【短編】ジャラヒとリエールさんち【7期】

客間にいるドロシーが浮かれていた。

パタパタ
るんるんるるるるんら
パタ
ららん

っと一回転

らららん
パタパタ

ハタキをぱたぱたと棚に這わせる音と、彼女の鼻歌である。
踊るように…というか、実際くるくると踊りながら、いとも上機嫌に掃除をしている。
そんな様子を横目で見て、ジャラヒは覚悟を決めて問うた。
ドロシーが浮かれている時に、良いことがあるとは限らない。

「今日は、なにがあるんだ」

「エアロちゃんが来るんですよ」
「へー」
「ダイチくんと」
「………」

そうか、と頷くより、身体が先に反応していた。

「じゃ、おれ出かけてくる!」
「どこに行くんですか。まさか、外出ですか?」
「そう言ってるだろ!ここにいると命の危険が危ない!」

ジャラヒが片手をあげて立ち上がると、ささっとドロシーも移動して、その退路をふさいだ。
扉の前に立ちふさがったドロシーに隙はない。

「何が危険ですか。まったく…
 ぼっちゃんは今、赤雫☆激団の主人なんですよ。せっかく来て下さるお客様の対応はしっかりしていただかないと!」
「きょ、今日はハイトと約束があるんだよ!」
「ハイトくんに直接聞きに行きますよ?」

とっさに友人の名前を出したが、その友人の嘘のつけなさはドロシーも知っている。
きっと、ジャラヒ?いや、約束なんて全然、全く、これっぽっちも、一ミリだってしてないぜーなんて正直に告げてくれるだろう。
友人をダシに逃げ出す作戦は早くも頓挫し、ジャラヒは諦めて肩を落とした。

「わかったって」

しぶしぶ、客間へと足を戻す。
逃げ出そうとしたのはとっさのことで、そこまで必死になることではない、とジャラヒも思う。

命の危険、というのは比喩であって、本当ではない。多分。
だって、エアロのいる部隊・リエールのふたりと一匹は、仲間であり、友人だ。
だからこそ、ドロシーは彼女たちの家によく足を運んでいたし、彼女…エアロが家に来ることもままあった。
ジャラヒともエアロは友人で。買い物につきあったことだって、何度もあるくらい。
本当に、仲の良い付き合いをさせてもらってるのだ。彼女が家に来ると、ドロシーの機嫌はいつもいい。
その機嫌の良さのおかげで、夕食が少し豪華になるので、ジャラヒも彼女が家に来るのは大歓迎だ。

通常であれば。


(いつもだったら、だ)

胸中で、もう一度繰り返す。
いつもだったら、エアロを出迎えて、ドロシーの作った美味い飯を食う。
ダリアの機嫌が良ければ、エアロにおだてられて、何かデザートを作るとか言い出して、運が良ければそれもまた美味いものが出てくるだろう。
ダイチだって、うちに来ることはめったにないが、ドロシーは彼のことを気に入っていて、彼が来るとなったら、美味いものが山のように積み上げられるだろう。若いんだからもっと食べろとかそんなことを言って。あれでいて礼儀正しいところもあるダイチは、残さず食事を食べる。
で、仲良く食事したあとは、さよならと手を振って別れることになる。

(うん、それがいい。それでいきたい)

しかし、そうはならないだろうことを、ジャラヒは悟っていた。




赤雫☆激団の友人、部隊リエールは、二人と1匹の部隊である。
メンバーの一名は、エアロ。10代後半の女性にして、傭兵としてはベテラン。
明るく陽気で、子どもっぽいところもあるが、いつも挫けない質を持った、金髪の少女だ。
彼女がいると戦場も元気になる。その俊敏さは、いくつもの刃を簡単に避け、実際この目でその彼女の戦姿を見なければ、彼女が歴戦の傭兵だなんて、とても信じられなかったかもしれない。
ジャラヒ自身、傭兵になりたての頃、彼女には、部隊そろって世話になった経緯もあり、口にはしないが尊敬を持って接していた。
普段の彼女は、そんな戦乙女の片鱗も見せないので、ついつい気軽に接してしまうが。
彼女は一匹の猫をつれており、彼女の家に行くと、その猫と戯れることもできる。猫の名前はミィヤ。
そして…

