てへぺろ馬刺し賞

第9期てへぺろ馬刺し賞をとったリーシャさんを景品で描かせていただきました。

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カットイン用サイズ。使われるときは90度右で使用くださいませ。
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アイコン。文字入れ必要なときはご自由にどうぞ!
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2013-11-30 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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【10期】短編・ダリアとリオディーラ

「ダリアちゃんの髪の毛、さわってもいーい?」

突然少女に髪を触られ、ダリアは飛び上がった。

「あ、ごめん!」
「いえ、いいのよ。ちょっとびっくりしただけ」

てへ、と頭を下げる少女は、もう一度ごめんと呟いて、それでもダリアの髪を触ろうとする手を止めない。
鼻歌を呟きながら、ダリアの黒髪に手を滑らせる。

「わー!やっぱすべすべだ~!」
「べ、別に大したもんじゃないわよ」
「いーなー長い髪!」

髪を伸ばしているのは、別に大した理由があるわけでもない。
なんとなく、伸ばしてきただけ。
手入れは大変ではあるが、とりたてて誇れるようなものではないと、思う。
仕事の邪魔ではないか、と問われたこともあるが、邪魔になるまで追い詰められたことなど、これまでにない。これからも、そんな無様な境地に陥るつもりもなかった。

「あのねーダリアちゃんの長い髪、いつも見てて思ったんだけどね~!」
少女は、何がうれしいのか、いつもきゃっきゃと笑っている。
ふふふと、特別な宝物を見つけたみたいに。
まるで大切なものを見守るみたいに見つめて、ダリアには出来ない夢見るような眼差しで言った。

「ダリアちゃんって、おひめさまみたい」
「……は?」

夢見心地で口に出された、お菓子みたいな言葉。
彼女が言ったのでなければ、きっと狂ったのだと判断したところだろう。
いや、彼女が口に出していても、その疑いは拭いきれない。
いつも突拍子もないことを言う少女だから、気にしても無駄だと知っているけれど、その言葉が自分に向けられたとなると、たまったもんじゃなかった。

「ながーい髪はね、おひめさまの印なんだよ。おひめさまは、宝石みたいに綺麗でね、みんなに愛されているの」

綿菓子みたいな甘い言葉に、ダリアは眉を顰めた。
何を言い出すかと思ったら、どこかで聞いたようなおとぎ話。
お伽話の「お姫様」と並列されるなんて、戸惑うよりも不快だ。

「みんなおひめさまが大好きなんだけど、おひめさまはとってもきれいで気高くて、宝石みたいにキラキラしてて、触ったら溶けて消えちゃうの。だから誰も触れられないんだよ。触れられるのは、王子様だけなの」

そんな少し可哀そうにも思える話を、少女はさらりと言って、

「でも、ダリアちゃんは、消えちゃわないでよかった!」

と、お日様みたいな笑顔で笑った。

不快を口にしようとしたダリアは、その笑顔を見ると何も言えなくて、そっと目を逸らすしかない。

「き、消えないわよ。ばかね」
「うん!よかった!」

よかった、と笑って少女は、ダリアの髪から手を離した。
さらり、と彼女の指をダリアの髪の毛がすり抜ける。
それから、彼女は機嫌良さそうに鼻歌を続けた。
ダリアは彼女に何か言葉をかけようとして、しばし何かを探したが、かけるような上手い言葉など見つけることもできず、息をつくだけに留めた。
そもそも、何を言いたかったのかもわからない。
だけど、笑っている彼女は、とっても楽しそうなのに、少しだけ寂しそうに見えたので、何か言おうと思ったのだ。
結局、言葉も出てこなかったので、ダリアは代わりに話を変えた。

「髪、結んであげるわよ。こっち、座りなさい」

少女はきょとんと首を傾げたが、ダリアの台詞の意味を把握して、跳ねて喜びを表すと、おとなしくダリアに頭を預けた。









―――
「ダーリアちゃん!ダリアちゃん!寝顔も可愛いけど、そんなところで寝てると風邪ひくよ?」

目が覚めると、そこはいつもの赤雫☆激団本拠地だった。
どうやら、転寝していたらしい。
ソファに腰かけて休んでいたのは昼間だったはずだが、もうすでに少し肌寒い。

「…起こしてくれればいいのに」

無茶を承知でそう言うと、男は肩を竦めたが、気を害した様子はなかった。

「だって、ダリアちゃんの寝顔可愛いんですもの」
「…どれくらい見てたのよ」

茶化したように言うその男は、セリラート。
流れの傭兵をやっている男で、今は赤雫☆激団に籍を置いている。
セリラートは、にやりと笑って言った。

「かれこれ一時間?ダリアちゃんの髪きれいだな~寝顔かわいいなーって思って」
「起こしなさい!」

調子がよく、軽薄な態度が目につく男だが、まあ、それも最近は慣れてきた。
もう一人のむっつり無口男と足して割ればちょうどいいのにと思う。

「でも、ぐっすり寝てたよね。疲れてた?」
「ん…別に……夢を見てたのよ。忘れたけど」

言いながら、身体を伸ばす。寝ている間に縮こまっていた身体が軋む。
ゆっくりと手足を伸ばしながら、ふと先ほどまで見ていた夢を思い返した。
なんでもない、日常の夢。
きっとかつてあったはずの、柔らかい日々。
そこには、誰かがいて、…その誰かは、何故かダリアの記憶にない人物の顔をしていた。
どんな顔だったかは思い出せない。けれど、不快なものではなかった。
そんな、不思議な夢。

「まあいいわ。罰として、今日は貴方が夕飯作ってちょうだい」
「何の罰だよダリアちゃん…」
「ジェインが作るよりマシでしょ。あの男、真顔で泥を食べるような男よ」
「それって答えになってなくない?」

肩をすくめながらも、セリラートの足は台所に向かう。
一人暮らしが長いそうなので、料理は苦手ではないのだと、聞いたことがある。
苦笑しながらダリアは、彼の後に続いた。
もうそろそろジェインも帰ってくる頃だ。
二人にお茶くらい入れてもいいだろう。

この日常は、夢で見た日常とは少し違っていたけれど。
これはこれで、別に不満はない日常だ。
と、ダリアは少し口元を緩めた。

tag : 第10期 リオディーラ ダリア

2013-11-30 : SS : コメント : 0 :
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赤雫☆物語第一部まとめ

第一部完!したのでまとめ語り!



5期から始まった赤雫☆激団もようやく10期で6回目の期を迎えます。

5期,6期は元気なヒーローおたくリオディーラがメインで、ツンデレ風青年ジャラヒと、うさんくさい青年ロイと三人組でした。

元気で明るくてちょっとボケてて何にでも一生懸命な少女だけど、ちょっとお金にがめつくて光物は好きという設定。
彼女には目指していることがたくさんあって、ジャラヒとロイはそれに協力している。
そのリオの正体はとある絵本の主人公の女の子。
その物語は、女の子が黄金の国を目指して、黄金の国で願い事を叶えて幸せになるという単純なストーリー。
彼女が目指していること、というのは、その絵本の中で手に入れたものだったり、冒険したことだったりする。
彼女の知識はこの世のお伽話全般からのもの。色々なお伽話から仕入れて、ヒーローとはこういうもの、だとか、飛ばされた異世界からの帰り方だったりとか、魔法だとか恐ろしい呪だとか、願い事の叶え方とか言っている。
もともと絵本の主人公だが、幼いころのジャラヒがドロシーに読んでもらいながらその絵本に夢中になっていて、絵本の中でリオはそれを心地よく思っていて、そういった意味で二人は意思疎通はなくても相思相愛だった。
少年になってもジャラヒは子どもたちにその絵本をたまに読んで、リオも寂しく思いながらもそれで満足していた。
が、ジャラヒの組織消滅事件で、その絵本が燃やされたことにより、リオの姿が具現化に成功。
リオはジャラヒを探し求め、ようやく出会えて一緒に冒険することになったのが、9期冒頭の話。
あの冒頭の話では、自然にごまかしたつもりですが、リオの姿はジャラヒにしか見えていません。
なので、見張りもリオをスルーして、リオは誰にも見つからなかったり。医者を呼んだのは、姿が見えないリオが、お金をひらひらさせて誘導。医者は、ついたらとんでもないことになっていて大慌て、みたいな流れです。
リオが久しぶりに会ったジャラヒは絵本のことなど覚えてなくて、死にたいと言っている。
でもリオはジャラヒが大好きなので、生きてほしいを伝え、ジャラヒを救い、リオに助けられたジャラヒは、彼女のために命を捧げると決める。
そんなこんなで9期では、ジャラヒの手によって「しあわせになる」という最終目標を叶えてしまい、エンディングを迎えてしまった。
というお話でした。


まだ残っている伏線は、リオの過去について。
8期でロイが助けた幼い少女はリオディーラですが、助けたあと消えたリオディーラはどこに行ったのか。なぜロイは絵本の住人のはずのリオの姿を確認できたのか。
彼女が言っている「星を手に入れたい」とはなんなのか。
その辺りくらいかな。


7期のメインはドロシーちゃん。
いつまでも同じ姿。ジャラヒのメイドさん。赤雫一の社交性を持った女性。
いつも慈愛に満ちていて、自分のことより人のこと!特にジャラヒ!幸せになってほしい!と思っている女性。
ジャラヒは幼いころ、彼女に絵本を読んでもらったり、育ててもらったこともあって、彼女の慈愛が自然なものになっている。
そのおかげで、いくらひどい目にあっても、基本的には「優しさ」を持った青年にジャラヒは育っているわけだけども、彼女の慈愛があるべき姿だと思いすぎて、ジャラヒはリオにその慈愛を持ってつくしたい、つくさねばならないと思っている。
9期でそれに気づいて、ジャラヒはドロシーの慈愛を自分が貫くのは無理だと自立、リオに自分の気持ちで向かい合おうと決意。
ドロシーから巣立ちをしたことにより、ジャラヒはドロシーをひどく傷つけてしまい以下来期以降。
来期以降、6番のソウヤ・サツヤルートにより精神的に復活を遂げる予定。
残ってる伏線は、彼女の正体。なぜそんな慈愛精神をもっているのか。
リオディーラ関係では、リオの絵本を読んであげたのは彼女なので、そのあたりに云々します。


あ、7期は、口に出さずとも戦いに心を痛めたリオを見て、ジャラヒとロイが遊んでいいぞ!休めよ!と言って、ジャラヒが残り、ロイは実家に帰って…という流れからのスタートなのでした。
ジャラヒがリーダーかとおもいきや何故か昔の乳母ドロシーがメインでやってきて、ジャラヒの父から護衛を頼まれたダリアという暗殺者がやってきて、ジャラヒの7期、いったいどうなるの!?みたいなノリ。



ジャラヒについてはこの9期でほとんど書いてますが、あと残ってるのは家族関連かな。
なぜダリアに護衛を命じブリアティルトに来させたのか、とか。
ジャラヒが恐れている兄とは、とか。
その辺は10期でやりたいところです。

ジャラヒは、一見チャラ男なのに、誰よりも重いヤンデレ素質を持っていて、軽いようでいて真面目。
趣味は読書。というインドア青年。イケメン風なのに残念。
別に恋愛じゃない、ただリオを幸せにしたいとか意味の分からないことを言っていた割に、最後にプロポーズとか、極端すぎてすごい。
チャラく見えて慎重。慎重と見せかけて大胆。
情がアツそうに見えて身内以外には薄情。
星座は蟹座らしいです。

実は5期に書き始めたときは、昔作っていたジャラヒとはかけ離れてしまい、キャラがつかめぬぬぬと唸っていたのですが、9期まで書いたら、書いてる人が意図しないのにプロポーズまでしていた。
なんでこんなにヤンデレなんだ、どうやって抜け出せるというのかこのヤンデレ…と、どうしようかわからず書いてたら、勝手にドロシーの影響でとかジャラヒが言い出して、書きながらなるほどー!とか自分で言ってた私。
私が考えて書いているというより、完全にジャラヒが話を作っていた。そんな9期でした。
実はリオをどうやって助けだすかとかほとんど考えてないんですけど、ジャラヒなら勝手になんとかすると思う。
そんな信頼がある。


