【SS】ダリア【7期】

ブリアティルトには、5つの大国がある。
セフィド神聖王国、ヴァルトリエ帝国、イズレーン皇国、マッカ連邦王国、オーラム共和王国。
5国間では小競り合いが絶えなくて、それぞれの歴史は、全てが戦の歴史と言ってもいいくらいだ。
特にここ数年は、大戦と言える大きな戦が続いていて、緊迫感もまして、いるのだろう。おそらく。
恐らくと言うのは――ダリアは、このオーラムに来たばかりなので、詳しい事情を知らないからだ。
書物に書かれた、近年なかった大戦、という文字を見ただけ。
もっとも、近年なかった珍しい大きな戦とはいえ、数年…いや、数十年、と言った方がいいだろうか。
続いてしまえば、それはもう、珍しい大戦とも言えない。
ダリアから見ると、緊迫した、というようなものは、今のところ目にすることはできなかった。

近年なかった大戦が、数十年続いている。
そんな矛盾を孕んだ表現は、あるものには正解であり、あるものには間違っている表現だ。
だって、歴史上では、これはたった三年の戦なのだから。
それを知るものと、そうでない者がいるようだが、両者を隔たるのが何なのか、それはまだわからない。

「七度目の周期、ね」

ダリアは、その可笑しなフレーズを口に乗せ、それから呻くかようにため息を付き、癖になったポーズで、己の長い黒髪を触る。

「………まあ、考えても無駄ってことかしら」




ブリアティルトは繰り返している。




そう、口にしたのは一人の少女だ。

少女。青い髪を肩の辺りで乱雑に切り、それを赤いリボンで乱雑に巻いているという、見るようによっては洒落ているのかもしれないし、別にそうでもないかもしれない髪型――ダリアは若いものの流行りなどはよく知らない――をしていた。細い手足はよく動き、ダリアに説明している間も、その身振り手振りは止まらない。
とても、活力にあふれた元気な少女だ。
年の頃は分からない、が、10代であることは確かだ。多分、その前半。
見た目は若いが、一方で、物腰は意外と落ち着いていて、時折覗かせる大人びた視線が、見た目からすると少し違和感があったが。
それよりも、特記すべきは、彼女の背中から生えている小さな羽根かもしれない。
何故か羽根が生えている。とはいえ、来た時も、話している時も、宙に浮かぶこともない。
世には、鳥族というものもいるらしい。が、ダリアは目にしたことはないし、彼女がそうなのかもわからない。であれば、これもまた、ただのファッションかもしれない。

ともかく、若者の流行云々はさっぱりわからないダリアは、彼女の姿形には触れず、彼女の言葉をそのまま聞いた。




「ブリアティルトは六度目の周期を終え、七度目に向かうところ」
「ジャラヒ・ワートンはそのもうすぐ七度目のブリアティルトのオーラムにいる」




自らもそのブリアティルトにいたという少女は、ダリアにとって重要な情報を、ふたつ与えた。
そのうちの一つが、彼女の出した名前。
ジャラヒ、というのは、今度のダリアのターゲットである。
闇の仕事をしているダリアの、今度の仕事先。
ジャラヒ・ワートン。17歳。ワートン財閥総帥の次男。
金髪、碧眼。中肉中背。性格は、冷静、冷酷。ワートン財閥で危険視されている男。


彼は、総帥に隠れて、裏だった組織を作り、齢15の時にスラムの闇部分を一掃した。
当時、街は少年少女たちの犯罪の巣窟として、スラム問題が深刻化していたのだが、一筋縄ではいかない貧困問題とも関わる少年少女達の犯罪問題を、解決したのが彼である。
最も、心優しい気持ちで寄付を与えて解決、などという、温かい話はそこにはない。
15歳のジャラヒ少年は、スラムに蔓延る組織の犯罪者たちを、子どもたちの前で一人残らず殺害し、残った子ども達と、ひとつの自治組織を作ったのだ。
『赤き涙雨~レッドレイニング~』
100人はいたと言われる、子ども達を中心とした組織。
未だに、全貌はわかっていないその組織は、ジャラヒを頭として、確かにその街にあった。

そして、今はない。

ジャラヒが17になったとき、今まで見て見ぬフリをしていた総帥が潰したのだと言われている。
どう潰したかは誰も知らない。
ただ、もうあの街のスラムには何もないし、子ども達もいない。
それと同時に、ジャラヒも消えた。

困ったのは、当の総帥である。
次男坊とはいえ、総帥直系の息子だ。
今までずっと好き勝手していた息子が17になり、そろそろいいだろうと腰を上げたところ、姿をくらませてしまった。
どこで何をしているかわからないが、彼が父を恨んでいるだろうことは推測できる。
実際、最後に見たジャラヒの姿はかなり激昂していたらしいし、何人かは、彼によって撃たれ、傷を負わされた。
ジャラヒを捕える作戦は失敗し、そして彼はその姿を消した。
名立たる傭兵たちを向かわせても、捕らえられなかったのだ。
放蕩息子と馬鹿にしていたが、その手腕は一目置いてもいいかもしれない。

