみしかったの??」
「うん」

いつもなら、ばか!そんなわけねえよ!と答えるところだったが、素直に頷く。
するとリオは、さすがにいぶかしく思ったのか、ちょこちょことジャラヒの横にやってきて、腰を下ろした。
きょとんと首を傾げて。

「…さみしかったの?」
「ああ、とっても」
「そっか」

小さな手を、ジャラヒの頭に伸ばして、まるであやす様に。

「ジャラヒはばかだねえ」
「おまえが悪いんだよ。放っておくから」
「そっか」

ナデナデ、と呟きながら、ジャラヒの金髪を触った。
ジャラヒもちょっとくすぐったくなって、身をよじりそうになったけれど、そのままにしておく。

「ジャラとね、こっちに来て、すっごく楽しくて、しあわせで、はしゃいじゃった。
 でも、ジャラをさみしくさせちゃだめだよね」

小さく聞こえるごめんなさいに、首を振る。

「や、別に、楽しいなら、…幸せなら、いいんだよ。
 ほんとは。いいと思ったんだ」

ジャラヒは、リオが帰ってこれる場所になろうと思っていた。
色々飛び回りたいけど、オーラムのこの場所も大事だと悩んでいた彼女に、それなら自分がここにいると、そう言ったのはジャラヒからだ。
あの時は、とても良い考えだと思った。
そう提案された時の嬉しそうなリオを見て、満足もした。
たまに帰ってきて、リオがうれしそうにあったことを話すのを聞くのも充分楽しかった。
リオが外にいる間、赤雫☆激団は任せろと、あんなにはりきっていたものの。
結果、自分の小ささに気が付いて凹んでしまう。
やっぱりリオと一緒にいたいだなんて、女々しいかもしれないが、真実だ。

「あのね、ジャラ」

頭からそっと小さな手が離れ、それからその手は、ジャラヒの手を掴んだ。
ぎゅっと、力強く握られて、痛みすら感じるその強さに、ジャラヒは思わず手を見て、それから、リオのまっすぐな瞳を捉えた。
赤い、ルビーみたいな、大きな目。
いつも好奇心で溢れていて、世界中の全部を見たいみたいに、とらえどころがなかったその目は、今はただ、まっすぐにジャラヒだけを見ていた。

「ジャラと出会えて、ワタシは本当に嬉しかったの。
 ジャラがね、色々考えて、心配してくれてたの、知ってたよ」

だけど、と加えて、それから彼女にしては珍しく、いつも上を見ている目線をそっと下げた。

「だけどね、心配してくれればくれるほどね、消えちゃいそうになるの。
ジャラは、いつもね、何も言わずに、ワタシのこと、なんだってしてくれるでしょ?」

それはそうだ。ずっと、リオを見ていたんだから。
彼女が欲する全てを身体全体で察しようと、彼女が幸せになれる空間を作ろうと。
言葉なんていらないと思っていた。別に、伝わらなくても構わない。
彼女の幸せこそが、自分の生きるすべてだと思っていた。
全部、世界中のすべてが、彼女のためにあればいいと。

「どうしてかなって思ってたの。心配してくれるの。嬉しかったけど。
 もう、ワタシはジャラに会えただけで嬉しくて幸せだったのに、ジャラは、いっぱいなんでもくれてね。
 ワタシ、これ以上もらったらダメだって思って。なんでこんなにしてくれるのかわかんなくて。だけど…」

そっか、と頷いた彼女は、泣きそうに笑った。

「ジャラは、さみしかったんだね」

笑っているのに、今にも泣きそうな顔に見えて、ジャラヒは彼女の手を引いた。
何の抵抗もなく、彼女の頭が、ジャラヒの胸にトンと凭れ掛かる。
やっぱり軽い。
リオの身体はとても小さい。
すっぽりと収まったその体をトントンと撫でるように叩くと、その頭が頷くのがわかった。