8期は岸辺ロイがメイン。
私が13歳の頃に作ってた主人公です。うひゃー。当時はめんどくさがり系今どき主人公。蛇が好き。という設定だったかな。
ロイは普段は温和で余裕がある様子で、その余裕が胡散臭さに見えるのだけど、実は負けず嫌いで力を求める、ザ・主人公基質。
戦いでもなるべくころさないようにするタイプ。ジャラヒはそれが戦いだろ、と気にせずころしちゃうタイプ。
面倒くさがり屋だけど、剣や自分の力に対しては貪欲で努力は怠らない。努力系主人公。
生徒副会長なので、基本は真面目。センスがわるい。肉が好き。好きな動物は蛇。蛇は彼を見ると懐く。そんな設定。
5,6期で自分がこのブリアティルトで上手く力を発揮できないことに気がついたロイ。
力に貪欲な彼は、7期は実家に戻って策を練り、8期にリーダーをする作戦をたてる。
その作戦は、まだピュアだった自分がブリアティルトで過ごして鍛えて、そっから強くてニューゲームってことで、今の自分とピュア自分が合体すればもっと強くなるんじゃね!?計画。
でもそれやっちゃうと、彼女と離ればなれになるかも→よし!彼女も連れて行こう!ってことで、サブはロイの彼女シアンちゃんとお付きのルウィンさん。
シアンちゃんは赤雫一のとんでもヒロインで、人に逆立ちさせて何時間持つのか見つめるのが趣味とかいう悪趣味ヒロインですが、元気でいい子です。
ルウィンはシアンちゃんにいつも振り回されて可哀想に見えるけれども、超綺麗な婚約者がいるリア充で性格もタフなのでそんなに可愛そうじゃないです。
その二人と共にいる羽目になったピュアっ子ロイくんも、可哀想に見えつつも、順応性はSSS判定なロイなので、特に苦しむことなく楽しくすごす8期なのでした。
ちなみにロイには3つの姿があって、アスタロト(ロイの姿。ノーマル)と、アスタロテ(予見の魔女)とイシュタル(勝利の女神)の三形態になれるという設定。
その形態の一つアスタロテ姿のロイは強さを求めるために、彼女がいる身でありながら、とある強い魔神(男)と結婚しています。息子もいます。
今度メインになったらその姿の予定。


そんでもって10期はダリアさんがメイン。

赤き雨ジャラヒ・ワートン。
スラムを全滅させ、自ら作った組織をも跡形残さず消滅させた非道な男。
残ったのは、女子供の死体と、赤い雨のような血だけだった。
ワートン財閥総帥は、自らの息子ジャラヒを、生死問わずで指名手配することに決めた。
しかし、ジャラヒを追った者のうち、帰ってきたものは一人もいない。
ダリアもその追っ手の一人だった。
追っているうちに、ジャラヒがブリアティルトにいることを知る。
ブリアティルトにて、ジャラヒを追い詰めたダリアだったが、ジャラヒはドロシーを傷つけその場から逃げ出したのだった…

というプロローグから始まる10期です。
暗殺者ダリアは、ジャラヒ・ワートンを再び追い詰め、捉えることが出来るのか。
彼女の相方は凄腕暗殺者ジェイン。
女のような名前だが、立派な男。ジャラヒの兄だが、兄弟の接点はあまりないらしい。
もうひとりは謎の青年セリラート。
ジェインの調べによると、ジャラヒが壊滅させた組織「赤き雨」の生き残りらしい。ジャラヒを恨んでいると思われるが…?
そんな三人がハードボイルドに戦います。



最初は、自分の描いてる漫画や小説の主人公たちを集めたドリームパーティ!だったのが合わさっていつのまにやらこんなストーリーに。
自分で考えたというより、各キャラたちが合わさって勝手にこんな話になったというのが強くて、自分でもとても感慨深く思います。
10期もがんばるぞ~!

tag : 第7期 第8期 第9期 ジャラヒ リオディーラ ダリア ドロシー

2013-11-28 : 語り : コメント : 0 :
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【SS】赤雫☆物語第9期【その5】

英雄戦に選出が決まった。
勅書を手に取りガッツポーズを決め、恥ずかしくなってそれを隠す。
これですべてが上手く行く気がした。
国を代表する一戦。
この戦に加わるというだけでも名誉な話だ。
手柄でもたてて帰ってきたら、みんな大喜びするに違いない。
ダリアだって、もうジャラヒを殺すなんていう話を取り消すに違いないし、あの日からどこか元気がないドロシーも、喜んでくれるに違いない。
二人にも、じっくり話をしよう。
それから…

(リオと、ちゃんと話す)

ロイが言っていたことは気になるけれど、もう一度、じっくりリオと話をして、それからリオと二人で考えればいい。
二人で考えたら、きっと怖いものはない。

英雄戦に勝てば、すべてが上手く行くに違いなかった。

「じゃ、行ってくるわ!」

玄関から声を上げると、返ってくる答えはなかった。
後ろ姿のダリアが、がんばってくればいいわとでも言うように、振り向きもせず手を振っているのが見える。あれでも精一杯の励ましのつもりだろう。いつもの彼女は、手を振ることすらないのだから、充分な励ましだ。
その素直じゃなさに苦笑しながら、頷いて、ジャラヒは家を出た。




結果はというと。
もちろん、予想通りだ。
満足しながら戦地を後にしたジャラヒは、英雄たちと共に街に帰り、労いの交わされる中、花道をそっと抜けた。
高揚感を味わうのもいいが、正直な所、気持ちはもうそれどころではなかった。
アティルトの入り口を越えると、早足になる。
早く、会いたい。
目指すは一つだ。
柄にもなく、胸が高鳴る。
リオはどこにいるだろうか。
別邸の方にいるのか、赤雫の本邸で待っているのか。
今日という日に、遊びに行ってるとは…ちょっと思いたくないけれど。
それもまあ、ありえる可能性として、心の準備をしておく。

街の中は大賑わいだった。
いつもより人通りが多い。
英雄たちの帰還だ。その帰りを待ち構えていた人たちが、大遠りに向かって、花を投げている。
交じる歓声と熱狂。
騒がしいのは好きではないが、これも、英雄戦を戦った英雄たちに向けての声援なのだから、ジャラヒも悪い気はしなかった。
逆に、励まされている気がする。
あんな英雄たちと共に戦ったという誇らしい気持ちを武器に、自分を奮い立たせる。

大丈夫。
リオが家にも別邸にもいなくて、もし遊びに行っているのなら、探せばいいのだ。
帰りを待つなんて、しなくていい。
ちゃんと、自分から探して、連れだして、話をしよう。
ちゃんと言うのだ。
見守るだけじゃなくて、一緒にと。

そうする理由も資格も、ちゃんとある。


と。

「ジャラ~!」
「うわ」

突然どこかから、ふわりと明るい声がして、暖かい何かに腕を掴まれたと思った瞬間、くるりとジャラヒの体が回った。

「おめでとう!ジャラ!」

つんのめりそうになりながら、体のバランスをようやく取り戻す。
何事だと腕の方を見ると、久しぶりに見る、一番見たかったものが、唐突にそこにあった。

「や~やっぱりジャラはすごいね!ちゃーんと英雄戦出れたもんね!帝国行ってきたんだって?すごいすごい!」

すごいすごいを連呼しながら、ジャラヒの腕を振り回す少女。
言うまでもない、赤雫☆激団の、本当のリーダー。リオディーラ。
リオ。
リオだ。
ジャラヒの大切な少女。
なんだか、すごく久しぶりに会った気がする。
心の中にはいつもいた、おひさまみたいな笑顔。
久しぶりで、懐かしくて、幸せで、どうしてこれがなくて今まで耐えられたんだろうと、不思議に思う。

「あ…うん、ありがとう。リオ…あの、おれ…」

あれほど言いたいことを考えたのに、言葉にならない。
何を言ったらいいものやら。
会えたとたんに霧散してしまった。
まるで、これでもう全部満足したみたいに。
だけど、これだけじゃダメなのだ。
ジャラヒは今まで、何度も満足だと思っていたけれど、そうではなかった。
そうではないから、彼女の幸せを、心から笑ってやれない。
もうそれは、嫌だ。
リオはというと、きょとんと首を傾げて、言葉を待っている。
が、しばしつっかえて、言葉を探しているジャラヒに、にっこりと笑って、ぽんと、その背中を叩いた。

「もう、遠征、あんまりいかなくていいんだよね?ジャラ。ね?
じゃあねえ、いっしょにあそぼうよ!」

言って、ぴょんと体を弾ませると、ふわりと、踊るように背中を向ける。

「お、おい」
「ほら、こっちだよ!」

小さな手が差し出されて、ジャラヒはそれをそっと握った。
暖かい手が、ジャラヒの手を包む。ぎゅっと包まれて、それから、強く引かれた。

「まずはねー、一緒にヒーローごっこするの!ジャラが鬼ね!」
「って待ておい!それは鬼ごっこであって、ヒーローごっこではない!」
「あれ?えーっと、じゃあ何のヒーローごっこしよっか?」

ひっぱられるままになっていたジャラヒだが、とりあえずつっこんでおく。
だけどリオは気にもしてないようで、へへへと笑って、それからねーと言葉を連ねた。

「やっぱりジャラが魔王で、ワタシがヒーローかな!」
「やっぱりってなんだよ。魔王とか魔神とかはナシ。嫌なやつ思い出す」
「じゃあ、いっしょにヒーローしよう!あっちの広場でね、ヒーローっぽいこと、どっちがいっぱい出来るか勝負するの!」
「ヒーローっぽいことってなんだよ」
「えーっと、あ、ほら、ゴミ拾いとか!」
「…まあ、ゴミ拾いはいいことだよな」

久しぶりに、リオと街を手を繋いで歩く。
時折急に止まったり、飛び跳ねたりして振り回されるのも、なかなか楽しい。
そこには、ロイが言っていたような、ジャラヒを避ける言動は欠片もなかった。

(なんだ…)

やっぱり、ジャラヒが忙しくて、顔を合わせる暇があまりなかっただけだったのだ。
心配して損した。
と、気に入らない魔神を心の中で罵る。
リオが避けているとか、消えるとか、離れろとか、変なことを言うから、必要以上に心配してしまった。
だけど、実際リオを目にしてみると、そんな心配、なんでもなかったみたいで。
胸いっぱいの暖かさを感じながら、自然に笑みが溢れる。


「んー、でもさ、今日は、広場も騒がしいから、丘でも行って、ひなたぼっこしながら昼寝でもしようぜ」

はしゃぐリオに苦笑しつつそう言うと、振り向いたリオは、少し考えて頷いた。

「そっか、そうだね!」


それから。
人ごみを避けて、少し外れた丘に向かう。
商店街を越えて、橋を渡って、のんびりと。
日差しは柔らかで、暖かい。
英雄戦記念セール!なんてやっていた商店の通りをすぎると、人もようやくまばらになってきた。
いつもは、このあたりも人通りが多いのだが、今日は英雄たちの見学に出ているのか、人の数も少ない。
隣を見ると、鼻歌交じりでスキップしているリオ。
あまりにものどかすぎて、あんなに不安に思っていた自分が情けなくなる。
いつも通りのリオは、いつも通りに楽しそうで、いつも通りに笑っていた。
ジャラヒがいつも幸せに思うあの顔で。

そうして30分ほど歩くと、小高い丘についた。


適当な木の下に腰かけて、大きく伸びをする。
昼寝しようと誘ったというのに、きゃっきゃとリオは飛び跳ねていて、それをのんびりと見ながら、ジャラヒは口を開いた。
言おうと決めていたこと、今ならなんともなく言える気がする。

「なあ、リオ」

ふわりふわりと跳ねていたリオは、今度は座って地面を見つめていた。
足元には白い花が咲いていて、それを摘もうかどうしようかと思案しているようだった。
花を触りながら、リオは、なぁにと生返事をする。

「リオはさ、おれといると、楽しい?」
「??」

口にしてみると、変な問いだった。
案の定リオはというと、顔をあげて、ぽかんとジャラヒを見ている。
それから、

「あったりまえだよ。変なジャラ!」

にっこりと、笑ってそう答えた。
そう、そんな答えを得ることは、予想していた通りだ。
ジャラヒの好きなその笑顔で、きゃっきゃとためらいもなく答えてくれる。
リオは、その望んでいた答えを、望んでいた通りに答えてくれた。
これで…
これで良しと、するべきなのかもしれない。
リオが、隣で笑ってくれることがとても幸せで、それをリオが楽しんでくれるなら、それでいい。
ずっとそう思っていた。
だけど、本当は、それだけじゃなかったのだ。

「最近さ、ずっと、一緒にいられなかっただろ?」
「なあに?ジャラ!さみしかったの??」
「うん」

いつもなら、ばか!そんなわけねえよ!と答えるところだったが、素直に頷く。
するとリオは、さすがにいぶかしく思ったのか、ちょこちょことジャラヒの横にやってきて、腰を下ろした。
きょとんと首を傾げて。

