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【SS】リオの願い事【7期エピローグ】

ブリアティルト7度目の巡りでの、中盤戦が終わって。

久しぶりに帰ってきた部屋は、こざっぱりとしていた。
きっと、ドロシーが片付けてくれたのだろう。
部屋には赤い花まで飾ってある。
リオには花の名前などわからなかったが、赤く、大きな花びらを幾重にも重ねたその花は、部屋にとてもよく似合っていた。
床に敷かれた絨毯には汚れもないし、埃も落ちていない。
以前は皺なんて気にせず乱雑に敷かれていたシーツも、今は綺麗にベッドメイクされていて、ぽんっと、リオは躊躇いもなくベッドに腰を落とす。
ふわりとスプリングが弾んで、リオの身体が跳ねた。


ここは、赤雫☆激団本拠地。本拠地というか、もともとはただの家だ。
オーラムに住むことになったときに、三人で探して買った小さな家。
三人というのは、自分…赤雫☆激団のリーダーなんて務めることになったリオディーラと、ひょんなことで旅の連れになった金髪の青年ジャラヒ。そして、リオが魔導書を拾って、なんとなく読んで召喚した魔神、ロイ。
とある目的のためにブリアティルトに来たリオに、異論なく付いてきてくれた二人に、リオは深く感謝をしている。
三人で、ここオーラムで始めた新生活は毎日必死で、でもとても楽しくて、とても心豊かで、それでいてちょっぴり何かが欠けていた。
思い返すと、自然と笑みが溢れる楽しい生活。
楽しくて楽しくて、まるでここは永遠だった。
リオが探しているそれが、ここオーラムにあるのは明らかで。
きっと、ずっとここにいれば全てを手に入れることができると思った。
繰り返される3年の波に乗っていれば、いつかそれを手に入れることができる。
そんな確信も持っていて、じっくりと、このブリアティルトで…オーラムで、待っているつもりだったのだけれど。

反面、このまま待っていても、何も得られないこともわかっていた。
だって、こんなにも欠けているのだから。
その欠けている何かが埋まらない限り、先には進めないのだ。

…いや、そうじゃない。
ここにいても、手に入れることはできたのかもしれない。
じっくりと待っていれば、見つけることはできたのかも。
欠けているちょっぴりの何かだって、きっとどうにだってできたはずだ。

今だって、心の底ではわかっている。


要するに自分は、逃げ出したのだ。

ぐっと唇を噛んで、リオはそのまま体を横に倒した。
白い枕が頭を支える。ふわり、とおひさまの匂いがした。
自分がいなくても、布団も枕も、きちんと太陽の光を浴びていたのだと、わかる。
ドロシーがきちんと干してくれていたのだろう。
そもそも、こんなにいつも留守にしているのに、自分の部屋はまだちゃんとあって、掃除もされていて、布団はおひさまの匂いがするなんて、とてもおかしな話だ。なんてことを言ったら、ドロシーに叱られるかもしれないけれど。

欠けているものを探す旅の中で、ドロシーを見つけて連れてきたことは、リオにも大きな収穫だ。




トントン

と、寝返りをうったリオの背中に、ドアを叩く音がした。
誰だろう、と思う。
ここの住人は意外と常識的で、返事をするまで扉が開かれることはない。
ノックもせずに扉を開けるなんて、自分くらいのものだ。
そう思って少し苦笑して、唇の端をにっと上げた。
起き上がって、笑顔。


「開いてるよぉ~」

歌うようにそう言うと、遠慮がちに扉が開かれ、一歩中に入ってきたのは

「どしたの?ジャラ」

よく知った男、ジャラヒだ。
ジャラヒは片手をあげて「よぉ」と部屋に足を踏み入れる。
後ろ手で扉を閉めて、やっぱり遠慮がちに、こちらの顔を見ていた。

さて、とリオは笑う。
そして、どうしたの?という風に、小首をかしげてみせた。

ジャラヒという男は聡い。
15という若い年齢から組織をまとめあげていたこともあって、その洞察力は飛び抜けていて、リオも何度もそれに助けられていた。
初めてジャラヒに会ってから、どれだけの月日が経っただろうか。
ブリアティルトに来てからは、6つの年と、もう少し。来る前は1年くらい、だったろうか。
こちらに来てからは、時間の感覚が曖昧で、よく覚えてはいない。
そういうものだとはわかっているので、普段は時間を意識はしていないが、それでも、彼との付き合いは相当に長い。
だから、リオは彼が自分を伺いに来た意味をわかっていた。