総帥が、息子の処分に頭を悩ませてしばらく。

どこかから、一報が入った。

ジャラヒは、ブリアティルトにいる。


その情報を持ってきたのが誰かはわからない。
よりにもよってブリアティルト。一笑に付すべき話題だ。
ブリアティルトとは、お伽話だ。
千年続く戦舞う大陸。
その中心には黄金の門があり、神の世界につながっている。
そして、選ばれたものは、全てを手にすることができる。
いつからか知らないが、ひっそり流れているお伽話。
具体性のないそれだけのお伽話は、酒飲みの与太話にも、子どもへの枕話にもならない陳腐な話で、今となっては知るものも少ない。
冗談にしても突拍子のないその一報を、何故か総帥は笑い飛ばさなかった。

執務室から、部下を外に出し、しばらく考えた後、ひとつ、ため息をついた。

それから、一本、電話をかけて。

呼ばれて来たのが、ダリアである。





ダリア。
コードネームを黒桜という、齢16の線の細さを感じさせる少女。
16という若き年齢だが、その立ち振舞から、幼さを感じさせるものはない。
余計なことは口にせず、行動だけで示す。
黙っていれば、どこかの令嬢にも見える整った容姿だが、その足音さえもしない動作は、令嬢というには機敏すぎた。
そんな、姓もないダリアという名前の少女は、ワートン総帥からひとつ依頼を受けた。
少女の仕事は、表立って言えるものではない。
『殺すこと』
それだけだ。


「頼みがある」

しかし、そう口を開いた総帥の頼みは、ダリアの本来の仕事のそれではなかった。

「ジャラヒを追い、もしその身に危険が及ぶようなことがあれば、彼を守れ」

そんな、予想外の依頼を断れなかったのは、ひとつだけ、ダリアは総帥に借りがあったからだ。
まさか、そんなところで、切り札とも言えるカードを――何よりも職務が大切な腕利きの暗殺者に、利害関係なく、それすらも度外視したところで、彼女を一度だけ使えるという権利を――切られるとは思いもせず、ダリアは怪訝な顔を一瞬見せた。
だが、その理由を尋ねることはせず、了解を告げる。
ブリアティルトにいる、と付け加えられたときは、聞き返しそうになったが、既のところで堪えた。こんなところで意味のないことを、男が言うはずがないのだから。










その前述の少女に会ったのは、任務を開始してしばらくのころ。



街の酒場で聞き込みをしていると、酒場には不釣り合いの少女に声をかけられた。

「おねえさん、ジャラを探しているの?」

と。
首を傾げる、青い髪の少女。


そして与えられた2つの情報。
ブリアティルトは繰り返している。
ジャラヒは7度目の周期のブリアティルトにいる。

普通なら一笑に付すべきそれを、ダリアは笑わなかった。
この少女が、自分を騙そうとしているなら、それでもいい。
現在、他に手がかりはない。
明るく笑う少女を、信用しているわけでもない。
何かの罠かもしれないことも、わかっている。
ダリアは冷静ではあるが、少し、気が短いところがあった。
自ら罠に飛び込む間抜けさを、指摘されたこともある。
だが、警戒しすぎて何も得られないほうがくだらない。
油断しなければいいのだ。
何もなければ、すぐに手を退く。
ただ、何かあるのなら。
飛び込まなければ、わからない。

「いいよ、連れて行っても!ブリアティルトに!」

そんな彼女の言葉に、警戒は怠らずに、ダリアは頷いた。
それに応え、明るい声で笑った少女は、踊るように酒場を出て、ダリアに手を差し出す。
小さな手。
少女は、躊躇うダリアの手を遠慮なく握って、跳ねる。
スキップとも呼べない下手なリズムで、歌うように跳ねて。
その不思議なステップに、危うくつまづいたダリアに向かって、少女はにこりと笑った。


「ねえ!おねーさん、名前は?」
「…ダリア」
「ダリアちゃんだね!すてきな名前!ね!」

外は暗い。
家の薄明かりと、照らす月の光で、彼女の姿がぼんやり見えた。
彼女の背中にある小さな翼が揺れる。
しかし、空を飛ぶわけでもなく、彼女のステップに合わせ、左右に揺れるだけだ。


夢でも見てるのだろうか。
幻想めいた光景に思う。
少女に手を引かれ、おとぎの国のブリアティルトに向かう童話の主人公。
そんな似合わない妄想に、思わず自嘲する。
連れて行かれた先が、人身売買組織だったら、きっと自分は安心するだろう。
暗殺者である自分が、夢みたいなお伽話に巻き込まれるなんて、冗談でも笑えない。



