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【放送局】じゃら★らじ1



「やあ、みなさんこんにちは!唐突に始まりましたじゃら★らじ!
DJはわたくしジャラヒ・ワートン!この放送は、赤雫☆激団の提供でお送りいたします。さてっと、なんでか唐突に始まったんだけど、何しようかな」
「おい」
「えーっと、第一回目だからな、緊張するな。噛んだらごめんな!許して!んー、さて。そうだな、ラジオだから、なんかコーナーがあるほうがいいよな」
「おい」
「街で見かけた美味い店をおれが調査するコーナーはどうだろうか。みんなに美味い店募ってさ。おれが食いに行くの」
「おい、金髪」
「あ、街で見かけた可愛いあの子にインタビュー!とかもいいな」
「…おまえは進行もうまくできないのかクソヤンキー」
「うるせえクソ魔神!だから!進めてるだろうが!邪魔すんな!」
「ほう、パーソナリティの紹介も出来ずして誰が進行だ」
「だ・か・ら・パーソナリティはおれ!ジャラヒ・ワートンだっつってんだろ!じゃら★らじなんだからな!」
「それはお前がじゃんけんで勝ったから、今週だけその名前になっただけだろ!来週は『ロイ★Tonight』なんだよ!!」
「ふっざけんな!なんだそのふざけた名前はふっざけんな!もっかい言うふっざけんな!古代のセンスか!」
「古代を敬え!サイバーきどりのクソヤンキーが!
…まあ、初めからどっきゅんヤンキーにおれのセンスがわかるとも思ってない。えっと、改めまして。始めまして、おれは岸辺ロイ。あのヤンキーだけじゃ不安だから、おれがパーソナリティを務めるよ。聞いてる君が、ちょっとでも楽しくなれる番組を目指してます。よろしく」
「まじめか!」
「いや、番組前の打ち合わせに遅刻して、やる気ないふりしながら、実は2時間前から裏で発声練習してた君ほどじゃないよ。」
「し、してねえよ!なんで知ってんだよ!」
「みんな知ってるよ。覗いてたし。素直に練習してたって言えばいいのに、『悪ィかったるくって忘れてたわー』とかあくび作って現場に現れた恥ずかしい君のこと、みんな知ってるよ。みんな、知ってるよ」
「うっせえ!お前らちゃんと打ち合わせしろよ!えーっと、なんだっけ、このアホと話てたら何しゃべるか全部忘れた」
「あれだよ、クリスマスの。クリスマスの話」
「あー、あれ!おまえが行ってきた舞踏会!潜入取材!」
「そう、今日はそのレポートの話だろ」
「今更だけどさ、終わったイベントのレポートってなんなの?ふつう、こういうのやってんよって紹介じゃね?」
「それはまた次回だ。『ロイ★Tonight』でやる」
「なあ、悪いことは言わんからさ、そのとぅないとって、恥ずかしいからやめよう?」
「次点の候補は、『星屑★ロイナイト』なんだが…」
「それはレイナイトさんファンに怒られるからやめとこう」
「そうだな。で、ジャラヒさん、おれ、舞踏会とか行ってきたんですよ舞踏会」
「ほう。舞踏会!仮面着て戦うやつですね!」
「それは仮面武闘会。仮面着てたのはフィントくらい。たぶん。で、その舞踏会、あれですよ、えーっとなんだっけ、エミリア・まるがりって?えーっと、フォンなんたらさんが主宰している、立派なものでして」
「フォンヴィルデンフェルス家。Emiliaのな。カンペくらいちゃんと読めよ。オーラムの貴族、エミリアのアティルトの屋敷であった舞踏会な。割とたくさん招待状出したっつってた。あ、エミリアっていうのは、知ってる人もいるだろうけど、オーラムで傭兵もやってる変わり者の貴族のお嬢さんな。どじっこ組合の理事長もやってるって言った方がわかりやすいかな。
で、へー、おまえ、あの大きな舞踏会にいってきたのかー」
「おまえ、わざとらしいなあ」
「うっせえ」
「うん、で、おれも珍しく着飾って行ってみたんだけど、やっぱりすごかったよ。各国の英雄さんとか、貴族さんとか、有名人がいっぱいいて、歓談して踊ってんだ。それに、その料理の美味いこと!」
「最後のだけ実感こもってんな」
「ああ、ローストビーフに七面鳥、チキンにポークソテー。鴨の燻製に、羊肉!あれはすごかったよ。さすがオーラムの貴族だったな。どんなコックなんだろう。肉料理ってさ、マッカもイズもセフィドも他もみんな国によって特色が出るんだけど、今回のは、まさしくオーラム特有、洗練されて、コックによる手間暇かかった料理って感じだったな。おれは、マッカのあの丸かじり肉も好きなんだけど、舞踏会には、今回みたいなコック会心の料理ってのが、やっぱり一番合うと思う。そもそもオーラムの肉は」
「ロイさん」
「ん?」
「肉の解説は今度にして、舞踏会。舞踏会だ。おまえ、肉しか食ってねえんだなってことはしっかり伝わったけど、レポーターとしての役割も思い出せ」
「優勝はリーシャとミソサだったよ」
「オチが早い!それもうちょっとひっぱって!そこメインの話だから!終わっちゃうから!」
「えーっと、おれはユーマさんやナスカや恵梨菜とかと飯が食えておいしかったよ」
「お前の楽しかった日記はどうでもいい!豪華メンバーってのは伝わったけど、そのへんをもう少し」
「あー。エミリアの友達の貴族の人がいっぱい来てた。貴族って感じだったぞ」
「あ、うん」
「美空さんがモテモテで、少年に口説かれてた。その少年と美空さんが踊ってて、少年たじたじだったよ」
「あー、そりゃもてるだろうなー美空さん。っていうか踊ったの?誘ったの?勇気あるなその少年!まじで。美空さんとダンスとか、おれちょっと想像しただけでびびる」
「そりゃお前がびびりなんだろ。それに、失礼だろ。美空さんは美しい女性だよ。誘わないほうがおかしいくらい」
「いや、そうだけどさ、おまえに言われたくないっていうか…そういうお前は踊ったの?踊れたの?」
「おれは、あの会場の肉をすべて品評するという使命があったから」
「どこの使命だよ」
「あ、でもさ、これはちょっと部隊に持ち帰れない話なんだけどさ、ダリアも着飾って踊ってたぞ」
「え?まじで?あの凶器冷徹女が?誰と?」
「すっげーたのしそうにブランと踊ってた」
「まじで?ブランと??英雄さんと踊るとかまじか…意外とやるなーあの女。ひえー。それはまじで驚いたわ」
「セリラートには言えない(笑)」
「言えねえ(笑)知ったらあいつ、ブランのとこ乗り込んで行って返り討ちにあうに1000G賭ける(笑)」
「いやいや、その前にダリアにやられる。3000G賭ける」
「そりゃ賭けになんねえって。……ってこれだめじゃん!!完全内輪ネタじゃねーか!!!」
「気が付いてなかったかもしれないけど、最初から内輪ネタでしかないぞこれ」
「止めろよパーソナリティ!」
「おまえDJだろ。曲かけないディスクジョッキー(笑)」
「うっせえ!かけるわ!かけまくってやるわ!えーっと、それでは一曲。CMのあとにな。レインボーRIOで『どっかん★RIAJYU』」

CM
どじっこ組合!
どじっこ~
じとっこじゃないよどじっこ~!
毎週がエブリデイ!どじっこコイン増量キャンペーン実施中!
あなたもわたしもどじっこおぶざわーるど!

曲イントロ
~レインボーRIO『どっかん★RIAJU』

「いやあ、どっかーんと気持ちを晴らしてくれるいい曲ですね」
「そうか?」
「ほら、この声可愛いじゃん!ほら!可愛いって言えよ!曲買えよ!」
「あ、うん」
「よし。さて、寂しいですが、そろそろお別れの時間がやってきましたっ。この番組では、みんなのリクエスト曲を募集してるぞ!みんな、好きな曲をどんどんリクエストくれ!あと、コーナーはまだ未定なんだけど、みんなのみつけた楽しそうなイベント教えてくれたら、潜入調査してくる予定!あとは、みんなのどじっこ体験を募集中!」
「どじっこ組合がスポンサーなのかこの番組…」
「何の話だと言いたいとこだがその通りだ。えーっと、ともかく!ここまできいてくれてありがとう!DJは、おれ、さすらいの絵描きジャラヒ・ワートン!」
「パーソナリティは、黄昏の魔神、岸辺ロイでした!」
「黄昏て」
「なんとなく思いついた」



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tag : 岸辺ロイ ジャラヒ 第10期

2013-12-26 : SS : コメント : 0 :
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【幕間】ロイとシアン

クリスマスプレゼント。

どうするかを問われて、ロイは間抜けな声を返した。

「は?」
「は?じゃないですよ、ロイさん。プレゼント、用意したんですか?」
「えーっと、クリスマスは部隊のみんなで料理作ってふるまって、プレゼント代わりにするんじゃなかったっけ」
「そうじゃなくて。大切な人のですよ」

腰に手を当てて、説教のように頬を膨らませているのは、赤雫☆激団メイドのドロシーだ。
親切で世話焼きなドロシーは、親切に世話を焼いて、ロイに尋ねたのだ。
『ご家族や、彼女さんに、プレゼントはいいんですか?』と。

家族にも、用意はしていた。
今度、空間が開くときに、帰って、家族と共に食事をとって、義父母には衣類を、義妹にはうさぎのぬいぐるみを、義弟にはサッカーのチケットを、それぞれ準備している。
ロイは、「チキュウ」の「日本」生まれで、その地で言う「水曜日」に、力が強まり空間を開き、好きな時空に移動することができる力を持っていた。
丁度、クリスマス当日が水曜日だ。帰ったらすぐさま実家に行って、祝い事を口にすればいい。
問題は、もう一つの方。

「うーん」

やっぱり、何もしないわけにはいかないだろうかと、眉を寄せる。

「シアンちゃん、きっと楽しみにしていますよ」

名前まで出されると、深くため息までつきそうになって、ぐっとこらえた。
シアン。
ロイの懇意にしている少女。
今は、元の世界に帰っていて、オーラムにいないが、一度はここブリアティルトで、ロイを支えていたこともある少女だ。
ロイはこのブリアティルトに残り、彼女は元の世界に戻ったので、長い間会っていない。
故郷日本とは違う世界にいる彼女には、ロイが会いにいかないと会えないのだ。
彼女とロイは、相思相愛。付き合っていると言われる仲。
一応、とつけたくなるのは、まだ覚悟が足りないからだろうか。
大事に思うことに嘘偽りないが、たまに苦く思うのも本音だ。

何せ彼女は、天真爛漫…と言えば聞こえがいいが、傍若無人を絵に描いたような女の子。
ロイも何度も何度も泣きを見たことはきっちりと覚えている。
それでも何故好きだと思うのかというと…
まあ、やっぱり、そういうことで…

