スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

3分電話の日。ダリア→ジェラルド

今日は3分間電話の日らしい。
意味はよくわからないけど、機嫌よさそうにロイがそう言って部屋に呼んだので、私はここにいる。
ここ、というのはロイ、岸辺ロイの部屋だ。
妙にすっきりとした部屋には、ダンベルだとか木刀だとかよくわからない器具と、それから少しの本があるくらいで、ジャラヒの部屋とは大違い。ジャラヒの部屋は、多趣味の彼らしくものが多い。結構な几帳面なので、ちょくちょく掃除はしているようだけど、ものの多さはどうしようもない。
私の部屋は…物は少ないので、汚くはないはず。掃除は好きではないけれど、乱雑なのも好きではない。何もないと言ってもいいくらいの部屋で生きてきたので、掃除をする必要も、以前はないくらいだったけど。最近はもらい物が多くて、少し散らかってきて…生活感が出てきたのだということにしている。生活感。以前、この部隊にいた男に教わった言葉だ。ジャラヒの親友でもある男、セリラート。彼のあの軽薄さは好きではなかったけれど、たまに使う言葉の選び方がなんとなく面白くて、いくつか覚えている。
ふわふわクッションやもこもこぬいぐるみといった、彼の言う「生活感が出てきた部屋」は、私も嫌いではないのだ。

それはさておき。
筋肉強化用品を生活感としている岸辺ロイは、朝から妙に元気だった。
コーヒーを飲みながら鼻歌を鳴らし、ジャラヒにおはようなんて笑顔で挨拶までしていたので、その顔を向けられたジャラヒは、朝だというのに大きく目を開いて、私に「おれってまだ寝ぼけてる?」なんて訊いてきた。「寝すぎておかしくなったのかもね」と返したら、ジャラヒは自分の不摂生を真面目に反省したみたいだから、ロイの奇行もたまにはいいのかもしれない。まあ、喧嘩ばかりの二人が仲良く爽やかに挨拶するなんて気持ち悪いこと、たまに以上はいらないけど。
その辺はどうでもいいと言えばどうでもいいので、そのとき私はロイの横で、黙って朝ごはんを食べていた。
ロイの隣でジャラヒの前が食卓での私の定位置。
首を傾げるジャラヒに、ドロシーがコーヒーを与えているのを見ながら、もくもくと食べる。
今日のメニューは、トーストとベーコンエッグとコーンスープ。
どれも温かくて美味しい。朝から温かいものが食べられるなんて、昔の自分が聞いたら信じないだろう。今の私だって、いつまで夢を見てるのかなんて言われたら、確かに夢なのかもしれないと納得してしまいそうだ。
仲間たちと楽しく温かい朝ごはんなんて、夢じゃなかったら喜劇。これが、この後一家惨殺されるかわいそうな家族の最後の談笑なんて喜劇だったら、少しは安心できるかしら。
そんなことを思いながらスープを飲んでいると、そのとき、ロイは言った。

「今日は3分間電話の日、なんだって」
「……」
「……電話?」

私が応えずにいると、しばらくの沈黙の後、ジャラヒが相槌を打った。
リオもサツヤも食卓にいない今、ドロシーも台所で洗いものをしているとあっては、例えロイであっても、世間話の相槌を打つのはジャラヒの役割。
妙なところで律儀なのがジャラヒらしい。
以前は死んでもロイの会話に加わろうとしなかっただろうけど、ここ最近は、世間話を保てるくらいにはなったみたい。とはいえ、さっきみたいな笑顔で挨拶というのは、稀にでも見えるものじゃないけれど。

「そ。ああ、こっちにはないのか。離れている相手でも、会話できる機械…」
「離れてる相手に?そんな便利な…ああ。いや、あった。そーいやおれんちにもあったわ!こっちにはないから忘れてたな。まあ、もともとあんな嗜好品、めったに使わなかったけど」
「嗜好品?っていうより必需品じゃないか?あれないと困るだろ?…って、まあ、こっちじゃなくても困ってないから、なくてもいいといえばいいんだろうけど」
「はあ?だって相手も持ってないと意味ないんだぜ?あんなデカくてたっかいもん、大貴族や大企業くらいしか持ってねえよ」
「おれんところは、電話といえばこんくらいの大きさ。そんなに高くないよ」
「…なにそれこわい。本より小さいとかどんなだよ。まあ、そんだけ小さきゃ普及するだろうな」
「一人一台で、これで本も読める」
「アホか。音が聞こえるもんだろ電話って。音楽が聴けるとかならまだしも、本は読めねえよ。顔まで映るとか言うなよ」
「写るし、もちろん曲も聴けるよ」
「うえ。お前の世界怖い。怖いけどちょっと興味あるそれ」