「……リオ」

なんでもないように笑うリオの名を、ジャラヒは静かに呼ぶ。
笑ってもいないし、怒ってもいない。
ただ、その顔を見て、リオは少し胸が傷んだ。

「だいじょうぶだよ!」

思わず、両手をジャラヒの目の前でぱたぱたと振って答えた。

「だいじょうぶ!」

もう一度言ってやる。
何度だって言ってやらないと、彼はわからないのだ。
立ち上がって、ガッツポーズも作ってやって、「ね?」なんて笑顔で首を傾けても、ジャラヒはまだ悲しそうな顔をしていた。
眉間に皺を寄せて、悲しそうな、心配で死んでしまいそうな顔をして、ジャラヒはこちらを見ている。

「ほらほら!中盤戦!おつかれさまだよ!って、ジャラは出てないんだっけ?」

おどけて見せても、ジャラヒは笑わなかった。
代わりに、ふぅとため息をついて、ぽんと、リオの頭を叩く。
それからベッドに腰をかけて、後ろに手をついた。
ドアをノックして、返事があるまで開けない分別はあるのに、こういうところは遠慮を知らない。
人のベッドの真ん中を遠慮無く占拠して、ジャラヒは、呻き声のような何かを口に出して、それから

「姫様、大丈夫だから」

言葉を選んで、そう言った。

「うん」

と、応える。

「これから、がんばらなきゃね!」

と、リオは続けて言って、それから頭を振った。
がんばらなきゃね、じゃない。
がんばろうね、でもない。

「……がんばってね!」

そう、言い直す。
がんばろう、と言えないのが悔しい。
でも、逃げ出した自分は、その言葉を言える立場にない。




オーラムの愛すべき姫。アーマダ姫が死んだ。

これは避けられない事実であり、避けられないことを悟ったリオは、このオーラムの7回目の巡りという舞台から逃げた。
自分たちに欠けている何かを探すために旅に出る、なんて、体の良い言い訳だ。
リオの目的のひとつのためには、黄金の力が一番高まる時、つまりオーラムがブリアティルトを制することが必要で、…つまり、この『アーマダ姫死亡』という事態は、目的のために避けられない工程である。
避けられないのだけれども。
繰り返す波に乗ることに、リオがほんの少しでも躊躇いをもったのは確かだ。
どうしよう、なんて漏らしたリオに、したいようにしていいと、傭兵を抜けて遊びにでも行ってこいだなんて、言葉をかけてくれたのが、ジャラヒとロイで。
その上ジャラヒは、抜けたリオの代わりに、団に残るなんて言ってくれた。


そんな経緯があっての、――来るだろうとわかっていたけれど――この事態だ。

全てをジャラヒに背負わせるのは申し訳なくて、この周期では、部隊長の役目はドロシーにお願いしていた。
ドロシーは、快く引き受けてくれ、今回も、様子を伺いに戻ったリオを、暖かく迎え入れてくれた。用心棒を引き受けてくれた少女ダリアも、アーマダ姫の悲報に驚いたようではあったが、その冷静さは崩れてはいない。


あのとき、…この周期の前。同じ事態にあった自分たちは、こんなに冷静であれただろうかと思う。
あの衝撃は、二度と忘れないだろう。
目の前が真っ暗になった。
遠くから、ジャラヒの悲痛な声だけが聞こえた。
冷静だったのは、ロイだけだったように思う。
そのロイも、一度自分で得た情報を「もう一度確認してくる」と、荒々しく扉を蹴って、出て行ったのを覚えている。
きっとあれは、ロイだって、ちっとも冷静なんかじゃなかったのだ。
そう思うのは、同じ事態を迎えたときの、女性二人の態度を見たからだ。
アーマダ姫が死ぬという出来事を、二人には言っていなかった。
ジャラヒも言わなかっただろう。
それなのに二人は、その報を聞いたあと、すぐに王宮に届けを出し、ジャラヒの指示を仰ぎ、ジャラヒが頷くと、ただ黙って戦場へと向かった。
とても静かに。
ジャラヒだって、今度は冷静だった。
前の時みたいに、動揺は見せず、顔色だって変えなかった。
もともとジャラヒは、冷静に行動が取れる男だ。二度目ともなれば尚更。
彼が判断を誤らせるような、理知的でない行動を取るのは、自分がいるからだとわかってもいる。



