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サツヤ編第3話

緋月颯椰が消えた。
そのことを哲が知ったのは、彼が消えて3日後のことだった。

「てっちゃんてっちゃん、今日さっちゃんと一緒にいた…てことは、ないわなあ」

母親は、帰ってきた哲の顔を見て静かに頭を振った。
返事を聞かなくてもわかるだろう。
母の言うてっちゃんというのは哲のことで、さっちゃんというのはサツヤのことだ。幼馴染の。
幼馴染とはいえ、サツヤとはもう4年もまともに会話なんてしていない。
正確には、小学校6年の秋以来、だ。

「にしても、どこいっとたんよ、てっちゃんは」
「…学校」

いつもは一晩帰ってこないくらい言及もしない母親が、珍しく聞いてきたことに違和感を覚えながら、短く答える。

「また機械いじり?」
「研究」

学校の目を盗んで、旧校舎の化学準備室で寝泊まりするのもいつものことだ。堂々と言えることではないが、今までこの大らかすぎる母親に咎められたことはない。
親として問題があるのではないかとも思うが、藪蛇すぎるので哲もありがたくその放任主義の恩恵を受けていた。
だから、今更そのことについて何か言うとも思えない。そう思い母親を窺うと、母親は哲の答えに、そうかあ、と繰り返して。

「さっちゃん、いなくなっちゃったんだって」
「…そ」

心配やなあ、という言葉に返事をせず、哲は自室に足を向けた。




幼馴染のサツヤが消えた。
それに驚きや衝撃はない。いや、全く無いかと言われると、少しは動揺したかもしれないが、衝撃のようなものはなかった。
やっぱり、なるほど、ついに、とうとう、ーーようやく。
ああ、ようやく消えたのかというのが、一番近いかもしれない。
あんなことをしておいて、それをまるっと忘れてのうのうと生きている方がおかしいのだ。
のうのうと卑屈に、見当違いに、まるで被害者みたいな顔をして。


---兄さんがいなくなったんだ。
---僕、一人じゃ無理だよ。

あの日哲の足下でしくしくと泣いたサツヤ。
哲は、何も言えなかった。
慰めることも罵ることも出来なくて、泣くサツヤから身を翻し、冷える身体と震える足に叱咤しながら、逃げることしか出来なかった。

それ以来、サツヤとは話をしていない。
話なんて、出来るわけなかった。
何を話せと言うんだ。目も合わせられない。
問い詰めることもできない。知りたくもない。
考えたくもない。
それでも何もなかったふりは、哲にはできなかった。
突然避けだし、顔も合わせなくなった哲に、サツヤも何も言わなかった。
それから数年、1人で過ごしていた彼は、今更姿を消したという。


消えたのは、罪悪感からだろうか。
それとも絶望して?
世を儚んで?

「ばかだな」

何にしろ、今更だ。
緋月サツヤは、本当はもっと早く消えるべきだった。
一人ぼっちで、誰からも手を差し伸べられず、延々と泣きながら過ごしていたのは、彼への報いだろうが、それを放り出すなら、もっと早くやるべきだった。
そうしたら、サツヤもあんな小さな背中で、あんなに重い荷物を背負うことはなかったのに。
それを是としたのは、哲も同じで。
冷たく見捨てた現実と、それでも、だからこそ、その姿を見届ける責が哲にはあった。
サツヤが逃げたのだとすると、その責の行方は。

「くそ」

乱暴にベッドに鞄を投げた哲は、軋む椅子を無視し腰掛ける。そのままパソコンの電源をつけ、キーボードに八つ当たりするように指を叩きつけると、それを印刷した。
プリンターが黒い模様を吐き出す間に、スポーツバッグに、着替えといくつかの工具とスマートホンを投げ入れ、最後に印刷したいくつかの紙を押し込むと、それを抱えて、再び玄関へと駆け下りる。
何を持っていくだとか、熟考する余裕もなかった。じっくり考えてしまったら、我に返って動けなくなってしまう。困ったらその時はその時悩めばいい。いつも持ち歩くものだけを握りしめ、バタンと扉を開ける。

「てっちゃん出掛けるの?」
「もしかしたら、しばらく帰らないかも。よろしく!」

母親の声に返事だけした。
もしかしたら、というのは自分でも半信半疑だからだ。
考えたら進めない。
何故、どこにいくのかなんて、考えたら止まってしまいそうで、胸のモヤモヤを抱えて、勢いのまま駆け出す。