「…ドロシー、おれ、ちょっとしばらく留守にする」
「はい。行ってらっしゃいロイさん。お帰りお待ちしておりますね」

と、いうことで、思い立ったら吉日。
その日のうちに、ロイは空間を開いた。
別に、会いたくなったわけでもない。たまたま今日が水曜日だっただけだ。
空間を開き、紋様を空に描く。
魔神アスタロトの力を正確に発揮して、正しい魔方陣が出来上がると成功だ。
次の瞬間に、ロイは思い描いた世界に辿りついていた。





「あれ?ロイ。来たの?」
「……うん」

いつもの召喚室から出ると、くだんの彼女がアンパンを頬張っているところに出くわした。
桃色がかった髪を肩まで揃え、好奇心を目に宿していつもらんらんとしている女の子。
服装は、馴染みの軽装、ミニスカートと白いシャツ。もう少しスカートは長い方がいいといつもロイは言っているのだが、聞きはしない。白色と桃色を基調とした恰好をしている彼女は、この世界の巫女なんてしている。
魔力を感じ、神の力を感じるとかなんとか言っていたが、ロイは詳しくは知らない。
そんな彼女は、ロイの姿を見て目をぱちくりさせると、そのままアンパンに向かいなおって、もぐもぐしたあと飲み込んだ。
小動物みたいでかわいらしいと、つい思ってしまうロイは、自分が毒されていることを自覚している。

「…えっと、急に来て悪いな…」
「何言ってんのよ気持ち悪い」

久しぶりに会うのだから、もっと感激して欲しかった。というわけではないが、アンパンなんて頬張っていた彼女に、ちょっと拗ねたように言うと、もっと冷たい言葉が返ってきたので、ロイは少しだけ傷ついた。
そんなロイに気づいてか知らずか、シアンは機嫌良さそうにロイの腕をつかんで、ぐいと引っ張った。

「さあ、付き合ってもらうわよ!」

何に付き合わされるのか、悪い予感しかしないが、久しぶりに触れた手の小ささと暖かさに、満更でもない気持ちになっている自分が憎い。
そう思いながら、ロイは息をつく。

「…お手柔らかに頼む」








彼女のお願いは、とてもシンプルだった。

「前にね!ロイが言ってた、クリスマスってやつ私もやってみたいのよ。クリスマス!ツリー!ねえ、ツリー作って!」

と、歩きながら捲し立てられ、久しぶりに彼女と歩く心地よさにどこかふわふわした気持ちになっていたロイは、森の中、モミの木の前で我に返った。
村から離れて、どこに連れて行かれるのかと思ったら、人のいない森の中。
目の前にあるのは、大きなモミの木。
モミの木。だろう。ほんとのところはわからない。日本じゃない、異世界の木の種類なんてロイは知らない。
ロイが手を伸ばしても両手の長さをはるかに上回る巨木。

その横のニコニコしたシアン。

「えっと、これをここで飾り付けるの?おれが?」

ちなみに、天高くそびえたその木の高さは、ビルの5階建て分くらい、だろうか。

「え?飾り付けもだけど、これ切って、家の近くに置きたいのよね」
「そういう無茶はルウィンに言えよ。おまえの下僕に」
「ルウィンは実家に帰ってるわよ。あれ?実家って私の家の隣なのに、変よね。どこに帰ったのかしら」

きっと逃げたに違いない。
シアンのお目付け役兼護衛をしているルウィン。
シアンの幼馴染である彼は、気が弱い風だが強かで、大事な時にはすぐ消える。
今までもそうだったので今回のも、何かを察知して逃げた後なのだろう。相変わらず危機察知能力の高さには感嘆する。

「切っても運べないだろこれ。飾りつけだけで我慢しとけよ」
「えー。家で見たかったのよ。ツリー」
「家で見るより、ここの方がいいだろ。…ほら、誰も気づかないだろうし、おれたちだけの秘密っていうか…」
「ロイがロマンチストなのは知ってるけど、そういうセリフは、全部終わってから言ってほしいわよね」



木登りなんてしたのは、子供の頃以来だ。
結局、シアンは飾り付けだけしてクリスマス気分を味わうという案に賛成してくれた。
こんな巨木を持って帰りたいとか、どういうつもりだったのか知らないが、承諾してもらえて安堵する。と同時に、いや、でもこれを飾り付けるのも酷く大変だと気が付いたが、にこにこした彼女の顔を見ると、やっぱりなしとも言えなかった。

「ロイ!遅いわよ!」

その彼女は、今はロイの頭上にいる。
すいすいと木を登る様は、ロイが見ても圧巻だった。素直にすごい。さすが野生少女。田舎生まれの巫女は一味違う。こんなでかい木もすいすい登れるくらいだから、お目付け役のルウィンも手を焼いたものだろう。同情はしないが。
一方ロイも、なんとか彼女にくらいついていた。
現代男子学生としては、かなり頑張っていることは認めてほしい。
トレーニングだって欠かしていないし、力もある、剣の技術も、傭兵として鍛えたこともあって、自信はあった。
彼女に野性的木登りの才能があるだけで、別にロイが悪いわけではない、と思いたい。

「…ねえ、ロイのその魔神の便利な力で、ちょちょいとツリーくらい飾れないの?」
「…無茶を、いうなよ」

たまに彼女は、ロイの力を、まるでどこかの便利な猫型ロボットのように言うが、ロイの力にだって、できることとできないことがある。
ロイに出来ることは、水曜日に異空間を自由に行き来することと、魔神の増幅された魔力による剣術くらいだ。
もう少し力を使うと、ターゲットの過去と未来を自由に見る力と、召喚者の何かの勝利を一つだけ約束することができる力があるが、この場合それが何の役に立つのだろう。
もっと、最大限に魔力を開放すると、どんなものの過去や未来をも言い当て、しばらくの間どんなことにも勝利する力を与えることも出来る。いわゆる何でもできると言える状態になるので…それを魔力に変換しどうにかすれば、モミの木を飾ることも出来るのかもしれないが、それはしたくなかった。
最大限に魔力を開放すると、人間としてのロイはなくなる。
100%魔神の力が体に行きわたり、このロイの姿はその間取れなくなるのだ。
ロイの姿が取れなくなるとどうなるかというと、絶世の美女魔神アスタルテの姿になる。女だ。彼女といるのに女の姿になるのはごめんだ。

ロイが唸りながら手を伸ばしている間も、ひょいひょいと次の枝に移ったシアンは、ポケットからキラキラ輝く玉のような飾りを出して、枝にくくりつけていく。
ロイも、金色に輝く紐をくるくると巻きながら、そのあとを追った。

どれくらい登っただろう。もう少しだと良いんだが。
下を見るとくらりとするその高さを、気にしないようにして、ロイは少し先を行くシアンを見上げた。
するとシアンは、こちらを見ていないのに、それに応えるように声を上げる。

「もうちょっとよロイ。てっぺん!てっぺんに星、飾るんでしょう?」

それから彼女は、そのままロイが上がってくるのを待って、ロイが息を切らしながら隣に来ると、にこりと笑った。

「はい、星」
「…いいよ。おまえやれよ、そういうの好きだろ」

一緒にケーキを食べても、ショートケーキのイチゴはシアンのものだ。
最初にそれを求められたときは、彼女の強欲さと本気で喧嘩をしたものだったが、慣れてきたのか飼いならされたのか、今となっては、何も言わずとも、ロイはシアンにイチゴを与える。
だから、今度もそうだとロイは言うと、何故だかシアンは頬を膨らませた。

「こういうのは、一緒にやるの」

どうやら、ロイに譲るつもりというわけではなかったらしい。
それから、一言付け加える。

「それと、他の子のこと考えちゃだめよ」

言われて少しどきりとしたのは、その星型の飾りを見て、思い出す少女がいたからだ。彼女は星が大好きで、よく飾りを身に着けていた。青い髪の元気な少女。今はいないリーダー。

普段どうでもいいようなことを言いながら、シアンは見るとこ見てるんだな…なんて感心しながら、ロイは頷く。

「そんな余裕あるように見えるか?飾るぞ。てっぺんな。バランス崩して落ちないように」
「ロイじゃないんだから」

手を伸ばして、てっぺんに被せる。
そっと被せて、それからそっと手を放した。
モミの木の大きさに比べれば、小さな手のひらサイズの星。
派手ではなく、光ったりもせず、どちらかというと地味なその星飾りは、握っているときはただの飾りだったけれど、モミの木のてっぺんに置かれると、それはまさしくツリーの星。
ただのモミの木は、これでクリスマスのツリーになった。
こんなにでかいんだから、立派なものだ。


「ふふふ、クリスマスツリーね」
「ああ。メリークリスマス」
「そう言えばいいの?メリークリスマス」

ロイの言葉を反芻して、シアンはたどたどしくそう言った。
人の口から聞くクリスマスが、こんなに新鮮に耳に届くなんて、ちょっとした驚きだ。
クリスチャンでもなんでもないロイに、クリスマスなんてそんなに深い意味はない。
だから、こうやってクリスマスを祝うのも、ただの会う口実の一環で、プレゼントをどうやって渡そうとか、そんなことしか考えていなかった。
だけども、シアンのわがままのおかげで、ロイにとって、今日は疑う余地もなく、今までのどんなクリスマスよりもクリスマスだ。
こんなでかいツリーを飾り付けたのだから、クリスマス以外の何物でもない。

「あ、そうだ」

がさごそとポケットを漁ったのはほかでもない。
渡すとしたら、このタイミングしかないだろう。

「なになに?」
「クリスマスプレゼントだ。今日は、渡そうと思ってこっちに来たんだけど…」
「え?クリスマスってプレゼントもらえる日なの?すばらしすぎるわねクリスマス…!」

感激してキラキラ目を輝かせているシアンの手を、そっと取る。
それから、その手首にくるりとそれを巻いて止めた。
チェーンと皮ひもが組み合わされた先に、薄桃色の石。
取れないよう結びつけて、ロイはうんと頷いた。

「…ブレスレット?」
「お前の好きな高いもんじゃなくて悪いけど。桃色水晶の石、魔力上がるらしいぞ」
「すごいじゃない!」
「いや、日本には魔力なんてないけどな」

そんな効能があるといいな、くらいで思っておいてくれ、と言うと、シアンは意外にも、こくりと素直に頷いた。
それから、じっと手首に巻かれたブレスレットを見ている。
彼女が、もらったものに文句も言わないなんて、珍しい。
それどころか、にこにこして、きらきらして。
ロイは、なんだかもうしわけなくなってきた。
似合うかも、くらいでアクセサリー屋で買った安物だ。
もうちょっといいものをあげたら、もっと喜んだだろうか。
たかがクリスマスなんて思わずに、もっといいものをあげたらよかった。
もっともっと、喜ばせたかった。