「…さみしかったの?」
「ああ、とっても」
「そっか」

小さな手を、ジャラヒの頭に伸ばして、まるであやす様に。

「ジャラヒはばかだねえ」
「おまえが悪いんだよ。放っておくから」
「そっか」

ナデナデ、と呟きながら、ジャラヒの金髪を触った。
ジャラヒもちょっとくすぐったくなって、身をよじりそうになったけれど、そのままにしておく。

「ジャラとね、こっちに来て、すっごく楽しくて、しあわせで、はしゃいじゃった。
 でも、ジャラをさみしくさせちゃだめだよね」

小さく聞こえるごめんなさいに、首を振る。

「や、別に、楽しいなら、…幸せなら、いいんだよ。
 ほんとは。いいと思ったんだ」

ジャラヒは、リオが帰ってこれる場所になろうと思っていた。
色々飛び回りたいけど、オーラムのこの場所も大事だと悩んでいた彼女に、それなら自分がここにいると、そう言ったのはジャラヒからだ。
あの時は、とても良い考えだと思った。
そう提案された時の嬉しそうなリオを見て、満足もした。
たまに帰ってきて、リオがうれしそうにあったことを話すのを聞くのも充分楽しかった。
リオが外にいる間、赤雫☆激団は任せろと、あんなにはりきっていたものの。
結果、自分の小ささに気が付いて凹んでしまう。
やっぱりリオと一緒にいたいだなんて、女々しいかもしれないが、真実だ。

「あのね、ジャラ」

頭からそっと小さな手が離れ、それからその手は、ジャラヒの手を掴んだ。
ぎゅっと、力強く握られて、痛みすら感じるその強さに、ジャラヒは思わず手を見て、それから、リオのまっすぐな瞳を捉えた。
赤い、ルビーみたいな、大きな目。
いつも好奇心で溢れていて、世界中の全部を見たいみたいに、とらえどころがなかったその目は、今はただ、まっすぐにジャラヒだけを見ていた。

「ジャラと出会えて、ワタシは本当に嬉しかったの。
 ジャラがね、色々考えて、心配してくれてたの、知ってたよ」

だけど、と加えて、それから彼女にしては珍しく、いつも上を見ている目線をそっと下げた。

「だけどね、心配してくれればくれるほどね、消えちゃいそうになるの。
ジャラは、いつもね、何も言わずに、ワタシのこと、なんだってしてくれるでしょ?」

それはそうだ。ずっと、リオを見ていたんだから。
彼女が欲する全てを身体全体で察しようと、彼女が幸せになれる空間を作ろうと。
言葉なんていらないと思っていた。別に、伝わらなくても構わない。
彼女の幸せこそが、自分の生きるすべてだと思っていた。
全部、世界中のすべてが、彼女のためにあればいいと。

「どうしてかなって思ってたの。心配してくれるの。嬉しかったけど。
 もう、ワタシはジャラに会えただけで嬉しくて幸せだったのに、ジャラは、いっぱいなんでもくれてね。
 ワタシ、これ以上もらったらダメだって思って。なんでこんなにしてくれるのかわかんなくて。だけど…」

そっか、と頷いた彼女は、泣きそうに笑った。

「ジャラは、さみしかったんだね」

笑っているのに、今にも泣きそうな顔に見えて、ジャラヒは彼女の手を引いた。
何の抵抗もなく、彼女の頭が、ジャラヒの胸にトンと凭れ掛かる。
やっぱり軽い。
リオの身体はとても小さい。
すっぽりと収まったその体をトントンと撫でるように叩くと、その頭が頷くのがわかった。

「ねえ、ジャラ。初めて会った時のこと、覚えてる?」
「…ああ、おれがおまえを撃って、怪我させちまったよな。悪い。それからおまえがおれを助けてくれて…」
「ちがうよ。もっともっと、ずっと前のことだよ」
「?」

ん、と彼女の顔を見ようとすると、リオはその顔を、さらに強くジャラヒの胸に押し当てた。
ぎゅっと、背中に彼女の手が回りこむ。
下を見ても、彼女のその小さな頭が見えるばかりで、表情は見えない。
だけど、くぐもった声で彼女は続けた。

「ジャラはね、ワタシのこと大好きだったんだよ。
 ワタシも、ジャラのこと大好きだった。大好きで大好きで、いつか会いたいなって、思ってたんだ」
「って、え?何の話だ?」

彼女が唐突に口に出したのは、ジャラヒの記憶にまるでない話だった。
話が見えない。
リオとジャラヒが初めて会ったのは、ブリアティルトに来る前の話。
ジャラヒが17になったばかりの頃で、父親に組織をつぶされて、逃げるように、復讐を誓いながら、街を彷徨っていたときのことだ。
兄の出した追手につかまって、あわやというときに、彼女に助けられた。
ジャラヒは最初、有翼人種な彼女を金になると売ろうとすらしたのに、ジャラヒを助けた彼女は、会いたかったと。生きてほしいとそう言って笑って。ジャラヒに暖かさを、幸せをくれて、それからジャラヒも、彼女のために生きようと思ったのだ。
それが、初めての出会い。
それより前に、リオを見たことはない。
あれが、初めてのはずだ。
こんな羽の生えた少女だ。会ったことがあるなら、覚えているはず。


「ジャラはね、いつも、ワタシを見て、がんばれって言ってくれてね。
 嬉しくてワタシ、黄金の国に辿りつくの、すっごいがんばったんだよ」

リオは、そう言いながら、顔を上げようとはしなかった。
口にするのは、ジャラヒの知らない話。
知らない話を、知ってるみたいに言って、ぎゅっとジャラヒを抱きしめたまま、途切れ途切れの声を、続ける。

「でもね、いっぱい色々あって、黄金の国に辿りついて。幸せになって。
 いっぱい幸せになったら、ジャラはいなくなっちゃった」

何の話かわからない。
だけど、リオが必至で言葉を繋いでいることだけはわかったので、応えるように、ジャラヒもリオを強く抱き返した。
よくわからないけれど。
わからないけれど…わからないなりに、受け止める。
今彼女にしたいのは、話の内容を聞き返すことではない。

「おれはさ、いなくならないよ」

一番大事なことだけを、伝える。
伝わればいいと思った。
とんとんと叩いてやると、リオの背中がくすくすと揺れる。

「うん、だからね、今度は、ジャラと一緒にね、幸せになろうと思ったの」
「…うん」
「ジャラとね、いっぱいがんばって、楽しいこといっぱいしてね、たくさんの目的をね、叶えて、それから幸せになりたかったんだ」
「うん」

たくさんやりたいことがあるの!
と、リオはいつも笑っていた。
いっぱいいっぱいすることがあって困るのだ、と頬をふくらませるリオに、何がしたいんだ?と尋ねると、正義の味方になるだとか、昔の恩人に礼を言うのだとか、竜を倒したいだとか、お姫様と友達になりたいとか、出てくることに際限はない。
三年を繰り返すブリアティルトで、それを全部かなえてやるんだと笑ったリオに、それなら手伝ってやるかと、ジャラヒもそっと思っていた。
深く理由は聞かなかったし、リオが楽しそうならそれでいいと。

「ジャラと一緒に幸せになりたかったのに、さみしくさせちゃってごめんね」

一緒に幸せになりたい。
リオがそう言ってくれるだけで、もういいか、とジャラヒは思った。
色々難しく考えていたのがバカらしい。
リオを幸せにしたいとか、ずっと笑っていてほしいとか、だけど感じる置いてけぼりにされた気持ちとか、黒い嫉妬だとか、捻くれた狭い心だとか、そんな色々な考えでぐちゃぐちゃに考えていたけれど。

(…なんだ)

答えはこんなに簡単だったのだ。
気づいた途端、笑い出したくなる。
別に、難しく考えることはなかった。
リオと一緒にいたいという気持ちは、別に悪いものでも間違ってるものでも、悩むべきものでもなかった。
本当は、一緒にいていいか、と彼女に頼むつもりだったのだけど。
なんだか今度は少しそれとも違った気持ちで。
思いつく前に口が開いた。

「なあリオ、結婚しよっか」
「へ???」

言った後で、頷く。
それしかないような気がして、しっくりと、胸がすとんと楽になる。

「うん、そうだ。リオ、おれたち、結婚しよう」


そう肩を揺らすと、さすがにリオも驚いて、その顔を上げた。

「え?え?」

ぱちくりと開けた目の端は赤くなっていて、少し涙が滲んでいる。
その涙を指で拭いてやり、そのまま、額をトンと小突いてやると、混乱したままのリオの目が、笑うジャラヒを捉えた。
我ながら、満足そうな顔をしていて、どこか悪巧みでも思いついたような、ちょっと悪い顔と言えなくもなかった。
だけど、これ以外はもう考えられない。

「どうやって、リオと一緒にいようかと思ったんだ。ずっと、一緒にいたいけど、お前はいつもふらふらしてるだろ?おれもそれ、止めたくないし。おまえには、笑ってほしいし。しつこくはしたくないし。でも…」

幸せを願うのは本当だ。リオには好き勝手してもらっていいと思っている。
それでも、そんなリオを見て、胸が軋むのはたしかで。

「でも、もうこんな思い、したくないしな。
 一緒に幸せになりたいなら、簡単だった」

いや、今気が付いたんだけど、と、誤魔化すように笑って、

「いいアイディアだろ?リオ。
 おれと一緒に、幸せになれる。絶対に、おれが幸せにする」

リオに幸せでいてほしい。
笑っていてほしい。
その気持ちが少し歪んでしまっていたのは、一つだけ見てないものがあったから。
幸せにするのも、笑わせるのも、楽しくさせるのも、全部、自分でしたかった。
だれでもなく、ジャラヒ自身の力で、彼女を幸せにしたい。
一番の力になりたかった。ずっと傍にいたい。
全部、リオに一番をあげたい。

「だから、リオ。おれと、結婚してくれませんか?」
「あ、え、ジャ、ジャラ??」

赤くなったリオは、慌てて一歩下がろうとしたけれど、その体はしっかりとジャラヒが抱きしめているので動かない。

「え、ジャラ、結婚って…」
「知らないの?おまえ。無知にもほどがあるぞ」
「し、知ってるよ!夫婦にな…な?なるの?ワタシとジャラが??」

意味をわかってくれたのか本気で不安になったが、その赤い顔を見ると、ちゃんと把握しているようで、ジャラヒはほっとする。
口に出してみると、やっぱりそれが一番の正解だ。
ちょっと早すぎる気もしたが、もうこの世界に来て、三年間を何度も何度も繰り返しているのだ。体はまだ若くても、精神はもう立派な大人と言っても問題ない。
ぱちくりと目と口を開いたり閉じたりしていたリオは、結婚かぁ…と呟いて、それから、ぎゅっと、ジャラヒの首に抱き着いた。

「リ、リオ??」
「ふふふ。それって、とっても幸せになっちゃうね」
「おう。もちろん。世界一幸せになっちゃうぜ」
「そっか、世界一なんだ」

ぎゅーっと抱き着いてきたリオは、ずっと、幸せ幸せ、と呟いていた。
ふふふと笑う声が耳元で囁かれるように揺れてくすぐったい。
今更ながらなんだかとっても恥ずかしくなって、照れを隠すように、ジャラヒはリオの背中を、ぽんぽんと叩いてやる。

「おーい、リオさん。お返事は?」

ジャラヒが笑いながらそう言うと、リオは顔を上げて、ジャラヒの顔を見た。
それからにっこりと笑って。
これ以上ないくらい、幸せを顔にして。
なんだかとっても泣きそうな顔で、そっと。
ジャラヒの唇に、自身のそれをくっつけて。
それから、ゆっくりと離れて、言った。

「ありがとうジャラ。ワタシ、ジャラといっしょに幸せになれたんだね」

もう、幸せいっぱいが顔一面に現れた笑顔で。

「だからもう、ワタシの物語」

ぽろりと一粒涙を落として。

「これで、おわりで、いいや」

ジャラヒの唇と腕に、暖かさだけ残した後。

ジャラヒの腕は、空を切った。


「は?」
いきなり体が軽くなって、バランスを崩したジャラヒが、地面に手をつく。

「え?」

やわらかい草が、ジャラヒの背中を抱きとめた。
草と、白い花と、青い空と、雲と、それから木が一本。
辺りを見回す。
青い空と、太陽と、雲と、草と、花と、それから木。
他にはもう、何もない、ジャラヒひとりが倒れ掛かっている、広い丘。
鳥の声すら聞こえない、静かな丘だ。