今日の危険の焦点となるのが、そのリエールの部隊長。

(ダイチ…)

その名を胸中で呟き、だいぶ遅れた後、さん、と敬称を付けて、ジャラヒは唸った。

リエール部隊長ダイチ。20代男性。力強さで周りを圧倒するアタッカー。槌使い。
傭兵歴はエアロより短いそうだが、戦場での余裕顔は、そんな風には全く見えない。
落ち着いた物腰で、敵を薙ぎ払う。強い。
服のセンスもいい。イケメン。そのピアスどこで買ったんだろう、かっこいい。
さすがダイチさん…!
とジャラヒも日々思っていたのだが。

ある日、突然気がついてしまった。

自分の察しの良さを、これほど憎んだことはない。

(おれは、ダイチに嫌われている)



睨まれた。
前に遊びに行ったとき、自分にだけお手製デザートが出て来なかった。
いつも微妙に、攻撃に巻き込まれそうになる。
何かしゃべったら舌打ちされた。
ギルドに行ったらジャラヒの席だけなかった。


一つ一つは小さいけれど、気付くのには充分だった。
ジャラヒ自身、嫌われること自体は、別にどうでもいい。取り立てて、どうこう思ったりはしない。
今まで生きてきて、憎まれることが多かった人生だ。
邪魔な奴は潰してきたし、邪魔にもならない奴は見向きもしなかった。
嫌う、嫌われる、というより、邪魔になる、ならない、どうでもいい、で人を判別してきた。
だから、今まで自分を嫌ってきた奴なんて、きっとたくさんいるだろうが、名前も思い出せないし、いちいち数える価値もない。
そう、そんな自分の価値観を反芻すると、確かに、その価値観に今も変化はないと頷ける。
自分の邪魔になるやつを排除する、という「自分の」が、「自分とリオ――ジャラヒの恩人である赤雫☆激団の本来のリーダーのことだが――や、仲間たちの」になったという自覚はあるが、大きな変化ではないと、自分では思う。
それなのに。

(これはまずい)

嫌われていると自覚して、一番に思ったのはそれだった。

別に、ダイチに嫌われてなにがあるというわけではないはずなのだが。
そのあたりの自分の感情や価値観のありかを追求するのは少し端に置いておいて。

ともかく。やっぱり、とてつもなく、まずいのだ。
何がマズイかというと、冒頭のそれである。とにかく、命の危険がまずい。

そう、嫌われていると自覚はしていた。
まずいとも思っていた。
しかし今、ここまで切羽詰まって思うのは、理由がある。




先日、ついに命を狙われたのだ。











「ドロシーちゃん!ダリアちゃん!ジャラヒくん!こんにちは~!」

唸っていたジャラヒは、玄関から聞こえるその声で我に返った。


「エアロちゃん!いらっしゃい!あら、ダイチくんは?」
「ダイチはちょっと遅れてくるって!ごめんね!はいこれ、うちで作ったアップルケーキ!」
「あらあら!ありがとうございます!」

花の咲くような明るい声と、ばたばたという足音、しばし遅れて客間の扉が開き、件の少女が顔を見せた。



「ジャラヒくん!こんにちは!」
「おーっす。エアロ」

少女の後ろに、背の高い青年の姿はなかった。遅れてくると先ほど聞こえていた通りで、ジャラヒはほっと胸を撫でおろす。

「ジャラヒくん、怪我だいじょうぶ?」
「や、べつにどーってことないけど…」
「大丈夫ですよ、エアロちゃん。わざわざお見舞いに来ていただいて申し訳ないです。
 怪我っていってもかすり傷でしたし。
 ぼっちゃん、今日はもう遊びに行く気満々でしたから、普段と全く変わらずで…問題ないですよ」

被せるように応えたドロシーの皮肉に、ジャラヒはしぶしぶ頷いた。
目の前の心配そうなエアロを見ると、大丈夫だ以外の言葉も思いつかない。
見舞いにきたとは、相変わらず律儀だと思う。あのダイチが嫌いな男の元に足を向けるという理由もそれだろう。
きっとエアロが背中を押して…というより引っ張って、押し倒して、来たのだ。