「あのさ」

口をついたのは、今言おうとは、全然思ってなかったことだった。

「おれ、こないだ大学生になったんだけど」

ダイガクセイ、なんて、彼女にはわからない、関係のない言葉だ。
案の定、シアンはきょとんと首を傾げている。

「たまに、色々考えるんだ、おれの未来」
「…うん」

高校生の頃、初めて異世界なんてわけのわからないところに飛ばされて、シアンに会った。
それから、自分に何やらわからない力があるのを知った。
その力のおかげで、ロイには居場所がたくさんある。
一つは、生まれ育った故郷、日本。
血の繋がりはないけれど、育ててくれた義父母と、可愛い義妹に義弟。
それから、今までに出来た学校での友達。みんな大事なものだ。
一つは、シアンのいるこの世界。初めて来た異世界というのもあって、思い入れがある。自分のこの力のルーツでもあり、ここで過ごした長い時間は、日本と同じくらい、自分の故郷だと思える。
一つは、ブリアティルトのオーラム。
リオディーラという少女に召喚されて、彼女を助けていただけのつもりだったけれど、その家で落ち着いていると、そこもやっぱり、自分の帰る場所だと思える。
どれもこれも、大切なロイの居場所で、いつか大人になって、どれか選べなんてことになったら、ロイには選ぶことなど出来るはずがない、と思った。
別に、選べなんて言われてないのだけど、大学生なんてやっていると、たまに考えてしまう将来。

「決めなきゃとは思うんだけど、なかなか決心がつかなくて」

ロイには魔神として、未来を見通す力があるけれど、未来と言うのは無限にあって、その一つをどう選ぶかなんて、思うだけで立ちすくみそうになる。
未来が見えるなんて碌なことがない。それは本当に正しい。
だから、ロイはもう自分の未来なんて見ないことに決めている。

「卒業するまでには、決めようと思う」
「ソツギョウ?」
「あと…うーん、3年…4年、かな」

日本で就職して、休みの日に今みたいに異世界を飛び回る、というのもできるかもしれない。学生を続けるという道もある。それとも、いっそ、異世界に住んでしまうのもありかもしれなかった。シアンと同じ世界で暮らすのだ。きっと楽しい。
だけど、ロイには今それは選べない。

「…まあ、別にいいけど、なんていうか、それだけ待った結果、結局地獄に突き落とされるような答えは聞きたくないわね」
「あ、うん、それは…善処します。いや、ない、ないよ」

シアンが視線を外して呟いたので、ロイは慌てて首を振った。
ともあれ、何の話?と聞き返されなかったのだから、つまりは、そういうことだろう。
そのことに、胸を撫で下ろす。
『あなたの将来と私に何の関係があるの?』なんて言われたとしたら、男としてショックでこのまま木から地面に体を投げたくなるところだった。

「まあ、でも、よかった」

そう言ってシアンは腕を大きく伸ばした。
大丈夫とわかってはいるが、危なかしく思えて、彼女の腰を支える。
それから、少し震える彼女を支えて、彼女が言葉を迷いながら続けるのを待った。

「ロイ、あんまりこっちに来れないから、このまま忘れられるのかしらって、たまに思ってたの。まあでも、それはそれで仕方ないなって」

思ってたの、と明るく言うのは、シアンの強がりなのだろうか。
そうかもしれないし、でもシアンは強いので、本当にそう思っていたのかもしれない。そうだとしたら少し悲しいが、頻繁に来れない事実を考えると何も言えなくなる。

「でも、やっぱり、忘れてないのね。よかった」

よかったと繰り返して、シアンは目を伏せた。

「クリスマスって、素敵だわ」

クリスマスって素敵。
そんなこと、初めてロイも思った。

「ちょ、ちょっと、ロイ、落ちるわよ?」

思ったので、心の中でサンタに感謝して、ロイはシアンの腕を引いた。そのまま凭れ掛かってくるシアンを受け止めて、ぎゅっと、背中に手を回す。

「大丈夫。支えてるから。知ってるか、シアン。クリスマスの言い伝え、もう一個教えてやろう」

言い伝え、なんてちょっと曖昧だったが、そんなことどうでもいい。
今までほとんど気にしたことはなかったが、今日は特別だ。
信じれば、曖昧な言い伝えだって、本当になるに違いない。
何?と顔を上げたシアンに、ロイは微笑んだ。
それから

「モミの木の下でキスすると、永遠に結ばれるんだ」

そっと顔を近づけて、彼女の小さな唇に、自分のものを合わせた。
あの言い伝えは、ヤドリギだったかもしれないし、もっと違うものかもしれない。
だけど、そんなことより、今自分の気持ちをシアンに伝えるのにはこれが一番最適に思える。
そんな気持ちを込めたクリスマスの言い伝えが、どこまで伝わるかもわからないけれど。
数秒後、顔を赤くしたシアンは、照れたようにロイを睨んで、早口で言った。

「…ここ、モミの木の上じゃない」
「じゃあ、早く降りないとな」

そう答えると、シアンは赤い顔はそのままに、吹き出す様に笑って。
そうね、と言って、ロイの手を握った。

tag : 岸辺ロイ 第10期 シアン

2013-12-26 : SS : コメント : 0 :
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リオディーラ

なんとなく赤雫☆激団リーダーリオディーラちゃん
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tag : リオディーラ

2013-12-23 : : コメント : 0 :
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みけくん

みけたま探索隊のたまくんの弟みけくん描かせてもらいました。

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2013-12-22 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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ブランさん

ふぁんたじっくでちゅうにちっくな絵が描きたくなってお借りしたブランさん。
センスのなさゆえにあれ~?と撃沈してしまいましたがまたリベンジしたいものです。

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2013-12-22 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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【SS】ダリアとジェイン

昔話
□■□■□■

神出鬼没なもの、と聞いてダリアが思い浮かべるのは、台所の敵の黒いやつと同時に「これ」だった。

「これ」を目の前にして思う。
夜も更けた帰り道。
人通りもまばらな小道を歩いていたダリアは、その足を止めた。
仕事も終わって、組合に報告に戻るダリアの前を、台所の敵と同じくらい黒い男が道を塞いでいる。
一瞬足を止めて、それからダリアは顔色を変えないように努めながら、その男の脇をすり抜けるように再び歩みを進めて

「目が悪いのかダリア。俺だ」
「貴方は無視しようと決めた私の気持ちが全く見えてないようね」

腕を掴まれ、仕方なく立ち止まる。
暗闇に紛れてわかったのは、男の眼鏡。それさえ認めればすぐにわかった。こんな風に突然現れて突然妨害してくるのは昔からこの男に決まっている。

ジェイン。
組合でも随一と言われる腕利きの暗殺者。
マイペースで、気に入った仕事しかやろうとせず、その依頼すべてが文句のない仕事ぶり。今までにその仕事を失敗したことはない。
以前は楽な仕事ばかり引き受けているのかと揶揄されることもあったが、今はもう誰もそんなことを言うものはいなかった。どの仕事内容も、自分の身すら危なくなるような、誰もが避けて通る依頼ばかりだ。ダリアが聞いても、なぜそんな仕事を受けたのかと言いたくなるようなものばかり。
組合の裏切り者の処分から、某国の大統領の娘の誘拐、金になる仕事もあるが、愛人が妊娠したから処分したいなんて後味の悪い仕事や、子供からの愛犬の安楽死依頼なんて金にもなりそうにない仕事も、顔色一つ変えずにやってのける。
引き受ける基準を聞いてみたこともあるが、気分としか答えは帰ってこなかった。本当なのかもしれないし、何か考えがあるのかもしれない。
が、この男の考えることはわからないと早々に諦めたダリアは、そんなことはどうでもよかった。
問題なのは、この男が引き受けた仕事が、一人では出来ない種のものだったとき。

「行くぞダリア」

この男の相方なんて誰も引き受けるわけがないので、こうやっていきなり現れて、ジェインはいつも強引にダリアを連れて行くのだ。


「…私はまだ了承も何もしていないんだけど」

例のごとく、ダリアは腕を引っ張られながらぼやいたが、ジェインが聞く耳を持つはずがなく。
手を引かれたダリアは、結局巻き込まれるのが常である。ダリアに出来るのは、ため息をつくことだけだ。




それからダリアが我に返ったのは、大広間の真ん中だった。
きらきらとシャンデリアがまぶしく輝き、ダリアを照らしている。まるで昼間のような明るさに目がくらむ。
そして広間には大きなテーブルがたくさん並んでいて、その上にはダリアも見たことがないような料理の数々。
それを取り囲む人。
流れる優雅な音楽。
人はみんな着飾っていて、なにやらにこにこと談笑をしている。
加えて言うなら、ダリアも薔薇色の見たことないようなひらひらした衣装を身にまとっていて、横にいる金髪の見知らぬ男は、上等なスーツのようなものを着ている。
見知らぬ男。いや、実際は見知らぬわけはない。
ジェインだ。
人の好さそうな微笑みを浮かべながら、ジェインは優雅に、時折ダリアを気にするように手を引いたりしながら、慣れたかのように広間を歩いていた。



あのあと、強引に連れ去られ、小屋みたいな部屋に押し込まれ、上に下に揉みくちゃにされ、ひっぱられ、押され、広げられ、目を閉じたり開いたりして、抵抗するのも虚しくなるくらい何が何やらわからず目を回したあと、ぽいっと部屋の外に出されたダリアが見たのは、この男だった。
いつもの黒髪でない、金髪で、高そうなスーツを着ていて、見たことがない笑みを顔に浮かべている男。
それでもそれがジェインと分かったのは、ぶっきらぼうに口にされた「行くぞ」という声のおかげだ。
何が何やらわからないままジェインにエスコートされ、気がついたらダリアは何やらパーティをしている広間のど真ん中だった。

ようするに。

(今回のターゲットが、この中にいる、ってことよね)

仕事だ。
この宴を開いた主催者か参加者か知らないが、ジェインの次のターゲットは、この会場のどこかにいるのだろう。
ジェインはこうやって変装して、客になりすまして、機会を窺っているのだ。
こんな大がかりなパーティではパートナーは必須。故にダリアが連れて来られたのも無理はない。が、説明が足りないのはいつものこととはいえ、もうちょっと何とかしてほしい。
突然ドレスに着替えさせられ、髪は纏められ、濃い化粧をほどこされ放り投げられたこっちの気持ちも察して欲しい。
ふう、と息をついて、ダリアは諦めた。
文句を言っていても、この男にはきかない。
さっさと仕事を終わらせて、このことをネタに報酬を多めに貰おう。
そう決めたダリアは、改めて注意深く、そっと周囲を見回した。
会場は、広い。ダリアの場所からは、奥が見えないくらいだ。
大きな屋敷がすっぽりと入ってしまうくらい。
それから、この人の多さ。
身なりの良い人物ばかりが、何を考えているのかわからない笑顔で談笑している。見知った顔もいくつかあった。直接会ったことがあるわけではない。ゴシップ誌で見たことがある顔。女優、俳優、企業家、名だたる面々が、そこかしこにいる。
この中の誰かがターゲットだろうか。と、ダリアは息をのんだ。
だとすると、でかい仕事だ。
明日の朝刊の一面を飾るに違いない。いつも以上に、足が付かないように注意する必要がある。
と、

