スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

【SS】赤雫☆物語第9期【その4】

「…遠征じゃなかったのか?」

赤雫☆激団別邸。
現在、リオたちの拠点としているその家にて。
訪れたジャラヒを出迎えたのは、ジャラヒがいけ好かないといつも思っている男、ロイだった。
思わず舌打ちが出る。
ロイがなぜここにいるかは…この巡りではリオのサポートを役目としているロイなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、彼の留守中を上手く狙えなかったことが腹立たしい。
もっとも、ロイがいつ留守にしてるかどうかなんて、ジャラヒは知らないし、興味もなかったが。
彼と仲間として、同じ部隊で過ごしたこともあるので、リオや仲間に危害を与えることはないと知っている。
が、得体のしれない力を持ち、いつも飄々としている胡散臭い男という印象は、いつまでたっても変わらない。
要するに、馬が合わないのだ。

「……リオは?」

無視することも考えたが、大人げないと思い、ジャラヒは短くそう尋ねた。

「ソウヤと出てる。バザールで買い物じゃないか」
「ふーん」

答えを聞くと、会話はそこで終わる。
何を買いに行ったのかとか、いつ帰ってくるのかとか尋ねたいこともあったが、この男と世間話をするのも億劫だ。
間にリオがいるならまだしも、二人きりで話すなんて、冗談じゃない。
と、ジャラヒがそのまま踵を返そうとすると、ソファに腰かけていたロイは、立ち上がって言った。

「せっかく来たんだし、もう少しいれば?
 この時期に遠征投げ出して来るくらい、重大な用なんだろ?」

出てきた言葉は、いつも通りの皮肉さが溢れていたけれど。

ジャラヒが答える前に、ロイはキッチンに向かい、なにやらガチャガチャと食器の鳴る音が聞こえた。
それからぽかんとするジャラヒの前に出てきたのは、暖かそうな湯気を漂わせたコーヒーカップが二つで。

「…何突っ立ってんだ。座れよ」

何の因果か、嫌いな男と膝を突き合わせて、向かい合ってソファに座る羽目になった。



悔しいが、コーヒーは美味かった。
リオとロイと三人だけで赤雫☆激団を始めたころは、三人とも料理の腕は酷いもんで、切る焼く食べるくらいしかできなくて、コーヒーも紅茶も満足に入れられなかったというのに。
幾度目かの巡りを経て、ロイはそつなくコーヒーを淹れられるようになっていたらしい。
もちろん、ジャラヒだってそれくらい出来るようになっているし、最近は、料理をするのは楽しいとすら思える。
それというのはもちろん

(これ、ドロシーの淹れるコーヒーそのままだな)

ジャラヒの乳母であり、赤雫☆激団メイドであるドロシーは、料理洗濯掃除などの家事を一身でやりながら、空いているときに、一味に少しずつ家事を教えてくれていた。
押し付けるわけでもなく、さりげなく。
コーヒーを飲む間に、鼻歌交じりに。
それは、ジャラヒにだけでなく、ロイにもだったのだろう。
共に暮らしていた時に出てきた泥水のようなコーヒーではない、真っ当なコーヒー。
美味いなんて言うつもりはさらさらないが、それでも少し、驚いた。

「英雄戦、行くんだろ?おめでとう」
「な、なんだよ気持ち悪ィ。まだ結果は出てねえよ」
「おまえ、出るって意気込んでただろ。当分遠征で帰ってこないだろうと思ったけど、ここに来るくらいの余裕があるなら、決まったのかなと」
「…なんだよ、皮肉か」