何を言ってるかさっぱりわからないけれど、二人の会話は盛り上がっていた。
もしかしたら、もうそんなに仲は悪くないのかもしれない。
私がこの部隊に入ったばかりの頃の二人は、目を合わせることもほとんどなかったというのに。
それとも、電話とやらが、それほどに会話の弾む題材なのかしら。
ジャラヒは盛り上がっているけれど、私はその電話とやらを、目にしたことはなかった。
存在は、聞いたことがある。お偉い方々の屋敷にはあるらしいそれ。
もしかしたら、仕事中に目にしたことがあるのかもしれないけど、どんなものかも想像もつかないので、例え目にしていたとしてもわからなかった。
ジャラヒが知っている、というのは、彼がワートン家の一員だからだ。
ワートン財閥の次男、ジャラヒ・ワートン。
かつてはワートン財閥の真なる後継者とさえ言われた男。
グレてギャングになんてなって、家出して今ここにいる彼も、元々は大貴族、大企業の大御曹司だ。
スクールを主席で卒業し、中でも芸術方面に秀でていた彼は、卒業してすぐに新規事業として劇場運営を打ちたて、金融界、工業界を軒並み傘下に置いていたワートン財閥に、芸術という新たな力を与えた。
それを手土産に早くも14歳にして、ワートン財閥の次男としてお披露目。その会は、私も仕事で出席していた。
そのときは、まさか17歳で、早くもグレるとは思ってもいなかったけれど。
まあ、ワートン財閥は長男も長男で、グレにグレているので、ジャラヒだけを責めるのも可哀想かもしれない。

「ダリアはさ」

と、ロイが私の方を向いた。

「話したい人っている?」
「…?」
「いや、実はさ、さっきシアンと電話したんだけど。やっぱり電話はいいもんだよ」
「何の話がしたかったかと思えば、ノロケかよ」

今日のロイは、チッと元貴族とは思えない舌打ちをするジャラヒをも気にしない寛容さを持っているらしい。
なるほど、さっきから妙に機嫌がいいのは、彼女と話をしたからだ。
シアンというのは、ロイと交遊を深くしている女性。
私は逢ったことはない。
こうやって、たまにロイの口から名前を聞くくらい。
どんな女性だろうと興味はなくはないけど、私と同い年の、巫女をしている女性なんて、近づく気にもなれない。巫女なんて、世界が違いすぎる。きっと私と正反対の清楚で可憐、なんて風な子に違いない。
一度訊いてみたら、ロイはすごく微妙そうな顔をしたけれど…。まあ、いくら風変わりなロイでも、暗殺業についている私を、大事な彼女に近づけたくないだろうし。

「だからってわけじゃないけど、よかったら、ダリアもさ、話したい人と話してみない?」

そう提案されてみると、私も興味がないわけでもない。
こくりと頷くと、ロイは満足そうに笑った。

「よし!たまにはおれも良い事しないとな。任せとけ!」










でも、電話なんてこのブリアティルトでは聞いたこともない。
もしかしたら、帝国あたりにあるのかもしれないけれど。
と言ったら、例の胡散臭い笑いを浮かべて、魔神の力でどうとかこうとか言っていた。
ロイは魔神の力が使える。
出来ることと出来ないことはちゃんとあって色々制約もあるらしいけど、説明されてもよくわからないので聞かない。

「で、ダリア。誰と話したいんだ?」

生活感が筋肉増強用品で満ちているロイの部屋に招かれて、問われた私は少し考えた。

話したい人。

「ブラン?家族?向こうの大事な人でもいいし、ああ、もちろんこっちの人でもいいけど」

ブランは来週逢う予定だし、私には厳密には家族はない。友達もそう多くはないし、急に考えても、どの人物を思い浮かべてもためらいがあった。
とはいえ、躊躇いながらも思い浮かぶのはやっぱり彼しかいないのは事実だ。

「じゃあ、お願いロイ」
「了解。あ、制限時間は3分間だ。3分経ったら切れるから、覚えといて」
「わかったわ」

私が頷くと、ロイは気を使ったのか、手のひらサイズの機械だけ置いて部屋を出て行った。


>>懐かしの幼馴染と話してみる

とぅるるるるという聞いたことのない奇妙な音の後、声が聞こえた。

「誰だ」
「私よ」
「お前だったのか」

言葉はすぐに途切れた。
突然聞こえただろう私の声に、彼は戸惑うでもなく返している。
そしてしばらくの沈黙。
まったく、予想通りだった。
突然声が聞こえて、普通は驚くだろうけど、彼が驚くところなんて想像もできなかったので、これが正しい。
久しぶりだけど、彼と会話が盛り上がるはずもなかったので、沈黙も正しい。
沈黙はいつものことだ。
彼と話が通じたことなんて、人生で数えるほどしかない。
それが、ジェイン。
本名は別にあるけれど、私の知っているのは、ジェイン。ファーストネームのそれだけ。