「リ…オ?」

呼びかけても、返事はない。

「リオ!!」

かくれんぼ、だろうか。
隠れるところはないけれど。
先ほどまで、腕の中にいたけれど。
笑っていたけれど。
幸せだと、あの明るい声で、泣きそうになりながら言っていたけれど。
もう、その姿はどこにも見えなくて、声ももう風に溶けて消えていた。

「ちょ…ちょっと待てよ。悪ふざけは止めろよ」

名前をもう一度呼んだ。
もう一度。
もう一度。
立ち上がって、叫んでみた。
走って辺りを見回して、もう一度呼んだ。
呼んで、叫んで、声を上げて、何度も何度もその名を口にする。
やがて、喉が痛くなって、声が枯れて、街の近くまで来て、それでも、返事はない。

「すみません!リオ…女の子、青い髪の、これくらいの子、見ませんでしたか?」

待ちゆく人に尋ねてみても、首を縦に振る者はいなかった。
街はまだ、英雄たちの凱旋で盛り上がっていて、熱気は消えていない。花道に投げられた花は、踏まれて黒くなっていて、それを気にせずジャラヒも踏みにじりながら、街を駆けた。
呼んで叫んで駆けて。
でも、リオはいない。
人が多いから、仕方ないのだと思う。
英雄の凱旋で盛り上がっていたのだから、小さな女の子なんて、きっと誰も見てないだけだ。
見落としているだけで、きっと、リオは、いつもの通り、この道を歩いて、楽しそうにスキップして、通り過ぎたに違いない。
通り過ぎて、ここを右に回って、きっと。
きっと、いつもの我が家に、赤雫☆激団に、本拠地に帰ったに、違いなかった。

壊れそうになる心臓を抑えながら、ジャラヒはその道を辿る。
いつもなら、スキップしているリオは、ここの石段で転びそうになるのだ。
それから笑って、悪の罠なんかに負けないんだから、大丈夫だよ、なんて自分の不注意を笑う。
こっちの屋根から飛び降りて、怪我をしたこともあった。
ヒーローごっこでどの高さから飛び降りれるか試してみたのだと言っていた。
バカなことを言って、あそんで、いつも楽しそうで、これからもずっと楽しく笑っているはずで、今度はもっと、ジャラヒが幸せにする筈だったリオは、きっとこの道を通って家に帰ったはず。

そう、この、ちょっと古くなった扉を開けて、ただいまって、明るく言うのだ。

「リオ!!ドロシー!ダリア!!」

扉を力任せに開けたジャラヒは、家にいて、帰りを待ってるはずの名前を叫んだ。

「なによ騒々しい。…聞いたわよ。おめでとう」

返ってきた返事はひとつ。
いつも無愛想なダリアの、珍しいおめでとうの声。
彼女が勝利をねぎらうなんて初めてのことだ。
英雄戦の勝利はやっぱり違うなあ、なんて、いつもなら軽口をたたくところだが、今、ジャラヒにそんな余裕はない。

「ダリア!リオ、リオはどこだ?」
「は?」

胸が、まるで壊れそうなほど鳴った。
自分の身体じゃないみたいだ。
自分の声をかき消すみたいに、ダリアの返事をかき消すみたいに、どくどくと、音を立てて。

「リオ?」

それでも、かき消すことはなくて、ダリアの声は、ジャラヒの耳にちゃんと届いた。

「…知らないわ。誰?あんたの友達?」

怪訝に眉を顰めたダリアは、嫌になるほどはっきりとした声で、言った。
半ば予想していたその答えは、予想していたにも関わらず、ジャラヒの全身に刺さる。

「…?どうしたのよジャラヒ。何なの?」

全身をずたずたに刺されそうになる感覚に、ジャラヒは叫びだしたくなった。

やっぱり、リオはいない。
リオディーラ。
黄金の国を目指して、たくさんの冒険の果てに辿りつき、幸せになる少女。

ジャラヒは知っている。

ずっと、知っていた。気づいていた。

気づいてたから、応援していた。幸せにしてやりたかった。


「…ジャラヒ?」

振り切るように、ジャラヒは身を翻した。
もう一度、街を駆ける。
探しても、リオなんて少女、もういないとわかっているけれど。
だって、彼女は幸せになったらもう終わりなのだ。
幸せになって、めでたしめでたし。
そこでエンディング。
だから、ジャラヒはもうその続きをめくらなかったし、せがまなかった。
幸せになったんだから、もうそれで終わりだ。




『昔々あるところに、女の子がいました』

『女の子は、遠い遠い国を目指していました』

『黄金の国』

『そこに行くと、願い事が叶って、幸せになれるのです』



それは、小さなジャラヒが、乳母に――ドロシーにせがんで聞かせてもらったお伽話。
それから、大きくなって、組織の子供たちにせがまれて読んだお伽話。
あの、父親につぶされた組織の部屋で、燃えカスになった絵本。
燃えカスになって、消えて、その絵本はこの世からなくなって、それから。


それからリオは、ジャラヒに会って。
黄金の国を目指して、幸せになって。
終わったのだ。これ以上ない、ハッピーエンディング。
だとしたら

「いっしょに…」

一緒に幸せになると決めた、ジャラヒは、どこで終わればいいんだろう。

ぐっと拳を握って、ジャラヒは空を見上げた。

「一緒に幸せになるって、言っただろ」

まだ、終わってない。
ここで終わるわけには、いかなかった。
ジャラヒの幸せは、それで終わりじゃないのだ。
まだまだ続きはある。
それに付き合ってもらわないことには、リオを終わらせるわけにもいかないのだ。

「おまえ、返事もまだ言ってねーじゃねえか」

まだ、聞かせてもらってない。
だから、まだ終わってない。幸せになったけれど、続きもたくさんある。

それに

「まだ、好きとか、ちゃんとおれは言ってないんだぞ」

彼女の幸せの話だって、まだ終わってないはずだ。
握った拳を見ると、いつの間に掴んでいたのか、茶色の羽が一つ。
一つだけその手の中にあって、それは、ジャラヒの希望として残っていた。
彼女が確かに、この世界にいた証。
あの世界、ジャラヒやダリアのいた世界では知らない。
だけど、この世界には、確かに彼女はいたのだ。
だから…

きっと、まだ諦めるのは早い。
握った拳をそっと開いて、小さな羽を優しく包むと、ジャラヒは胸のポケットに、それを大事にしまった。
いつか会う、彼女の証だ。




時は、999年も終わり。やってくる1000年。
ブリアティルトはしばらくして、10回目の始まりを記録する。

tag : ジャラヒ リオディーラ 第9期

2013-11-20 : SS : コメント : 0 :
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【SS】赤雫☆物語第9期【その4】

「…遠征じゃなかったのか?」

赤雫☆激団別邸。
現在、リオたちの拠点としているその家にて。
訪れたジャラヒを出迎えたのは、ジャラヒがいけ好かないといつも思っている男、ロイだった。
思わず舌打ちが出る。
ロイがなぜここにいるかは…この巡りではリオのサポートを役目としているロイなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、彼の留守中を上手く狙えなかったことが腹立たしい。
もっとも、ロイがいつ留守にしてるかどうかなんて、ジャラヒは知らないし、興味もなかったが。
彼と仲間として、同じ部隊で過ごしたこともあるので、リオや仲間に危害を与えることはないと知っている。
が、得体のしれない力を持ち、いつも飄々としている胡散臭い男という印象は、いつまでたっても変わらない。
要するに、馬が合わないのだ。

「……リオは?」

無視することも考えたが、大人げないと思い、ジャラヒは短くそう尋ねた。

「ソウヤと出てる。バザールで買い物じゃないか」
「ふーん」

答えを聞くと、会話はそこで終わる。
何を買いに行ったのかとか、いつ帰ってくるのかとか尋ねたいこともあったが、この男と世間話をするのも億劫だ。
間にリオがいるならまだしも、二人きりで話すなんて、冗談じゃない。
と、ジャラヒがそのまま踵を返そうとすると、ソファに腰かけていたロイは、立ち上がって言った。

「せっかく来たんだし、もう少しいれば?
 この時期に遠征投げ出して来るくらい、重大な用なんだろ?」

出てきた言葉は、いつも通りの皮肉さが溢れていたけれど。

ジャラヒが答える前に、ロイはキッチンに向かい、なにやらガチャガチャと食器の鳴る音が聞こえた。
それからぽかんとするジャラヒの前に出てきたのは、暖かそうな湯気を漂わせたコーヒーカップが二つで。

「…何突っ立ってんだ。座れよ」

何の因果か、嫌いな男と膝を突き合わせて、向かい合ってソファに座る羽目になった。



悔しいが、コーヒーは美味かった。
リオとロイと三人だけで赤雫☆激団を始めたころは、三人とも料理の腕は酷いもんで、切る焼く食べるくらいしかできなくて、コーヒーも紅茶も満足に入れられなかったというのに。
幾度目かの巡りを経て、ロイはそつなくコーヒーを淹れられるようになっていたらしい。
もちろん、ジャラヒだってそれくらい出来るようになっているし、最近は、料理をするのは楽しいとすら思える。
それというのはもちろん

(これ、ドロシーの淹れるコーヒーそのままだな)

ジャラヒの乳母であり、赤雫☆激団メイドであるドロシーは、料理洗濯掃除などの家事を一身でやりながら、空いているときに、一味に少しずつ家事を教えてくれていた。
押し付けるわけでもなく、さりげなく。
コーヒーを飲む間に、鼻歌交じりに。
それは、ジャラヒにだけでなく、ロイにもだったのだろう。
共に暮らしていた時に出てきた泥水のようなコーヒーではない、真っ当なコーヒー。
美味いなんて言うつもりはさらさらないが、それでも少し、驚いた。

「英雄戦、行くんだろ?おめでとう」
「な、なんだよ気持ち悪ィ。まだ結果は出てねえよ」
「おまえ、出るって意気込んでただろ。当分遠征で帰ってこないだろうと思ったけど、ここに来るくらいの余裕があるなら、決まったのかなと」
「…なんだよ、皮肉か」

ブリアティルトの三年間の最終決戦。いわゆる英雄戦は、各国の英雄たちと、国に功績を認められた傭兵たちが呼ばれ、英雄の指揮の下戦うことになっている。
前の巡りでは、赤雫☆激団で部隊長をしていたロイも英雄に呼ばれ、剣を取って戦った。
だから、というわけではないが、ジャラヒも、ロイに負けるわけにはいかないと、口にせずとも目標にしていた決戦だ。
別にそんなものどうでもいいけど、というスタンスを見せていたつもりだったが、内心必死になっていたことは、この男にはバレていたらしい。
そういう見透かしてくるところがまったくもって気に食わない。
その上この皮肉だ。
この男が言いたいのは、こんな大事な時にサボれるなんていい御身分ですね、とかなんとか、そんなところだろう。
本当に腹の立つ。
魔神なんて悪どいものをやりながら、優等生顔をしてそんなことを言うところも気に入らない。
と、ジャラヒが睨むとロイは、きょとんとして、

「皮肉というか…お前は英雄戦に出るのを諦めてサボるなんて、出来る男じゃないだろ」

と、さも当然のように言うので。
それもまた気に入らないと、ジャラヒは息をついた。

「…遠征は今、ダリアが行ってる。おれはちょっと今日はリオと話したくて来た」
「ああ、ダリアが。彼女なら問題なさそうだな」
「借りができたから、帰ったらおれは何されるかわからんがな」
「そーいやお前、部隊長として失格だったら彼女に殺されるんだって?」
「そーそー、よくわかんねーけどな。生かすか殺すか見定めるって言ってた…
 …ってなんでおれはおまえと仲良く会話してんだ」

気が付いたら、コーヒーを一杯飲み終えるまで会話をしていた。
リオを交えずに、二人でこれほどの間会話をしたのは初めてである。
大体、二人で話をするシチュエーションも今まであまりなかったが、あっても大体は黙っているか、話しても喧嘩や皮肉の押収だった。
なのに、いきなり席をすすめられ、コーヒーが出てきて、気が付いたら会話をしている。

「一体何を考えてる陰険大魔神…」
「おまえって、ずっと思ってたんだけど、バカなのか聡いのかはっきりして欲しいなーとかそういうことを考えてるけど」
「新手の喧嘩の売り方だったのか。気づかなくて悪かったな。買うぜ!」
「歩み寄って会話してみようと思ったけど、やっぱりここでいつも通り剣を取る選択の誘惑に心揺れるな…」