「さてと、エアロちゃん、私はお料理作ってきますから、ゆっくりしててくださいね」
「あ、ありがとうドロシーちゃん!」

そうしてドロシーが扉を出て、それを見送ったエアロは、振り向きざまに、頬をふくらませた。

「ゴメンねジャラヒくん!ダイチが怪我させちゃって…!でも、安静にしてなきゃだめだよ?」
「いや、ほんとに、かすり傷だし、おれが避けられなかったのが悪いし」

かすり傷なのは本当だ。
ダイチの槌は、ジャラヒの肩をかすっただけで、まっすぐ命中したわけではない。
かすっただけでこの痛みかよ、と怪我をした直後は思ったが、今は、痛みが少しあるくらいで、動くのにも問題はなかった。
あの人の攻撃がかすって、これくらいで済んだことを自分で褒めたい、と思いつつ苦笑すると、エアロの怒りは収まらないようで。

「もー!あれはダイチが悪いの!ダイチね、最近なんか考え事しているみたいで、たまにぼーっとしてるんだよね」

ちゃんと謝らせるからね!
でも、ダイチ最近どうしたのかなあ。
なんて、眉をひそめるエアロの台詞は、彼を責めるだけのものではなかった。
ジャラヒを心配しているのももちろん本当だが、その言葉の気づかう先は、その一つだけではない。
それがエアロの優しさであり……目下、ジャラヒの命の危険の原因で、根本だ。
その根本を取り除くのは難しいが、目下の命の危険を免れるためには、手を打たねばならない。
ふう、とジャラヒはひとつ息をついて、口を開いた。

「あのな、エアロ。おにいさんは、ダイチの考え事とやらが、わかるぞ」
「!?え、な、なになに。ジャラヒくん!え、ほんとに?」

同じ年頃の少女に、おにいさん、なんてもったいぶって言ったのは、彼女のこのぱあっと花開く顔が、想像出来たからだ。
この、本当に何にも想像がついてなくて、ただ明かされるかもしれない秘密の答えに、わくわくと期待する顔。
想像どおりのエアロのその顔に、ジャラヒは少しダイチに同情した。

「ほんとほんと。おれ、今ならダイチのことなんでもわかる気がする」
「え、ジャラヒくんはエスパーなの?あ!予測の力持ってるんだったっけ?」

予測ってそんなことも出来るんだねえ、と感心したように頷くエアロは、どこからどう見ても、ダイチの意図を気づいている素振りはない。


(好きな子が鈍いってつらいよなあ)


ジャラヒにも身に覚えのある心境に、つい頷いてしまう。
結局のところ、ジャラヒがダイチに嫌われている理由はそれだ。

とっても鈍い好きな子の男友達。


(おれだってロイが嫌いだもんなー)

今は部隊にいない憎い男の顔を思い浮かべると、ダイチの心境がなんとなくわかってきた。
きっとダイチが聞いたら一緒にされたくないと言うだろうが。
ジャラヒだって、(自分にとっての)ロイと同じに位置にいるのはまっぴらごめんだ。
ともかく、命を狙われるのもこれ以上はまずい。


「ダイチさんはさ。エアロのこと考えてたんだよ。そんで、仲良くしてるおれにイラっときて手が滑っちゃったわけ」
「んー??私そんなに危なかったかなあ。ダイチに心配されるほどの戦況じゃなかったと思うんだけど」

うーんと唸って

「それに、ジャラヒくんとは、あのとき真面目に戦闘の話してたから、遊んでるわけじゃないのに、イラっとくるって…」

カルシウム不足かなあ、と呟く。

やっぱり、ちっとも気付いていない。

実際は…あの日の前日、エアロと一緒に買い物して、ご飯を食べているところを、ダイチに見られたのだ。
ダイチは、エアロに対してだけは、過保護すぎるくらい過保護だ。
本人は全く、これっぽっちも気がついてないが、本当に彼女を大事にしていると思う。
気がついてないのは、ダイチの態度のせいでもあるので、一概にもエアロが鈍いだけだ、とは言えないのだが。
そんな大事にしている少女が、自分の好かない男と仲良くしている姿を、何度も何度も見せられたら、イライラして手が滑るというのも、わからないでもない。
わからないでもないが、完全なる誤解のとばっちりでしかないので、ジャラヒとしてはいい迷惑だ。


