【第9期】その1

ブリアティルトが、9回目の巡りを迎えた。

「さてと。それじゃーねー」

そのとき、ぽんと手を叩いたのは、赤雫☆激団リーダー、リオディーラだ。
オーラム所属、赤雫☆激団創始者。いつも元気のいい少女は、今日も元気よく朗らかだ。
ブリアティルトに来て、すでにいくつかの巡りを経験したあとなので、そんな彼女が何を告げるかは、一同にもわかっていた。

「今回の部隊長はジャラ!ダリアちゃん、それでいい?」

それに頷いたのは、黒髪の、凛とした少女ダリア。
リオが語尾をダリアに投げかけたのは、今回、元の世界からブリアティルトに戻ってきたダリアが、それを要望していたからだ。
もっとも、それにジャラヒも異論はない。

「ドロシーちゃんは、二人のサポートをお願いね」
「はい!ぼっちゃんとダリアちゃんのことは、お任せください!」

三つ編みのメイド、ドロシーもそれに答える。
それからリオは、「きらめき隊の方は、ワタシと、ロイくんとソウヤくんね!」と続ける。
妥当な配属だ。とジャラヒも思う。
傭兵登録は、1部隊3名までの登録となっている。赤雫では、赤雫☆激団ともう1つ、きらめき隊という部隊を申請していた。
ジャラヒ、ダリア、ドロシーが本隊なら、残りは自動的にこうなる。
前の巡りで部隊長をしたロイは、何故かこの世界にとどまるつもりらしいし。となると、仲の悪いジャラヒのもとにいるより、遊撃隊であるきらめき隊にいたほうがいいだろう。新人のソウヤはまだ見習いだ。それを率いるのがリオであるのは、必然とも言えた。


「こんな感じかな。じゃあ解散!」

新しい巡りが始まって、赤雫☆激団でまず決めるのが、この部隊内配属だ。
全体のリーダーはリオディーラだが、彼女の指名で今期の部隊長が決まる。ちなみに前の巡りではロイで、その前の巡りはドロシーが部隊長だった。だから、この巡りの部隊長がジャラヒであるのは順としては自然なことである。
ジャラヒだって、待ちに待った大舞台に、気分が高揚するくらいだ。
だが。

(おもしろくない)

リオが出した配属に異論はない。
ダリアとドロシーは、以前共に組んだこともあるので、言わずとも通じる何かもあり、とてもやりやすい。文句など、ない。
だけど。

(リオは、どうしたいんだ)

彼女は、隣にいるロイと楽しそうに談笑していた。

(あいつは、リオの憧れのヒーロー、だもんな)

楽しそうに笑っている様は、とても微笑ましい。
ジャラヒは、リオが笑っているのが好きだ。
だから、今の状況はとても喜ばしいものだ。問題ない。
だけど、それとは別に何か腑に落ちない、納得しきれないものが胸にあった。
ただの勘でしかないが、きっとリオは、何かをジャラヒに隠している。




「あれ、大丈夫?顔色悪くない?」

そう声をかけてきたのは、赤雫☆激団新人、ソウヤだ。
赤雫☆激団に最近やってきた、胡散臭い少年である。
なにが胡散臭いって、彼がここにやってきた理由というのが、変装して人助けをしている「レインボーRIO」という正義の味方に憧れていて探っていたら、なんとその正体が、赤雫☆激団のリーダー、リオディーラと分かったから、ぜひとも仲間にして欲しい、と言うものだったのだ。
リオが趣味でヒーローごっこをしていることは、仲間うちでは誰しも知っている。時折、変な格好をして広場に飛び出していくことも。よく近所の奥様に『昨日リオちゃんに庭掃除手伝ってもらったのよ、ありがとう』だとか『野犬を追っ払ってくれて、リオちゃんはすごいのねえ』だとか言われるので、「いえ、あれはレインボーRIOのやったことですから…」などと返すのがジャラヒの日課の一つだった。悪いことではないのでリオの趣味の一つにジャラヒも文句をいうつもりはない。が、それに憧れて、赤雫☆激団に入りたいなんて…しかも、こんな、ヒーローなんて全く興味なさそうな少年が、なんて、胡散臭いにもほどがある。
それを聞いたリオは、もちろん二つ返事で喜んで、ソウヤの赤雫☆激団入りを認めた。まずは見習いとして、下働きから。
まあ、それもいいのだ。
リオは信じていていい。疑うこと無く、喜んでいて、それでいい。
騙されないように疑うのは、ジャラヒの仕事だ。
ジャラヒが注意深くいれば、問題ない。

