【9期】その2

リオディーラという少女は、とても不思議だ。
と、自分のことは棚に上げて、岸辺ロイは思う。
鳥族だという少女。この赤雫☆激団の創設者。
正義のヒーローが大好きで、たまに変装をしては、ヒーローごっこをしている愉快な少女だ。
いつも笑顔で明るくて、ちょっぴり傷つきやすい少女。
ロイは、彼女をそう思っていた。
彼女が、まるで魔神みたいに、「なんでも願い事を叶えてあげる」なんて言い出すまでは。

『病気の母だって治す』『特別な力を与える』『恋人といつまでも永遠に共に過ごせる』『死んだ友人を復活させる』
彼女が言ったことは、まるで、魔神が人間をたぶらかす時に言うことと同じだ。
人間でありながら、魔神なんてやっているロイにはわかる。
たぶらかすみたいに言ったリオは、そんなことまったく関係ないみたいな、綺麗な笑顔でロイの前に立っていた。

赤雫☆激団の屋敷…というには少し小さいが、本拠地。
なじみの我が家に、ロイとリオはいた。
ロイとリオと、それからもう一人、赤雫☆激団に新人として入ったソウヤという男と、3人で引っ越しをするところで、荷物の整理に一区切りついたところである。
彼らが向かう先は、赤雫☆激団の小さな別邸。この3人で赤雫☆激団のサポートをするきらめき隊に所属することになったからだ。
それも、リオが決めたこと。
巡りの初めに、誰が部隊を纏める部隊長をするのか最終決定を下すのは、赤雫☆激団リーダーであるリオの役目だ。
今回、この世界の9度目の巡りのリーダーを務めることになったのは、ジャラヒ。
彼はリオをとても心酔している。先ほどまでは、ロイとリオのことを睨むように眺めていた。色々思うことはあるだろうにジャラヒは何も言わない。
言うと、リオが困るのがわかっているからだ。
何も言わない代わりにため息だけ落として、ジャラヒは今は外に出ている。
それを追いかけたのはソウヤ。
ドロシーは、台所でいつものように鼻歌交じりに食事を作っていて、ダリアは…何をしているかわからないが、ダリアがふらりとどこかに消えるのは、珍しいことではない。
居間に残されたのは、リオとロイの二人だけで、そんな中、リオはロイに言った。

「こないだの約束ね、ほんとだよ。願い事、ちゃんと叶えちゃうから」

こないだ、というのは、8の巡りの最後の話。
ロイが、魔神の力を使って過去のリオを助けたときの話だ。
結果、リオの憧れていた『昔助けてくれた正義のヒーロー』の正体はロイだとわかり、感激したリオは、ロイにお願いがあると言った。
そのお願いを聞いてくれるなら、代わりに自分がロイの願い事をかなえると。

「だから、ロイくん!たすけてほしいの。探してるんだ。一人の男の子。てつだってくれる?」
「…ジャラヒには頼まないのか?あいつはリオの頼みならなんだって聞くだろ」
「ジャラは駄目なの。ぜったいに」

珍しくリオは頑なだった。
今この話題をもう一度出してきたのは、ちょうどジャラヒが席を外したからかもしれない。
ジャラヒに知られたくないこと、らしい。

「ジャラには頼めないし、ジャラの願い事も、だめ」

そう、つぶやくように繰り返す。
それからリオは、苦さを噛み殺すように首を振って、次の瞬間にはいつもの笑顔だった。

「ロイくんなら大丈夫だから!なんたって正義のヒーローだもん!ね!」
「ヒーローになった覚えはないが…」

どちらかというと、半分は悪魔に位置する魔神なのだから、彼女の嫌う悪の方ではないかと思うのだが、そうは言っても聞きはしないだろう。
ロイとて、リオが助けを求めてくるのであれば、それがロイがなんとかできる事態なのであるとするなら、助けてやりたいとは思っていた。
半分は魔神でも、もう半分は人間だ。リオに召喚されここに来たのが始めとはいえ、こんなにも長いこと共に過ごせば、仲間だと思うし、力にもなりたい。
『ジャラヒがダメ』ということには疑問を抱いたが、正直言ってジャラヒに対して良い感情を持っていないロイは、それを問いただすことも面倒くさかった。
なのでロイが選んだのは、こくりと頷くこと。