「……えーっとな、エアロ」
「ジャラヒくん!でもやっぱり、イラっときて怪我させちゃうってだめだよ!」
「いや、まあ、それはそうなんだけども」

拳を握るエアロは、またも頬を膨らませていた。
これは、持っていく方向を間違えたかもしれない。
べつに、エアロとダイチを喧嘩させたいわけではないのだ。
むしろ逆であり、後押しすることこそが、ジャラヒを救うことにもつながる。
しかし、なかなか通じない。

「ダイチさん、わざとじゃなかったぜ。ほんとに」

怪我を負わせた相手を、かばうというつもりはない。
ほんとに謝れよまじでほんとにあれはまじで怖かった。とも思う。ほんとに思う。
だが、一方で、まあ、命は取られなかったわけだし、怪我くらい別に…と思うのも事実だった。
昔と比べると、自分は丸くなったのかもしれない。だけどそれも悪い気はしないので、別にいいかという気持ちのままに任せた。

(だって、あんな顔されたらなあ)

ジャラヒに攻撃がかすった後のあの顔。
なかなか見られない慌てた顔だった。
避けられなかったこっちが申し訳なくなるくらい。
足をついたジャラヒを見て、すぐに救護を呼んでくれたのもダイチだ。
大事にならず、かすり傷程度で済んだのも、ダイチの応急処置がよかったからだ。
嫌いで憎いやつを、そこまで必死で手当できるとか、ちょっとやそっとで出来るもんじゃない。
悪い人ではない、どころか、めちゃくちゃ良い人だ。
と思ってしまうのは、自分の思い人でもあるリーダーの影響に違いないけれど。と思ってつい苦笑が出る。

(まあ、それに、エアロが好きな人だもんな)

恋愛感情ではないけれど、ジャラヒはエアロが好きだ。好ましいと思っている。
自分の今までの人生の中で、好ましく思う人物は、ブリアティルトに来るまでは本当に少なかった。
せいぜい、故郷にいる親友と、亡くなった数人の仲間たちくらいだ。
それが、リオと出会って。ブリアティルトに来て、一転した。
だから、このブリアティルトに来て出来た、大切な友人には、本当に、本当に幸せになってもらいたい。
これ以上この状態が続くと、本当に命が危なそうだというのもあるけれど。
この少女が、密かに想いを積もらせていることと、対する青年が、彼女への想いを押し込めようとしていることは、少し悲しい。
さっさと諦めて、幸せになってしまえばいいのに。


「良い人だし、ダイチさん」
「そうかなあ」
「だってエアロも、好きだろ?」

さらりとそう訊くと、目の前の少女は、きょとんと首をかしげて。

それから、顔からぽん!と音と湯気を発した。

「すすすすす…す、そ、そんなわけないもん!」

ゆでダコのように真っ赤だ。
真っ赤な顔をぷるぷると震わせ、ひたすら否定する。
そこまで否定されると、ダイチも可哀そうだ。
顔と態度は全く否定しているようには見えないけど。

「どうして?おれは好きだぜ。結構優しいとこもあるし、センスあるし、な?」

からかうようにそう言ってやると、もぞもぞとジャラヒを睨んで

「そ、そういう意味ね!!もう!あ、焦らせないでよ!確かに、ダイチはたまーに優しいけど、全然!普段は意地悪なんだから!!」

と、顔を手で仰ぐ。
相変わらず、からかうととても面白い。

そんな風に思わず笑っていると、ふと、冷やりとした空気が、ジャラヒの背中を通り抜けた。

咄嗟に横に退ける。

その瞬間。

すっと、何か硬いものが、ジャラヒの横を過ぎた。
そして


「植木鉢…?…蘭?」

どんと、先程までジャラヒがいた場所に落ちてきた…というより投げられてきたのは、花の鉢植えである。
花、白い蘭の鉢植え。




「…たのしそうだな」

ひやりとする声は、その鉢植えが飛んできた方から聞こえた。

「な、なにするのよダイチ!びっくりするじゃない!」

エアロが立ち上がる。
声の主は、強烈に機嫌が悪そうだった。
これ以上ないくらいの鋭い眼差しで、こちらに顔を向け、腕を組んだまま、一歩、足を向ける。
ぞくりとして、思わずジャラヒは後ろに下がった。
しかし、エアロは男の様子を気にも止めず、