「ねえ、ジャラ。初めて会った時のこと、覚えてる?」
「…ああ、おれがおまえを撃って、怪我させちまったよな。悪い。それからおまえがおれを助けてくれて…」
「ちがうよ。もっともっと、ずっと前のことだよ」
「?」

ん、と彼女の顔を見ようとすると、リオはその顔を、さらに強くジャラヒの胸に押し当てた。
ぎゅっと、背中に彼女の手が回りこむ。
下を見ても、彼女のその小さな頭が見えるばかりで、表情は見えない。
だけど、くぐもった声で彼女は続けた。

「ジャラはね、ワタシのこと大好きだったんだよ。
 ワタシも、ジャラのこと大好きだった。大好きで大好きで、いつか会いたいなって、思ってたんだ」
「って、え?何の話だ?」

彼女が唐突に口に出したのは、ジャラヒの記憶にまるでない話だった。
話が見えない。
リオとジャラヒが初めて会ったのは、ブリアティルトに来る前の話。
ジャラヒが17になったばかりの頃で、父親に組織をつぶされて、逃げるように、復讐を誓いながら、街を彷徨っていたときのことだ。
兄の出した追手につかまって、あわやというときに、彼女に助けられた。
ジャラヒは最初、有翼人種な彼女を金になると売ろうとすらしたのに、ジャラヒを助けた彼女は、会いたかったと。生きてほしいとそう言って笑って。ジャラヒに暖かさを、幸せをくれて、それからジャラヒも、彼女のために生きようと思ったのだ。
それが、初めての出会い。
それより前に、リオを見たことはない。
あれが、初めてのはずだ。
こんな羽の生えた少女だ。会ったことがあるなら、覚えているはず。


「ジャラはね、いつも、ワタシを見て、がんばれって言ってくれてね。
 嬉しくてワタシ、黄金の国に辿りつくの、すっごいがんばったんだよ」

リオは、そう言いながら、顔を上げようとはしなかった。
口にするのは、ジャラヒの知らない話。
知らない話を、知ってるみたいに言って、ぎゅっとジャラヒを抱きしめたまま、途切れ途切れの声を、続ける。

「でもね、いっぱい色々あって、黄金の国に辿りついて。幸せになって。
 いっぱい幸せになったら、ジャラはいなくなっちゃった」

何の話かわからない。
だけど、リオが必至で言葉を繋いでいることだけはわかったので、応えるように、ジャラヒもリオを強く抱き返した。
よくわからないけれど。
わからないけれど…わからないなりに、受け止める。
今彼女にしたいのは、話の内容を聞き返すことではない。

「おれはさ、いなくならないよ」

一番大事なことだけを、伝える。
伝わればいいと思った。
とんとんと叩いてやると、リオの背中がくすくすと揺れる。

「うん、だからね、今度は、ジャラと一緒にね、幸せになろうと思ったの」
「…うん」
「ジャラとね、いっぱいがんばって、楽しいこといっぱいしてね、たくさんの目的をね、叶えて、それから幸せになりたかったんだ」
「うん」

たくさんやりたいことがあるの!
と、リオはいつも笑っていた。
いっぱいいっぱいすることがあって困るのだ、と頬をふくらませるリオに、何がしたいんだ?と尋ねると、正義の味方になるだとか、昔の恩人に礼を言うのだとか、竜を倒したいだとか、お姫様と友達になりたいとか、出てくることに際限はない。
三年を繰り返すブリアティルトで、それを全部かなえてやるんだと笑ったリオに、それなら手伝ってやるかと、ジャラヒもそっと思っていた。
深く理由は聞かなかったし、リオが楽しそうならそれでいいと。

「ジャラと一緒に幸せになりたかったのに、さみしくさせちゃってごめんね」

一緒に幸せになりたい。
リオがそう言ってくれるだけで、もういいか、とジャラヒは思った。
色々難しく考えていたのがバカらしい。
リオを幸せにしたいとか、ずっと笑っていてほしいとか、だけど感じる置いてけぼりにされた気持ちとか、黒い嫉妬だとか、捻くれた狭い心だとか、そんな色々な考えでぐちゃぐちゃに考えていたけれど。