今回、リオがこの家に戻ってきたのは、ただの自己満足だ。

逃げ出した罪悪感に潰されないために、戻ってきただけ。

冷静に対処する三人を見て、ほっとして、こうしてリオは自室にいる。
戻ったら、こうやって、ジャラヒが心配して死にそうな顔をすることは、わかっていたのに。



「無理すんなよ」


人のベッドを占拠したまま、ジャラヒはそう言う。
リオは何もしていないのに。大変だったのは自分たちなのに。
無理をするなとジャラヒは言う。
こんなにも笑顔で応えているのに。
誰が見ても元気に笑っているのに。
ジャラヒには、どう見えているのだろうか。

「ジャラは、心配性だねえ」

ジャラヒは優しい。
いつも、心配そうにこちらを見て、気遣って、リオが傷つかなくてもいいように、注意を払ってくれる。

ジャラヒと初めて顔を合わせたときは、彼はギラギラした目をしていた。
薄汚れた金髪をフードで隠して、汚い路地裏で、自分が一番汚いみたいな顔をして、ギラギラした目でリオを見て、銃をつきつけてきた。
確か、鳥族のリオが珍しいから、売るとか売らないとか言っていたっけ。
銃だって遠慮無く撃ってきて、弾丸はリオの翼を掠めた。今でも寒くなると翼の傷跡が少し痛い。
その時の彼は、何かから逃げていたようで、銃を片手に街をさまよっていた。
その何かとジャラヒの争いに巻き込まれたリオは、成り行きで彼を助けて、…それから今に至る。
あの時のことは、ジャラヒは口には出さないけれど、時折リオの翼を労るように撫でる癖があった。きっと、撃ったことを後悔しているのだろう。

ジャラヒは優しい。…というのとは、少し違うことは、リオだってわかっている。
彼が人を殺めるところをリオだって見たことはある。
現に、最初のときはリオだって撃たれたのだ。
優しさで言ったら、ロイの方が優しい。
ロイは口には出さないが、例え敵兵でも、なるべく命をとらないようにしていることをリオは知っていたし、どうしようもないときは、一撃でやれるように、絶えず慈悲を持っていた。
それに比べて、ジャラヒにそういう気遣いはない。
死んだら死んだでそいつの責だと言い切るし、手を汚すことに躊躇もない。
常に効率の良さを重視し、人の気持ちなんて二の次だ。
そういう点で、二人は合わないのだろう。

ジャラヒは優しいというわけではないけれど、一度身内と判断すると、とことん甘いのだ。
甘くて甘くて、一緒にいると駄目になりそうになる。


「だいじょうぶだよ」

もう一度ジャラヒにそう言って、頭を彼の肩に乗せる。

「まだまだ先は長いけど、だいじょうぶ」
「だからその、おまえの大丈夫ってやつがおれは…ああ、まあいいや」

ため息をつくジャラヒ。
いつもの癖で、リオの翼の、羽根が薄くなったところを撫でながら、頭を振ってごろんと横になる。
完全にベッドを占領されてしまった。

「だいじょうぶ~だいじょうぶ!」

面倒くさくなって、一緒に倒れたリオは、ぽんぽんとジャラヒの胸を、なだめるように叩く。
歌うように、子守唄みたいに何度かだいじょうぶだと言い聞かせていると、なんだか段々眠くなってきた。だいじょうぶ。歌いながら、じわじわと、本当の気持ちでそう思う。
大丈夫だ。隣にジャラヒはいるし、とっても暖かい。大丈夫。そう安心すると、リオはそのまま目を閉じた。









目が覚めたのは、それから数刻後のことだ。


「きみたちはホント、なあ…」

呆れたようなため息をついて、ロイが立っていたので、
「あ、ロイくん!おはよー!」と、手を振ってやる。

「おはようリオ。おれがここにいることについての感想は?」
「あ!ロイくん! なんでここにいるの?おうちに帰ったんだよねえ!」
「うん、反応ありがと」

満足そうにロイが頷いたので、リオは改めて周りを見た。

「あれ、ジャラは?」
「おれが起こしたら、奇声をあげて出て行った」
「へんなの」
「まあ、キミが言うことでもないような気がするけど」

久々に会ったロイは、やっぱりロイだった。
ジャラヒと年はそう違わないだろう、十代後半の青年。
紺色の変わった服装をしているのもそのままで…その服装は、がくらん、というらしい。
なんでも住んでいるところの制服だそうで、ロイは元の世界でその格好で学校に通っているのだそうだ。
彼は、実家に帰ると言って、この周期にこなかった。元々拾った魔導書から出てきた魔神なのだが、実家はあるらしい。
とはいえ、リオは彼のその不思議さをそれほど気にはしていなかった。
元々リオは細かいことを気にしない性格である。
それに、このロイという青年は、なんでもありと思わせる雰囲気を持っていた。
黄金の門を通るわけでもなく、ただの魔導書から召喚されたというのも、おかしな話だ。