などと呟きながら、ロイの手がコーヒーカップから、腰の剣に移動する。
が、柄を掴む前に、首を振って手を戻し、座りなおした。

「悪い、今日は喧嘩をする気はないんだ。ヘタレヤンキー…じゃない、えーっと、ジャ…おまえ名前なんだっけ?ジャック?」
「ばっちりしっかり喧嘩売る気満々じゃねーか!」

冗談なのか何なのか。8割くらい素に違いないが、ロイはパタパタと手を顔の横で振り、そうそう、と誤魔化すように言って、コーヒーを淹れなおした。

「ジャラヒ。だからまあ、喧嘩腰になるのはやめだ」
「喧嘩売ってんのはどっちだ。ったく、話があるならそう言え。リオが帰ってくるまでなら聞いてやらんでもない」

珍しく下手に…これでもロイにしては下手に出てきたので、ジャラヒもぐっとこらえて座り直す。
真正面を向いてやったのに、ロイはすぐに口を開こうとはしなかった。
コーヒーをもう一口、それからもう一口。飲んで、息をついて、それから。
しばし言葉を探したようだったが、ロイが口にした言葉は、短かった。

「リオには会うな」
「は?」
「会わない方がいい。きっと、後悔する」
「…なんだよそれ」

その出てきた言葉はジャラヒの聞きたいものではなかった。
どんな悪言雑言よりも尚悪い。
喧嘩腰になるのは止めと言いながら、今まで聞いたどの言葉よりも聞き流せるものではない。

「ふざけてるのか?」
「本気だ。おまえと喧嘩するつもりもない」

ロイは冷静だった。揶揄するような素振りもなく、鋭く目を細めたジャラヒの目を、そらすことなく正面から見つめて、冷静に言葉を進める。

「これ以上、お前がリオと会うのは、リオにとってもお前にとっても良くない」
「っは。それは魔神様のご意見ですか?」
「魔神の力を使っての意見、という意味でならイエスだ。
皮肉のつもりで言ってるならなら否定する。お前のためを思ってと言うつもりはないが、悪意はない」

淡々と言うロイは、確かに悪意を持っている様子はない。
が、かといってそうですかと聞ける発言でもなく、ジャラヒは歯ぎしり一つして、カップを置いた。
このままだと叩きつけてしまいそうだったからだ。
相手が冷静なときに、こっちが熱くなってはいけない。
熱くなった方が負けだ。
それだけははっきりしている。
ただの喧嘩ではない。
ここでロイを殴ったところで気は晴れない。
勝ちたいなら、この男から、目を逸らしてはならない。

「…へえ。ご親切にどうも。何?あんたとリオが何やってるのか知らないが、つまりは、おれがいると二人の邪魔ってことか?」
「それとは別件だ。…お前は、リオのことをどこまで知っている?」
「髪の先からつま先まで。なに?あんたはもっと知ってるってーの?ほくろの数でもあてっこするか?」
「茶化すな」

揶揄してやると、ようやくロイは眉を顰めた。
その冷静な顔をゆがめたことに、ようやくジャラヒは満足する。

「おまえが何を知ったのか知らないけどな、ロイ。
おれがそんなの聞くわけないだろ?理由を聞くまでもない。却下だ」
「リオのためだと言ってもか?」
「なんでおまえに、それがリオのためだとかわかるのかって話だな」

ジャラヒがこう答えるのは予想通りだったのだろう。
ロイは、うんと頷いて、薄く笑った。

「ほら。おまえは、本当にリオの為になるんだったら、聞かざるを得ない。
 だからおれから理由を聞きたがらない。理由を聞いたら、受け止めざるを得ないかもしれないから。そうだろ?」

この、ジャラヒの一番嫌いな顔。
ロイは、真面目にものを考えるときに、口元で笑う癖がある。
逆境や、追い詰められている時、敵に囲まれている時でもこの顔で笑う男だと、知ってはいるが、何を余裕ぶってんだと、ジャラヒからしてみると気に入らない。

「おまえとリオが出会ったのは、ブリアティルトではない世界だったよな」

ジャラヒが口を開く前に、ロイは話を進めた。

「おれのいた日本でもない世界。ダリアもそこだったっけ?そこで、追われていたおまえを助けたのが、リオだった」
「…それがどうした」

もちろん覚えている。
あのときジャラヒを救ったリオの姿。
どっかーんとすべてを吹き飛ばして、彼女はジャラヒに笑いかけてくれた。
あれがすべての始まりで、ジャラヒはそのとき、彼女とともに行こうと決めたのだ。
彼女のために。生きていこうと。

「…おまえに会う前、リオは何をしてたか、知ってるか?」
「一人で旅してたんだろ。
 たくさん目的はあるって言ってたが、…黄金の国を目指すとか、昔助けてくれた輝く星の人を探すとか、あ、これは正体はおまえだったんだっけ?」
「あんな小さな子が一人で旅とか、おかしくないか?」
「村を滅ぼされたから仕方なくって言ってたろ。って、そのときリオを助けたのがおまえじゃねーの?」

村が襲われて、輝く星の人が、助けてくれたの!がリオの語るヒーロー話の定番だった。
助けられたリオは、その人をあこがれに、ヒーローになると誓って旅に出たと。そう何度も聞いたことがある。
そして、最近語られた事実。
実はロイが、その助けてくれたヒーローだったことが発覚したと。
リオから聞いたのは、そこまでだ。

「ああ、たしかに、おれは前の巡りで、黄金の門を通って逃げてきた幼いリオを助けた。
 助けたと言っても、見つけて励ましたくらいだけどな。
 リオはそのまま元の世界に戻っていった。そこから先は知らない」
「だから、それがどうしたんだよ」

前の巡りだとなんだろうと、ロイが彼女を助けたのは事実だ。
もしその場に自分がいれば…とジャラヒも思わないでもなかったが、それを口に出すほど小さな男ではないつもりだった。
しかし、それが今の話、ジャラヒにリオと会うなという話に、どう繋がると言うのか。

「そこから先は知らないんだ。あの子がどうやって生きてきたのか。『力』を使っても、何も見えない」

未来と過去を見通すことができるという悪趣味な力を、ロイこと魔神アスタロトはもっている。
それを暗に仄めかされて、ジャラヒは舌打ちした。
得体のしれない魔神の力は、ジャラヒがロイを嫌う理由の一つである。

「そもそも襲われた村ってなんだ?彼女は何に襲われて、どこから逃げたんだ?」
「…有翼人種は絶滅してると言われるほど珍しいからな。村があるなら、襲われてもおかしくねえだろ。襲ったのは、大方ハンターか何かじゃねーの」
「絶滅してると言われてるのに、村があるのか?自給自足でひっそりと、隠れてる排他的な村?」
「そうなんだろうよ。知らねえよ」

何が言いたいのか、いらいらする。
ジャラヒが何度目かの舌打ちをするにを気にもせず、ロイは続けた。

「実はおれ、お前たちの世界、一度行ったことがあるんだ。気になって。」
「へー、ああ、なんか世界を行き来する力があるんだっけおまえ。魔神様はなんでも出来てすごいですね」
「ふざけるな。お前たちの世界は、近代的だった。おれのいる地球に近い。
機械もあるし、新聞も、ラジオもあったな。車も。そういえば、ダリアだって銃を持ってる。お前も護身用で持ってるんだろ?情報もインフラも、地球ほどじゃないがしっかりしている。
 有翼人種が隠れて住めるような世界じゃなかったぞ」
「おまえが見てないだけだろ。田舎にゃきっと、隠れ村くらいあるだろうさ」
「…かもしれないな。絶滅した有翼人種を村単位で発見して、そこを襲ったハンターがいるなら、その話がニュースにならないのもおかしな話だが」
「だーかーら、何が言いたいんだよ」

バン、と立ち上がって机をたたく。
これ以上、話はしたくない。
そう言って立ち去ってやりたかったが、なぜかジャラヒの足は外に向かなかった。

「あの子、13歳だっけ。10年前前後の新聞にも、そんな記述はない」
「…調べたのかよおまえ。他人の世界の新聞。ちょっとぞっとするわ」
「ルウィン連れて行って調べさせた。まあそれはともかくだ」

ルウィンというのはロイの子分。正しく言うとロイの彼女の子分だが、それはともかく。

「そのときに、ひとつだけ、気づいたことがある」

そう言って、ロイは口を噤んだ。
ここまでは、なめらかに続けたくせに、そこからは言葉を何も考えてなかったかのようにやめて、一瞬目を伏せて、それから顔を上げた。

「…お前は、リオについて、気づいたことはないか?」
「そこまで言って、おれに聞くのかよ。魔神様ほどそんな観察力もないんでね、おれは」

立ったままロイを見下ろし、ジャラヒは腕を組んだ。
周りくどい男の言い方に、イライラする。はっきり言えと言いたいが、何故だかそれも言えなかった。
聞きたくない。だけど、聞かないわけにもいかないのは、ほかならぬ、リオのことだからだ。

「…おまえが何を言いたいのかわからん。だけど、まあ、言っておく。
 例えリオが何者でも、おれには関係ないさ。
 おまえの言うように、有翼人種の村なんて、おれの世界じゃ聞いたことない。
 有翼人種なんて、剥製が高価に取引されるくらいで、絶滅危惧種だ。
 だけどまあ、もしかしたらあるのかもしれないし、ひょっとしたら、リオはお前みたいに、別の世界から来たのかもしれない。
 ブリアティルトだってそうだろ?この世界には、色んな人種がいる。リオみたいに羽が生えたのもな。
 だから、別に、リオがどこから来たやつだろうと、おれはどうでもいいし、関係ない」
「…そうか」

別に、リオが何者でもいいのだ。そんなこと、ジャラヒには関係ない。
何があろうと、どんな正体だろうと、ジャラヒはリオの味方をすると決めていた。
決めたからには、何があったって問題ない。

そうジャラヒが言うと、あっさりとロイは頷いた。

「まあ、そう、だろうな。だとすると、おれが用意してた説得材料は、お前には意味が無いのかもしれない。だけど」

だけど、と区切って

「おれの意見も変わらない。おまえはリオから離れろ。リオを思うなら尚更だ」

真正面からジャラヒを見て、言った。

「じゃないと、リオが消える」
「は?」
「言っても信じないだろうけど、そうだ」
「意味がわからん」

肩を竦めても、ロイは微動だにしなかった。先ほどからわけのわからないことを言って、誤魔化しているのかどうなのか、はっきりした理由を口にしてはいない。怒らせるためのその態度なら成功だ。

「悪いが、全部を言うわけにはいかないんだ」
「なんだそりゃ。理由もきちんと説明せずに、リオから離れろで、納得できると思ってるのかよ」
「ヒントはくれてやってる。わからないわけでもないだろ」
「はあ?」
「おまえがリオと会ったときのこと、それからのこと、それまでの話。誰よりもあの子を知ってるおまえなら、わからないはずない」
「……」

誰よりも、リオをわかっている。
口にしなくても、彼女の力になりたい。
優しくて、明るくて、元気で、でもほんとは寂しがり屋で。
初めて、ジャラヒに生きてほしいと言ってくれた少女。
彼女はジャラヒに笑顔をくれて、ブリアティルトに連れてきてくれ、この世界でジャラヒに幸せをくれた。
彼女の過去なんて、わからなくてもよかった。
べつに、どうだってよかった。
だから…―――


「それに、ジャラヒも気づいてるだろ」

かちゃんと、食器の鳴る音がした。
払ったコーヒーカップが、テーブルの上を転がり、残っていた少しのコーヒーが、テーブルに染みを作る。
それでも、ジャラヒは気にならなかった。
気にしてはいけない。
これ以上は、聞かなくていい。


「リオは今、おまえを避けてる」
「黙れ」

胸ぐらを掴まれても、やはりロイは、眉を少し動かした程度で、動揺を顔に表さなかった。
それが余計に頭にくる。

「おれとリオのことに、おまえは関係ない」
「落ち着け」
「勝手なことばかり言いやがって、いつもおまえはそうだよな。魔神様はなんでもわかるから、上から目線で言うのも仕方ないってか?」
「……」
「おれはな、おまえのその、いつも見透かしたような顔が大嫌いだ」

近くで見たロイの顔は、いつものすかした顔だ。
その顔で、口元を笑ったように歪ませて、襟元を掴んだジャラヒの手を払う。
それから、ぱんぱんと服を叩いて、立ち上がってジャラヒを睨んだ。