「ジェラルド!」

若い男が、ジェインに手を挙げて微笑みかけた。
それに頷いて返すジェイン。
近づいた男は右手を差し出し、ジェインも応えてその手を取る。

「やあ、おめでとうジェラルド」
「ありがとうございます」

ジェインは、遠慮がちに見える微笑みで男に返した。
ジェラルドというのは、ジェインの偽名だろうか。その名を呼んだ相手の男は…見たことがあった。茶色い髪を後ろに撫でた青年。白いスーツに、自信にあふれる振る舞い。最近、社長に就任したという車の会社の若社長だ。50年居座っていた先代が、ついにその席を孫に譲ったのだと新聞を賑わせていたのは、ダリアも知っている。

「あの小さい子がもう15か…大きくなったもんだな。
先ほど挨拶をしてきたが、さすがワートン家ご子息。しっかりしてるってもんじゃなかったぞ」
「ありがとうございます。愚弟が失礼をしていないといいのですが」
「ははは、失礼どころか。自慢の弟だろ?…失礼お嬢さん」

ジェインの肩をぽんと叩いた男は、後ろに控えていたダリアに気が付いて、軽く会釈をした。

「ジェラルドがこんな可憐なお嬢さんを連れているとは。フィッツェ・ジャーノンと申します」

手慣れたような笑顔で自然にウインク。フィッツェというのは、やはり、ジャーノン社の若社長の名前。その若社長が、なぜジェインに気安く話しかけているのか疑問に思いながら…、その疑問を顔に出さず、ダリアもドレスの裾を小さく持って答える。

「ダーリアです。よろしく」

ジェインを真似て、少し遠慮がちに、小さく口の端を上げて、名前だけ名乗る。
すると、フィッツェはいたずら気に笑ってそれから小さな声でダリアを窺った。

「ジェラルドくんが女性を連れているところは初めて見たよ。失礼だけどどんな…」
「彼女には、僕の仕事の手伝いをしてもらってるんですよ。今日は、いつものお礼にと思いましてね」

フィッツェの声を遮って、ジェインが答えた。
ジェインはそう頷いて、ダリアを振り向いたので、ダリアもそれに合わせるしかない。
仕事の手伝い。間違ってはいないけれど。

「私こそ、ジェラルド様のもとで、勉強させていただいた上、こんな素晴らしい会に招待していただけるなんて、身に余る光栄です」

何が何やらわからないが、辛うじてそう答える。と、それを聞いたフィッツェは、それで満足したようだった。
そうかと笑顔で頷いて、まだ挨拶の途中だからと、再びダリアに会釈して、その場から離れていった。

その背中が遠ざかったのを見て、肩をなでおろす。
言いたいことはたくさんあるが。

「あんたって、そういう演技をしているときは、普通に喋れるのね」

隣の男にそう言うと、男はちらりとダリアを見て、それからまた何事もなかったかのように、広間を進んだ。

進んで、それから。
歩く度に、ジェインに声がかかる。
それをジェインは緩やかに交わし、ダリアも先ほどの調子でそれに合わせ、繰り返されるそのやりとりに、ようやく慣れてきたころ、この場が何なのかなんとなく察する。
今日は、『ジェラルド』の弟の15の誕生日らしい。
その弟はたいそう出来が良く、この会は、彼の誕生日を祝うと同時に、そのお披露目の会のようだった。
15にして、行く末がこれほど期待出来るとは、さすが『ジェラルド』の弟だ。
行きかう人々すべてにそう肩を叩かれ、『ジェラルド』は無難にそれをかわしていた。
15だという、ダリアと同い年であるその才気あふれる少年のことより、ダリアが気になったのは、やはりその『ジェラルド』のことだ。
『ジェラルド』という青年は、実在している。
それは、ジェインの別の姿なのか、それとも、ジェインが『ジェラルド』に扮しているのか。どちらかはダリアにはわからなかった。
ダリアが知っているのは、金髪の、真面目で弟思いの『ジェラルド』ではない。黒髪でどうしようもない意思疎通不能男。ジェインだ。
だから、ジェインの仕事に仕方なく付き合うダリアは、いつも通り動くだけ。
ジェインがいつターゲットに狙いを定めてもいいように、周囲を探る。どうやって彼が手を出すのかはわからないが、念のため逃げ場の確保をしておく。一番近いドアからは5m。駆けだすには…

「ダリア」

名前を呼ばれて、ダリアは思考を止めた。
顔を上げると、ジェインに笑みはなく。つまり、いつもの仏頂面がそこにあって。

「こっちだ」

そのいつもの顔や言葉とは裏腹に、優しくダリアの手を取って、ジェインはするりと人込みを抜けた。


抜けた先はバルコニーだ。
夜風が通るせいか、人は少ない。寒さよりも、ほっとした心地でダリアは小さく息をつく。そして、周囲を窺った。
ジェインが動いたのだ。
きっと、そろそろ、仕事の時間。
とはいえ、ダリアが手にしている武器と呼べるものは、ヘアピン代わりに着けている頭の毒針と、火をつけると弾ける軽い爆薬くらいで、今回はジェインのサポートに回るしかない。
と、ジェインを見る。
ジェインは、外を見ていた。
外には広い庭しかない。
庭に人気はないが…もしかしたら、誰か潜んでいる可能性は十分にあった。
ここから狙撃をするのだろうか。だとすると、ダリアの役目は人の目を逸らすことか…。

「そこに、ターゲットがいるの?」
「ターゲット?」

いつまでも庭を睨むジェインにそう問うと、ようやくジェインはダリアに顔を向けた。

「庭に今回のターゲットがいるんじゃないの?」
「庭には木しかないが…誰かいるように見えるのか?あれは月明かりの影だ。目の悪さ、どうにかした方がいい」
「……」

きっぱりと、顔色も変えずにジェイン。
殴ってやりたい衝動を抑えるのに、少し苦労する。

「……じゃあ、何を見ていたのよ」
「木だが?」

仕事中でなければ確実に殴っていた。
何をバカなことを聞いてるんだと言いたい様子のその顔を崩してやりたい。いつか崩してやる。そう決意を新たにしていると、ジェインはやれやれ、とでも言うように肩を撫で下ろした。

「…いい加減に教えなさいよ。早く仕事を終えましょう。誰なのターゲット。さっさと終わってあんたを殴りたいわ私」
「…ふむ」


ジェインが頷くのを見て、しばし待つ。しかし、ジェインは頷いただけで何も答えようとはしない。
ダリアにそれを言わないのはなぜなのか。
ジェインは今までだって、ターゲットの詳細をダリアに伝えなかったこともあった。それをダリアが頼られていないと卑下したことはない。知らない方がいいと、ジェインが判断したから、それに従う。そのあたりのジェインの匙加減は正確だ。だから、ダリアも普段それを問わない。
ダリアが単独で仕事をするときは、ジェインをあてにしようなんて思ったことはない。身の丈に合った依頼を受け、確実にこなすのがダリアだ。だけど、こうやってジェインに連れられ、予想外の依頼を受けるのは…迷惑ではあれど、嫌いではなかった。
神出鬼没で迷惑な男ではあるが、その仕事ぶりは、横で見ていてためにもなる。無駄がなく、緻密で、練りこまれた計画。スマートな実行。人となりはさておき、ジェインの仕事はダリアにとって好ましくも思っている。

だから、ダリアが今ターゲットを聞いたのも、明確な答えが返ってくるのを期待してのものではなかった。
急かすつもりだっただけの軽口。
案の定、いつもの通りジェインは黙ってダリアに答えようとはしていない。
だけど…

何故だか、いつもと違う気がして、ダリアは居心地が悪くなった。

「今日、話した、あの中にはいないわよね、まだ会ってない人?」
「……」
「そういえば、あなた『弟』がいるらしいじゃない。挨拶に行かなかったけど、いいの?」
「……」
「もしかして、その『弟』がターゲットだったりするのかしら」

当たっているとか間違っているとかはどうでもいい、あてずっぽうに口を滑らせる。しかし、続くこと言葉も思いつかずに、ダリアは諦めて空を見つめた。
結局のところ、待つしかないのだ。
と、唐突に。

「半分は、当たりだ」
「…は?」

口を開いたジェインは、明らかにいつもと違っていた。

「任務は完了だ。ダリア」
「ど、どういう…」

相変わらずの冷たい目。
しかし、どこかこちらを見る目には、いつもにない感情があった。
それが何なのか、ダリアにはわからない。
ダリアに見えたのは、いつもの感情なんてどこかに落としてしまったようなこの男にも、何か思うことがあるのだと、それだけ。



と。

「大変だ!!!ジャーノン社長が…!!!」

いきなり会場がざわめきだった。

「発作らしい!倒れたとか…!医者は…!?」

広間からところどころ聞こえる声を拾う。

「ジャーノンって、さっきの…」

ジェインに初めに挨拶した、あの男だ。元気そうで、持病があるようには見えなかった。
ジャーノン若社長の突然の発作。
幸い、ワートン医院の医者が会場に何人かいるため、一命は取り留めたらしい。
聞こえてくる情報を頭にまとめる。

そうなるとジェインのターゲットはあの若社長だったのか。
しかし、致命傷ではなく一命は取り留めたらしい。
これはジェインの失敗なのか。
ジェインの顔を窺うと、彼の表情にもう色はなかった。
何の感情も見えない、いつもの顔。

「…いくぞ」
「え、ちょ、ちょっと、ジェイン?」

ジェインは、人影にするりと潜り込んだ。人の流れに逆らわず、気づかれないように脱出経路を辿る。
意味することは一つ。任務完了だ。

「な、なんなのよ。もう」

毒づきながらも、ダリアも彼のあとをするりと追い、その場から気配を消す。
喧騒から離れたダリアたちを目にとめるものは、誰もいなかった。












「…答え合わせが必要か」
「バカにしているのでなければ、お願いしたいところね」

後日。報酬を求めてジェインを呼んだダリアを見て、開口一番にジェインは言った。

「どこまで知りたい?」
「珍しく親切ね…厄介な目に合わない部分だけでいいわ」
「……難しいな」

とりあえず、定食屋の奥に席を取り、よくわからないが一番高そうなものを頼む。どうせ支払いはジェインだ。よくわからずに付き合ったのだから、それくらいはしてもらわないと割に合わない。


「『ジェラルド』の弟への誕生日プレゼントだ」
「…そもそもジェラルドって…いいわ。言わないで。そこは聞かないでおく。嫌な予感しかしないから」

危険な情報には触らない。ダリアの処世術の一つだ。危険な場所には敢えて乗り込め、というのもダリアの行動指針の一つだが、相反するようでありながら、ダリアが心に思うのは同じだった。
自分が触っていいもの、いけないもの。
ようはバランスとタイミングだ。
見極めた上で選ぶ。避けすぎると知らずして命を落とすが、知りすぎると危険を呼び込む。危険というものは、飛び込むにはいいが、呼び込んではならない。
ジェインが持ってくる話は、後者ばかりだ。厄介ごとにかかわりたくはない。