「ちょっとキミに話があってね。
 今日はちょうどおれの魔力が強くなる日だから。本、持っててくれて助かったよ」

帰る前に、その本を肌身離さず持っていろ、と言ったのはロイだ。そうリオが答えようとすると、ロイはそれを遮って手をあげて。

「さてリオ。時間がないから、手短に言うよ…ん、あ…そっか」

それからリオの顔を見て、何か納得したように頷いた。

「タイミング、悪かった…な。いや、よかったのか。もう999年なんだな」

そうして、少し黙る。
何を言おうか、思案しているようだった。
少し考えて、それから肩をすくめて、苦く笑う。

「おれはこういうの苦手だから、ゴメン。あいつみたいに気が利かないしな。
 今後の話をする。…いい?」
 
話を続けていいか?ということだろう。
あえて許可をとったのは、きっとジャラヒと同じ理由だ。
気が利かないといいながら、さらりと気を使ってそう言うので、なんだかおかしくてリオは笑った。
笑って、それから頷く。
それを認めたロイは、口元を緩めて続けた。
こんなときに、こういうのもなんだけど…と前置きして。

「もうすぐ、世界の7周目が終わる。そのあとキミは、どうするんだい?」
「まだわかんないけど…このまま探すつもりだよ」
「うん。そういえば、ドロシーさんとダリアさんだっけ。彼女たちはいいね」

リオが連れてきた、会ったこともないはずの二人を、ロイはいいねと肯定した。
リオはもう気にしないが、ジャラヒは彼のこういうところが気に入らないのだろう。
知らないはずのことを知っていて、尻尾を掴ませない。

「今までは、おれたちは必死で歴史を追っていた。キミの望みは詳しくは知らないけど。別に、この歴史がどうなろうと、どう変わろうと、全く関係はないんだろう?」
「ん、…でも、オーラムが一位にならないと、開かないんだよ」
「リオ、目的を間違っちゃ駄目だ」

そう言われて、リオは押し黙る。

「おれたちは、英雄を目指しているわけでも、勇者になりたいわけでもない。
 ましてや、ブリアティルトの謎を解きたいわけでも、解放したいわけでもない。
 ただ、繰り返している時間を利用しているだけだ。
 おれもそうだし、キミもそうだろう?」

ロイの言っていることは、全く、その通りだった。
だけど、飲み込むことはできない。
割り切ることはできなかった。
この世界に来たのは、確かに目的のためだったけれど、今はそれだけではない。
もう、リオだって、この世界に住む、オーラムに住む一人の国民だ。
他のみんながそうであるように、リオも、この世界を愛していた。

「この世界が好きなら、尚更だ」

まるで、心を読んだかのようにロイは続ける。それから小さく舌打ちして。

「…ゴメン。いや、拘ってるのはおれもだな。
 別にいいんだ。オーラムのために頑張るのはいい。
 否定してるんじゃなくて。あー、おれが言いたいのは、そうじゃなくて」

鳶色の髪をくしゃりと掻いて、困ったように眉を曲げた。


「ともかくおれが言いたいのは、翻弄されずに、ちゃんと対処できているドロシーたちはすごいなってこと。
 振り回されてたおれたちと違って、ちゃんとここで生きる地盤を作ってる。
 特に、ドロシーさんのおかげで、おれたちはすごくやりやすくなった」

メイドであるドロシーだからこそかもしれないが、彼女はその場しのぎで生きてきたリオたちと違って、「生きること」に長けている。
まず、家を綺麗にし、帰る場所を整えた。近所挨拶だって欠かさず、市場にも毎日顔を出している。そんな当たり前のことの繰り返しで、赤雫☆激団本拠地は、明るく住みやすい、まさしく「本拠地」になったとリオも思う。

「ドロシーさんに感謝。で、彼女のおかげで生きやすくなった次は、だ」

ここからが、ロイの口にしたかった本題なのだろう。
少し、緊張した面持ちで続ける。

「…リオ、おれはキミに、隠していたことがある」

何を言うかと思ったら。
今更何を、という気持ちで、リオは思わず頷いた。
むしろ、彼に隠し事が何もないと言われたほうが驚くくらいだ。
そんな思いが顔に出たのか、頷かれたロイは少し不服そうに、ちょっとは動揺してくれよ、と呟いて。