「奇遇だな、おれも、お前のそのバカなフリをしているところが大嫌いだ」



と。


「ストップストップ!ふたりとも、なに殺気撒き散らしてんだよ。この小さいボロ家壊す気かよ。落ち着け」

ドサッと手に持った荷物を落として、二人の間に入ってきたのは、赤雫☆激団新人だった。
ソウヤは、まあまあと言いながら、ジャラヒとロイの顔を順に見て、それから肩をすくめた。

「ただでさえボロ家なんだからな、ここ。どうしたんだ?おまえら喧嘩ばっかりって聞いてたけど、ほんとにそうなんだな。おれが来なかったらどうなってたことか」

言いながら、転がったカップを元に戻し、ぽんぽんと二人の肩をたたいた。

「…帰る」
「ん、ジャラヒ、もう帰るのか?ああ、遠征で忙しい時期だもんな」

そんな声に答える余裕もなく、ジャラヒは振り向きもせず、手を振るだけで答えた。

「って、ちょっと待てって、ジャラヒ。リオちゃんから伝言!会えたら言えって」

その言葉には、足を止めざるを得なかったが。

「英雄戦、がんばってってさ。あれ?もう結果出てんだっけ、出場傭兵メンバー。気が早いよなあの子も」
「…リオは?」
「ああ、ヒーローごっこ。まだ遊んで帰るってさ」

ソウヤは、街でヒーローをやっていたリオに憧れてこの部隊に入ったはずだったが、そんな設定忘れたとばかりに、リオが外でやっているヒーローもどきな遊び、通称『ヒーローのお仕事』を手伝うことはあまりしない。たまにリオにつつかれて手伝っているようだが、彼女についていく背中は哀愁で溢れていた。
それを見ると、ジャラヒもまあいいか、とソウヤについて深くつっこんだことはない。
何を企んでいるかは知らないが、害はなさそうだったので。

ともかく、ソウヤはそう笑うと、ジャラヒの背中に声を重ねた。

「まあ、ジャラヒが出るって信じてんだろ。がんばれよ!」
「…ああ、さんきゅ」

短く返して、外に出る。


リオには会えなかったけれど、会えずとも、信じて、励ましてくれている、暖かい気持ちはわかった。
ぐっと、手を握ってみる。
直接言いに来ればいいのにという気持ちと、信じてくれているからだという気持ちを、ぐっとこらえた。
リオが、ジャラヒを避けているなんて、ロイは言っていたけれど、避ける理由が思いつかない。
喧嘩をしたわけでもない。
ジャラヒが部隊長になって、忙しくなってしまっただけだ。
もともと、好きに動きまわる子だ。あっちこっち楽しく、色々としたいことをしているのだろう。
別に、それはそれでよかった。
たまに帰って笑ってくれればそれで。
だけどほんとは…

(それじゃあ、嫌なんだ、おれは)

ドロシーみたいに、尽くしてやれない。
自分がいなくても、彼女が幸せであればいいと、思っていても、歪んでしまう。
歪んでしまったことに気がついたのは、リオがロイに、『ジャラヒはダメ』だと、そう言っているのを聞いてしまってからだ。
いつでも助けになると思っていたのに、困ったときに彼女が助けを求めたのは、ジャラヒではなくロイだった。
それに対して、彼女が助かるのであれば、それでいいと、そう思ってはみたけれど、それでもやっぱり、本当ではない。
ドロシーを見ていて、自分のその気持ちが、まがい物だと気がついたので、ジャラヒはそれを認めようと、思ったのだけど。

(避けられてる、か)

たまにふらりと訪ねて来ることもあったが、最近は姿を見ていない。
それはつまり、そういうことなのだろうか。
それと同時に、ロイの言っていたことが、やたらと胸にささくれを作った。

「……」

頭が痛くなる。
リオと出会って、過ごした日々は、ロイよりも長い。
ずっと、二人だけで旅をしてブリアティルトまで来たのだ。
二人だけの、狭い世界で。
誰にも会わずに、ずっと。リオだけを見ていた。
あの頃に戻りたいかと言われると、ためらう。
このブリアティルトに来てからは、ジャラヒにとっても、小さなものではなかった。
傭兵になって、仲間が出来て、友人だって、たくさん増えた。
助けあって、笑い合って、家族みたいに。幸せだ。
そこにリオもいる。
これを失ってまで、リオと二人だけだった世界に戻りたいとは思えない。
確かに、あの頃のほうが、リオのことをなんでもわかっていたけれど。


(英雄戦が終わったら、話をしよう)


ロイの言うことなんて、関係なく。
他愛もない話をして、安心したかった。
ブリアティルトの三年間を締めくくる戦いが終われば、リオも次の巡りの話をする。
しっかり話をして、こんな憂鬱、吹き飛ばしてしまいたかった。
次は、自分も一緒にいたいと、そう言おう。
リオはきょとんとしながら笑うに決まっている。

『ジャラといっしょなら、百人力だね!』

とか言って、飛び跳ねて笑うのだ。

そんなことを想像すると、少しだけ元気が戻ってきた。
そうなると、英雄戦に出れませんでした、なんてかっこ悪いことになるわけにはいかない。

よし、と腕まくりをして、ジャラヒは走った。

もうすぐ、三年目も終わる。
大きな戦果を持って帰って、リオに自慢してやろう。

















「ロイってさ、案外子どもだよね」

ジャラヒが去って、残されたテーブルを片付けながら、ソウヤは呟いた。

「あのバカがバカなのが悪い!」
「あ、それ素なんだ」
「おまえもそう思わないか?こっちが直接言えないからなんとか遠回しに言ってやってんのに、察するどころか、あの皮肉のオンパレード!人がせっかくあいつの為を思ってあれこれしてやってんのに、人の気も知らずあのクソヤンキーが!」

先ほどまで何事もなかったような顔をしていた男は、一つ語りだしたら止まらなくなったのか、ソウヤに、まあ座れと促して続けた。

「何が魔神様だあのヤンキー!おれは!やっぱり!DQNが嫌いだ!!」
「DQN?」
「わかってるのにわざと校則やぶってヘラヘラして集団で廊下に立って邪魔したり、集会で3分も黙れない低能たちのことだ!」
「…よくわからんが、ジャラヒは集団でヘラヘラするタイプじゃないだろ?」
「金髪は同類だ!」

よくわからないが、金髪に恨みがあるらしい。

「初めっから馬が合わないと思ってたけど、こっちの話をあそこまで喧嘩腰で聞くとか、ふざけてる!」
「人のことは言えないように見えたけど」

そもそも、ジャラヒにしてみると、いきなりわけのわからないことを言われて、リオと別れろと一方的に通達されただけだ。怒るに決まっている。

「あの話で、ジャラヒに察しろって言うのも、無茶な話だと思うけどね」
「だからといって、おれが直接言えるわけないだろ!リオがほんとは……」

勢い任せにそう言って、ロイは我に返った。

「…聞いてたのか?ソウヤ」
「ぴんぽん。でも、おまえら二人でリオを取り合う修羅場なんて、入っていけますかって」

茶化すように笑うソウヤ。
によによと笑うその顔を見て、ロイの胸に違和感がよぎった。
いや、違和感とは少し違う。
どこかで一度見たような、既視感。

「…おれ、お前とどこかで会わなかったか?」
「なに?ロイさん、今度はおれを口説くんですか?まじこわい」

ともかく、とソウヤはテーブルの上のカップに手を伸ばそうとして、中身が入ってないことを思い出して肩を竦め、続けた。

「まあ、ロイがさ、言いたくなるのもわかるよ。色々とわかったら、口出したくもなるよな。
 それに、一番ロイが苛ついてるのはアレでしょ?関係ない発言。リオのことにおまえは関係ないって、あれはないよな」

うんうんと頷いたのは、何に対してなのか。
わかっているのかいないのか。
茶化した風に言うので、ロイも判別に困る。

「…見透かしたような態度がイラつく、か。少しわかった気がする」
「なにそれ、おれのこと?」

ジャラヒのセリフを引用してつぶやくと、傷つくな~とソウヤも笑った。

「リオちゃんのことはさ」

リオちゃん、とソウヤは少し甘ったるく言って、ぐいと、手を上に伸ばした。
背筋も伸ばして、大きく息を吐く。

「彼女に任せたらいいよ。ロイの親切は、おれにはわかるけど、ジャラヒにはまだわからないから」

今度のセリフは、ロイにもわかった。
ソウヤが、『わかって』そう言ったのだと、わかった。

「しょーがないことって、あるんだよ。ロイは、いつも努力して、悪いことを防いだり、良いようにしたり、がんばってるし、すごいなって思うけど。
どうしようもないことは、確かにある」
「おまえは…」
「あー、焦んなくてもいい。リオちゃんが言ってたろ?『ロイくんは特別なの』って。
 その通り、ロイはちゃんとリオの正体、確証まではしなくても、突き止めたんだろ?
おまえが知ろうと思ったら、なんでもすぐにわかるさ。おれも隠してない。おれのことが知りたいなら、今聞かなくても、ちゃんと、ロイならわかる」

何者だ、と問おうとした答えは、何倍にもなって返ってきた。
逆にロイのほうが返事に窮してしまう。
リオのファンだと言ってやってきた新人を、そのままただのヒーローオタク仲間だとは思ってなかったが、こんなに早く、自分には何かあると言い出すとは思わなかった。

「今回のこれは、どうしようもないことだ。しょーがない。気に病むな」
「……何か悪いことでも起こるような風に言うなよ」
「悪いかどうかは、どうかな。悪くないんじゃないか?しょーがない中で、ジャラヒはよくやってるよ」

そう言って笑う顔は、優しげですらあった。

「だけどまあ、どうしようもないから、あとはジャラヒとリオに任せよう」
「でも、おれは…」

何か、悪いことが起きると知っているなら、それを止めたいと思う。
自分に力があるなら、なんとか阻止したいと思う。
出来るのにやらないのは、力ではない。意味が無い。
そう思って、ロイは生きてきた。
面倒くさいことは大嫌いだが、自分にできることがあるのであれば、それを尽くさないと、あとで悔やむことになる。そのほうが面倒くさいことを知っている。

「ん?ロイに出来ること?もうやってたよな。ジャラヒに真実を気づかせようとすること。
 まあ、ロイとジャラヒの仲じゃあ、あれが精一杯だろ。無理無理。
 他にできることがあるとすれば…」

あるとすれば、とロイも考える。
絶対に、ジャラヒとリオを会わさないように、小細工する?
一瞬考えたが、ずっとなんて不可能だ。
ジャラヒとリオが会ったら、リオが消える、なんて、予想はしているけれど、それがいつ消えてしまうのかはわからない。
次に会ったらかもしれないし、もっと後かもしれない。
それもただの推測だ。
全部が勘違いで、ただ、リオはジャラヒと喧嘩して避けているだけだったらいいのに。
その可能性は、今、目の前の男が消してしまったけれど。

「あーおれにはわかんないな。でも、ロイなら見つけられるかもしれない。今じゃなくても、これから先でも。いつかあんたなら何かしそうだって感じがする」

あっけらかんと、そう笑う男。ソウヤ。赤雫☆激団の新人。
人当たり良く、話しやすく、こんなに怪しいのに、誰にも疎まれない。
ジャラヒだって最初は警戒していたようなのに、今は気軽に話をして打ち解けているようだ。
誰とでも打ち解けられるドロシーはともかく、ダリアも彼とは普通に話をしている。
ロイだって、ここまで怪しませる返答をされたのに、警戒せねばとは思えど、何故か敵対心はわかなかった。

「まーでも、おれはそのへんはよくわからん。がんばれとしか言えない」
「…リオについて詳しいみたいだけど、おまえは、リオのなんなんだ?」
「お、何か浮気を尋ねられてる男の気分!…冗談だって。
 別に、リオちゃんとは何の関係もないよ。リオちゃんは、おれのことは知らないんじゃないか?」
「じゃあなんで…」

そう問うと、ソウヤは少し困った顔をした。
いつも飄々としたソウヤに似つかわしくない、困った顔。
初めて見るような、それでいてどこかで見たような、ロイに既視感を感じさせる顔で、しばし黙って、それから口を開く。

「おれとリオちゃんは同じようなものだから、かな」

そう言って、ソウヤは、よいしょと立ち上がった。
食器片付けとくから、とキッチンに向かったソウヤは、もうこちらを向こうとはしなかった。





□■□■□■□■□■□■


tag : 第9期 ジャラヒ 岸辺ロイ ソウヤ

2013-11-17 : SS : コメント : 0 :
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【SS】赤雫☆物語第9期【その3】