「今回のことで、ジャーノン社に恩を売ることができた。ジャーノン社は、あれの会社の傘下に入ることになる」
「…つまり、恩を売るために、どうにかしてジャーノン氏の発作を起こしたってこと?」
「知らん。発作は演技だろう」
「は?」

自分がやったかのように言いながら、知らんと言い切ったジェインは、顔色も変えずに続ける。

「フィッツェはジャーノン社の体制を変えたがっていたからな。一時的に傘下に入ることに異論はないらしい。あの男にとっても、ジャーノンのお偉方に口を出させずに体制を変えるいい機会というわけだ。こちら…『ジェラルドの弟』の会社にとっても、強大な力を得ることができる。フィッツェもこの件で密かに恩が売れる。そういう取引だ」
「へ、へえ…」

難しい話はよくわからない。
が、ジェインが言い直した言葉に少し違和感を覚えた。

「『ジェラルドの弟』の会社ね…『ジェラルド』は会社を継がないのね」
「……」

それを指摘したのは、ちょっとした意地悪だ。
『ジェラルド』が何なのか、ダリアにはわからない。
もう死んでいる人物をジェインが演じているのか、それともジェインがジェラルドなのか。
目の前のジェインはいつもの黒い髪をしていて、あのきれいな金髪はどこかに消えていた。だけど、あの『ジェラルド』が一夜だけの人物とは到底思えない。
『ジェラルド』という人物はいるのだ。

「それとも『ジェラルドの弟』が会社を継ぎたがっているとか?」

そう問うと、ジェインは少し意外そうな顔をした。
それが何なのかはわからない。が、何か、初めて指摘されたような顔をし、そしてそれは一瞬にして消える。

「『ジェラルドの弟』がどう思っているかなど、俺は知らん。ともかく、答え合わせは以上だ」

話はそこで終わりらしい。
席を立ちあがろうとしているジェインの手を、ダリアは止めた。

「…結局、今回のシゴトはなかったってことなの?あんたにしては珍しいわね。それに、なんで私まで行かなきゃいけなかったのよ」

暗殺者としての仕事は失敗ではないかと案に言ってやる。
全く関係ないのに巻き込まれたダリアとしては、皮肉の一つくらい言ってやらないと気が済まない。
すると、ジェインは、その冷たい顔を少しだけ得意げにゆがめて。

「ジャーノン社の社長がなぜ、息子ではなく孫に継がせたのか。それが一つ目の答えだ」

決まっている。ジェインが仕事をしたからだ。

「もう一つの答えは…」

そこで少し、ジェインは答えに窮したように黙って、それから続けた。

「…美味い物、食いたがっていただろう?」

tag : 第10期 ダリア ジェイン

2013-12-21 : SS : コメント : 0 :
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Ninaちゃん

ご依頼いただいてNinaちゃん幼少ばーじょん。
いつもありがとう!
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2013-12-16 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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クリスマスゲリライベント

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2013-12-15 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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【幕間】ジャラヒとドロシーとジェイン

冬も真っ只中クリスマス。
まだ17時も過ぎたばかりなのに外は暗い。雪こそ降っていないのでホワイトクリスマスにはならないが、窓には白い霜がこびりついている。
普段も賑やかな屋敷ではないが、今日はいつも以上の静けさで、それがまた寒さを増して感じさせた。
体を震わせ、手を擦り合わせながら、ドロシーは急いだ。
無駄に広い屋敷の中では、走ることは許されない。
今は誰も見ていないが、それでもドロシーは屋敷の規律を破るつもりはなかった。
現在、クリスマスだというのに、屋敷にはほとんど誰も残っていない。
旦那様は大統領出席のクリスマスパーティに出て行ったばかり。召使も大半は駆り出されていて、屋敷に残っているメイドはドロシー1人。
それとは別に残ったのは

「ろろしー!ろろしー!」
「はいはい!すぐにお待ちくださいましね~!」

向かう先にいる、この屋敷の子どもたち、二人だ。


扉を開けると、小さい物体が飛びついてきた。

「ろろしー!おそい!」
「はいはい。ドロシーですよ、ジャラヒぼっちゃん。あら、泣いてないんですね」
「なかない!えらい?」
「偉いです!さすがぼっちゃん!」

飛びつかれた勢いで抱き上げる。
想像していた泣き顔ではなく、ほほ笑みを浮かべた金髪の幼子は、にっこりと得意げだ。
泣き虫な彼が珍しい、とドロシーはもう一人の少年に目を向けた。

「遅くなってすみません、ジェラルドぼっちゃん」
「べつに…」

ジェラルド・ワートン。このワートン一家の長男。わずか10歳にして、学校を既に卒業し、家庭教師らも舌を巻く神童。ベッドの縁に座って本を読んでいるこの貫禄のある姿は、10歳児とは思えない。
ワートン一家の宝にして、今ドロシーの抱えている幼子ジャラヒの兄である。

「僕一人で大丈夫だと言ったんだが」

眼鏡の奥の鋭い目をドロシーに投げかけ、小さく嘆息する。

「…まあいい。そこの小さいのを連れて行ってくれ。僕は本でも読んでいる」
「ろろしーろろしー!にいさまね!絵本!よんでくれた!」
「あらまあ、よかったですねえジャラヒぼっちゃん」

きゃっきゃと腕の中で飛び跳ねるジャラヒは、両手をジェラルドのほうに伸ばしてにこにこしている。
ドロシーがジャラヒを床に下ろすと、ジャラヒは飛び跳ねてジェラルドに駆け寄る。ジャラヒはにこにこしながらジェラルドの横に座り、兄をまねるように、すましたポーズでベッドに座った。
それを一瞥したジェラルドは、一瞬言葉に詰まって瞬きをしたが、それを悟らせる前に、手にした絵本をドロシーにつきつけた。

「くだらない。幼稚な話だ」
「あのね!ねがいごとかなうんだって!すごいのよ!」
「…何度読んでも感動できるのがすごいなこのバカは」

ジェラルドが手渡してきた本は、薄汚れて、擦り切れていた。
何度も何度も読んできた本。
まだ、奥様――母親が元気であったとき、ジェラルドに読み聞かせ、そしてジャラヒにも読み聞かせていた本。
ドロシーも、ジャラヒが寝る前に毎日枕もとで読んでいる。
何度読んでも、ジャラヒはその話が大好きだった。

「ねえ!ろろしー!よんで!」

何度読んでも、一番それが嬉しいことのように、ジャラヒはそれをせがむ。

「ジャラヒぼっちゃん、あとにしましょう。今日はクリスマスですから、三人で七面鳥とプディング食べましょう」
「三人って、僕はべつに…」
「”三人で”、ご飯食べましょう。ね?」

クリスマスパーティで家中出っ張らっていて子供だけ残されているなんて、ドロシーには許せない。二人の子供を預かった責任もある。
こうなったらはりきって…と七面鳥のようなものを焼き上げてきたのが先ほど。
当のぼっちゃんたちは、兄の方は心底どうでも良さそうで、弟の方はクリスマスが何かもわかっていなそうだったが、ドロシーは有無を言わさず、まず兄をにらむと、兄は押し黙って諦めたようだった。
弟のジャラヒは、むうと頬を膨らませている。

「ねえぼっちゃん、お兄様とドロシーと、三人だけで寂しいですけど、楽しく過ごしましょうね」
「さびしくないよ、ろろしー」

金髪の幼子は首を振ると、ドロシーが脇によけた絵本を手に取って、それをぎゅっと抱きしめた。
それから絵本越しに顔を覗かせて。

「ろろしー、クリスマスはとくべつでね、ねがいごとがかなう日なんだよ?しってる?」
「…ジャラヒ、それは間違ってるぞ。色々と混ざって…」
「もーにいさま!ばか!」
「ば、バカ??」

ジェラルドが眉を寄せて訂正しようとすると、小さな手の短い人差し指をぎゅっと前に突き出して、

「ぼっちゃん、人に指をさしてはいけません」
「はーい」

突き出した手を開いて大きく返事をした。
それからしばし考えた風に頭をひねって、絵本を手にしながら、ジェラルドに訴えかける。

「だからね!にいさま。クリスマスはいいこはねがいごとかなうの。わるいこはろろしーにたべられちゃうの。わかった?」

振り向いて、ぼくいいこだから!と得意げにドロシーにアピールしてから、ジャラヒは兄の横にもう一度よじ登ってぎゅっとその腕にくっついた。

「ぼく、にいさまがろろしーに食べられるのいやだから、いいこにしようにいさま」
「…僕もドロシーには食べられたくないけど…そのドロシーが睨んでいるからとりあえず謝ろうな、ジャラヒ」

先制の二人そろってのごめんなさい攻撃に、怒るタイミングを失ったドロシーは、ふう、と息をついて、ジャラヒの隣に腰かけた。

「そうですね、さびしくないですよね」
「うん!ろろしーがいま絵本よんでくれたら、もっとさびしくないよ!」

にこっと邪気のない笑顔に、ドロシーはしてやられたことに気づいた。
ジャラヒの向こうのジェラルドは、諦めたように虚空を見つめている。
この少年は意外と押しに弱いのだ。これにやられて、今日ももう何度かこの絵本を読んであげていたのだろう。
いつだったか、聞き飽きたとかもう空で言えるとか、一度で覚える頭の良さが憎いだとか言っていた。
10歳児にしてその悟った顔を見ると、少し将来が不安になるが、逃げださないその根性は褒めてやっていいものだ。

「じゃあ、一度だけですよ」

一度だけと念を押して、元気なジャラヒの返事を聞く。
ドロシーも、何度も何度も擦り切れるほど読んで、見なくても覚えている絵本。
願い事を叶えるために、女の子が冒険をして幸せになる絵本。

「『昔々あるところに女の子がいました』」

女の子は、願い事が叶う国の話を聞いて、旅に出る。
旅に出て、いろんな冒険をする。
その冒険の話を聞きながら、ジャラヒの目はいつも輝いていた。

「『女の子は旅の途中、倒れている魔神を助けました。
魔神はありがとうと泣きました。お礼に黄金の国につれていくと言います』」
「だめだよ!まじんはわるいやつなんだ!だまされちゃうぞ!!」
「ジャラヒ、黙ってろよ」

何度も聞いた話に、ジャラヒは何度も聞いたところで声を上げる。

「『魔神は女の子を食べてしまうつもりでした。だけど出来ませんでした。女の子はだまされなかったのです』」
「よかった!!」
「『それから女の子は許しました。魔神はおうちに帰りたいと泣きます。女の子はおうちにおくってあげることにしました』」
「えー、またとおまわりになっちゃうよ!」