ブリアティルトの三年間の最終決戦。いわゆる英雄戦は、各国の英雄たちと、国に功績を認められた傭兵たちが呼ばれ、英雄の指揮の下戦うことになっている。
前の巡りでは、赤雫☆激団で部隊長をしていたロイも英雄に呼ばれ、剣を取って戦った。
だから、というわけではないが、ジャラヒも、ロイに負けるわけにはいかないと、口にせずとも目標にしていた決戦だ。
別にそんなものどうでもいいけど、というスタンスを見せていたつもりだったが、内心必死になっていたことは、この男にはバレていたらしい。
そういう見透かしてくるところがまったくもって気に食わない。
その上この皮肉だ。
この男が言いたいのは、こんな大事な時にサボれるなんていい御身分ですね、とかなんとか、そんなところだろう。
本当に腹の立つ。
魔神なんて悪どいものをやりながら、優等生顔をしてそんなことを言うところも気に入らない。
と、ジャラヒが睨むとロイは、きょとんとして、

「皮肉というか…お前は英雄戦に出るのを諦めてサボるなんて、出来る男じゃないだろ」

と、さも当然のように言うので。
それもまた気に入らないと、ジャラヒは息をついた。

「…遠征は今、ダリアが行ってる。おれはちょっと今日はリオと話したくて来た」
「ああ、ダリアが。彼女なら問題なさそうだな」
「借りができたから、帰ったらおれは何されるかわからんがな」
「そーいやお前、部隊長として失格だったら彼女に殺されるんだって?」
「そーそー、よくわかんねーけどな。生かすか殺すか見定めるって言ってた…
 …ってなんでおれはおまえと仲良く会話してんだ」

気が付いたら、コーヒーを一杯飲み終えるまで会話をしていた。
リオを交えずに、二人でこれほどの間会話をしたのは初めてである。
大体、二人で話をするシチュエーションも今まであまりなかったが、あっても大体は黙っているか、話しても喧嘩や皮肉の押収だった。
なのに、いきなり席をすすめられ、コーヒーが出てきて、気が付いたら会話をしている。

「一体何を考えてる陰険大魔神…」
「おまえって、ずっと思ってたんだけど、バカなのか聡いのかはっきりして欲しいなーとかそういうことを考えてるけど」
「新手の喧嘩の売り方だったのか。気づかなくて悪かったな。買うぜ!」
「歩み寄って会話してみようと思ったけど、やっぱりここでいつも通り剣を取る選択の誘惑に心揺れるな…」

などと呟きながら、ロイの手がコーヒーカップから、腰の剣に移動する。
が、柄を掴む前に、首を振って手を戻し、座りなおした。

「悪い、今日は喧嘩をする気はないんだ。ヘタレヤンキー…じゃない、えーっと、ジャ…おまえ名前なんだっけ?ジャック?」
「ばっちりしっかり喧嘩売る気満々じゃねーか!」

冗談なのか何なのか。8割くらい素に違いないが、ロイはパタパタと手を顔の横で振り、そうそう、と誤魔化すように言って、コーヒーを淹れなおした。

「ジャラヒ。だからまあ、喧嘩腰になるのはやめだ」
「喧嘩売ってんのはどっちだ。ったく、話があるならそう言え。リオが帰ってくるまでなら聞いてやらんでもない」

珍しく下手に…これでもロイにしては下手に出てきたので、ジャラヒもぐっとこらえて座り直す。
真正面を向いてやったのに、ロイはすぐに口を開こうとはしなかった。
コーヒーをもう一口、それからもう一口。飲んで、息をついて、それから。
しばし言葉を探したようだったが、ロイが口にした言葉は、短かった。

「リオには会うな」
「は?」
「会わない方がいい。きっと、後悔する」
「…なんだよそれ」

その出てきた言葉はジャラヒの聞きたいものではなかった。
どんな悪言雑言よりも尚悪い。
喧嘩腰になるのは止めと言いながら、今まで聞いたどの言葉よりも聞き流せるものではない。

「ふざけてるのか?」
「本気だ。おまえと喧嘩するつもりもない」

ロイは冷静だった。揶揄するような素振りもなく、鋭く目を細めたジャラヒの目を、そらすことなく正面から見つめて、冷静に言葉を進める。

「これ以上、お前がリオと会うのは、リオにとってもお前にとっても良くない」
「っは。それは魔神様のご意見ですか?」
「魔神の力を使っての意見、という意味でならイエスだ。
皮肉のつもりで言ってるならなら否定する。お前のためを思ってと言うつもりはないが、悪意はない」