サツヤが消えたなら、それならそれでいいはずだった。
だけど、どうしても。
細やかで、それでも見逃せない破片が、哲に突き刺さる。
サツヤが心配だとか、そんなことはない。
心配だったら、あんなに長い間無視なんてしていない。
居ない方がいいとすら思っていた。
それならもういいはずなのに。

(わからん。でも、ひとつだけ)

思い当たることが、あった。
ひとつだけ、残っていたこと。
思い当たることがあるのなら、それを試してみないと。

(…科学者とは、そーいうもんだからな)

これは、悔いでも情でもない。
ただの、科学者を目指す大山哲の矜持である。
そう思うと、少しだけ心が軽くなって、哲は走るスピードを上げた。

目指したのは、学校。
家から徒歩20分の所に位置するそこにたどり着いた時には、走るなんて慣れないことをするもんじゃなかったと後悔するくらい、心臓がばくばくと震え、哲はじんじんする足を叱咤しながら、目的地に向かった。
哲にとっても慣れ親しんだ、旧校舎の化学準備室。
ここに来たのは、特別な理由があるわけでもない。
哲が落ち着ける場所というだけだ。
もちろんここにサツヤを招いたこともない。
正真正銘哲のテリトリー。
学校の場所を無断で借りているだけではあるが、学校だって、この場所を使って人類の科学技術が進歩されるのだから、ありがたがって使ってくださいと言うだろう恐らく。
何故か教師は煩く言うので鍵は勝手に使っているが。そもそも、旧校舎なのだから、人なんてほぼ来ない。
哲は、入ると同時に、電気ではなく、戸棚の上に置いているアルコールランプに火をつけた。
そして、綺麗に畳んで置いている白衣に手を通す。
完璧だ。
白衣を着ると自信が溢れ、なんでもできる気がした。
これからやろうとしていることは、哲だって、滑稽無糖のバカらしさを感じているが、バカらしいことを惜しまないのが科学者というものだ。
真っ暗な中、アルコールランプに薄く照らしされた光景は、それにぴったりと言っていい。
ほのかに照らされた人体模型。
カエルのホルマリン漬け。
香る薬品。
滲んで光るビーカーに、軋む棚。
苦手な人が見たら足がすくむに違いない風景を、満足気に見渡した哲は、カバンの中から印刷した用紙を取り出し、揺らぐアルコールランプの火で紙を照らす。

(とはいえ、オカルトは専門外なんだがな)

専門外ではあるが、ここはそれに似つかわしい、と思う。
取り出した用紙には、大きな丸と星。それからいくつかの記号や読めない文字のようなものを組み合わせた陣だった。
陣…いわゆる魔法陣。
科学者を自称する哲にとっては、嘲笑すべき、いわゆるオカルトだ。

だけど…

(ソウヤが言ってたのは、これだ)

サツヤの兄ソウヤ。
頭が良く、周囲に未来を期待される人気者。
人を揶揄うのが好きな面もあったが、それでも憎めるはずはなく、哲だって、彼に憧れていた。
もちろん、弟サツヤが兄ソウヤに憧れていたことは言うまでもなく。
思えば、ソウヤがいたころが一番幸せだったかもしれない。
幼い頃、ヒーローものを見て、ヒーローになりたいと言うソウヤに、哲は悪の科学者になりたいと答えたものだった。
悪の科学者がいないとヒーローも活躍できないからと言って、ソウヤは喜んでくれたのだ。サツヤは、二人とも危ないよ!なんて半泣きだったけれど。
面倒見のよかったソウヤは、哲にとっても良い兄貴分で。共に遊んだことは、思わず微笑んでしまう良い思い出だ。
そんなソウヤが。
ある日、哲に言った。

『面白い話、聞いたんだ』

どんな願い事だって叶えてくれる、大魔神がいるのだと。

「へー」
「なんだよ哲。ちょっとは興味持てって。サツヤは食いついてくれたぞ?」
「俺は科学者だから、胡散臭いものはちょっと」
「お前の作る通称科学の大発明品の方がよっぽど胡散臭くない?」

そこでソウヤが見せたのが、この魔法陣だ。
ソウヤは、学校の先輩に恩を売って、そのお礼にこの魔法陣を教えてもらったなどと胡散臭いことを言った。
複雑な模様は、いかにも「らしい」もので、ソウヤは広げた紙を嬉々として広げて、満足そうに頷く。

「これ!な?魔法陣!魔界の主計長官大魔王アスタロトを呼び出すことが出来る高等魔法陣だそーだぞ。願いが叶うんだとよ」
「…やっぱり胡散臭い」
「そこがいいじゃん。でも先輩、普段そーいう冗談言う人じゃないから面白いなって」
「からかわれたんだろ」
「まあ、それならそれで」