「…わかったよ。誰を探しているんだい?」

探し物を見つけるという力は、魔神であるなら、どの魔神も多少なりとも持っている。
彼の知るそれを専門としている魔神ー例えばサルガタナスとかーほどではないが、ロイも、何かの封印がほどこされているとか、意図的に隠されたもの以外であれば、察知するくらいはできた。
ロイが本当に得意とする力の一つは、『過去と未来を見通す力』なので、それを組み合わせれば、たとえ隠されていても、多少のものなら力を使って推測することが出来るだろう。

「男の子なの」

リオは、ゆっくりとためらいを抑えるように、言った。

「黄金の国の絵本を読んでて、そこに行きたいと思ってる子なんだ」
「黄金の国の絵本?」
「うん、そこに行ったら、願い事が全部叶うっていう国を目指すお話」
「…願い事、ねえ」

また出てきた。
願い事。
初めてこのフレーズが出てきたのは、魔神であるロイが彼女に召喚されたときだ。
どこかから拾ってきた魔導書をなんとなく開いて読んだらロイが出てきたと彼女は言う。
が、ロイという名の魔神アスタロトは、そんな簡単に出てくる魔神ではない。
彼女がやってのけたのは、立派に高位魔神の召喚だ。
ともかく、召喚されたロイは魔神の作法に則って、願い事はなにかときょとんとしているリオに投げかけた。
結果、力を貸して欲しいというリオに、焼き鳥を代償としてもらい、ロイは彼女について、こんなところまでくることになったのだが。

つまりロイにとって『願い事』とは、召喚されたときに、代償をいただいて、召喚主に叶えてやるものだ。
力を使って、未来や過去を見通してやったり、一つだけ勝利を与えてやったり、時には何かを始末してやったり、与えてやったり、そんなもの。
望みどおりの力をやろうなんて聞こえの良いことを言って、代償を頂く悪魔の力。
普段、自分が叶える立場だからからこそ、強く思う。

願いが叶うなんて、ろくなもんじゃない。

「ふーむ。願いが叶う国を目指す絵本を読んで、そこに行きたいと思ってる子か…
リオは、その子の願いをかなえてあげたいの?」

どうやって願いを叶えるのかなんて、ロイは聞かなかった。
ただ、リオが何かしらの願いを叶える力を持っていると仮定する。
自分が持っている魔神の力と同じように、何かがあるのだとして。
彼女が、その少年とやらに会いたいというのは、すなわち、その少年の願いをかなえてやるつもりだからなのか。
そう問うと、リオは静かに首を振った。

「ううん。その子には、叶えたい願いとかはないの。
 だけど、黄金の国に行きたいと思ってる」
「願いがないのに?」
「うん。あ、違うかな。その国に行くことが、その子の願いなんだ。
 あ、そうか。だったら、願い事叶えてあげることになるのかな」

自分でそう呟いて、そのまま気が付いたかのように、ぽんと手を打つ。
しゃべりながら、自分の頭を整理しているようだった。
どういうことかと問いただしたい気持ちを抑えて、ゆっくりとロイは先を促した。

「…つまり?」
「その子見つけて、ここに連れてこれば、その子の夢叶っちゃうよ!」
「……ん?」


リオの言う黄金の国が何を示しているのか気が付くのに、一瞬の間が必要だった。
ここオーラムが、そう呼ばれることもあるのは、ロイも知っていた。
王や側近が、その色を身に着けていることも。
黄金の国、黄昏の聖域、黄金の門。
そう、異界と繋がっている黄金の門は、この地にある。
となると、リオがその黄金の国と黄金の国オーラムを同一視するのも自然なことに思う。
だが、この国に来て願い事が叶うなんて。
本当だったとしたら、何度も繰り返される戦の歴史はなんだというのか。
浮かんだ疑問を、ロイは首を振って払った。
願いが叶うというのは、おとぎ話だ。
さきほどから、リオも言っているではないか、「絵本」の話。おとぎ話だと。