淡々と言うロイは、確かに悪意を持っている様子はない。
が、かといってそうですかと聞ける発言でもなく、ジャラヒは歯ぎしり一つして、カップを置いた。
このままだと叩きつけてしまいそうだったからだ。
相手が冷静なときに、こっちが熱くなってはいけない。
熱くなった方が負けだ。
それだけははっきりしている。
ただの喧嘩ではない。
ここでロイを殴ったところで気は晴れない。
勝ちたいなら、この男から、目を逸らしてはならない。

「…へえ。ご親切にどうも。何?あんたとリオが何やってるのか知らないが、つまりは、おれがいると二人の邪魔ってことか?」
「それとは別件だ。…お前は、リオのことをどこまで知っている?」
「髪の先からつま先まで。なに?あんたはもっと知ってるってーの?ほくろの数でもあてっこするか?」
「茶化すな」

揶揄してやると、ようやくロイは眉を顰めた。
その冷静な顔をゆがめたことに、ようやくジャラヒは満足する。

「おまえが何を知ったのか知らないけどな、ロイ。
おれがそんなの聞くわけないだろ?理由を聞くまでもない。却下だ」
「リオのためだと言ってもか?」
「なんでおまえに、それがリオのためだとかわかるのかって話だな」

ジャラヒがこう答えるのは予想通りだったのだろう。
ロイは、うんと頷いて、薄く笑った。

「ほら。おまえは、本当にリオの為になるんだったら、聞かざるを得ない。
 だからおれから理由を聞きたがらない。理由を聞いたら、受け止めざるを得ないかもしれないから。そうだろ?」

この、ジャラヒの一番嫌いな顔。
ロイは、真面目にものを考えるときに、口元で笑う癖がある。
逆境や、追い詰められている時、敵に囲まれている時でもこの顔で笑う男だと、知ってはいるが、何を余裕ぶってんだと、ジャラヒからしてみると気に入らない。

「おまえとリオが出会ったのは、ブリアティルトではない世界だったよな」

ジャラヒが口を開く前に、ロイは話を進めた。

「おれのいた日本でもない世界。ダリアもそこだったっけ?そこで、追われていたおまえを助けたのが、リオだった」
「…それがどうした」

もちろん覚えている。
あのときジャラヒを救ったリオの姿。
どっかーんとすべてを吹き飛ばして、彼女はジャラヒに笑いかけてくれた。
あれがすべての始まりで、ジャラヒはそのとき、彼女とともに行こうと決めたのだ。
彼女のために。生きていこうと。

「…おまえに会う前、リオは何をしてたか、知ってるか?」
「一人で旅してたんだろ。
 たくさん目的はあるって言ってたが、…黄金の国を目指すとか、昔助けてくれた輝く星の人を探すとか、あ、これは正体はおまえだったんだっけ?」
「あんな小さな子が一人で旅とか、おかしくないか?」
「村を滅ぼされたから仕方なくって言ってたろ。って、そのときリオを助けたのがおまえじゃねーの?」

村が襲われて、輝く星の人が、助けてくれたの!がリオの語るヒーロー話の定番だった。
助けられたリオは、その人をあこがれに、ヒーローになると誓って旅に出たと。そう何度も聞いたことがある。
そして、最近語られた事実。
実はロイが、その助けてくれたヒーローだったことが発覚したと。
リオから聞いたのは、そこまでだ。

「ああ、たしかに、おれは前の巡りで、黄金の門を通って逃げてきた幼いリオを助けた。
 助けたと言っても、見つけて励ましたくらいだけどな。
 リオはそのまま元の世界に戻っていった。そこから先は知らない」
「だから、それがどうしたんだよ」

前の巡りだとなんだろうと、ロイが彼女を助けたのは事実だ。
もしその場に自分がいれば…とジャラヒも思わないでもなかったが、それを口に出すほど小さな男ではないつもりだった。
しかし、それが今の話、ジャラヒにリオと会うなという話に、どう繋がると言うのか。