(…なんだ)

答えはこんなに簡単だったのだ。
気づいた途端、笑い出したくなる。
別に、難しく考えることはなかった。
リオと一緒にいたいという気持ちは、別に悪いものでも間違ってるものでも、悩むべきものでもなかった。
本当は、一緒にいていいか、と彼女に頼むつもりだったのだけど。
なんだか今度は少しそれとも違った気持ちで。
思いつく前に口が開いた。

「なあリオ、結婚しよっか」
「へ???」

言った後で、頷く。
それしかないような気がして、しっくりと、胸がすとんと楽になる。

「うん、そうだ。リオ、おれたち、結婚しよう」


そう肩を揺らすと、さすがにリオも驚いて、その顔を上げた。

「え?え?」

ぱちくりと開けた目の端は赤くなっていて、少し涙が滲んでいる。
その涙を指で拭いてやり、そのまま、額をトンと小突いてやると、混乱したままのリオの目が、笑うジャラヒを捉えた。
我ながら、満足そうな顔をしていて、どこか悪巧みでも思いついたような、ちょっと悪い顔と言えなくもなかった。
だけど、これ以外はもう考えられない。

「どうやって、リオと一緒にいようかと思ったんだ。ずっと、一緒にいたいけど、お前はいつもふらふらしてるだろ?おれもそれ、止めたくないし。おまえには、笑ってほしいし。しつこくはしたくないし。でも…」

幸せを願うのは本当だ。リオには好き勝手してもらっていいと思っている。
それでも、そんなリオを見て、胸が軋むのはたしかで。

「でも、もうこんな思い、したくないしな。
 一緒に幸せになりたいなら、簡単だった」

いや、今気が付いたんだけど、と、誤魔化すように笑って、

「いいアイディアだろ?リオ。
 おれと一緒に、幸せになれる。絶対に、おれが幸せにする」

リオに幸せでいてほしい。
笑っていてほしい。
その気持ちが少し歪んでしまっていたのは、一つだけ見てないものがあったから。
幸せにするのも、笑わせるのも、楽しくさせるのも、全部、自分でしたかった。
だれでもなく、ジャラヒ自身の力で、彼女を幸せにしたい。
一番の力になりたかった。ずっと傍にいたい。
全部、リオに一番をあげたい。

「だから、リオ。おれと、結婚してくれませんか?」
「あ、え、ジャ、ジャラ??」

赤くなったリオは、慌てて一歩下がろうとしたけれど、その体はしっかりとジャラヒが抱きしめているので動かない。

「え、ジャラ、結婚って…」
「知らないの?おまえ。無知にもほどがあるぞ」
「し、知ってるよ!夫婦にな…な?なるの?ワタシとジャラが??」

意味をわかってくれたのか本気で不安になったが、その赤い顔を見ると、ちゃんと把握しているようで、ジャラヒはほっとする。
口に出してみると、やっぱりそれが一番の正解だ。
ちょっと早すぎる気もしたが、もうこの世界に来て、三年間を何度も何度も繰り返しているのだ。体はまだ若くても、精神はもう立派な大人と言っても問題ない。
ぱちくりと目と口を開いたり閉じたりしていたリオは、結婚かぁ…と呟いて、それから、ぎゅっと、ジャラヒの首に抱き着いた。

「リ、リオ??」
「ふふふ。それって、とっても幸せになっちゃうね」
「おう。もちろん。世界一幸せになっちゃうぜ」
「そっか、世界一なんだ」

ぎゅーっと抱き着いてきたリオは、ずっと、幸せ幸せ、と呟いていた。
ふふふと笑う声が耳元で囁かれるように揺れてくすぐったい。
今更ながらなんだかとっても恥ずかしくなって、照れを隠すように、ジャラヒはリオの背中を、ぽんぽんと叩いてやる。