「…つまり、その子をオーラムにつれてきたい、と。
だったら、前にドロシーやダリアを連れてきたみたいに、リオがつれてくればいいじゃないか」
「むりだよ。その子は、繋がりがない子だからね。ワタシには無理なの」
「繋がり?」
「……えっと、ひみつ!」

誤魔化すことが下手なリオは、しまったという顔をして、ぺろりと舌を出して笑った。
それにのって、誤魔化された振りをするのは楽なことだったが、どこまで彼女の思惑に乗ろうかと、迷う。
リオのことは、大切な仲間と思っている。必死に何かを為そうとしている様子に、力になってやりたいとも思う。
このまま彼女の言うとおりに力になってやることは、ロイとしては構わなかった。魔神としては面白くないことではあるが、ロイ個人としては、好意的に力を貸してやることは問題ない。力になりたいと思う。
ロイは、所詮リオに召喚された魔神だ。
だってこれはあくまで彼女の問題。
彼女の思惑に乗るだけでいい。力になってやることはできる。
ロイが口を出すべきではないのかもしれない。
力になってやる気なら、このまま何も聞かずに彼女の言うとおりに…。

「秘密は、いつまで秘密なんだ?」

言うとおりに、と思いながら、口をついた言葉は真逆だった。

「キミがいくつか言わないでいること、いつかは教えてくれるのかい?」
「へ?」
「それだけ教えてくれたら、あとはおれはキミの言うとおり働くよ。望むままに、力を貸す」

これは、ロイにとってもぎりぎりの譲歩だった。
彼女を今問いただすわけでもなく、知らないふりで流すこともしない。
どう動くか、ロイ自身も決めかねている、ギリギリのライン。
その線に、リオは少しためらった後、そっと乗った。

「ロイくんが知りたいなら、もうちょっとしたらわかるよ」
「……」
「知りたくないならそのまま。ロイくんに迷惑かけないよ」

彼女に預けた選択を、そっくりそのまま返されて、しばしロイは言葉に詰まる。

知りたいと言うのも、知りたくないとそのままにしておくことも、どちらの選択肢も平等だった。
彼女がなぜここに来たのか。
黄金の国に何があるのか。
何故ジャラヒには言えないのか。
ロイとリオ。それから、ここにいる仲間たちの、彼女の言う繋がりとは何なのか。
そして、彼女はいったい何がしたいのか。
知りたくないと言うと嘘になる。
だが、たやすく足を踏み入れることの危険性を、ロイは知っている。

「あのね、ロイくんはね、特別なの。
 だからロイくんなら、知りたいって思ったら、ワタシが何も言わなくても、なんでもわかるし、何だってできるんだよ」

ね、とリオは笑った。
屈託なく。いつもの笑顔で。

それがあまりにもいつもの笑顔で、魔神のような、人を嵌めて陥れようなんていう世界とは、本当に遠い、ロイの知っている笑顔だったので。
ロイは、それほど心を揺すぶられずにすんだのかもしれない。
小さく息をついて、ロイは考えとくと苦笑し、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。









□■□■□■□■□■□■



ダリアがオーラムの地に来たのは、今回で二度目だ。
一度目は、ワートン総帥からの依頼で、息子ジャラヒ・ワートンを護衛するため。
出会った不思議な少女、リオディーラに導かれて、ダリアはブリアティルトのオーラムにやってきた。
お伽話のブリアティルトの黄金の国、当時、7度目の巡りを迎えていたオーラムへ。


ワートン総帥のお膝元でもある街のギャングたちを一掃し、新たな街のギャングに収まっていたという、非情で有名だった青年は、オーラムにいた。
銃を向けたダリアに、情けない姿で撃つなと言ったジャラヒは、とてもではないけれど、冷酷なギャングのボスには見えなかった。
呆れながらも、仕事だからと共にすごした三年間。
わかったことがある。
ジャラヒはきっと、戻る気はない。
とりあえずは、今のところ、元の世界に戻って、父親に復讐しようなどと、考えているわけではなさそうだった。
少し、意外に思った。
彼の過去や経緯を聞いて、復讐を考えないなんて、ダリアの感覚ではありえない。
そして、それはジャラヒの感覚でも、本来はありえないだろう。
彼は決して、日和見の能天気な男ではない。
脳天気な顔をしながら一つ一つじっくりと駒を進め、勝てるときに動く男。
表では笑っていても、裏ではきっと、じっくりと、復讐の機会をうかがっているに違いない。
言うなれば自分側の人間だとダリアは感じていた。