「ちゃんとお見舞いの持ってきた?」

ダイチの元に寄り、首を傾けた。
ダイチは少女を一瞥し、転がった植木鉢を指すと、

「見舞いだ」

と、短く答える。
それに応じてエアロは肩を竦めて、地面に転がった植木鉢を手に取り、テーブルの上に置いた。広がった土を集めて、植木鉢に戻す。

「蘭、綺麗…。だけどね、ダイチ。知らなかったんだろうけど、お見舞いに、鉢植えも、蘭もだめなんだよ?」

言わなかった私が悪いけど!と言いつつ、こんこんと解説するエアロに、ダイチは目もくれず、じっとまっすぐ見つめていた。
目線の先は…

(ちょっとやっぱおれ、これは無理なんじゃないかなー)

ごくりと唾を飲むジャラヒだ。
ドロシーかダリアに助けを求めようと思ったが、ドロシーは張り切ってご飯を作りに台所。ダリアもそれを手伝っているのだろう。
いらないときにはいるのに、いるときには不在だ。
何もわかっていないエアロと、目だけで怒りを伝えてくるダイチ。二人の真ん中で、ジャラヒは途方にくれるしかない。
見舞いの花が鉢植えなのも蘭なのも、きっとわざとに違いない、と思いつつ、ジャラヒはじっとダイチを見つめ返す。
こういう時、目を逸らしてはいけないことを、ジャラヒも経験から知っていた。
どんなに手強い相手でも、逃げ出したくても、それを相手に悟らせてはいけない。

と、先に口を開いたのは、ダイチだった。

「エアロ」

彼にしては小さな声で、少女の名を呟く。
呼ばれたエアロは、ん?と首をかしげて応えた。
彼女を呼び、それからようやく、ダイチはジャラヒからエアロに視線を移した。
彼女を見つめて、しばし黙って。
それから、絞りだすように、口に出す。

「……好きなのか…?」
「え?え?え?」

突然、突拍子のないことを問われ、エアロは混乱するばかりだ。
赤くなりやすい質ではあるのだろうが、見事に一瞬で顔を赤くし、手をぱたぱたさせる。

「き、聞いてたの?え、ち、ちが、ちがうんだから!」
「……」

赤くなり首を振るエアロを、強く睨むように見ていたダイチは、その様子を見て、小さく息をついた。
それから、先ほどより少しだけ目を和らげて。

「正直に言えよ」

少し、何か諦めたかのように言う。
どこか苦しげに。吐き出すように短く。
しかし、エアロはそんなダイチの様子に気づいてないようで、パニックになりながら、口をあわあわと開いていた。

「そ、そりゃ、私も嫌いじゃないけど!えっと、あの、あのね!」

「……」

「すき、す、す、あーんもう!!違うの!ダイチを好きなのは、ジャラヒくんなの!!」


「……」
「……」
『……は?』


思わず間の抜けた声を出したのは、ダイチだけでなく、ジャラヒもだった。

「ちょ、エアロさん!エアロさん!何言ってるんですかエアロさん!照れ隠しにもほどがあるぞエアロさん!」
「ジャラヒくんね、ダイチのこと大好きなんだって!だから、ダイチ、いじわるしちゃだめだよ!」
「………」
「ちょ!ダイチも!そんな死にそうに絶望した顔すんな!!頼むから真に受けんな!」

真っ赤な顔であわあわと手を振るエアロと、顔を手で覆い、青くなっているダイチ。
対照的な二人の真ん中で、自分の方こそ絶望したい気持ちで、ジャラヒはただもう言葉を紡ぐしかない。

「あーもう!あんな?ダイチ。たぶん、お前が考えてること、ぜーーーーんぶ誤解だからな?
 おれは、お前が嫌いじゃないが、誤解されるようなことはない。
 エアロに対してもそうだ。おれはエアロに親愛の情はあるが、それ以上でもそれ以下でもない!わかったかダイチ!」
「……おまえに思ってたより好かれていることは伝わった」
「そこじゃねえよ!」