「隠していたというか、別に意味のないことだと思って、言わなかったんだけど。
 おれにはとある力があるんだけど…それで、おれは、キミを助けることが出来る。
 たぶん、それはキミの目的を叶えることにも、きっと繋がると思うんだ」

そのセリフには、さすがに驚いて、リオはまじまじとロイの顔を見た。

助けることが出来る。
目的を、叶えることが出来る。
突然の、彼の言葉。

いつも助けてもらってるよ、いまさら何言ってるの?
なんて、口から出かかった言葉は、口の中で凍った。
そんな意味じゃないことくらい、リオにだってわかる。

誰しもがそうだろうが、リオにもここにいる目的がいくつかある。
全てをロイやジャラヒに明かしてはいないし、明かせない事情もいくつかあった。
その目的は、誰かとパーティを組んで冒険する、なんて小さなものから、自分の出生の秘密(というほどではないが、鳥族なのにほとんど飛べない自分について、少しだけ疑問に思っていた)だって知りたく思っていたし、昔、村を助けてくれた恩人に礼を言いたかったし、行方不明らしい兄にも会えたらな、とも思っている。昔助けてくれた輝く☆の人みたいに正義なヒーローにもなりたい。たくさんの友達を作りたい。ドロシーやダリアを連れてきたのだって、気まぐれと言われればそうだけれど、きっと、何かが変わると思って連れてきたのだ。やりたいことが、こうなればいいなということが、目的が、たくさんある。

たくさんたくさんの目的があって、それをすべて叶えることで、リオの本来の目的は達成させられる。

探しているものが見つかる。

些細な事も、大きなことも、全てが大切な目的だ。一つ一つの小さなそれを手段とは言いたくない。
目的を叶えることで、悲願を達成する、と言ったほうがいいだろうか。それも少し違う気がするけれど。

落ち着いて、リオは一つ息をついて、首を傾けた。


「ロイくんは、ワタシのしたいこと、わかるの?」
「んー、正直ね、わからない。
 だけど、君の願いや目的がどんなものであれ、このままじゃそれが絶対に叶わないことを、ある時おれは知ってしまった。
 でも…おれは、きっとその事態をどうにか出来る。キミを助けられるよ。
 助けてほしいと言われたら、その願いを、叶えてあげる」

ロイの声は優しかった。
優しく、叶えてあげると言った。
だけどそれは、彼の同情ではないと、リオは悟った。
同情や、親切だけで言っているのではない。
彼はとても優しい人だけれど、こんなもったいぶった優しさをつきつける人ではない。

助けてあげるなんて、今、このタイミングで彼が言うのは、きっと意味がある。
これはきっと、リオだけの話ではないのだ。
このタイミングで、彼が話すのは、リオを助けるためだけが目的ではなくて、きっと…
きっと、彼にはなにか、思惑がある。
リオを助けることで、間接的にロイが救われるような、何か。
難しいことはリオにはわからないが、違和感だけは、消すことが出来ない。

ロイは魔神だ。
召喚者に従う魔神。
召喚したリオに協力的で、力になってくれる魔神。
だけど、なぜ。
そんな魔神が、無条件で力になってくれる?

きっと彼の優しさもあるだろうけれど、なにか、ロイにも目的が、やるべきことがあるのだ。
それがきっと、ロイがこれまでも、リオに協力していた理由。
そして今回、目的がようやく噛み合ったので、ロイは初めてそれを口にしたのだろう。


「リオ。おれに考えがある。 
 おれが、キミのその願いを叶えるから、おれに部隊を全部任せてくれないか?」

そう、ロイという魔神は言った。
一瞬、リオの頭に、昔お伽話で読んだ、悪い魔法使いが誘惑する話が過ぎる。
そう、ロイは魔神だ。
願い事と引き換えに、代償を要求する魔神。
悪い男かどうかと言われれば、絶対いいひと!とリオだって言い切るけれど、代償を言わずに願いの一つを叶えてあげる。というのは、悪魔がよくやる誘惑のひとつだ。

その可能性を充分に吟味した上で、リオはこくりと頷いた。

「…わかった。危なくなったら、ちゃんとワタシも呼んでね。ロイくんには必要ないかもしれないけど」
「ああ、うん、大丈夫だ。
 …と言いたいところだけど、頼むかもしれない、というか頼む」
「???」

いつもの通り、大丈夫だよ、と微笑むかと思ったが、ロイは苦い顔をしている。
珍しいその態度にきょとんとしていると、苦い顔のロイは、なんとかその顔を笑顔にしようと苦戦して、苦笑にまで表情を作った。