女の子は、冒険をするうちに、自分の願いを後回しにして、出会った人たちの願い事を叶えていくのだ。
悪い魔神の願い事を叶えて、意地っ張りなお姫様の願い事を叶えて、道端に落ちているお人形さんの願い事を叶えて、騙されたり、挫けそうになったりしながら黄金の国を目指す。
長い長いお話は、眠気を呼び込むのにもぴったりで、ドロシーは毎日、ジャラヒの好きな部分を少しずつ読んで、彼を寝かしつけているのだった。
案の定、今日もジャラヒは、聞きながらうつろうつろと首を揺らし始めた。

「ぼっちゃん、少し寝ます?晩御飯食べましょうか?」
「おんなのこのねがいごと、かなったぁ?」
「まだですよ。まだまだです」
「じゃあだめ。かなうまでよんで」

いつもはこのあたりでドロシーの背中におぶさり寝息を立てるところなのだが、ジャラヒは目を擦りながらも言うことを聞かない。

「いつも聞いてる話だろう。おまえも聞き分けよくしたらどうだ」
「だって、おんなのこのねがいごとかなわないと、ぼくのねがいごとかなわないもん」
「なんだよそれ…」

隣で聞いていたジェラルドが肩を竦める。

「だって、ぼくがねがいごとしちゃったら、おんなのこが、またがんばって、ぼくのねがいごとかなえてくれようとするでしょ?かわいそうだよ」

眠い目をこすりながら、ふてくされているようにジャラヒは言う。

「ぼく、今日はねがいごとかなえてもらいたいんだから、ろろしー、はやくよんで?」

クリスマスに願い事を叶えてもらう、というジャラヒの夢は捨てていないらしい。
だけども、それを先に言ってしまうと、女の子の願い事を叶えてあげようとまた頑張って自分のことを後回しにしてしまうから、ダメなのだ。
そんなわかるようなわからないようなことを言って、ジャラヒは意固地に横になろうとも、起きて食事に向かおうともしない。
どうしたものか、とドロシーは頭を悩ませた。
昨日の続きからではなくて、後ろの方から読めばよかった。
今からでも、少し飛ばして、最後の方だけ読もうか。

そんなことをドロシーが悩んでいると、ジャラヒの向こうのジェラルドが、はあ、と息をついて立ち上がった。

「あの子の話は僕が聞いてやる。おまえは少し寝てろ。
おまえの願い事も一応言っておけ。おまえ、起きれなかったら困るだろ?
こっそり僕にだけ言ってたら、彼女にも聞こえない」

そう言って、ジャラヒの手を引いて、横に寝かせる。
為すがままに体を倒しながら、ジャラヒは目を開けて口をひらいた。

「にいさま、あたまいいねえ」
「…当たり前だ。早く言え」
「えっと、ぼくのねがいは…えっとね…」

横になったジャラヒは、両手を出して、指折り数えるような格好で何かを考える仕草をして。
それからそのまま、口に出すことはなく、夢の世界に旅立った。

「…まだ聞いてないぞ…」

待ち構えていたジェラルドは、ジャラヒの手をそっと取って布団をかけて、それからもう一度ため息。
そんな姿をほほえましく見ながら、ドロシーはくすりと笑う。

「さすがお兄様。さて、お話の続き、代わりに聞きます?それとも、せっかく作った七面鳥とプディング、ジャラヒぼっちゃんが起きる前にここに持ってくる手伝いしてくれます?」
「…この寒いのに…」
「ありがとうございますジェラルドぼっちゃん」
「…ぼっちゃんはやめろ」

息をついて立ち上がるジェラルドに、彼のコートを差し出して、ダリアは扉に手をかけた。
廊下の向こう側の窓から、白く何かが滴るのが見える。
雪。
吹雪いてまではいないが、確かに白い雪だ。

「ホワイトクリスマスですね」
「どうでもいい」

寒いはずだとぶつくさ言うジェラルドの手を引いて、ドロシーは食堂を目指す。
相変わらず屋敷は静かだったが、それでも少し暖かいような気がした。

tag : 第10期 ジャラヒ ドロシー ジェイン

2013-12-11 : SS : コメント : 0 :
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【10期】赤雫☆激団第二章1

ダリアが覚えている一番最初の記憶は、白い空と、それに溶けるように舞う花びらの桃色だ。風が強くて、巻き上げられた花びらが、いくつもダリアの目に飛び込んできて、風の強さに息が苦しくなりながら、ダリアはずっと木の下に立っていた。

春だから桜が咲いて、その花は風に奪われてもうじき消えるのだ。
それから、もう二度と咲かない。
春はもう消えてしまう。
そんなことを意識しながら、じっと花を見つめていた。
見知らぬ大人が来て、ダリアの腕を引いて連れて行ってしまうまで。



そして、その日からダリアは裏世界を生きることになった。
金のない家族が、とある暗殺ギルドにダリアを売ったのだ。
よくある話で、感慨も何もない事実。
ダリアもそのことをすぐに受け止めたし、そこで習うすべてのことに反発はなかった。
子供であるダリアは、対象を油断させることも容易で、手先の器用さや、動じない度胸もあって、すぐにその仕事に馴染んだ、と思う。
馴染んだ、と言い切れないのは、ダリアにも、さすがに最後の工程には、身体が冷えるような忘れられない感覚を覚え、それからしばらくは、悪夢を何度も見たからだ。


世界中の悪意がダリアにのしかかる夢。
目を瞑ると襲ってくる悪意。嘲笑。喪失感。
べとべとと、つきまとう悪意の夢。
朝なのか昼なのか夜なのかわからなくなるくらい、何度も何度も襲い掛かってくるそれが、ダリアに命を奪われたものからの呪いなのだとしたら、幼いダリアには、受け止めるしか術はない。
そう諦めて、幻聴や悪夢と闘いながら狂いそうな毎日を過ごしていたあるとき、ダリアは救われた。


それはある日のこと。

仕事を終えて、部屋で膝を抱えて丸くなっていたダリアの顔に、ひらりと冷たい何かが当たった。
また、何かが襲いに来たのかもしれない。そう思って、緩やかに顔を上げる。

ひらり

と、また、目の前に落ちる何か。

「ゴミ」

その何かの先に、見知った少年の顔があった。
薄桃色の何かを握って、ダリアの前にゆっくりと、それを落としている。

「…ごみじゃないわよ」
「塵?」
「言い方変えただけじゃない。…ちがうわ」

少年が、「ゴミ」と言って落とした何かを手に取ってみる。
冷たくて滑らかなその感触は、ダリアに覚えがあった。

「…桜、この辺りにも、咲いているのね」
「ゴミの木?」
「桜よ。白くて、雪みたいに降ってくる花」
「ゴミみたいだった」
「あんたの感性って狂ってるわ」

少年はぴくりとも笑わずに、掌から花びらを落とし続けた。
少しずつ、ひらひらと。
雪のようにダリアの膝に積もる。
黒いスカートの上に積もった白は、とても綺麗だった。
とても綺麗で…ダリアは故郷のそれを、初めて懐かしく思った。
今はもう帰れない、丘の上の桜。
風が吹くと雪みたいで、春なのに雪が見えて得したみたいだと思っていた。

すべての花びらが落ちた時、ダリアは全てから解放されたような、それでいてもう逃げられないような、不思議な感覚を受け止めた。
襲い掛かってくるすべての悪夢が遠くにいったような、それでいて捕まえたような。
今思うと、覚悟だったのかもしれない。
すべてを受け止めると、知らずに決めた最初。
何とも言えないその感覚を俯瞰して、それからもう、ダリアが悪夢を見ることはなくなった。

それ以来、仕事を終えた後には、その遺体に一枚花びらを置くことにしている。
弔いでも贖罪でもないけれど、そうすることがダリアには必要だった。



少年――ジェインと名乗るその少年が、何を思ってダリアにあの花びらを持ってきたのかはわからない。
ジェイン。ダリアより6つ年上の少年。
黒い髪に、利発そうな目を眼鏡で覆っている。
頭がよく、度胸があり、仕事を失敗したことはない。
この若さで、組織から一目置かれている。
組織の中では年が近いこともあって、共に組んで仕事をすることもあった。
ダリアも人のことは言えないが、ジェインも口数が多い方ではない。
意思の疎通を取る行為を怠りがちな彼は、組織からも浮いていた。
もくもくと仕事をする彼は、失敗をすることはない。そして、他者を必要としない。
誰かと組まされても結局は一人で仕事をする彼と、共に組むことを承諾する仲間は徐々に減り、ジェインが誰かと組んで仕事をしないといけないときは、必然的にダリアが組むことになった。
不思議と、ダリアとは馬が合うのだ。
ダリアといるからといって口数が極端に増えるわけではないが、なんとなくダリアには、ジェインの考えていることが分かった。
苛立っているとき、眠そうなとき、喜んでいるとき、声をかけられたくないとき、わかりにくいジェインの表情を見るまでもなく、なんとなくわかる。
頭の良い彼の考えている意図までを察することは出来ないが、ダリアもジェインをわかろうと思ったことはないので、それは別にどうでもよかった。

だから、彼の正体がワートン財閥の長男で、彼の黒髪は染めたものだとわかったのは、つい最近のことで、知ってもそうなのかとしか思わなかったし、彼の態度も全く変わらず。違和感があったのはそのピカピカ光る髪だけで、ダリアはようやくその金髪になれてきた所だ。







■□■□

ブリアティルト10回目の周期。
その初めの日の朝、ダリアはすぐに部屋を飛び出した。
赤雫☆激団。団長室という名の寝室。
以前ここに寝泊りをしていた青年の姿はもうない。
9回目の周期を団長として過ごした男はここにおらず、今回の周期は、ダリアが団長を務める、ということになっている。前の周期の終わりに、それは決めた。
赤雫☆激団リーダー、岸辺ロイの要望と、ダリア自身の希望もあって、だ。

「ちょっと考えたいことがあるんだ」というロイの言葉を問い詰めることはダリアもしなかった。好都合だからである。
ダリアの目的、罪人「ジャラヒ・ワートン」を追い詰め、捕まえ、そして処分するには、赤雫☆激団というエサが必要だった。
ジャラヒは9回目の周期で赤雫☆激団の団長役をしていたのだが、それを最後まで全うする寸前に、姿を消した。
ダリアは今までの巡りで彼を監視していたのだが、あまりにもそれが唐突だったため、情けない事に、行方を追うのが一歩遅れてしまっている。
すぐに追って、見つけならない。
そして……なんとしても、処分しなければならなかった。



「ジャラヒ・ワートンを知らない?」

9の巡りから、10回目の巡りへ。
また新たに世界がリセットされた。あの男も何か行動を起こすはず。
そう思い、そうそうに街に入り、聞き込みを開始する。
ブリアティルトに住んでいるものは、二種類に分けていい。
世界が3年の周期でリセットしていることを、知るものと知らないもの、だ。
知らないものは、時折既視感を持ちながらも、いつもの毎日を繰り返している。
知っているものも、「そう」とは口にすることはほとんどない。
おおっぴらには暗黙の了解を是とし、時折、仲間内でひっそりと、今回の「周期」について耳打ちをする。
ダリアも、それは承知だった。
それを承知で、聞く。