「ああ、なんでもない。それよりおまえこそ大丈夫か?リオに迷惑かけるなよ。でもクソ魔神には迷惑かけまくるといい。応援する」
「はは、リオちゃんたちからしっかり勉強させてもらうよ、ジャラヒ。…ああ、悪い。ジャラヒさんの方がいいか?」
「いや、ジャラヒでいい」

話してみると、話しにくい男ではない。
少々馴れ馴れしいが、気易く会話が続きやすい。ジャラヒの生まれは上流階級と呼ばれるお固い世界だったが、物心ついて後半は、ずっとスラムの中で馴染んでいたので、ズケズケと入り込んでくるような、それでいて踏み抜かない彼のしゃべり方は、そんなに嫌いではなかった。
警戒は怠らないが、むしろロイなんかよりよっぽど話せる男だとも思う。

「まあ、がんばれよ」
「頑張るって言っても、リオちゃんやロイって充分強いしな。おれのことより、ジャラヒこそ大丈夫か?」
「大丈夫かっておまえ、誰に向かって言ってんだよ。クソ魔神なんかよりよっぽど立派に部隊長するわ!」
「そうじゃなくて」

はあ、とため息を付いて、ソウヤは視線を流した。
その先には、先ほどまでと同じく楽しそうに笑うリオと、頷くロイの姿がある。

「?」
「ん?じゃないだろ。ジャラヒ。リオちゃんはジャラヒの恋人だろ?」
「……だれから聞いたんだそれ」
「ドロシーさん!」

出てきた名前に、ジャラヒは少し驚いた。
思ったより、ソウヤは赤雫☆激団に馴染んで、色々と話をしているらしい。
ドロシーとそんな話をするほどの仲とは思わなかった。
大方ドロシーに、ソウヤが色々と質問攻めにしたのだろうが、いくら善人悪人問わず懐に入れてしまうドロシーとはいえ、仲間のプライベートな話を、そうやすやすと語りはしない。
ドロシーと仲間の話をするくらいには仲が良いということは、少しだけ、ソウヤに対する見方を変えてもいいかもしれない。まだ信用することは出来ないが、少しだけ警戒レベルを下げる。

「おれとリオがどうこうってのは、否定しておく。別に恋人でもないぞ」
「え、でもドロシーさんは、『ぼっちゃんはリオさんが大大大好きだから』って言ってたけど」
「それは別に否定はしないが」
「じゃあ、片思い?」
「そーいうんじゃねえ」
「照れなくても」
「違うっつーの」

何と言えばいいのか。
言葉にしようとしたことはなかったし、そもそもそんなこと、今まで聞かれたこともなかった。
ロイもドロシーもダリアも、仲間たちは何も口にしてこなかった。
一番最初、リオとジャラヒと、二人だけだったときからずっと続いてきた関係。それからロイが加わり、ドロシーとダリアが加わった。彼らが、その一番最初のことを問うて来たことはない。
だから、改めてリオのことをソウヤに聞かれて、今更ながら、あいつらはどう思っていたんだろうと、少しだけ気持ちにひっかかりを覚えた。気まずさのような、小さなひっかかり。
だからというわけではないが、無視してもいい話に、ジャラヒは少し考えて、口を開いた。

「恋だとか、愛だとか、そういうんじゃない」

誤解をされかねないと思ったが、それはそれで、構わなかった。
これは、愛だとか恋だとか、そんなくだらない、ばかばかしいものではない。
ジャラヒにとって、もっと切実で重要なもの。
今、生きているそのものと言ってもいい。
初めて生きていいと言ってくれた彼女に。
生きてくれて嬉しいと言ってくれた彼女に。
世界の色を見せてくれた彼女に。
すべてをあげたかった。
幸せにしたい。
何をしても、望みはすべて叶えてやりたい。
この気持ちは、愛だとか恋だとか、くだらなくて馬鹿らしくて、あんなに綺麗で、尊いものではない。
もっと重くて、暗くて、冷たくて、終わりのない螺旋のような、グロテスクな。