「久しぶりね」
「ああ」
「生きてたのね」
「死んでいたら話せない」
「まあ、あんたが死ぬわけないわよね」

そう、当たり前のことを確認した。
ジェインが生きていた。
あの男が死ぬわけがないのに、それを確認できて、私はひどく安心した。
生きていて嬉しいなんて、そんなことは、ない。
彼はいつも自分勝手で、私を振り回してばかりの男。
嘘ばかりの男。
私は、彼の名前が本当はジェラルド・ワートンだなんて、彼の口から聞いたこともない。
彼は、私をブリアティルトに連れてきて、私に彼の弟を暗殺するよう示唆した。
勝手なことばかり言って、私を騙して。
弟を散々傷つけた彼は、私のことも傷つけて。
私は銃口を彼につきつけて、弾を放った。
そして彼は私の前から姿を消した。
掻き回すだけ掻き回して消えた。
なんて彼らしいんだろう。
勝手に巻き込まれて、取り残された私は、ブリアティルトに解き放たれて、それから、幸せになった。
めでたしめでたしだ。

「ジェイン」

彼をその名で呼ぶのは、もう私だけ。
『ジェイン』は、彼の…彼とジャラヒの母の名前。
母親の名前を偽名として名乗っていた彼には、私だってちょっとひいている。
だけど、私の知っている彼は、ジェインでしかない。

彼は、私に桜を教えてくれた。
だから私は顔を上げることができた。
彼は、私に字を教えてくれた。
だから私はリオに出会えた。
彼は、私をここに連れてきてくれた。
だから私は幸せになれた。

「…ジェイン」
「お前は泣き虫だな」
「泣いてないわよ。ほんとに。少しも」
「そうか」

泣くどころかちょっと笑いそうになった。
私は泣いたことがない。もちろん彼の前でも。
だけど、彼にとって私はそうなんだろうか。
彼は、私にとって、兄であり、親であり、教師であり、相棒で、恋人のようで、敵のようで、変な男で、間抜けで、神出鬼没で、いてもいなくてもどうでもいいし、むしろいない方が全然良くて、でもいないとなんか半身が消えたようで、でもそれは認めたくなくて、ようするに、ジェインはそういう男だ。
ジェインにとって、私は、妹であり、娘であり、弟子であり、相棒で、恋人のようで、敵のようで、変な女で、泣き虫で、いきなり現れても動じなくて、いてもいなくてもどうでもいいけど、それでもいないとおかしいような、そんな存在なんだろうか。
そうである気もする。
そんなこともない気がする。
ジェインのことは、いつもわからない。
だけど、この世で一番彼をわかるのは、私だ。

「ジャラヒは元気よ」
「そうか」
「どうでもよさそうに言いながら気にしてるのバレバレよ」
「エスパーか。気持ち悪いなお前」
「あなたに言われたくないわよ」

母親の名前を偽名にするほど気持ち悪いことはないと思うんだけど。
それを言わないであげるのは私の優しさだ。
私にとってはただの気持ち悪い変な男のジェインだけど、ジャラヒは彼を恐れている。
ワートン財閥跡取りジェラルド・ワートンを。
総帥ヒューイ・ワートンが手放さない懐刀。
若きジャラヒがどんなに才能を見せようと、後継者だと言われようと、揺ぎ無く総帥の横に立っている男。
今だって、ジェラルド・ワートンの名を知らない男は業界にいない。
なのにその裏で、ジェインとして裏の世界で仕事をしているのだから、彼の力は底が知れない。
裏世界でも不気味と評されていた男だ。彼を恐れる男は、表も裏も多い。
だけど、私から見ると変な男ジェインは、弟を無視しながらも、気にしていた。
私に、暗殺するべきかどうか見張れなんて、変な依頼を出すくらいには。
素直になればいいのにと思うが、きっとジェインのこれは無意識だ。
となると、ジャラヒの面倒は、ジェインに代わって私が見なければならない、なんて、ちょっとした義務感すら芽生えてくる。

「困った兄弟よね」
「まったくだ」
「自覚もないのに頷かないで」

元の世界に戻ったジェインと、ここに留まっている私。
もう放っておけばいいのはわかっているのだけど、そんなことできるわけもない。
例え放っておこうと思っても、こちらの都合なんて考えなずに、ジェインはまた巻き込んでくるだろう。
それがジェインなのは、相棒の私が一番わかっている。


「そろそろだわ。じゃあね、ジェイン」
「ああ。またな」

名残惜しむわけでもなく、あっさりと、でも短く再会を告げて、電話は切れた。
どうやってまた逢う気なのか、さっぱりわからないけれど、神出鬼没なのがあの男だ。きっとまたどうにかするんだろう。
別に、逢いたいわけでもないし、逢ったら面倒なのはわかっている。
ふう、と私はため息をついて。
私はそっと銃に触れた。

関連記事
スポンサーサイト

2015-01-30 : SS : コメント : 0 :
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

赤雫☆激団

Author:赤雫☆激団
英雄クロニクル サクセスサーバー
オーラム国の赤雫☆激団です

カテゴリー

タグリスト

最新コメント

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。