「前回、赤雫☆激団の部隊長をした男よ」
「…ジャラヒ、ねえ」

案の定、尋ねられた男は顔をしかめた。
だが、ダリアの真剣な様子を見てか、何も聞かずに首を振る。

「悪い。今回始まってからは見てねえ。金髪のやつだろ?『前のとき』はたまに酒場にいるのを見たことはあるが…」
「そう、見つけたら教えてちょうだい」

ジャラヒがいるとしたら、どこだろうか。
酒場、市場、丘、港。
人が賑わっているところにいるようには思えない。
いるとしたら、裏通りだろうか。
あの男はスラムにも慣れている。
ブリアティルトでもそうだったかは知らないが、以前の世界でのジャラヒを考えると、それが一番ありそうだ。

もしくは…
と、ダリアは息をついた。
もしくは、誰かに匿ってもらっているか、だ。
内面はいざ知らず、あの男は外面は良い。
わりと誰とでもすぐに仲良くなり、交友を深めていたように思える。
仲良くなった人物に匿ってもらっている、という可能性もありえた。
取り入って、仲良くなり、良い人ぶって油断させて、それから裏切る。
ジャラヒ・ワートンはそういう男だ。
危険すぎる。

と、ダリアは踵を返し、見知った家に向かった。




「…ジャラヒを知らない?」
「だ、ダリアちゃん…ジャラヒくんがどうかしたの?」

いつもあの男が懇意にしていた仲間の一人。
少女はいきなり問われて驚いた仕草を見せたが、ジャラヒの名前を聞くと、すぐに心配したように顔を上げる。
心優しい少女だ。その様子には嘘をついているような様子はない。

「もしかして行方不明??だ、ダイチにも探してもらうように言わなきゃ…!あ、あとエミリアちゃん!エミリアちゃん顔広いし、ギルドのみんなで探したら…」

どうしよう!と顔を青くし、よく知る名前を上げる少女に、ダリアは首を横に振った。

「いいの。もし見つけたら、教えてちょうだい。でも、なるべく、気を付けて」
「気を付ける??」

なんと言えばいいか、言葉に詰まった。
罪人だと言っていいのだろうか。
心優しい少女を困らせはしないだろうか。
いつものダリアなら…ブリアティルトに来る前のダリアなら、躊躇いもせず協力を要請しただろう。その方が効率がいい。
あの男が大罪人だと、もうすでにどれほどの人を傷つけて生きていて、これからもきっとそうだと、すでにこちらの仲間も傷つけられていると、すぐに告げたに違いない。
だけど、ダリアはそれを口にするのを躊躇った。

もしかしたら、少女は信じないかもしれない。
ジャラヒはそんなやつではないと、ダリアを否定するかもしれない。
それとは反対に、頷くかもしれない。そして、そんな男だったのかと、傷つくのかもしれない。
その両方とも、ダリアの負担だった。
どちらも見たくない。
だけど、このまま放っておいて、もしあの男が現れて、少女に助けを求めたら…。
次に裏切られて泣くのは彼女かもしれない。

「…貴方の知っているジャラヒではないかもしれない。気を付けて。それで、もし見つけたら、教えて」
「ダリアちゃん?」
「それだけ。みんなにも、もし会ったらそう言っておいて」

唐突に、怖くなった。
怖い、と確認できる感情を持ったのは、久しぶりだ。
このブリアティルトで出来た仲間のようなもの。
彼らはみんなジャラヒと仲が良く、いつも笑っていた。
ジャラヒと共にいたダリアにも、笑いかけてくれた。
ジャラヒが彼らを裏切ったら、きっと彼らはもうダリアに笑いかけることはないだろう。
ダリアはここで得たすべてを喪失する。
また、ダリアがジャラヒを断罪したとして、それに同調してくれるかどうかはわからない。
ジャラヒと培った友情で、彼の味方をする者はいるかもしれないが、ダリアと共に、その彼を処分するという選択を選ぶものは、いるとも思えなかった。

いや…
いて、欲しくない。
彼らにそんなこと、させたくない。

どちらにしろ…どうなったとしても、ダリアは友を失う。
ジャラヒを断罪する味方など、欲しくないと言っても良い。

なんにせよ、考えると恐怖だった。
ダリアに選べるのは、なるべく彼らを巻き込まないようにすることしかない。


「ねえ、ダリアちゃん。何があったかしらないけど…」


神妙に黙ったダリアを気遣うように、彼女はそっとダリアを見上げた。



「私ね、ジャラヒくんに知らせたいことがあるの。ダリアちゃんにも。みんなにも」

それから、そっと、優しく自分の腹を撫でて微笑む。
その優しい顔は、いつも以上に今まで以上に優しい。
ダリアの知らない顔だった。

「ふふ、きっと驚くと思うな。でも、きっともっと楽しくなる。だから、ジャラヒくんにも、ね」

その笑顔に、ダリアは何も言えなくて

「頼りにしてるんだ。お願いって、伝えて?」

こくりと頷いて、ダリアは玄関の外に出た。












華やかなアティルトにも、裏通りはある。
比較的裕福な民の多いオーラムだが、例外はどこにでもあった。
それがこの辺りだ。
市場の裏を抜けて、一本道を入ると、ダリアはどことなく落ち着く自分に気が付いた。

ジャラヒがここにいればいいと思う。
友人たちを頼って匿ってもらおうなんて思わずに、こんな裏通りで、ひそかにまたギャングなんか作っていたりして、盗みや詐欺を働いていて、悪事にまみれて、ひそかに警察にチェックされていたりして、その悪事の現場をダリアが見つけて、とらえて、撃つ。
それで終われば一番早い。
だけど実際は、ジャラヒは陽気な仮面をかぶりながらも頭の良い男だ。
きっと、誰にも裏を見せずに、どこかに潜んでいる。



『ジャラヒ・ワートン』



ワートン財閥の次男坊にして、若くして名を広めた犯罪者の名前。
この世界でそれを知る者はほとんどいないが、ダリアの住む世界で、暗殺者なんて仕事をしていると、その名前は嫌でも聞こえてきた。

幼くして経営学、帝王学を学び、将来を約束されていた男。
父親に従順な顔をしながら、裏ではスラム街を滅ぼし、その頂点に君臨し、ギャングとして名を広げていた少年。彼は、表立っては治安維持を気取っていたものの、彼の言う治安維持は、思いつく限りもっとも過激な方法と言ってもいい。彼が関わると血の雨が降る。赤き雨ジャラヒ・ワートン。
スラムに居座っていた厄介者たちを、彼は一夜で全て消した。
その後、裏の世界でその彼の名を知らない者はいない。
それが、彼がまだ15の時の話だと言うのだから、将来を思うと末恐ろしい。少年にして、ギャングの力と、家の財閥の後ろ盾をもった男だ。
ダリアの所属する裏稼業の組合も、ジャラヒに手を出せないでいた。

そんな中、ジャラヒは二年後、彼の17の誕生日に、自らのチームを潰した。

解散なんてそんな生易しいものじゃない。文字通り潰したのだ。
誕生日のその日に、彼は自らのチームを、自らの手で、潰し、蹂躙し、残ったのは雨のような赤い血のみ。
彼のことを慕う仲間たちをも全てなかったことにして、むごたらしい現場を残したまま、その日、ジャラヒ・ワートンは姿を消した。


赤き雨の悪夢と呼ばれるその日は、のちの裏稼業の人間にとって、発端はこの日だ、とされる日である。
ただの1人のギャングが自らの組織を潰して消えた、だけには収まらなかった。
そのギャングがワートン財閥の次男坊なのだから、その衝撃は裏社会だけにも留まらない。ワートン財閥全体をも揺るがしかねない、ひいては世界すらも巻き込みかねない事件ですらあった。
もちろん、ワートン総帥の力で、事件自体は揉み消されたが、総帥が払った犠牲は軽いものではない。
バカ息子にどのような処分を下すのか話題になっていた中、ワートン総帥は、ある日ダリアを呼び出した。

ダリアは、以前の事件でワートン総帥に一つ借りがあり、一度だけ総帥のどんな依頼をも条件問わず受ける、という約束をしていたのだ。
事件の後の緊張の中、ダリアが意を決して総帥の元を訪れると、総帥の依頼は、意外なものだった。

『ジャラヒ・ワートンを見つけ、護衛すること』

暗殺者であるダリアに、処分の依頼でもなく、総帥はそう命じたのだ。

『ジャラヒは今、ブリアティルトにいる』

そんな、血迷いごとと一緒に。

おとぎ話の世界。ブリアティルト。
そのオーラムにいたジャラヒ・ワートンは、なんでもないような顔をして、善良な風を装って傭兵をしていた。
ダリアが、彼に銃をかざすと、腰が抜けたような驚いた情けない顔さえ見せた。

とてもではないが、赤き雨の悪夢をもたらした男には思えなかった。
お人好しそうに笑って、オーラムが好きだと言っていた。
そんな彼と共に、オーラムで過ごしたのは、ブリアティルトが7つ目の巡りを数えていたころの話だ。

正直なところ、ダリアは、彼を信じたのだと思う。
あんな事件を起こす素振りなんて見せなかった男とともに過ごして、仲間だと思って。


だからダリアは一度元の世界に戻って、彼の父親に、もう大丈夫だと言った。
彼はブリアティルトから出るつもりはない。改心して静かに暮らしていると。
死んだと思っていいと伝えると、総帥はそうかと頷いて、それで『赤き雨の悪夢』は終わった。


それからダリアは、ジェインに会って、ブリアティルトにもう一度来ることになるまで、ジャラヒはブリアティルトで平和に暮らしているのだと思っていた。
ブリアティルトで出来た仲間たちと、仲良く楽しく生きて、生まれ変わった生活を過ごしているのだと。
あの光景をみるまでは。

信じていた分、彼の裏切りはゆるせない。

ダリアは、自らの手で、あの男を処分することを誓った。








と。

「そこのお嬢ちゃん」

裏通りで佇んでいたダリアは、不意に声をかけられ、身を構えた。
ぼうっと考え事をしていたとはいえ、気配を読めなかった。自分の失態と、気配を消して声をかけてきた男への警戒心で、自分を叱咤する。
振り向くと、若い男。

「ジャラヒ・ワートンを探してるんだって?」

気安くそう笑いかけて、男は一歩前に出た。
それに合わせるように、ダリアも半歩下がる。構える銃で、すぐに狙えるように。
距離を意識して、ダリアは静かに頷く。

「ええ。貴方は誰?私は知らないけれど、ジャラヒの友人かしら?」

男は、中肉中背。背は高くも低くもない。武器も見た目では手にしていないようだ。が、警戒は怠らない。身軽な服装だが、その装備は使い込まれているように見えた。少なくとも、素人ではない。