「そこから先は知らないんだ。あの子がどうやって生きてきたのか。『力』を使っても、何も見えない」

未来と過去を見通すことができるという悪趣味な力を、ロイこと魔神アスタロトはもっている。
それを暗に仄めかされて、ジャラヒは舌打ちした。
得体のしれない魔神の力は、ジャラヒがロイを嫌う理由の一つである。

「そもそも襲われた村ってなんだ?彼女は何に襲われて、どこから逃げたんだ?」
「…有翼人種は絶滅してると言われるほど珍しいからな。村があるなら、襲われてもおかしくねえだろ。襲ったのは、大方ハンターか何かじゃねーの」
「絶滅してると言われてるのに、村があるのか?自給自足でひっそりと、隠れてる排他的な村?」
「そうなんだろうよ。知らねえよ」

何が言いたいのか、いらいらする。
ジャラヒが何度目かの舌打ちをするにを気にもせず、ロイは続けた。

「実はおれ、お前たちの世界、一度行ったことがあるんだ。気になって。」
「へー、ああ、なんか世界を行き来する力があるんだっけおまえ。魔神様はなんでも出来てすごいですね」
「ふざけるな。お前たちの世界は、近代的だった。おれのいる地球に近い。
機械もあるし、新聞も、ラジオもあったな。車も。そういえば、ダリアだって銃を持ってる。お前も護身用で持ってるんだろ?情報もインフラも、地球ほどじゃないがしっかりしている。
 有翼人種が隠れて住めるような世界じゃなかったぞ」
「おまえが見てないだけだろ。田舎にゃきっと、隠れ村くらいあるだろうさ」
「…かもしれないな。絶滅した有翼人種を村単位で発見して、そこを襲ったハンターがいるなら、その話がニュースにならないのもおかしな話だが」
「だーかーら、何が言いたいんだよ」

バン、と立ち上がって机をたたく。
これ以上、話はしたくない。
そう言って立ち去ってやりたかったが、なぜかジャラヒの足は外に向かなかった。

「あの子、13歳だっけ。10年前前後の新聞にも、そんな記述はない」
「…調べたのかよおまえ。他人の世界の新聞。ちょっとぞっとするわ」
「ルウィン連れて行って調べさせた。まあそれはともかくだ」

ルウィンというのはロイの子分。正しく言うとロイの彼女の子分だが、それはともかく。

「そのときに、ひとつだけ、気づいたことがある」

そう言って、ロイは口を噤んだ。
ここまでは、なめらかに続けたくせに、そこからは言葉を何も考えてなかったかのようにやめて、一瞬目を伏せて、それから顔を上げた。

「…お前は、リオについて、気づいたことはないか?」
「そこまで言って、おれに聞くのかよ。魔神様ほどそんな観察力もないんでね、おれは」

立ったままロイを見下ろし、ジャラヒは腕を組んだ。
周りくどい男の言い方に、イライラする。はっきり言えと言いたいが、何故だかそれも言えなかった。
聞きたくない。だけど、聞かないわけにもいかないのは、ほかならぬ、リオのことだからだ。

「…おまえが何を言いたいのかわからん。だけど、まあ、言っておく。
 例えリオが何者でも、おれには関係ないさ。
 おまえの言うように、有翼人種の村なんて、おれの世界じゃ聞いたことない。
 有翼人種なんて、剥製が高価に取引されるくらいで、絶滅危惧種だ。
 だけどまあ、もしかしたらあるのかもしれないし、ひょっとしたら、リオはお前みたいに、別の世界から来たのかもしれない。
 ブリアティルトだってそうだろ?この世界には、色んな人種がいる。リオみたいに羽が生えたのもな。
 だから、別に、リオがどこから来たやつだろうと、おれはどうでもいいし、関係ない」
「…そうか」