間違っちゃいないけれども、全然伝わってるのか伝わっていないのかわからない。
ダイチも、話をどこから聞いていたのかわからないが、おそらく、好きだのなんだの言っていた言葉の端だけ聞いて、カッとなって入ってきたのだろう。
混乱しているエアロを見て、逆に冷静を取り戻したのかもしれない。今は、先ほどのような氷のような冷たさを抑え、ただ静かに腕を組んで立っていた。
事態を整理しようとしているのだろう。

「質問があれば答えるけど」

助け舟を出すつもりで、ジャラヒは聞く。

「正直、全く事態が把握できないが…あいつとお前は…」
「全くの誤解。良い友人です。別にエアロだけじゃなくて、な。意味わかる?」
「…ああ…そうか…」

頷いて、もう一度、ああと頷く。
それから息を止めて黙り込んだダイチは、頭を掻きむしり、その場にしゃがみ込んで、もう一度大きな溜息をついた。
ダイチのそんな余裕ない態度を見たのは二度目だ。
男として気持ちはわかるので、ジャラヒは何も言わなかった。
ただ、黙って待って、しばらく唸っていた男が、ようやく顔を上げたのを確認し、もう一度頷いてやった。
するとダイチは、苦々しく、虫でも食べたかのような顔で、最後に大きな溜息をつくと、その息と共に肩を竦めて言った。

「怪我、大丈夫か?」
「平気だ。避けなかったおれも悪い」
「まったくだ」
「そこは謝れよ」
「誤解させるようなお前の態度が悪い」






エアロはというと、目の前で、よく知る男が珍しく項垂れ、溜息をついている様を心配そうに見ていたが、ダイチとジャラヒが顔を見合わせて笑うのを見て、ぽんと両手を叩いた。

「な、なんだかよくわからないけれど!仲直りよかったね!!」
「……おまえが言うなおまえが」
「なによダイチ!ちゃんとジャラヒくんに謝れなかったのはダイチだよ!昨日だって、ずっと怪我させたこと後悔してたくせにー!」

目の前で繰り広げられる、いつもの二人のやり取りに、ジャラヒはほっと胸を撫で下ろした。
元はといえば、たしかに、誤解されるような行動をとったかもしれないのは自分だが、ダイチも相当大人気ないと思う。
ほとぼりが冷めたらネチネチ言ってやろう。

「それにねー!私のことを考えてて手が滑ったんだって、ジャラヒくん言ってたけど、私はべつに大丈夫だったんだよ?
 あのときも、全然、敵の攻撃なんて、当たらなかったんだから!私のことは心配しなくても大丈夫だよ!」
「………」

嘘は全く言っていない。
言っていないが、ジャラヒを睨むダイチの目は、余計なこと言いやがって、と告げている。
これ以上余計なことを言われると、また命が危ないかもしれない。
そう思うジャラヒのことをもちろん気にせず、エアロはまだまだ続けた。

「最近、ダイチはずっと何か考えてるんだもん。集中してないっていうの、見てたらすぐわかるんだから!」

それから、にこっと、勝ち誇ったように笑って

「私だって、ダイチのことずっと考えてたけど、手とか全然滑らなかったよ!ちゃーんと戦ってたからね!」

ダイチにそう告げるので、ジャラヒは、彼女の前にいる男が、ぐっと押し黙って耳を赤くするのを、まともに見てしまった。
すぐに、ダイチが顔を背けたので、それ以上どんな顔をしていたのかはわからないけれど。


「………帰るぞエアロ」
「え?お見舞いちゃんとしないと」
「もうした」
「それに、ドロシーちゃんのご飯も食べなきゃ!」
「……食ったらすぐ帰るからな」

苦々しくそう言って、それから、いつもの不敵な顔で

「ジャラヒ」

初めてその名前を呼んで、片手を上げた。

「この借りは、飯一回でどうだ」

なんて真顔で言うので、ジャラヒはにやっと笑って返した。


「足りねえって。三回はおごれよ」




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2013-09-16 : SS : コメント : 0 :
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