「友人っていうか…こう言えばわかるかな。『赤き涙雨―レッドレイニング―』」

ダリアが警戒していることに気づいてないかのように、男はその名を軽く口にした。

『赤き涙雨』
赤き雨という名は、ジャラヒの二つ名として、知る人ぞ知る呼び名だ。
ジャラヒはこの世界では、それを自分からおおっぴらに名乗りはしなかった。彼にとっては静かに収めておきたい二つ名。
彼の過去を知るものだけが、ひっそりと呼ぶ。

そして、その赤き雨を、カタカナでレッドレイニングと呼ぶとき、それはそれはジャラヒ自身を示している二つ名とは違った意味を持った。
その名は、彼が率いていたギャング集団の名前。
ジャラヒが潰した、あのもうないギャングたちの名だ。

「あなた…何者?」
「んー、その名で言うと青き稲妻?みたいな?」
「…茶化してるの?」

とぼけたような口調で、男は頬を掻いた。

「赤き雨ジャラヒに、青き稲妻セリラート。聞いたことない?」
「ないわ」
「うん、広めようとしたんだけど広まらなかったからなー」

残念だと頷いて、男はもう一歩前に近づいた。
ダリアとの距離はおよそ8歩。銃は充分届く距離。
だが、ダリアに油断はできなかった。
ふざけたようなことを口にしているが、その姿に隙は見えない。
手慣れているのだろうか。そんな風に感じられる。
もしかしたら、するりと弾を避けて、ダリアが二撃目を撃つ前に、距離を詰められる可能性も否定できない。

「あ、警戒しないで。ほら、両手挙げるし。ほら、俺何も持ってないし、危害加えないし。
 っていうかさ、お嬢ちゃんめちゃくちゃ可愛くない?」

そう言いながら両手を上げて一歩二歩。

「止まって」
「はい」

5歩と半分の距離まで進んだ後、ダリアの静止に、男は大人しく止まった。

「あの、お嬢ちゃん、俺は君に良い情報あげられると思うし、どうかな、お茶でも」

機嫌を窺うように言う男からは、殺気も警戒心も感じられない。
しばし考えて、ダリアは銃を下げた。

「お嬢ちゃんはやめて」
「じゃあ何て呼べばいい?」
「ダリアよ」

ダリアちゃんか~!と手を打つ男は、どう見てもただのナンパ男にしか見えなかった。
やっぱり、適当に言っているだけかもしれない。その可能性のほうが高い。
話を聞くことを承諾したことに少し後悔しながら、ダリアは男の横を通り過ぎた。

「あ、ちょっと待ってよ!」









アティルトでも評判が悪い故に客の少ない酒場にて。
ダリアは隅の席に腰を下ろし、男のにやけた顔を見た。
身軽そうな黒い衣服を身にまとった男。年の頃は20前後だろうか。
ダリアをお嬢ちゃんなんてふざけて呼ぶくらいだ。ダリアより少しばかり年上、そう辺りをつける。

「俺の名前はセリラート。流れの傭兵をやってる」

店内でもまずいと噂のエールを手にした男は、一口それを口に含んで、満足したように頷いたあと、そう名乗った。
何も注文する気になれなかったダリアは、その様子を観察しながら、頷いて男に先を促す。

「セリって呼んでくれていいぜ。ダリアちゃん。ダリアちゃんはオーラム長いの?おれさ、オーラムは二度目なんだけど、マッカの方にずっといたから、あんまり詳しくなくて。ダリアちゃん、オーラム案内してくれない?」

頷かれて何を勘違いしたのか、セリラートは機嫌よくまくしたてた。

「セリラート」
「セリでいいって」

名前を呼んで、あとはただじっと男を睨んだ。
じっと。
目を逸らさずに見てやると、根負けしたのはセリラートの方だ。
両手を挙げて降参のポーズ。

「俺、結構修羅場こなしてるつもりだったけど、女の子に睨まれてこんなにドキドキしたの初めて…や、言います言います!」

ただのナンパ口実にジャラヒの名を持ち出してきたのかと思ったら、一応本題はあったらしい。
言う気になったらしいので、この銃は使わずに済んだ。と銃をコートの中にしまう。
それを見て、セリラートはホッとしたように息をついて続けた。

「ジャラヒは…赤き涙雨<レッドレイニング>のリーダーだった」
「ええ」
「で、おれはそのチームの一員だった」

赤き雨はジャラヒによって潰されている。
一人残らず全て手に掛かったとは聞いていたが、その生き残りがいたということだろうか。

「大変、だったのね」
「ああ、そうだな」

もうぬるくなったエールを一口飲んで、それからセリラートはグラスをテーブルに置いた。
弄ぶように手でグラスを弾き、それからふうと息をつく。

「ダリアちゃんは、あいつのなんなの?」

そう言ってダリアを見たセリラートが、何を考えているのかわからなかった。
軽薄な色はない。
かと言って憎しみがこもっているような、感情の色もない。
少しの違和感を抱いたが、それが確実におかしいと言えるものでもなかった。
過去を話す時は、どういった顔をしていなければならないなんて決まりもない。
だから、この無表情が何の意味を持つのかはわからない。
もしかしたら、この話は、彼にとってあまりしたくないことだったのかもしれない。
それはそうだ。
彼にとってジャラヒは、彼の居場所を潰し、彼を手に掛けようとした男。
そいつを聞き回っている女がいるなんて、何者かと問いたくなるのは当たり前だ。

「私は、ジャラヒを追っているの。あの男を処分するように依頼を受けた、暗殺者よ」

厳密には、少し違った。
処分するようにという、明確な依頼ではなかった。
依頼主、ジェイン・ワートンは、そんなわかりやすい依頼をダリアに持って来たわけではない。
ジェインが、そんなわかりやすいことを言うはずがなかった。
彼がダリアに依頼したのはひとつ。

ジャラヒ・ワートンを監視し、本当に生かす価値があるかどうか見極めること。

監視し、見極めたダリアは、その価値はないと判断した。
あの男の処分は的確で、それを実行すると。

「へえ、ジャラヒをヤるのか…」

セリラートは、目を見開いた後、しばらく考えるように目を伏せて、それからもう一度頷いた。

「それさ、よかったら、俺も一枚噛ませてくれない?」
「…は?」

聞き返すダリアに、男は両手をぱんと合わせて頭を下げる。

「頼むよ。俺はジャラヒのこと知ってるし、わりと腕もたつぜ?役に立つと思うなあ」

セリラートの言っていることは、わかる。
組織を潰した男への復讐。
ダリアがジャラヒを処分しようとするのなら、手を組みたい。そう言い出すのは自然に思える。
だが、この言い方にはやはり違和感があった。
手を貸してくれでも、組みたいでもなく、一枚噛ませろ、役に立つ。そんなとても他人事のような言い方で、その口調には、憎しみなんて感じさせない。

「あなた、本当に赤き雨にいたの?」
「疑うの?やだなあダリアちゃん」

さも心外という風に頭を振って。

「ジャラヒ・ワートン。ワートン財閥の御曹司。赤き涙雨のリーダーで今は失踪中。好きな食べ物はキノコリゾット。嫌いな食べ物は納豆。絵が趣味。楽器は何でも弾けるけどすぐ飽きる。器用貧乏でなんでもできるわりには貧乏くじばかり引いてるしょうがないやつ。兄はジェラルド・ワートン。ジャラヒはお兄さんを苦手に思ってる。ジャラヒには頭が良くて強くてイケメンでキレものの親友がいて…」
「もういいわ」

長々と続けるセリラート言葉を、ため息をつきながらダリアは遮った。
そこまで丁寧に説明されたら、嫌でも悟らざるを得ない。
気づくのが遅すぎた。彼の正体を悟る。

「セリラート。赤き涙雨のナンバー2でジャラヒの右腕。…こんな軽薄でいいかげんな男とは思わなかったわ」
「あたり!」

何度も名乗られているのにすぐに気づけなかった自分に呆れる。
わかったからといって、何がどう変わるわけでもないのだが。
ジャラヒ以上に冷酷な、赤き涙雨の特攻隊長と言われる男。
スラム生まれのスラム育ち。ジャラヒをギャングに誘ったのもこの男だと言われている。
その根っからのギャングと呼ばれていた男と、目の前の軽薄な男が結びつかなかった。

「で、どうするダリアちゃん。今なら、君の愛で俺が買えるよ?」
「いらないわよそんなもの」
「えー」

ジャラヒの親友。
全く何を考えているのかわからない。
親友に殺されかけたことを、恨んでないのだろうか。
これは全て罠なのだろうか。
ジャラヒの仕組んだ罠なのか、それとも、ジャラヒに復讐するために、この男がダリアを利用しようとしているのか。

(…きっと何らかの罠だわ)

確信があるのは、その一つ。
何の罠なのかはわからないけれど、これは罠だ。
そう思って、安心する。
信じるよりよほどいい。
ちゃんと罠だとわかっていることは、なんて気分が楽なのだろう。
ジャラヒみたいに、まるで本当みたいな、信頼みたいな、あんな柔らかい感情を押し付けられるのは、もう嫌だった。
あんな優しいものを認めて、信じてしまうなんて、あれほど恐ろしいものはない。

「…いいわよ」

だから、ダリアは頷いた。

「ちょうど傭兵が必要だったの。貴方を雇うわ」

罠ならちょうどいい。
隠れているものが何であれ、そこにジャラヒを捉えるための何かがあるのは間違いないのだから。
ダリアがそう言うと、セリラートは弾けるように立ち上がって手を叩いた。

「っしゃ!よろしくダリアちゃん!おれは君のナイトになるぜ!」
「騎士じゃなくて傭兵が欲しいの。わかる?」

このまずいエールを美味そうに飲める男の得体の知れなさはちょっといただけないが、これで一歩進めた。
きっとジャラヒ・ワートンを捕らえるのももうすぐだ。
2013-12-08 : SS : コメント : 0 :
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ライラさんからダリア

ライラ隊様からダリア

daria-laira.png

これはかっこいい!
ダリアちゃんつよそう!!
いつも砲撃という名のピストルが武器イメージだったのですが、バズーカ系もなかなかイイなあ!
ライラさんありがとうございました!

tag : ダリア 第9期

2013-12-06 : いただきもの : コメント : 0 :
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トーチさんからロイ

憧れのトーチライトさんにロイを描いてもらった!

roi-toach.png

ロイの私服が自分では全く思いつかなくて、ずっと学ランにしてたら、センスが悪くて私服を罵倒されるのでいつも学ランという設定になってしまったロイさんですが、
トーチさんのお陰で私服イメージがついた!ので、また自分で描くときは念願の私服を描いてあげられそうです。

tag : 岸辺ロイ 第10期

2013-12-06 : いただきもの : コメント : 0 :
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10期ゲリライベ

10期のゲリライベ絵
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