「おーい、リオさん。お返事は?」

ジャラヒが笑いながらそう言うと、リオは顔を上げて、ジャラヒの顔を見た。
それからにっこりと笑って。
これ以上ないくらい、幸せを顔にして。
なんだかとっても泣きそうな顔で、そっと。
ジャラヒの唇に、自身のそれをくっつけて。
それから、ゆっくりと離れて、言った。

「ありがとうジャラ。ワタシ、ジャラといっしょに幸せになれたんだね」

もう、幸せいっぱいが顔一面に現れた笑顔で。

「だからもう、ワタシの物語」

ぽろりと一粒涙を落として。

「これで、おわりで、いいや」

ジャラヒの唇と腕に、暖かさだけ残した後。

ジャラヒの腕は、空を切った。


「は?」
いきなり体が軽くなって、バランスを崩したジャラヒが、地面に手をつく。

「え?」

やわらかい草が、ジャラヒの背中を抱きとめた。
草と、白い花と、青い空と、雲と、それから木が一本。
辺りを見回す。
青い空と、太陽と、雲と、草と、花と、それから木。
他にはもう、何もない、ジャラヒひとりが倒れ掛かっている、広い丘。
鳥の声すら聞こえない、静かな丘だ。

「リ…オ?」

呼びかけても、返事はない。

「リオ!!」

かくれんぼ、だろうか。
隠れるところはないけれど。
先ほどまで、腕の中にいたけれど。
笑っていたけれど。
幸せだと、あの明るい声で、泣きそうになりながら言っていたけれど。
もう、その姿はどこにも見えなくて、声ももう風に溶けて消えていた。

「ちょ…ちょっと待てよ。悪ふざけは止めろよ」

名前をもう一度呼んだ。
もう一度。
もう一度。
立ち上がって、叫んでみた。
走って辺りを見回して、もう一度呼んだ。
呼んで、叫んで、声を上げて、何度も何度もその名を口にする。
やがて、喉が痛くなって、声が枯れて、街の近くまで来て、それでも、返事はない。

「すみません!リオ…女の子、青い髪の、これくらいの子、見ませんでしたか?」

待ちゆく人に尋ねてみても、首を縦に振る者はいなかった。
街はまだ、英雄たちの凱旋で盛り上がっていて、熱気は消えていない。花道に投げられた花は、踏まれて黒くなっていて、それを気にせずジャラヒも踏みにじりながら、街を駆けた。
呼んで叫んで駆けて。
でも、リオはいない。
人が多いから、仕方ないのだと思う。
英雄の凱旋で盛り上がっていたのだから、小さな女の子なんて、きっと誰も見てないだけだ。
見落としているだけで、きっと、リオは、いつもの通り、この道を歩いて、楽しそうにスキップして、通り過ぎたに違いない。
通り過ぎて、ここを右に回って、きっと。
きっと、いつもの我が家に、赤雫☆激団に、本拠地に帰ったに、違いなかった。

壊れそうになる心臓を抑えながら、ジャラヒはその道を辿る。
いつもなら、スキップしているリオは、ここの石段で転びそうになるのだ。
それから笑って、悪の罠なんかに負けないんだから、大丈夫だよ、なんて自分の不注意を笑う。
こっちの屋根から飛び降りて、怪我をしたこともあった。
ヒーローごっこでどの高さから飛び降りれるか試してみたのだと言っていた。
バカなことを言って、あそんで、いつも楽しそうで、これからもずっと楽しく笑っているはずで、今度はもっと、ジャラヒが幸せにする筈だったリオは、きっとこの道を通って家に帰ったはず。

そう、この、ちょっと古くなった扉を開けて、ただいまって、明るく言うのだ。

「リオ!!ドロシー!ダリア!!」

扉を力任せに開けたジャラヒは、家にいて、帰りを待ってるはずの名前を叫んだ。

「なによ騒々しい。…聞いたわよ。おめでとう」

返ってきた返事はひとつ。
いつも無愛想なダリアの、珍しいおめでとうの声。
彼女が勝利をねぎらうなんて初めてのことだ。
英雄戦の勝利はやっぱり違うなあ、なんて、いつもなら軽口をたたくところだが、今、ジャラヒにそんな余裕はない。