「なぁダリア」

ある晴れた日、ジャラヒはダリアに言った。

「おれ、たまにこれ、夢じゃないかって思う」

薄く笑って、ドロシーの入れたコーヒーを飲みながら、どこか遠くを見るように。

「だから、ある日起きたら、みんな死んでんだよ」

食卓で、熱ィなんてコーヒーに文句を呟きながら、何でもないようにそう言う。

「そんで、おれはほっとすんの」

ぽかぽか陽気は暖かくて、台所でドロシーが鼻歌をうたっているのを遠くで聞きながら、上機嫌に。

「悪い夢だったなって」

意味を問う前に、ごちそう様とジャラヒは席を立っていた。
意味が解らない。
と思いながらも、同時にダリアは納得していた。

熱いコーヒー。
暖かい陽だまり。
楽しそうな鼻歌。
愉快な仲間。

全部、悪夢みたいだ。趣味が悪い。
お伽話の世界に紛れ込んで見せられた悪夢。
幸か不幸かお伽話の世界にも戦争はあって、その戦場の感覚に、ダリアは救われるとすら感じられることもあった。
だから、ダリアはジャラヒの自嘲の意味がわかった。
表面上ではわからない、ジャラヒの同質の匂いも。

それでいて。

ジャラヒが、この趣味の悪い悪夢を、手放す気がないと。

それは、復讐を捨てて、この世界で楽しく生きるなんて、前向きの理由では、きっとない。

気持ち悪い夢と承知で、彼はそれに縋っている。
明るさで覆い隠して、執着しているそれを、逃すまいと。
「それ」というのはつまり、一人の少女だ。
リオディーラという不思議な少女。
ダリアをここに連れてきた娘。
明るくて優しくていつも笑っていて、陽だまりみたいな少女。
彼女が望む世界で、彼女の望む世界を構築するために、ジャラヒは笑っている。
仲間たちに囲まれて、楽しさに悪夢だなんて思いながら、あの少女のために、必死で。
その姿はとても滑稽だった。滑稽で、気持ち悪くて、歪んでいる。
でもダリアは、その彼の姿のその先が、見てみたいと思ったのだ。
どこまで歪んで、崩れるのか、それとも彼が本当に幸せに陽だまりの中いられるのか。


だから、一度、元の世界に帰ったダリアは、ワートン総帥に言った。
彼は、幸せにやっていて、もう帰ってくることはないだろうと。
すると、総帥は、短くうなずいた。
「そうか」と。連れ戻してこいとも、本当にブリアティルトはあったのかとも、何も聞かずに、ただ頷いた総帥は、それだけ聞いた後、ダリアを下がらせた。




ダリアが、再びこのブリアティルトに来ることになったのは、別の話である。
ワートン総帥から謝礼をもらい、通常の仕事に戻って、幾ばくか経ったときのことだ。
腕利きの暗殺者として名を広めていた『黒桜』は、仕事に戻っても、すぐに勘を取り戻した。長い間…といっても、元の世界では数か月間…仕事を離れていたが、どうということはない。むしろ、体感時間三年間、傭兵業務についていたため、体が軽く感じるくらいだ。

「ダリア」

一人の男が、ダリアを呼び止めた。
振り向かずともわかる。
神出鬼没で、躊躇いなくダリアの本名を言う男。
コードネーム黒桜と呼ばずに、気軽に名前を呼ぶ男は、ブリアティルトの連中を抜くと、一人しかいない。
ダリアは振り向かずにそのまま歩みを進めると、近くの酒場の扉を開けた。
そして躊躇いなく奥の席に座る。
客は数人、入ってきた黒づくめの少女にちらりと目を向けたが、そのあとに続く男の姿を認めて、そっと目をそらした。
そんな客たちをちらりと見て、ダリアはふうと息をついた。