別に、リオが何者でもいいのだ。そんなこと、ジャラヒには関係ない。
何があろうと、どんな正体だろうと、ジャラヒはリオの味方をすると決めていた。
決めたからには、何があったって問題ない。

そうジャラヒが言うと、あっさりとロイは頷いた。

「まあ、そう、だろうな。だとすると、おれが用意してた説得材料は、お前には意味が無いのかもしれない。だけど」

だけど、と区切って

「おれの意見も変わらない。おまえはリオから離れろ。リオを思うなら尚更だ」

真正面からジャラヒを見て、言った。

「じゃないと、リオが消える」
「は?」
「言っても信じないだろうけど、そうだ」
「意味がわからん」

肩を竦めても、ロイは微動だにしなかった。先ほどからわけのわからないことを言って、誤魔化しているのかどうなのか、はっきりした理由を口にしてはいない。怒らせるためのその態度なら成功だ。

「悪いが、全部を言うわけにはいかないんだ」
「なんだそりゃ。理由もきちんと説明せずに、リオから離れろで、納得できると思ってるのかよ」
「ヒントはくれてやってる。わからないわけでもないだろ」
「はあ?」
「おまえがリオと会ったときのこと、それからのこと、それまでの話。誰よりもあの子を知ってるおまえなら、わからないはずない」
「……」

誰よりも、リオをわかっている。
口にしなくても、彼女の力になりたい。
優しくて、明るくて、元気で、でもほんとは寂しがり屋で。
初めて、ジャラヒに生きてほしいと言ってくれた少女。
彼女はジャラヒに笑顔をくれて、ブリアティルトに連れてきてくれ、この世界でジャラヒに幸せをくれた。
彼女の過去なんて、わからなくてもよかった。
べつに、どうだってよかった。
だから…―――


「それに、ジャラヒも気づいてるだろ」

かちゃんと、食器の鳴る音がした。
払ったコーヒーカップが、テーブルの上を転がり、残っていた少しのコーヒーが、テーブルに染みを作る。
それでも、ジャラヒは気にならなかった。
気にしてはいけない。
これ以上は、聞かなくていい。


「リオは今、おまえを避けてる」
「黙れ」

胸ぐらを掴まれても、やはりロイは、眉を少し動かした程度で、動揺を顔に表さなかった。
それが余計に頭にくる。

「おれとリオのことに、おまえは関係ない」
「落ち着け」
「勝手なことばかり言いやがって、いつもおまえはそうだよな。魔神様はなんでもわかるから、上から目線で言うのも仕方ないってか?」
「……」
「おれはな、おまえのその、いつも見透かしたような顔が大嫌いだ」

近くで見たロイの顔は、いつものすかした顔だ。
その顔で、口元を笑ったように歪ませて、襟元を掴んだジャラヒの手を払う。
それから、ぱんぱんと服を叩いて、立ち上がってジャラヒを睨んだ。

「奇遇だな、おれも、お前のそのバカなフリをしているところが大嫌いだ」



と。


「ストップストップ!ふたりとも、なに殺気撒き散らしてんだよ。この小さいボロ家壊す気かよ。落ち着け」

ドサッと手に持った荷物を落として、二人の間に入ってきたのは、赤雫☆激団新人だった。
ソウヤは、まあまあと言いながら、ジャラヒとロイの顔を順に見て、それから肩をすくめた。