刻碑歴999年。
3年を繰り返すブリアティルト最後の年。
9度目の巡りの終わりはそろそろ来る。
いわゆる総決算の年だ。
これまでの傭兵の仕事の功績が認められれば、最後の大戦に向かう英雄たちへの同行が許され、補佐の役につくことができる。
その最後の大戦に向けて、仕事が多くなるのもこの時期で、赤雫☆激団も例にもれず、連日の遠征に忙しくしていた。

ブリアティルトでは、延々と、五国が小競り合いを繰り広げている。
傭兵の仕事は、その国境方々への遠征が主だ。
ある時は勝利し、ある時は撤退し、繰り返し繰り返し、国の権威という名の剣を振るいあっている。
その行為に意味があるのかと言われると、ジャラヒも言葉はなかったが、だからといって別に文句があるわけでもなかった。
それが傭兵の仕事であるのだから、国が勝利して何があるかなんて、上に任せておけばいい。
敵の傭兵の中には、かつて仲間だった人物も、先日ともに飯を食べた人物も、酒を酌み交わした人物もいる。
見知った顔と敵対し、刃を向けるのも、初めは戸惑うものだったが、慣れてしまった今となってはどうってことない。
それはそれ、これはこれ。
例え命を落としたとしても、それが傭兵の仕事。
恨みっこなし…とまでは言わないが、仕事と割り切ることは、ジャラヒにとっては簡単だった。

しかし、とジャラヒは思う。
ジャラヒが大切に思う少女、リオディーラにとっては、そうではなかったのだろう。
いつも笑顔で、不平不満は言わなかったが、遠征を好んでいるわけではなさそうだった。
彼女はそうとは言わないが、部隊長の役割を降りたのは、それが一番大きかったのだろうと思う。
ジャラヒとしても、内心、彼女が部隊長を降りたことは、ありがたいことだった。
戦うなとは言わないし、好きにすればいいと思うが、戦に出る彼女のことは、いつも心配に思っていた。
戦場で、自分も戦いながら、彼女を心配していないふりをするのは、実際とてもきつい。
彼女が戦場に出ないでくれるなら、それが一番だ。
それから彼女は、きらめき隊なんてふざけた名前の遊撃隊を作って、きままにふらふらと何かをしている。
何をしているのか知らないが、戦場でヒヤヒヤさせられるのよりはいいはず、だった。
彼女が何をしたいにしろ、一番に力になれるのは、自分だと思っていたから。

(まあ、別に、楽しく笑って元気でいるのが一番、だけどな)


本心からそう思う。
何かを我慢して、合わせている彼女を見るのは嫌だ。
やりたいようにやって、笑顔でいる彼女が一番いい。
何よりも、彼女の幸せが一番だ。
そう、本当に思っているのに、まるで自分で自分にそう言い聞かせているようで、気がついて自嘲したくなった。

(楽しく幸せでいてほしい。おれはそれが見たい)

心の底から思っているのに、どこかから、本当にそうかと声がする。

(それで、おれは…)

誤魔化しているのではないだろうか。
彼女が一人で、楽しそうに、ジャラヒなしでもやっていっている姿を見て。
それから、困ったときに、ジャラヒではなく、ロイの名を呼ぶことについて。
ジャラヒではダメだと、拒絶することには、理由があるのだろうけど、それを言わない彼女について。
したいようにすればいいと。
あの子が幸せならそれでいいと。
そう、思っている。
だけど本当に、嘘偽りなく思っているだろうか。




「…女々しいですよぼっちゃん」

突然に図星を突かれて、ジャラヒの手が止まった。

「…勝手におれの顔色読むなよ」
「読もうと思わなくてもぼっちゃんのことならすぐにわかりますよ。
 どうせ、この間気前よくエアロちゃんにあげた桃、ほんとはまだ食べたかったなーとか思ってたんでしょう」
「そこまではおれも女々しくねえよ!ていうかそれは女々しいじゃなく卑しいっつーんだ!」

桃ならまた今度買ってきますから、と言うのは、赤雫☆激団にメイドとして在籍しているドロシーという女だ。
彼女は昔、ブリアティルトに来るずっと前、リオに会うよりも、ギャングなんてしてた頃よりもずっと前の、ジャラヒが幼かった頃、調度物心ついたかつかないか位の年頃に、ジャラヒの乳母をやっていた女性。
病弱で、いたかいないかわからない、今となっては顔も朧げな母親の代わりに、幼いジャラヒの傍にいてくれた女性だ。
おねしょをしたときも、泣いたときも、花瓶を割ってどうしようかと悩んでいたときも、彼女は隣にいてくれた。
おかげで、ジャラヒは今となってもドロシーに頭が上がらなかった。
ブリアティルトで再会したあとも、当時と同じく「ぼっちゃん」と呼んでくるので、思わず当時を思い出してしまう。
あの頃より、もうずっとずっと大人になったというのに。

「さてぼっちゃん、準備は大丈夫ですか?ハンカチは?お金は持ってます?地図忘れたらだめですよ」
「おれは子供か!」

こうやって、相も変わらずの子供扱いだ。
もしかしたら、ドロシーの中では、ジャラヒは5つか6つくらいの子供なのかもしれないと、たまに本気で思う。
幼いころよりも、お説教の数は減ったけれど、相変わらずドロシーは口うるさい。
でも、その口うるささには、もう慣れてしまった。いつものことだ。
ハンカチは昨日ドロシーが洗ってくれたものが枕元に置いてあったし、お金は、何故か財布の中に、昨日使ったはずの分まで補充してあった。地図も最新号が用意されていたが…例えなくしても、ドロシーは予備を持っているだろう。
それに甘えるつもりはないが、ありがたく受け止めておく。
それからドロシーは、いつものようにジャラヒがはぁと溜息をつくと、

「冗談ですよ」

と、ぽんと背中を叩くのだ。笑いながら、からかうように言われているのに、何故か不快になれない。
暖かくて、優しい。大きな手。
背中を叩かれる感触に、何故だかジャラヒは安心してしまう。
その手に、ジャラヒは幾度も救われていた。

ふと思い出したのは、本当に幼かった頃、まだ家にいた頃のこと。
あれは、6つか7つかの時のことだ。
確か、習っていたバイオリンの発表会の日に、逃げ出したくて欠席の理由を延々と考えていたとき。
ドロシーが、隠れているジャラヒを見つけて言った。
確か、「失敗して涙目になっているぼっちゃんも可愛らしいので、ぜひ盛大に失敗してきてください!!」とかなんとか、ふざけたことを言って。
言われて頬を膨らませるジャラヒに、「冗談ですよ」と「ぼっちゃんなら大丈夫です」と。
ぽんと背中を叩いて、ドロシーは微笑むのだ。
発表会が上手く行ったかどうかなんて覚えていないけれど、その時のドロシーの笑顔は、今も同じで覚えている。
他にももっと、背中を叩いてくれた暖かさは、ずっと。
ドロシーがいなくなり、泣いて暮らしていた幼い時だって、その背中の暖かさは、じんと胸に残っていて、ジャラヒは生きていけたのだと、思う。最初の友達が出来るまで、ずっと心の中で彼女に話しかけていたものだった。

幼い頃も、再会してからも。ドロシーは優しい。

今だって。あんなに嫌な気持ちが、もう吹き飛んでしまった。


「ぼっちゃんなら大丈夫です。私は知ってますよ」


ブリアティルトの世界なんて、ドロシーも初めてなはずなのに、不平も不満も言わず、ただ、後ろで、大丈夫ですよと笑ってくれた。
心配してくれているのは、痛いほどわかったけれど、傭兵の仕事を彼女が止めることはなかったし、危険な地にだって、黙ってついてくれていた。
やめろなんて言わない。心配しながらも、信じてくれているから。見守ってくれているから。
だから彼女は笑うのだ。
『大丈夫ですよ』と。『知っていますよ』と。


「ほら、はい!お弁当と水筒。お腹すいてたら力出ませんからね!」

そういえば、朝早くからいい匂いがしていた。
彼女が抱えているお弁当とやらには、きっとジャラヒの好きなものが入っているのだろう。
見なくてもわかる。ドロシーの得意料理の一つ。きのこの入ったオムレツと、タコ足のウインナー。
これから、戦地に行くというのに、まるで遠足みたいだ。
そう思ったけれど、ジャラヒは言わなかった。

「今日勝ったら、一気にオーラムも有利になるはずですからね。
 ぼっちゃんの功績もきっと認められて、最後の大戦、お声がかかるはずですよ!」

そうやって、励ますドロシーの姿は、いつもと同じだった。

「ぼっちゃんの立派な姿!みせつけてやりましょうね!」

本当にいつものセリフ。

「期待してますよ!ぼっちゃん!」

だけど、それで唐突に、ジャラヒは気がついてしまった。
励まし鼓舞するセリフと、最後に付け加えられた、案じるセリフ。
彼女が本当に言いたいのは、付け加えた方の言葉だ。
心配でたまらないけれど、とめることは出来なくて、信じていると言って、やりたいようにしろと言って。

彼女は、全てがジャラヒのためだ。
それは、今ジャラヒが部隊長だからではなくて、彼女が部隊長として登録されていたときもそうだったし、きっと他の誰が部隊長でもそうだろう。
彼女にとって、一番はジャラヒ。
赤雫☆激団のメイドとはいえ、彼女はジャラヒを中心に見ていて、ジャラヒもそれが当然のように思っていた。
それがあたりまえだったのだ。
いつも彼女はジャラヒを見守ってくれているから。
ジャラヒが幸せであればいいと、いつも言ってくれているから。

ああ、と。
これだ、と気がつく。

「…ありがとう、ドロシー」
「きゅ、急にどうしたんですか?ぼっちゃん!」

気がついて、笑い出したくなった。

したいようにさせて。
幸せを願って。
見返りなんて考えもしないで。
それがまるで当然みたいに。

ジャラヒがなりたかったもの。
無意識に、なろうとしていたものは、これだ。
あの子が幸せなら、なんだっていいと。
なりたかったのはこの姿。
優しくて、いつでも味方で、やりたいようにサポートして、一番に力になってあげられる存在。

気づくとバカらしくて、恥ずかしい。
そんな、ドロシーみたいなもの、なれるはずがない。
無理に決まってる。
そんなすごいもの、なれっこない。そんなのジャラヒが一番良くわかっている。

「ほんとに、いつもありがとう」
「ぼ、ぼっひゃん?」

暖かい彼女の手を握る。
小さくて、荒れている手。
幼いころは大きな手だと思っていたのに、全然違った。こんなに小さい。
傭兵仕事で荒れているのとは少し違う。
柔らかいのに荒れているのは、家の仕事を一身にやってくれているからだろうか。
手を抜けばいいのに、彼女はそんなことをしない。
頼んでもないのに何でも救い上げてくれる小さな手を、ジャラヒはもう一度ぎゅっと握った。
この手になるのは、ジャラヒには無理だ。

「なあドロシー」

こんな献身的には、なれない。
なれはしない。

だって、こんな、ドロシーは…

「おれは、さぁ」

上手く言葉にならないけれど、握った手を見つめて、それから、ジャラヒはドロシーの顔を見た。

「もう大丈夫だよ。ドロシー」

面と向かって言うのは気恥ずかしい。
それと同時に、とてもいたたまれい。
それでも、伝えなければならないと、思った。

ドロシーの献身さは、無意識のうちに、ジャラヒの中に『こうあるべきもの』として潜んでいた。
大切なら、好きだとか嫌いだとか、愛だとか恋だとか、そんなものではなくて、こうやって、見守る存在でなくてはならないと。
ジャラヒのそれは、ドロシーのように本物ではないので、いつのまにか醜く歪んでしまっていたけれど。

一つ気がつくと、全てが雪崩のようにジャラヒに襲いかかり、罪悪感に気持ちが焦る。
今初めて気がついた自分にいたたまれない。

「おれは大丈夫だからさあ、ドロシー」

こんな、いつも『こうあるべきもの』と無意識に思っていたのは、これも無意識に、ドロシーのこれが『あたりまえ』なものだと思っていたからだ。
こんな恐ろしいものを、どうして当たり前だと甘受出来たのか、不思議だ。

そして、気がついて思う。
こんな風にはなれないと思ったのは、それと同時に、ダメだと思ったから。
献身的にジャラヒに仕えるドロシーを見て、これはダメだと。
ジャラヒみたいに、醜いものなんかじゃなくても、このやり方は、ダメだ。