「…正直な所、あの頃のおれは、あまりにも黒歴史過ぎて思い出したくないわけだが…」
「…???」
「リオに近づくのは危険だが、でもそれ以上に自分が心配だしな…」
「なんのはなし?」

一人でぶつぶつ呟かれても、全く意味はわからない。

「いや、おれが困ってたら、助けてくれ。あー、でもなるべくおれにそうとわからない形で、なるべく遠くから」
「意味がわかんないよ?」
「すぐにわかる」


苦笑をそこで噛み抑え、ロイは、さてと、と肩を回した。

「じゃあ、おれはもう行く。えーっと、なんだっけ、あの金髪ヤンキー…」
「ジャラだよ。ジャラヒ!もう!」
「そう、それにもよろしく…は、やっぱり言わなくていいや」
「言うよ!
 ジャラにもロイくんが次は頑張るから、外からサポートしようねってお願いしなきゃ!
 あ、でもジャラ、こんなにがんばってるから、次も残りたいって言うかな?
 団にジャラが抜けると不安だよね。
 やっぱりワタシひとりでこっそりサポートして、ロイくんとジャラで…」
「いや、あいつはおれが隊を任されたって聞いたら暴れるだろ。連れてけよ。
 リオが、お願いっ付いてきて!って言ったら、犬よりも早く頷いて付いてくるぞ?」



「誰が犬だ誰が!」

ロイのセリフが言い終わる前に、扉が開いた。
ノックはない。気を使うより先に反応してしまったのだろう。
音を立てて扉が開くのと同時に、金髪が飛び出してきた。
びしっと指をさして

「なぜいる陰険魔神!」
「リオに会いたかったからだけど。小悪ヤンキーくん」
「逃げろリオ!こいつは敵だ!」
「ジャラ。ロイくんだよ。敵じゃないよ」

仲良くじゃれているのに、訂正するのも野暮かなあと、思わないでもなかったが、リオはジャラヒの間違いをとりあえず正した。

「ロイくん、お話に来てくれたんだよ。今度のね、巡りの話なんだけど」
「おい!ロイ!さっさと帰れ!おれはリオに話があるんだよ!」
「帰ろうと思ったけど、なんか面白そうな匂いがするから、その話とやらをおれも聞いてやる」
「いらん!帰れ!」

リオに話がある、と言いながら、ジャラヒはロイに向かっている。
ふう、と隠れてリオは息を吐いた。
もうしばらく放っておいて、気が済むまで喧嘩をさせればいいだろうか。
いつも迷うのだが、とてもめんどくさい。
延々延々と、飽きもせずにやりとりがよく続くなあと感心する。
いつもは、ぼーっと背中の羽根繕いして待っていることが多いのだが、久しぶりに顔を合わせるのに、それも何かなあと思う。
でもやっぱりめんどくさい。リオだって、せっかくこの家に帰ってきたのだ。
話が終わったのなら、のんびりベッドで寝たいなあ、とも思う。
ドロシーが綺麗にしてくれたベッドは、ジャラヒがぐちゃぐちゃにしてしまったけれど。

「ジャラ。ロイくん。騒ぐなら、出てっていいよ」

ピークに達しためんどくささにそう言うと、珍しく、すぐに二人は静かになった。


「もう、仲良くするのはいいけど、ワタシの部屋で二人でするのはやめてね!」
「はい」
「ごめんなさい」

なぜかしょぼくれた顔の二人は、互いを一瞬睨んだ後、すぐに顔を逸らした。
いつもは大人びているロイも、ジャラヒと顔を合わせると、歳相応…というか、歳よりさらに子どもびて見える。よっぽど仲がいいんだろう。仲がいいのはいい事だが、周りを見てほしい。
まったくもう、と腰に手を当てるて二人を睨む。
罰が悪そうに笑ったロイは、じゃあ帰る。と手を振って、リオの枕元に置かれている一冊の本を手にとった。
右手でそれをかざし、左手で空に何かの模様を描く。
複雑な模様だが、彼は覚えているのだろう、数十秒かけてそれを描き終え、本を元の位置に置く。
そして何やらつぶやくと、景色が揺らぎ、その揺らぎがおさまった後は、そこにロイの姿はなかった。
残されたのは、一冊の本だけ。


それを見届けて、それから。


で?とリオは、ジャラヒを促した。
先ほどのロイとの口喧嘩で、リオに話があると言っていた。
せっかく来たのだから、ロイが次に部隊長をやる件を言おうと思ったが、先にジャラヒの話を聞いてしまおう。