「ただでさえボロ家なんだからな、ここ。どうしたんだ?おまえら喧嘩ばっかりって聞いてたけど、ほんとにそうなんだな。おれが来なかったらどうなってたことか」

言いながら、転がったカップを元に戻し、ぽんぽんと二人の肩をたたいた。

「…帰る」
「ん、ジャラヒ、もう帰るのか?ああ、遠征で忙しい時期だもんな」

そんな声に答える余裕もなく、ジャラヒは振り向きもせず、手を振るだけで答えた。

「って、ちょっと待てって、ジャラヒ。リオちゃんから伝言!会えたら言えって」

その言葉には、足を止めざるを得なかったが。

「英雄戦、がんばってってさ。あれ?もう結果出てんだっけ、出場傭兵メンバー。気が早いよなあの子も」
「…リオは?」
「ああ、ヒーローごっこ。まだ遊んで帰るってさ」

ソウヤは、街でヒーローをやっていたリオに憧れてこの部隊に入ったはずだったが、そんな設定忘れたとばかりに、リオが外でやっているヒーローもどきな遊び、通称『ヒーローのお仕事』を手伝うことはあまりしない。たまにリオにつつかれて手伝っているようだが、彼女についていく背中は哀愁で溢れていた。
それを見ると、ジャラヒもまあいいか、とソウヤについて深くつっこんだことはない。
何を企んでいるかは知らないが、害はなさそうだったので。

ともかく、ソウヤはそう笑うと、ジャラヒの背中に声を重ねた。

「まあ、ジャラヒが出るって信じてんだろ。がんばれよ!」
「…ああ、さんきゅ」

短く返して、外に出る。


リオには会えなかったけれど、会えずとも、信じて、励ましてくれている、暖かい気持ちはわかった。
ぐっと、手を握ってみる。
直接言いに来ればいいのにという気持ちと、信じてくれているからだという気持ちを、ぐっとこらえた。
リオが、ジャラヒを避けているなんて、ロイは言っていたけれど、避ける理由が思いつかない。
喧嘩をしたわけでもない。
ジャラヒが部隊長になって、忙しくなってしまっただけだ。
もともと、好きに動きまわる子だ。あっちこっち楽しく、色々としたいことをしているのだろう。
別に、それはそれでよかった。
たまに帰って笑ってくれればそれで。
だけどほんとは…

(それじゃあ、嫌なんだ、おれは)

ドロシーみたいに、尽くしてやれない。
自分がいなくても、彼女が幸せであればいいと、思っていても、歪んでしまう。
歪んでしまったことに気がついたのは、リオがロイに、『ジャラヒはダメ』だと、そう言っているのを聞いてしまってからだ。
いつでも助けになると思っていたのに、困ったときに彼女が助けを求めたのは、ジャラヒではなくロイだった。
それに対して、彼女が助かるのであれば、それでいいと、そう思ってはみたけれど、それでもやっぱり、本当ではない。
ドロシーを見ていて、自分のその気持ちが、まがい物だと気がついたので、ジャラヒはそれを認めようと、思ったのだけど。

(避けられてる、か)

たまにふらりと訪ねて来ることもあったが、最近は姿を見ていない。
それはつまり、そういうことなのだろうか。
それと同時に、ロイの言っていたことが、やたらと胸にささくれを作った。

「……」

頭が痛くなる。
リオと出会って、過ごした日々は、ロイよりも長い。
ずっと、二人だけで旅をしてブリアティルトまで来たのだ。
二人だけの、狭い世界で。
誰にも会わずに、ずっと。リオだけを見ていた。
あの頃に戻りたいかと言われると、ためらう。
このブリアティルトに来てからは、ジャラヒにとっても、小さなものではなかった。
傭兵になって、仲間が出来て、友人だって、たくさん増えた。
助けあって、笑い合って、家族みたいに。幸せだ。
そこにリオもいる。
これを失ってまで、リオと二人だけだった世界に戻りたいとは思えない。
確かに、あの頃のほうが、リオのことをなんでもわかっていたけれど。


(英雄戦が終わったら、話をしよう)


ロイの言うことなんて、関係なく。
他愛もない話をして、安心したかった。
ブリアティルトの三年間を締めくくる戦いが終われば、リオも次の巡りの話をする。
しっかり話をして、こんな憂鬱、吹き飛ばしてしまいたかった。
次は、自分も一緒にいたいと、そう言おう。
リオはきょとんとしながら笑うに決まっている。