「おれの命、かな…」
「…ね、熱烈だな…」

言葉にしてみると陳腐だが、そうとしか言えないのだから仕方がない。
ジャラヒの言葉に、ソウヤはうんうんと頷いて。

「じゃあ、おれはロイが横恋慕しないように見張っててやるよ」

と言うもんだから、ソウヤがそれをわかっていないことは明らかだったのだが、ジャラヒはもう否定をしなかった。
そもそもロイには、どこがいいのかわからないが最愛だという恋人がいるのだ。ソウヤが心配するようなことはない。が、敢えてそれをソウヤに言うつもりもない。ロイがソウヤに煩わされているのを見るのは、きっと気分がいいだろう。

「頼むな」
「了解!やっぱりリオちゃんを幸せにできるのは、ジャラヒだっておれは思ったね」
「あたりまえだろ。あいつが幸せじゃないと、おれが生きてる意味は無い」
「そーいう恥ずかしいことしれっと言うのやめて!」

別にノロケのつもりもなく、事実をそう言ったのだが、なにやら照れたようにパタパタと手で仰ぐソウヤ。

本当に、彼女が幸せであるならいいのだ。
ロイがリオを幸せに出来るのであれば、それでもいい。
だけど、ロイにはそれは無理だから、腹が立つし気に入らない。
あの男は魔神。自分が強くなることしか、見えていない男だ。
自分が強くなるために、リオを利用している。初めからそうだった。この間だってそうだ。強くなるために、前の巡りでは部隊長を申し出て、やり遂げて、それからリオを救った。
リオを救った事自体には感謝もしている。だがそれは、結果論でしかなく、あの男の中で、リオのことはついででしかない。
そんな男が、リオの憧れのヒーローだったなんて。
大人気ないといわれようとも、気に入らないと思うのも仕方がない。

「っていうかジャラヒ。そういうの、リオちゃんにちゃんと言ってんの?」
「は?」
「ほら、さっきの恥ずかしい熱烈セリフ。女の子が聞いたらイチコロじゃん!」
「そうしたら、あいつは幸せになんの?」

素朴に思ってそう聞くと、ソウヤはきょとんと首を傾げた。

「へ?嬉しいだろ。そこまで思われたら」
「嬉しい、ねえ」

そんなことを言われて喜ぶか?と疑問だ。
こんなグロテスクなものを見せられて喜ぶ人間がいるとは思えない。
いくら言葉で綺麗に飾り立てても、ただの言葉の臓物だ。中の真ん中にあるのは、気持ち悪い、黒く血の滴る心臓。ドクンドクンと響く、そのエゴの塊を、例え言葉で飾って喜ばせたところで、それは一瞬だけのものだろう。
実際は、重くて痛くて、誰もが背けるような心臓のそのかたまり。

パッケージで飾って喜ばせるのはいい。
だけど、それが目的ではないのだ。
喜ばせるということ事態に意味はないとは言わないが、本質ではない。
そんな、パッケージを飾る余裕があるなら

「おれはもっと確実に、絶対に、あいつを幸せにする」
「……無言実行ってやつ?かっこいいねえ」

呆れたように、ソウヤは肩をすくめた。
ジャラヒとしても、なんと思われてもかまわなかったので、ははっと笑って返した。

「でもさあ、ジャラヒ。最後に1つだけ」
「?」
「無言実行もかっこいいけどさ」
「……」
「リオちゃんの気持ち、考えたことある?
もしかしたら、あの子を幸せにするのは、もっと簡単で…もっと、難しいことかもしれないよ」

にこりと笑って、ソウヤは背を向けた。
残されたジャラヒは、息をついて、立ち尽くすよりほかはない。

(リオの気持ち、ねえ)

そんなもの、考えすぎるくらい考えている。

(それがわかんねえから面白くねえっつーのに)

あの子はあれでいて、何がしたいかを言わない。
本来口数が多いほうではないジャラヒも、リオと二人でいるときは、あまり会話なんてしない。
でもそれが心地よくて、触れてさえいれば、リオのことは何でもわかると思っていた。