「ジャラのお友達は、ワタシのお友達!」


そう、嬉しそうに笑う少女は、とても闇の組織に関わっているようには見えない。
いや、こういう子を使って油断させる手口なのか。

などと、彼女を観察しながら歩いたり、走ったり、ステップに転びそうになったりしていると。




気がついたら、そこはブリアティルトだった。













「あらあらまあまあ!いらっしゃいませ!」

ダリアはとある小さな家の前に立っていて、扉を開けて出迎えた女性の顔を、ぽかんと見つめていた。

それから、辺りを見回す。
少し埃っぽい。うっすらと舞う土埃と、地面に馬の足あとを認める。それと続く車輪跡。馬車が通った跡らしい。人は周囲にはいない――目の前の女性は別として――。
ありふれた道路ではあるが、人通りの少なさと、道の大きさからいって、メインストリートではないのだろう。
さっきまでいた街と、何かが大きく違うというわけでもない。
ただ、じわじわと大きな違和感だけがダリアの胸を占めていた。
何が違う、違和感。空気。
一番違うのは、空が青いことだ。先ほどまでは、夕刻も過ぎた夜の始まり。ダリアは酒場を出て、少女とともにいたはず。
それなのに、今ダリアの頭上には、青空と太陽が顔を覗かせている。

当の少女はいない。
それはすぐにわかった。
手を引いていたはずなのに、ダリアの手は、すでに空をつかむばかりだ。
いるのは、目の前の、扉を手にした女性だけ。
そうして、ダリアはようやく目の前のその家を見た。
レンガで出来た赤い屋根の家。
表札には、大きな走り書いたような文字で、『赤雫☆激団』と書かれている。
あか…しずく?せきだ??なんと読むのだろう。意味がわからない。
扉は大きめで、古ぼけている。軽そうだ。銃でぶちぬくことも可能に見える。
窓は見える範囲に2つ。大きくはないが、身を屈めれば、進入も脱出も可能だろう。
窓からは赤いカーテンと、赤い花が見える。その向こうはよく見えない。
全体的に、可愛らしい、こじんまりとした家、と評される、のだろうか。
華美ではない。地味な、でも手はかかっている家。
まるで童話に出てくる小さな家そっくりだ、と思い、頭を振った。
まさか、と思う。
ここにいない少女の台詞を思い出して、ぞっとした。
だが…結論を急ぐのはまだ早い。
ともかく、可愛らしくも籠城には向いていない家だ、とその家に対して結論付けて、
ダリアはふうと息を吸った。

覚悟を決め、その家の前に立つ女性と目を合わせる。
長い髪を、ゆるく2つに編んでいる。服装はメイド服。
メイドだろう。メイドにしか見えない。
ひと目でわかる。この家のメイドだ。

ただ、メイドとは思えないほど、隙がない。
熟練した傭兵の放つオーラのような、違和感。
どう見てもメイドで、軍人の放つ殺気や、雰囲気は持ち合わせていないのに、どこか熟練の老兵のような隙のなさを同居させ、彼女はそこに立っていた。
…負けはしないが、殺すのに骨が折れるタイプ。
そう分類付けて、ダリアはその違和感を押し殺し、口を開いた。


「ここは…?」
「赤雫☆激団(レッドドロップ)本拠地です。ダリアさん。ジャラヒぼっちゃんと、リオさんのお友達ですよね」

ジャラヒ、と耳にし、ダリアはごくりと唾を飲んだ。

「ジャラヒが、ここにいるの?」
「ええ。リオさんからお聞きしてますよ。申し遅れました。私はドロシー。赤雫☆激団のメイドを務めさせて頂きます」

深々と礼をして

「立ち話もなんですし、お茶でも飲みながら、お話しましょう」

ふわりと笑うドロシーに、少し躊躇ったあと、ダリアは頷いた。

















ひと通りの話を聞き、案内された自分の部屋で、しばらく一人で考えていると、大きな物音がして、ダリアはその音に向かって銃を構えた。
そこにはドロシーと、そこにいたのは、ドロシーに向かって対峙している金髪の男。
その人相は、ダリアが写真で持っていた、残虐と噂の男の顔と同じだったので、ドロシーを人質に取られたかと、ダリアは内心少し焦って銃を向けたのだが…。

慌てふためいた男の間抜けな姿に、拍子抜けし、三度写真と見返したが、何度見ても、例のワートン財閥の危険な次男坊本人である。

かくして、任務遂行のために、ブリアティルト内オーラムにて、ダリアは三年の月日を過ごすことになった。
この、ジャラヒとの出会いが、彼女の今後の運命を決めることになるのだが、それはまた別の話。

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2013-08-29 : SS : コメント : 0 :
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