『ジャラといっしょなら、百人力だね!』

とか言って、飛び跳ねて笑うのだ。

そんなことを想像すると、少しだけ元気が戻ってきた。
そうなると、英雄戦に出れませんでした、なんてかっこ悪いことになるわけにはいかない。

よし、と腕まくりをして、ジャラヒは走った。

もうすぐ、三年目も終わる。
大きな戦果を持って帰って、リオに自慢してやろう。

















「ロイってさ、案外子どもだよね」

ジャラヒが去って、残されたテーブルを片付けながら、ソウヤは呟いた。

「あのバカがバカなのが悪い!」
「あ、それ素なんだ」
「おまえもそう思わないか?こっちが直接言えないからなんとか遠回しに言ってやってんのに、察するどころか、あの皮肉のオンパレード!人がせっかくあいつの為を思ってあれこれしてやってんのに、人の気も知らずあのクソヤンキーが!」

先ほどまで何事もなかったような顔をしていた男は、一つ語りだしたら止まらなくなったのか、ソウヤに、まあ座れと促して続けた。

「何が魔神様だあのヤンキー!おれは!やっぱり!DQNが嫌いだ!!」
「DQN?」
「わかってるのにわざと校則やぶってヘラヘラして集団で廊下に立って邪魔したり、集会で3分も黙れない低能たちのことだ!」
「…よくわからんが、ジャラヒは集団でヘラヘラするタイプじゃないだろ?」
「金髪は同類だ!」

よくわからないが、金髪に恨みがあるらしい。

「初めっから馬が合わないと思ってたけど、こっちの話をあそこまで喧嘩腰で聞くとか、ふざけてる!」
「人のことは言えないように見えたけど」

そもそも、ジャラヒにしてみると、いきなりわけのわからないことを言われて、リオと別れろと一方的に通達されただけだ。怒るに決まっている。

「あの話で、ジャラヒに察しろって言うのも、無茶な話だと思うけどね」
「だからといって、おれが直接言えるわけないだろ!リオがほんとは……」

勢い任せにそう言って、ロイは我に返った。

「…聞いてたのか?ソウヤ」
「ぴんぽん。でも、おまえら二人でリオを取り合う修羅場なんて、入っていけますかって」

茶化すように笑うソウヤ。
によによと笑うその顔を見て、ロイの胸に違和感がよぎった。
いや、違和感とは少し違う。
どこかで一度見たような、既視感。

「…おれ、お前とどこかで会わなかったか?」
「なに?ロイさん、今度はおれを口説くんですか?まじこわい」

ともかく、とソウヤはテーブルの上のカップに手を伸ばそうとして、中身が入ってないことを思い出して肩を竦め、続けた。

「まあ、ロイがさ、言いたくなるのもわかるよ。色々とわかったら、口出したくもなるよな。
 それに、一番ロイが苛ついてるのはアレでしょ?関係ない発言。リオのことにおまえは関係ないって、あれはないよな」

うんうんと頷いたのは、何に対してなのか。
わかっているのかいないのか。
茶化した風に言うので、ロイも判別に困る。

「…見透かしたような態度がイラつく、か。少しわかった気がする」
「なにそれ、おれのこと?」

ジャラヒのセリフを引用してつぶやくと、傷つくな~とソウヤも笑った。

「リオちゃんのことはさ」

リオちゃん、とソウヤは少し甘ったるく言って、ぐいと、手を上に伸ばした。
背筋も伸ばして、大きく息を吐く。

「彼女に任せたらいいよ。ロイの親切は、おれにはわかるけど、ジャラヒにはまだわからないから」

今度のセリフは、ロイにもわかった。
ソウヤが、『わかって』そう言ったのだと、わかった。

「しょーがないことって、あるんだよ。ロイは、いつも努力して、悪いことを防いだり、良いようにしたり、がんばってるし、すごいなって思うけど。
どうしようもないことは、確かにある」
「おまえは…」
「あー、焦んなくてもいい。リオちゃんが言ってたろ?『ロイくんは特別なの』って。
 その通り、ロイはちゃんとリオの正体、確証まではしなくても、突き止めたんだろ?
おまえが知ろうと思ったら、なんでもすぐにわかるさ。おれも隠してない。おれのことが知りたいなら、今聞かなくても、ちゃんと、ロイならわかる」