でも、これは絶対何かあるんだ。

そう、ソウヤは言って、その紙を哲に押し付けた。

「は?」
「哲にやるよ、それ」
「いや、いらないけど」
「遠慮するなって。俺はもう覚えたから」
「覚えたって、これを?」
「俺は天才だからなあ」

複雑なそのよくわからない仰々しい模様を覚えたと言い切ったソウヤ。
ソウヤなら覚えたのだろうと納得しなくもないが、それを哲が受け取るかどうかは話は別だ。

「いらないって」
「いつか役に立つから!必要なときに、それを使え」

いいから、と真顔に直って押し付けられてしまえば、哲も受け取る他はない。
渋々受け取って、家に帰った哲は、その魔法陣を検証することにした。
もしかしたら、何か隠された暗号でもあるのかもしれないと。
ソウヤは「覚えた」からいいと言っていたのだから、紙自体に何かあるわけではないのだろう。
この模様になにかあるのか。
パソコンに取り込み、見つめて、怪しげな本やサイトを調べてわかったのは、ソウヤの言った通りこれは魔法陣で、いわゆる魔神を呼び出すのだということだけ。
毒を吐き出すその魔神を呼び出すと、現在過去未来や、リベラルアーツを教えてくれるのだとか。リベラルアーツて…と調べたところ、自由七科。文法、修辞、論理、算術、幾何、天文、音楽、らしい。
学校のテスト前に使えという事だろうか。
と思いつつ、馬鹿らしくなり、その魔法陣のことも、哲は忘れてしまっていた。

だけど。
サツヤが消えたことを聞いたとき、思い出したのは、ソウヤが意味深に残したこれだ。
ソウヤは、サツヤにも教えたと言っていた。聞いたサツヤはこれに食いついていたと。
ソウヤは、これは願いが叶う魔神だか悪魔だか魔王だかを呼び出す魔法陣だと言っていた。
胡散臭いそれをサツヤが思い出し、実行したのだとしたら。
ソウヤがそれを見越して、哲に教えたのだとしたら。
それが、どうしてサツヤが消えることに繋がるのかはわからないが、一度思い浮かんでしまったその説は、哲の頭にこびりついてしまった。
だとしたら、実行しないと落ち着かない。
何故なら、それが科学者だからだ。


黒板脇のチョークを持ち出し、床に魔法陣とやらを描く。
実験器具の片付けに手間取ったが、器用さに自信がある哲にとって、魔法陣を描くことは造作もないことだった。
円の中に紋様と記号を描き、最後に魔神の名前らしきものを記す。

「こんな感じか」

描き終えて、手についた白い粉を叩き、ふうと息をつく。

「…まあ、何もないな」

見下ろした魔法陣は、我ながら精巧に描かれている。誰が考えたか知らないが、神秘性を感じさせるデザインは、哲の精巧さにさらなる輝きを増したかに見えた。が、それだけである。
何もない。
アルコールランプの火は、淡く揺れているものの、風はなく、音もなく、何の気配ももちろんない。

徒労であるとわかってはいたが、少し残念な気持ちもあった。
やるだけやったし、という自己満足感もあったが、片付けを考えると少し気が重い。
このまま帰るのも面倒だ。今日はここに泊まろう。途中になっている研究の続きもしたい。今やっている研究は、授業中の居眠りをバレないようにするサポート器の開発だ。バレないようにするためには、むしろ目立てばいいのではという天才的逆転の発想で、開発は今ピークに、差し掛かっている。居眠りをする時にボタンを押すと、小さな人形がぞろぞろと出て来てサンバを踊って教室を廻るという脅威の性能のマシーンだったのだが、教師に怒られたので改良中だ。サンバが駄目だったのだ。コサックダンスとフラメンコのどちらが良いだろう。


と。

突然、明かりが消えた。
隅に置いていたランプが消えている。
風は…窓を少しだけ開けていたものの、風が吹き込むほどではない。
オイルが切れたのだろうか。
本館の理科室から持って来たランプだが、学校がアルコールをケチるため、長時間は保たないのだ。
ほんのりと照らす月明かりを頼りに、哲は戸棚を目指した。予備のアルコールランプがあったはずだ。もしなければ電気を付けなければならないが、勝手にここを使っていることがバレて、用務員にまた怒られるのは避けたい。

「こんなところにいたのか」

声がしたのと、哲がつんのめったのは同時だった。
暗闇の中響く声は、どこからしたのかわからない。
近くでもあり、遠くでもあり、中からでもあり、外からでもあるような、声。
転びそうになった瞬間、ぐっと腕を掴まれた。
力強く引かれ、そこに何かいることが、わかる。