「いや、さっきダリアに怒られて、こいつ怖いなーって思ったけど、今、リオも怖いとこあるんだなあと思って」
「何の話?」

意味がわからなくて首を傾げると、ジャラヒは「あ、いやそうじゃなくて」と首を振って、こほん、と咳をひとつ。

「そうだ、リオ。話が…」
「って、ジャラ、ダリアちゃんに叱られたの?なにしちゃったの?」
「え?ああ、悩み事を相談したら意気地なしとクールに罵られました」
「そっかー意気地なしかー」
「いや、否定してくれよ」
「あっごめん!」

謝られると余計にツライ…と項垂れ、腰掛けるジャラヒの頭をぽんぽんと撫でる。
ジャラはわりと繊細なんだよねえという感想は、口には出さなかった。
撫でられたままの格好で、ジャラヒははあと息をついている。
もしかしたら、彼のプライドを傷つけてしまったろうか。今更かもしれないが、少しだけ不安に思う。
しかし、いつものことなので、フォローはしない。
ただ、黙って彼の言葉を待つことにした。

されるがまま撫でられていたジャラヒは、ごくりとつばを飲み込み、ようやく意を決したのか、口を開いた。

「あのさ、おまえ大丈夫って言ってたけど」
「うん」

大丈夫、というのは、ロイが来る前に言っていたことだろうか。
その件は終了したと思っていたので、それをまた持ち出されるとは思わなかった。

「やっぱ心配」
「だいじょ…」
「わかってる」

繰り返し、わかってる、とジャラヒは言う。
ちっともわかってない、心配を顔にいっぱい浮かべた目をして、こちらを見て。

「おまえが一人でよくやってることも知ってるし、大丈夫だと思ったんだ」

だから、この巡りでも、遊んで来いなんて言って送り出したし、ここはおれが守れば大丈夫だと思った。
そんなことを言って、ジャラヒは情けない顔をした。
その情けない顔で笑う。

「っていうかあれだよ。大丈夫じゃないのは、おれだったんだよなー」
「そんなこと…」
「あるんだよ。さっきダリアに言われてさ。マジでおれ情けないなーって。
 あ、それ以上もう慰めんなよ?」

少し情けない顔を収めて、口を開こうとしたリオの顔を、ぐいと押しやった。
痛い、と抗議すると、悪ぃと笑って謝る。
そうすると、もうジャラヒは普通のジャラヒの顔に戻っていた。
そして、いつもの静かな顔で、先ほどロイに声をかけられて驚いて…というか二人で寝ていた状況を指摘されて、思わず部屋を飛び出したときのことを話した。
ダリアに煩いとか、情けない変な顔してるんじゃないとか罵られ、無理やり聞き出されたのだという。
ダリアという少女は、ジャラヒの護衛の任務に付いている少女だ。
もともと暗殺者をやっていたという彼女は、いつも冷静に物事を対処している。
いつも冷静というわけでもないことは、ジャラヒから、2,3のエピソードを聞いて知っていたが、リオから見ると、とても理知的で冷静な少女だ。
いつもジャラヒに呆れたような態度をとっているが、ウマが合うのか、お互い悪くは思っていないようだ。
ドロシーの元でジャラヒとダリアはずっと上手くいっているように見える。
比べる対象がロイとジャラヒの関係なので申し訳ないけれど。ロイとジャラヒももちろん仲が良い(とリオは思っている)が、収拾がつかなくなることが多々あったので。

ともかく、ダリアに辛辣な言葉を投げられ、ジャラヒはここに戻ってきたのだと。
確かに、意気地なしと言われたらそうだったかもしれん、と決意を新たに戻ったら、ロイがいたので、それはもう驚いた、と歯ぎしり混じりに言って。


「リオ」

真剣な顔で。名前を呼ばれ、思わずリオは姿勢を正した。

「わかってると思うが、おれは、おまえが望むことはなんだってやってやるし、叶えてやる。
おまえに助けられてから、おれはそう決めてる。なんだってな。文句は言うけど。おもいっきり言ってやるけど」
「う、うん」
「おまえが部隊を離れたいなら、離れればいい。心配なら、おれが部隊を見てればいいって、思ってたんだ」
「うん、助かったよ。ジャラ」