あの青い空の下で、リオと共に行こうと決めてから、少しずつ彼女を知って、今までずっと。
あのときから世界が変わったのだ。
すべてを奪われ、二度と手に入らないと絶望していたときに、彼女は意味をくれた。
実家での、あの閉じた世界とも違う。スラムで仲間を率いていたときとも、少し違う。
大事にしたいという思い。そしてそれだけではなくて、彼女をちゃんと知りたいと思った。
知って、ちゃんと幸せにしたい。
仲間達を潰したやつらに復讐するなんて、不可能な夢を封印するくらいの強い気持ちで。
まずは、この小さな少女を幸せにしようと思った。そうしないと、何も始まらない。

彼女についてまず知ったのは、ヒーローになりたいなんていうくだらない夢。
それから、村を襲われて逃げたという過去の話も少しだけ。
一個一個少しずつ知りながら、ブリアティルトに来るまで、二人で旅をした。
良い物は全然食べさせられなかったけれど、リオが文句をいうことはなかった。甘いプリンが好きで、辛いものが少し苦手だということを知ったのは、オーラムに来てからだ。
明るくて優しくて素直。愚鈍に見えて、実は色々考えていて、鋭い一面を持っているのも知っている。たまに空気が読めてないフリをしていることも。それと、綺麗なものが大好きで、正義だの言いながら、あれでいて宝石類や高いものにも目がないちょっとした欲も持っていることも。いつも素直で優しいだけじゃない。結構卑怯な一面だってある。そんな少女だ。
少しずつ、そんな彼女のことを知っていくのが楽しかった。

彼女には、目的があるようだった。
一度だけ、聞いたことがある。
ブリアティルトに行きたいというので、行ってどうするのかを尋ねた。

『わかんない。けどね、お星様を掴んだら、願い事が叶うんだって』

そんな、訳のわからないことを言う。
どうやら本当に、彼女にはわかっていないようだった。
願い事ってなんだと言っても、願い事は願い事だよ、としか言わない。
本当に困ったように、わからないけどお星様つかんで!ばーんって!とか言うので、はいはい、とそこで話は終わった。
わけがわからなかったので、とりあえず、彼女のしたいことを、全部することにした。
もちろん、ただのワガママは聞くつもりはなかったけれど。だけど不思議と、人に迷惑をかけるワガママは言わなかった。さすがは正義のヒーローを自認するだけのことはあるだろうか。
ロイを連れていくと言ったときは、さすがに反対したけれど、本当にそうしたいなら仕方がない。

本当は、彼女がどんな無鉄砲をしても、それがしたいなら構わなかった。
世界中を敵にまわしても、最後の最後まで、何があっても味方してやる。

そんな気持ちはずっと変わらない。
ずっと、そばにいる。
その気持ちは、彼女も受け止めているようで、彼女はジャラヒの隣でいつも笑っていた。
それなのに。


気づいてしまった。
彼女の拒絶。

『ジャラヒの願い事は、だめだよ』

そう、ロイに彼女が言った言葉が刺さる。

そこで気が付いた。
何かを隠している。
隠している事自体は構わない。言えないならそれでいい。
利用してくれても構わない。
だけど、この拒絶はあまりにも突然過ぎて、思考すらとどまってしまう。

(まあ、でも)

すぐさま、どうこうしようとは、思わなかった。
拒絶されたのなら、とりあえずは仕方がない。
まずは彼女の望みどおり、この9回目の巡りを、問題なくやり通すこと。
それと…

「さて、ジャラヒ。お手並み拝見するわね」

そう、静かに微笑む少女。
裏の世界でも有数の実力者、暗殺者。黒桜ダリア。
以前の巡りで、ジャラヒを護衛するために、ブリアティルドに来ていた女。
その実力は、共に戦ったジャラヒも知っている。
以前、ジャラヒの護衛を依頼したというのが、ジャラヒの復讐相手でもある、父ワートン財閥総帥だというだけでも不可解極まりないのに、今度はここに現れたのは、ジャラヒを、生かすか、それとも命を奪うか、見極めるためだと言う。
きな臭いことこの上ない。
色々と彼女を問いただしたいが、聞いても口を割らないことは、ジャラヒもわかっていた。
だがまあ、見極めると言ったからには、突然意味もなく襲い掛かってくるような人物でもない。
今回に関しては、本当に見極めるつもりなのだろう。
そんなダリアを一瞥し、ジャラヒはもう一度ため息を付いた。



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