「ダリア!リオ、リオはどこだ?」
「は?」

胸が、まるで壊れそうなほど鳴った。
自分の身体じゃないみたいだ。
自分の声をかき消すみたいに、ダリアの返事をかき消すみたいに、どくどくと、音を立てて。

「リオ?」

それでも、かき消すことはなくて、ダリアの声は、ジャラヒの耳にちゃんと届いた。

「…知らないわ。誰?あんたの友達?」

怪訝に眉を顰めたダリアは、嫌になるほどはっきりとした声で、言った。
半ば予想していたその答えは、予想していたにも関わらず、ジャラヒの全身に刺さる。

「…?どうしたのよジャラヒ。何なの?」

全身をずたずたに刺されそうになる感覚に、ジャラヒは叫びだしたくなった。

やっぱり、リオはいない。
リオディーラ。
黄金の国を目指して、たくさんの冒険の果てに辿りつき、幸せになる少女。

ジャラヒは知っている。

ずっと、知っていた。気づいていた。

気づいてたから、応援していた。幸せにしてやりたかった。


「…ジャラヒ?」

振り切るように、ジャラヒは身を翻した。
もう一度、街を駆ける。
探しても、リオなんて少女、もういないとわかっているけれど。
だって、彼女は幸せになったらもう終わりなのだ。
幸せになって、めでたしめでたし。
そこでエンディング。
だから、ジャラヒはもうその続きをめくらなかったし、せがまなかった。
幸せになったんだから、もうそれで終わりだ。




『昔々あるところに、女の子がいました』

『女の子は、遠い遠い国を目指していました』

『黄金の国』

『そこに行くと、願い事が叶って、幸せになれるのです』



それは、小さなジャラヒが、乳母に――ドロシーにせがんで聞かせてもらったお伽話。
それから、大きくなって、組織の子供たちにせがまれて読んだお伽話。
あの、父親につぶされた組織の部屋で、燃えカスになった絵本。
燃えカスになって、消えて、その絵本はこの世からなくなって、それから。


それからリオは、ジャラヒに会って。
黄金の国を目指して、幸せになって。
終わったのだ。これ以上ない、ハッピーエンディング。
だとしたら

「いっしょに…」

一緒に幸せになると決めた、ジャラヒは、どこで終わればいいんだろう。

ぐっと拳を握って、ジャラヒは空を見上げた。

「一緒に幸せになるって、言っただろ」

まだ、終わってない。
ここで終わるわけには、いかなかった。
ジャラヒの幸せは、それで終わりじゃないのだ。
まだまだ続きはある。
それに付き合ってもらわないことには、リオを終わらせるわけにもいかないのだ。

「おまえ、返事もまだ言ってねーじゃねえか」

まだ、聞かせてもらってない。
だから、まだ終わってない。幸せになったけれど、続きもたくさんある。

それに

「まだ、好きとか、ちゃんとおれは言ってないんだぞ」

彼女の幸せの話だって、まだ終わってないはずだ。
握った拳を見ると、いつの間に掴んでいたのか、茶色の羽が一つ。
一つだけその手の中にあって、それは、ジャラヒの希望として残っていた。
彼女が確かに、この世界にいた証。
あの世界、ジャラヒやダリアのいた世界では知らない。
だけど、この世界には、確かに彼女はいたのだ。
だから…

きっと、まだ諦めるのは早い。
握った拳をそっと開いて、小さな羽を優しく包むと、ジャラヒは胸のポケットに、それを大事にしまった。
いつか会う、彼女の証だ。




時は、999年も終わり。やってくる1000年。
ブリアティルトはしばらくして、10回目の始まりを記録する。
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2013-11-20 : SS : コメント : 0 :
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