願いを叶えてやる。
そんな言葉を、一日に二回も聞くとは思わなかった。
ロイの言葉と同じなのに、全く違う言葉。
ジャラヒは、魔神でもないのに、いつもそう。
いつも、リオの願いを叶えてくれるのだ。
この間だって、そう。
前の周期の終わりに、ここで見ているから行ってこいと、そう言われたときは、本当に嬉しかった。
ジャラヒは、いつもリオが望んだことをなんだって叶えてくれる。
ブリアティルトに来たのもそうだし、ここにいることもそうだ。
小さなことなんて、挙げだすとキリがない。家を決めた時だって、最初は意見が割れたけど、最終的にはリオの望む通りにしてくれた。あんなに赤い屋根は嫌だと言っていたのに。
いつも戦う時だって過保護すぎるくらいに守ってくれる。
彼は、甘すぎて駄目になりそうになるくらい甘やかすのだ。文句は言うけど、めいいっぱい言ってくるけど。

「おまえのワガママとか無茶、別にいいんだ。
 なんだかんだ言って、大丈夫だって知ってる。
 おまえは結構強くて、大丈夫。へこたれないもんな。知ってる」

いつだってなんだって肯定してくれるジャラヒは、そう言って、心配してくれることすら飲み込む。

「だから、もう心配しないって、何度も思う。今回も、そうしようって、思った」

その心配してくれる気持ちは嬉しいけれど、あんな悲しそうな、心配そうな顔をさせたくなくて、いつもリオが言っていた、だいじょうぶの言葉は、ちゃんとジャラヒには届いていた。

届いていて、きっと小さく彼を傷つけていたのだ。
心配するなという、お願いとなって。

そうして、ジャラヒはまたひとつ、願い事を聞くのだ。
心配そうなあの顔すら押し消して。
そしたらもう、リオはだいじょうぶの言葉を、繰り返さなくてもいい。
そうと決めたらもう、ジャラヒはすっかりそれを叶えてしまうだろう。
本当は、心のそこでどんなに心配していても、表には出さなくなる。
それがジャラヒだ。

まったく。

ジャラヒは面倒くさいなあ。

と、正直につくづく思うのが、リオの本音だ。
ロイみたいに、契約じみた願い事のほうが、よっぽど楽だ。
だけどもう一つの本音で、リオは思う。
だいじょうぶじゃないときでもだいじょうぶだったのは、ジャラヒがちゃんと気にしてくれていたからだ。
ちゃんとわかってる。



「なあリオ」
「ねえジャラ」
「でもおれ、おまえと一緒に…」
「ワタシと一緒に来てよ」
「……え?」

きょとんとした、ジャラヒの緑色の目が、動いた。

「は?」

わかっていないようなので、もう一度言ってやる。
両手を組んで、祈るようなポーズで。

「ねえ、ジャラお願い!ワタシについてきて!」
「……」
「って言ったら、ジャラは犬より早く付いてくるって、ロイくんが言ってた」
「あの男……っ」

まあまあ、となだめると、ジャラヒは立ち上がりかけた腰を落として、リオに先を促してきた。

「あのね!次はロイくんががんばってくれるんだって!
 で、ワタシ達にこっそりサポートを頼みたいって!
 だから、ジャラとワタシで、こっそりロイくんを応援!」
「なんでおれがあいつを…それにこっそりって意味わからねえし…」
「嫌なの?」
「いいです。行きます」
「じゃあ決まり!」

心配なら、一緒に行けばいいのだ。
だって、リオだって、ジャラヒと一緒のほうが、絶対に楽しい。

仕方ねえなーとか何とか言っているジャラヒの横顔を見て、リオは笑った。

やっぱりジャラヒはこれでいい。
いつも、願いを聞いてくれるジャラヒだけど…今のお願いだって快く聞いてくれるジャラヒだけど、顔を見ているとわかる。
今度のこれは、ジャラヒもちゃんと『したい事』だ。
リオの願い事と、ジャラヒのしたい事が一緒だった時、本当にジャラヒは嬉しそうな顔をする。
その顔を見るのが、リオはとても好きだった。

「さて!そうと決まったら、変装グッズ買ってこなきゃ!」
「なんで?」
「こっそりロイくん助けるんだから!」
「だからなんでこっそりなんだよ」
「わかんないけど面白いからいいの!!」


わくわくしながら、リオは立ち上がる。
だいじょうぶ。
きっと、次も楽しいことがいっぱい待っていて、今まで足りなかったものが、また埋まっていくのだ。
それは、今よりも楽しいことに違いない。
ね?と笑うと、ジャラヒは、そうだなと笑って答えた。
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2013-09-02 : SS : コメント : 0 :
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