何者だ、と問おうとした答えは、何倍にもなって返ってきた。
逆にロイのほうが返事に窮してしまう。
リオのファンだと言ってやってきた新人を、そのままただのヒーローオタク仲間だとは思ってなかったが、こんなに早く、自分には何かあると言い出すとは思わなかった。

「今回のこれは、どうしようもないことだ。しょーがない。気に病むな」
「……何か悪いことでも起こるような風に言うなよ」
「悪いかどうかは、どうかな。悪くないんじゃないか?しょーがない中で、ジャラヒはよくやってるよ」

そう言って笑う顔は、優しげですらあった。

「だけどまあ、どうしようもないから、あとはジャラヒとリオに任せよう」
「でも、おれは…」

何か、悪いことが起きると知っているなら、それを止めたいと思う。
自分に力があるなら、なんとか阻止したいと思う。
出来るのにやらないのは、力ではない。意味が無い。
そう思って、ロイは生きてきた。
面倒くさいことは大嫌いだが、自分にできることがあるのであれば、それを尽くさないと、あとで悔やむことになる。そのほうが面倒くさいことを知っている。

「ん?ロイに出来ること?もうやってたよな。ジャラヒに真実を気づかせようとすること。
 まあ、ロイとジャラヒの仲じゃあ、あれが精一杯だろ。無理無理。
 他にできることがあるとすれば…」

あるとすれば、とロイも考える。
絶対に、ジャラヒとリオを会わさないように、小細工する?
一瞬考えたが、ずっとなんて不可能だ。
ジャラヒとリオが会ったら、リオが消える、なんて、予想はしているけれど、それがいつ消えてしまうのかはわからない。
次に会ったらかもしれないし、もっと後かもしれない。
それもただの推測だ。
全部が勘違いで、ただ、リオはジャラヒと喧嘩して避けているだけだったらいいのに。
その可能性は、今、目の前の男が消してしまったけれど。

「あーおれにはわかんないな。でも、ロイなら見つけられるかもしれない。今じゃなくても、これから先でも。いつかあんたなら何かしそうだって感じがする」

あっけらかんと、そう笑う男。ソウヤ。赤雫☆激団の新人。
人当たり良く、話しやすく、こんなに怪しいのに、誰にも疎まれない。
ジャラヒだって最初は警戒していたようなのに、今は気軽に話をして打ち解けているようだ。
誰とでも打ち解けられるドロシーはともかく、ダリアも彼とは普通に話をしている。
ロイだって、ここまで怪しませる返答をされたのに、警戒せねばとは思えど、何故か敵対心はわかなかった。

「まーでも、おれはそのへんはよくわからん。がんばれとしか言えない」
「…リオについて詳しいみたいだけど、おまえは、リオのなんなんだ?」
「お、何か浮気を尋ねられてる男の気分!…冗談だって。
 別に、リオちゃんとは何の関係もないよ。リオちゃんは、おれのことは知らないんじゃないか?」
「じゃあなんで…」

そう問うと、ソウヤは少し困った顔をした。
いつも飄々としたソウヤに似つかわしくない、困った顔。
初めて見るような、それでいてどこかで見たような、ロイに既視感を感じさせる顔で、しばし黙って、それから口を開く。

「おれとリオちゃんは同じようなものだから、かな」

そう言って、ソウヤは、よいしょと立ち上がった。
食器片付けとくから、とキッチンに向かったソウヤは、もうこちらを向こうとはしなかった。





□■□■□■□■□■□■


関連記事
スポンサーサイト

tag : 第9期 ジャラヒ 岸辺ロイ ソウヤ

2013-11-17 : SS : コメント : 0 :
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

赤雫☆激団

Author:赤雫☆激団
英雄クロニクル サクセスサーバー
オーラム国の赤雫☆激団です

カテゴリー

タグリスト

最新コメント

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。