「…座っていいなんて言ってないんだけど」
「お前の許可が必要とは、知らなかった」

ダリアの許可も取らずに、目の前に腰かけた男は、カウンターにエール2つと投げかけて、それからダリアに顔を戻した。

久しぶりに見る男に、ダリアは思わず眉を顰める。

「金髪?」
「地毛だ」

目の前の男は、眼鏡を面倒くさそうに外し、レンズを布で拭った後、掛け直した。意味のない動作。何をするにも面倒くさそうな顔。微動だにしない目。
無造作に後ろにまとめられた髪の色が金色な以外は、ダリアのよく知る男の顔である。
染めたのかと思ったが、くたびれたその色は毛根まで金の色で、傷んでいるようではあったが、作られた色には見えない。

「…知らなかったわ」
「金は目立つ」
「知ってたら高く売ったのに」

ようするに、男はもともと金髪なのを、普段は黒に染めていただけだったのだろう。
ダリアの知っている男は、黒髪だった。

たしかに、金髪で仕事をするには目立ちすぎるだろう。

仕事…つまり暗殺。
目の前にいる男は、ダリアの同僚であり、先輩である。
ダリアが幼い頃、物心ついた頃から、男の姿は近くにあった。
ふらりと現れ、いつのまにか消える男。
幼いころは不思議に思っていたが、いつしか気にしなくなった。
ごくたまに共に組んで仕事をすることもあったが、彼の腕に間違いはない。
腕はいいのだから、暗殺ギルドの幹部たちも何も言わないのだろう。
だからダリアも、この男はこうやって、突然現れるものだと、驚かないことにしている。

「…で、今日は何かあるの?ジェイン」

名前を呼んでやると、男の眉がぴくりと動いた。
コードネームは月という男を、名前で呼ぶ。
本名はどうかは知らない。ジェインなんて女性名、似つかわしいとは思えないが、どちらにしろ、その名を呼ぶ人物は限られているのだから、どうでもいいのかもしれない。
眉を動かしたジェインだったが、その顔はいつもの無表情で、感情の色は見えなかった。
ただ、ダリアの顔を見つめて、口を開く。

「弟が、世話になったと聞いた」
「は?」

突拍子のない言葉に、ぽかんと口を開けたのはダリアの方だ。

「何の話?」
「聞いた。ダリアの世話に、弟がなったと。父から」
「あんたの弟なんて知らないわよ私」

首を傾げながらも、よぎったのは嫌な予感。

「弟って…」
「ジャラヒ・ワートン」
「……ジャラ…ヒ…?」

それはもう、知らないはずがない名前だった。
覚えている。
ついこの間まで、一緒に暮らしていた男の名前だ。
弟。
兄。
脳内にある男の顔と、目の前の顔をまじまじと見つめる。
ジェインが黒髪にしていた時には全く思わなかったが、目の前の金髪は、言われて見れば、あの男の顔にどことなく似ていて。

「……あんた。ワートン家の御曹司だったんなら、ここ奢りなさいよ」

何からツッコミすればいいのか追い付かず、ダリアはとりあえずそう口にして、男がこくりと頷くのを見た。






その男、同僚だったはずの男、ジェインからの依頼で。
ダリアは再びこの地、ブリアティルトに来た。
ジェインの依頼は一つ。
『ジャラヒを見張り、判断すること』
判断とは何かと尋ねると、仕事だと返ってきた。
仕事、つまり、暗殺。
殺すかどうか、判断しろという。
弟が世話になったと言ったその口でそんなことを平然と述べる男。

何故自分で判断しないのか、何故ダリアに判断させるのか。
そう問うと、ジャラヒのことは、ダリアのほうが詳しいと言う。
なんでも、消えて初めて弟のことが気になったらしい。
それまで、弟のことを気にしたこともなかったと真顔で言うので、ダリアとしては、さもあらんと溜息をつくしかない。
あの男らしい。
意思の疎通すら難しいマイペース男と、ジャラヒがどんな兄弟関係だったかなんて、想像するに言葉も無い。
そもそも、あの暗殺男が、あのワートン財閥の息子だったなんて、驚くと同時に、あの男が何をしても驚かないと決めたのだったと諦めるしかない状況だ。