「探したんだぞ。サツヤも待ってる。帰ろう」

そんな声に腕を引かれ、哲が返事をする前に、突如、世界は闇に包まれた。
逃れようもない眩暈の中、サツヤというその名前だけはしっかりと認識出来て。





ちゅんちゅんと、聴いたことのない鳴き声がする。

哲が気がつくと、そこは森だった。青空だった。声の主は鳥だった。空気も澄んでいる。
都会育ちで都会から一歩も出る気がない哲にとって、初めての景色で空気で音だった。

「は?」

少なくとも、先程までいた夜の化学準備室ではない。

「き、気がついた?哲く…大山くん」

名前を呼びそうになり、慌てて苗字に呼び変えて。
哲に声を掛けたのは、哲の知っている人物だ。
その横には、申し訳なさそうにしている青年。哲よりも少し年上だろうか、人の良さそうな青年は、気がついた哲に頭を下げて、口を開く。

「ごめん。日本から召喚なんて珍しいから何かと思ったら、ソウヤの気配がしたから、つい焦って。悪いことしたね」
「ロイさん、哲…大山くんを、兄さんだと勘違いしたみたいで…大丈夫?痛いとこない?」

付け加えるように、おずおずと話すその声は、知っている。
面と向かって話すのは随分久しぶりだ。
いつも遠慮がちな話し方。話し慣れてないのか、少し早口で、途中で止まりがちになるのも、哲は知っている。
だけど、知っているそれより少しだけ張りがあり、その顔は、知っているそれより明るかった。

…あんなことがあったのに。
咄嗟の激情と、こんなところにいたのかという怒り。それから、認めざるを得ない、確かな安堵。
同時に襲われて、哲は言葉に詰まった。

「サツヤ…」
「哲くん?」

久しぶりにその名を呼ぶと、サツヤも首を傾げながら、哲の名前を返して来た。
少し、笑って。名前を呼ばれたのを、喜んででもいるように。

あまりにも滑稽な幼馴染の再会。
だって、哲はサツヤが許せなかったのだ。
名前なんて二度と呼ぶことはないと思っていた。
サツヤだって、こんななんでもない顔なんて、二度とすることはなかったはずなのだ。
それを哲は知っていて、許容していて、それはもう崩せないもので。
あまりにも簡単に、名前を呼ばれると、もうなんと言っていいかわからない。

「…夢か」

悪夢に違いない。疲れてたのだ。
きっと化学準備室で転んで気絶してそのまま寝て夢を見ているのだ。
夢なら仕方ない。都合の良い夢には、現実の悪夢なんて関係ない。だからサツヤはなんでもない顔をする。
現実が悪夢なのか、普通に笑う夢のサツヤが悪夢なのかわからないけど。


「ごめん、哲くん、だったかな…残念ながら夢じゃないんだ」



魔神アスタロト。
そう、サツヤの隣にい青年は名乗った。
哲が描いたあの魔法陣は、この青年を召喚する魔法陣だったらしい。
魔神。そう名乗られても、目の前の青年は、普通のどこにでもいる人間にしか見えない。
困惑しつつ、魔法陣はソウヤに教えてもらったものだと告げると、ロイは首を傾げた。

「おかしいな。ソウヤに会ったのは、ブリアティルトに来てからだから、ここに来る前のソウヤが、おれの召喚術を知ってるはずはないんだけど」


話を聞いてわかったのは、ここはブリアティルトという異世界だということ。
サツヤはソウヤを追いかけてここに来たということ。
ソウヤは、サツヤが来る前に行方不明になり、みんなでソウヤの行方を捜しているということ。

二の句が継げないとはこのことだ。
そのうえ。

「ごめん哲くん。僕が行方不明になったから、心配してくれたんだよね?僕、兄さんを探さなきゃいけないんだ。兄さんが見つかるまで、僕は、帰れない」

せっかく迎えに来てくれたのにごめん。
そう頭を下げるサツヤに。
いや、勝手に連れてこられたんだから、迎えに来たわけじゃないとか、サツヤの邪気も悪意もない顔だとか、そもそも魔神って正気かなとか、異世界とか頭がおかしいとか、何も言えない。
何とか言えたのは

「…俺も、「ソウヤ」が見つかるまで、ここにいる」

乾いた口で何とか紡いだその言葉。

「哲くんも捜してくれるの!?助かるよ!」

それに手を叩いて喜ぶサツヤが、哲には化け物に見えた。








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2017-01-26 : SS : コメント : 0 :
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ちび女将ちゃん

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