「殺したほうがいいと思ったら、そうしろ」
「…別に私は、ジャラヒを死んだほうがいいなんて、思ってないわよ?」
「…そうか」

仮にも三年間仲間として、護衛をしていた男だ。
仕事で殺害を命じられたら別かも知れないが、生かすかどうか選べるなら、手に掛けることもない。

「言い方を変える。生かす価値があるのか見極めろ。ないならやれ」
「……それは、よほどの理由がない限り、ころせってこと?」
「そう言っている」

生かしたいならそれ相応の理由を用意しろと。
そう言われて、ダリアは一瞬息を飲んだ。
反射的に、彼を生かすべき理由、とやらを考える。
あれでいて、頭の良い男だから?そんなのこの男の前では理由にならない。
もうワートン財閥に近づくつもりはなく、復讐もしないだろうから、ワートン家の邪魔はしない?
鼻で笑われるだけだ。彼の価値にはならない。
そもそも、ジェインの思う生かす価値とは何なのか。
それに見合うだけのものを、ジャラヒは持っているのか。
何か他に…

ぐるりと考えを巡らせて、同時に気づく。
なぜ自分はジャラヒを庇おうとしているのだろうという疑問と自嘲。
一瞬で色んな感情が頭を巡り、それからダリアは、ジェインの依頼を承知した。






ブリアティルトに行くのは簡単だ。
一度来たら、もう簡単に来れるんだよと、ダリアが元の世界に帰る時、リオディーラは笑って言っていた。ブリアティルトにダリアを連れてきたのも彼女だ。なぜかは知らないが、ブリアティルトを行き来する力を持っているらしい。
「えーっと、そうだなあ。どうしよっかな。んー…あ!そうだ!
かかとをね!ほら、こうやって、三回鳴らして、『お家に帰りたい!』って言うの!そうするとね、黄金の門が開いて、ダリアちゃんはここに戻ってこれるよ!」
そんな胡散臭いことを本気で言ったリオは、いつでも戻ってきていいからね!とダリアの手を取ったのだった。

半ば疑いの気持ちでやってみると、くらりと目眩がして、気がついたらブリアティルトだった。
あまりにもあっさりと戻れたので、夢か何かかと思う。
だけど、ここはブリアティルトだ。
黄金の門の気配と、森の静けさ。
それから、言葉に出来ないブリアティルトの空気。



そうやってやってきた、二度目のブリアティルト。

ダリアが懐かしくオーラムの街並みを歩いていると、目当ての人物にはすぐに会うことが出来た。
死にそうな、情けない顔で街を歩いている。
呼び止めると、驚いたように顔を上げたジャラヒは、見知った顔に一瞬気安そうな顔を見せ、それから警戒心を持って、ダリアとの距離を開けた。
『次に顔をみせた時、敵か味方かはわからない』そう言ったのを覚えていたのだろう。
その理知的な行動には、ダリアは好感を持っていた。
明るく軽口を叩きながらも、油断はしないジャラヒ。
だが、今日の彼は何があったのかは知らないが、そのいつもの明るさの武装は、上手くいっているとは言えない。
軽口を装いながらも、いつも貼り付けている明るさは影を潜めていた。
そんな情けない顔に、ダリアは何でもないように言ってやる。

「次の部隊長、あんたがやりなさい」
「は?」
「近くで見て、決めるわ」
「…何をだよ」

憮然とジャラヒはこちらに顔を向ける。
機嫌が悪そうにダリアを睨んで。
こんなに悪意を顔に出したジャラヒを見たのは、ダリアも初めてのことだ。


(面白いかもしれない)

彼に生かす価値があるのかどうか。

きちんと見極めてやろう。
ジェインの依頼通り、彼を手にかけるか。それとも、彼の価値とやらを見つけて、彼を護るのか。

「もちろん、貴方を護るか、手にかけるか、よ」

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