これではきっと

「何て言うか…ドロシー、もういいんだ」


きっと、ドロシーが幸せになれない。




「ぼ、っちゃん?」
「今まで、ありがとう。でも、これで終わりだ」
「……」
「おれはもう」
「…や、やめてください」

握っていた手が、振りほどかれた。
思ったより力強く、ドロシーはジャラヒの手を払って、下がる。
それから、首を横に振った。

「い、行きましょうぼっちゃん。外に馬車呼んでるんです。ほら、今日の遠征先は結構距離がありますから。
 ね?ダリアちゃんも、馬車の中で待ってますよ」
「ドロシー」

これ以上聞きたくないと、くるりと背中を向けたドロシー。
こんな風に、ドロシーに拒絶されるのは、初めてだ。
だけど、言わなければならなかった。
言わないと、ジャラヒは前に進めないし、ドロシーもそうだ。
ドロシーの腕を掴み、こちらを向かせる。
その顔は、泣きそうな、苦しいような、どこか諦めた顔で。
そんな顔に、ジャラヒは一瞬戸惑ったものの、それでも、言わなければならないと、彼女の目を見た。

「もう、おれは、おまえのぼっちゃんじゃない」
「ぼっちゃ…」
「ありがとう、ドロシー。ほんとに」
「やめてください」
「だけど、これからは…」
「やめてくださいって!」

半分悲鳴のような声で腕を振り払ったドロシーの顔は、もうジャラヒからは見えなかった。
何故彼女が、ここまで拒絶するのかもわからない。
感謝を述べて、彼女に幸せになってもらいたいだけなのだが、どうしても、受け止めたくないらしい。
それでも、ジャラヒは言った。
ここで引けるほど、ジャラヒは優しくはない。
このままドロシーの優しさを甘受するほど、腐っているつもりもない。
ただ

「これからは、自由にしていいから。ありがとう、ドロシー」

何度もありがとうと言って、彼女の横を過ぎた。





玄関を抜けると、馬車が止まっていて、奥にダリアが座っているのが見えた。
ジャラヒの姿を認めると、怪訝な顔で首を傾げる。

「遅かったじゃない。どうかしたの?」
「いや、ちょっと…」
「?」
「なあ、ダリア」

馬車に乗ろうとしないジャラヒに、ダリアが眉を潜めると、ジャラヒはバツが悪そうに、ごめんと頭を下げた。

「おれ、ちょっと用事思い出したから。今日の遠征、任せた!」
「任せたってあなた…」

ダリアが苛つくのも仕方がない。
遠征も大事な時期に、何を言っているのかと舌打ちもしたくなるだろう。

「おまえなら大丈夫だって!今日、助っ人もすげー強い傭兵さん来てくれるから、なんとかなる」
「そうじゃなくて…」

そういう問題じゃない、というのは百も承知だ。
こんな大事な時期に部隊を投げ出すなんて、部隊を預かったリーダーが何を言っているのか。
それに

「まさかあなた、忘れてるんじゃないでしょうね」

やっぱり言うと思った、とジャラヒは肩をすくめる。
案の定、ダリアは淡々とこちらを睨む。
忘れていたわけではない。

「私がここにいるのは、貴方を助けるためじゃないのよ」

生かすか殺すか、判断するために、ここでジャラヒを見張らせてもらうと、彼女は言った。
7の巡りの時の、護衛するためにいるのとは違って、実際今回の巡りで、彼女は必要以上にジャラヒに干渉しようとはしてこない。
部隊の仕事の役割はするが、例えジャラヒが危険な場所に行こうとも何も言わなかったし、前は買い食いすらも毒物に注意しろと煩かったのに、もう口を出しもしない。
彼女自身が何を仕掛けてくるでもなく、ただ傭兵として通常通り過ごした三年間。
それももう終わりだ。
果たして、ダリアは何を持ってジャラヒを測ろうとしたのか。
今度ある、英雄たちの大戦に傭兵の一人として呼ばれたら満足なのか。
いや、そこは関係ないだろうと、ジャラヒは思っていたけれど。
考えてもダリアのことはわからないと、ジャラヒは今までその件については置いていた。
正直な所、それどころではなかったのもある。
何かをジャラヒの見えないところで企んでいるリオのことで、頭がいっぱいだった。
いや、今だってそうだ。

「…おれを生かすも殺すも、ダリア次第だ」

殺さないでくれと、ダリアに頭を下げるには、まだ材料が足りない。
そもそも、生きるだとか死ぬだとか、正直な所、どうでもいい、とジャラヒは思っていた。
リオに救われなければ、なかった命だ。
『生きること』に縋る気持ちにはどこかなれず、死んでもいいとは言わないが、死にたくないと思うにも足りない。

リオによって生かされている命だ、あの子が死ねと言うのなら、喜んで命を差し出そうとも思っていた。
そうでなく、ダリアによって殺されるのであれば、喜んでとは言わないが、それもまたいいのではないかと、思う。
これは、ドロシーの持つあの献身的な気持ちとは全く違っていて、本当に、ただ単に命を投げ出しているだけ。
リオのためだなんておこがましい。関係ない。醜いだけのただのエゴ。
ドロシーに自由になれと言った以上、このまま投げやりにダリアに向かうのは、あまりにも情けなさすぎる。
だけど、自分の勝手さに気がついたのはほんの少し前で、まだ気持ちは固まらなかった。
まだ足りない。

「だけどダリア…悪い。もう少しだけ、待ってくれ」

もう少しで、わかる気がした。
生きるとか死ぬとかは、それからもう少し後だ。

「リオに会ってくる。それから…全部済んでから。それから、決めてくれ」

頼む、と頭を下げると、はあ、とわざとらしく溜息が聞こえた。

「…私が遠征から帰ってきたら、コーヒーとケーキね。貴方が用意しなさいよ」








tag : ジャラヒ ダリア ドロシー 第9期

2013-11-11 : SS : コメント : 0 :
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【9期】その2

リオディーラという少女は、とても不思議だ。
と、自分のことは棚に上げて、岸辺ロイは思う。
鳥族だという少女。この赤雫☆激団の創設者。
正義のヒーローが大好きで、たまに変装をしては、ヒーローごっこをしている愉快な少女だ。
いつも笑顔で明るくて、ちょっぴり傷つきやすい少女。
ロイは、彼女をそう思っていた。
彼女が、まるで魔神みたいに、「なんでも願い事を叶えてあげる」なんて言い出すまでは。

『病気の母だって治す』『特別な力を与える』『恋人といつまでも永遠に共に過ごせる』『死んだ友人を復活させる』
彼女が言ったことは、まるで、魔神が人間をたぶらかす時に言うことと同じだ。
人間でありながら、魔神なんてやっているロイにはわかる。
たぶらかすみたいに言ったリオは、そんなことまったく関係ないみたいな、綺麗な笑顔でロイの前に立っていた。

赤雫☆激団の屋敷…というには少し小さいが、本拠地。
なじみの我が家に、ロイとリオはいた。
ロイとリオと、それからもう一人、赤雫☆激団に新人として入ったソウヤという男と、3人で引っ越しをするところで、荷物の整理に一区切りついたところである。
彼らが向かう先は、赤雫☆激団の小さな別邸。この3人で赤雫☆激団のサポートをするきらめき隊に所属することになったからだ。
それも、リオが決めたこと。
巡りの初めに、誰が部隊を纏める部隊長をするのか最終決定を下すのは、赤雫☆激団リーダーであるリオの役目だ。
今回、この世界の9度目の巡りのリーダーを務めることになったのは、ジャラヒ。
彼はリオをとても心酔している。先ほどまでは、ロイとリオのことを睨むように眺めていた。色々思うことはあるだろうにジャラヒは何も言わない。
言うと、リオが困るのがわかっているからだ。
何も言わない代わりにため息だけ落として、ジャラヒは今は外に出ている。
それを追いかけたのはソウヤ。
ドロシーは、台所でいつものように鼻歌交じりに食事を作っていて、ダリアは…何をしているかわからないが、ダリアがふらりとどこかに消えるのは、珍しいことではない。
居間に残されたのは、リオとロイの二人だけで、そんな中、リオはロイに言った。

「こないだの約束ね、ほんとだよ。願い事、ちゃんと叶えちゃうから」

こないだ、というのは、8の巡りの最後の話。
ロイが、魔神の力を使って過去のリオを助けたときの話だ。
結果、リオの憧れていた『昔助けてくれた正義のヒーロー』の正体はロイだとわかり、感激したリオは、ロイにお願いがあると言った。
そのお願いを聞いてくれるなら、代わりに自分がロイの願い事をかなえると。

「だから、ロイくん!たすけてほしいの。探してるんだ。一人の男の子。てつだってくれる?」
「…ジャラヒには頼まないのか?あいつはリオの頼みならなんだって聞くだろ」
「ジャラは駄目なの。ぜったいに」

珍しくリオは頑なだった。
今この話題をもう一度出してきたのは、ちょうどジャラヒが席を外したからかもしれない。
ジャラヒに知られたくないこと、らしい。

「ジャラには頼めないし、ジャラの願い事も、だめ」

そう、つぶやくように繰り返す。
それからリオは、苦さを噛み殺すように首を振って、次の瞬間にはいつもの笑顔だった。

「ロイくんなら大丈夫だから!なんたって正義のヒーローだもん!ね!」
「ヒーローになった覚えはないが…」

どちらかというと、半分は悪魔に位置する魔神なのだから、彼女の嫌う悪の方ではないかと思うのだが、そうは言っても聞きはしないだろう。
ロイとて、リオが助けを求めてくるのであれば、それがロイがなんとかできる事態なのであるとするなら、助けてやりたいとは思っていた。
半分は魔神でも、もう半分は人間だ。リオに召喚されここに来たのが始めとはいえ、こんなにも長いこと共に過ごせば、仲間だと思うし、力にもなりたい。
『ジャラヒがダメ』ということには疑問を抱いたが、正直言ってジャラヒに対して良い感情を持っていないロイは、それを問いただすことも面倒くさかった。
なのでロイが選んだのは、こくりと頷くこと。

「…わかったよ。誰を探しているんだい?」

探し物を見つけるという力は、魔神であるなら、どの魔神も多少なりとも持っている。
彼の知るそれを専門としている魔神ー例えばサルガタナスとかーほどではないが、ロイも、何かの封印がほどこされているとか、意図的に隠されたもの以外であれば、察知するくらいはできた。
ロイが本当に得意とする力の一つは、『過去と未来を見通す力』なので、それを組み合わせれば、たとえ隠されていても、多少のものなら力を使って推測することが出来るだろう。

「男の子なの」

リオは、ゆっくりとためらいを抑えるように、言った。

「黄金の国の絵本を読んでて、そこに行きたいと思ってる子なんだ」
「黄金の国の絵本?」
「うん、そこに行ったら、願い事が全部叶うっていう国を目指すお話」
「…願い事、ねえ」

また出てきた。
願い事。
初めてこのフレーズが出てきたのは、魔神であるロイが彼女に召喚されたときだ。
どこかから拾ってきた魔導書をなんとなく開いて読んだらロイが出てきたと彼女は言う。
が、ロイという名の魔神アスタロトは、そんな簡単に出てくる魔神ではない。
彼女がやってのけたのは、立派に高位魔神の召喚だ。
ともかく、召喚されたロイは魔神の作法に則って、願い事はなにかときょとんとしているリオに投げかけた。
結果、力を貸して欲しいというリオに、焼き鳥を代償としてもらい、ロイは彼女について、こんなところまでくることになったのだが。

つまりロイにとって『願い事』とは、召喚されたときに、代償をいただいて、召喚主に叶えてやるものだ。
力を使って、未来や過去を見通してやったり、一つだけ勝利を与えてやったり、時には何かを始末してやったり、与えてやったり、そんなもの。
望みどおりの力をやろうなんて聞こえの良いことを言って、代償を頂く悪魔の力。
普段、自分が叶える立場だからからこそ、強く思う。

願いが叶うなんて、ろくなもんじゃない。

「ふーむ。願いが叶う国を目指す絵本を読んで、そこに行きたいと思ってる子か…
リオは、その子の願いをかなえてあげたいの?」

どうやって願いを叶えるのかなんて、ロイは聞かなかった。
ただ、リオが何かしらの願いを叶える力を持っていると仮定する。
自分が持っている魔神の力と同じように、何かがあるのだとして。
彼女が、その少年とやらに会いたいというのは、すなわち、その少年の願いをかなえてやるつもりだからなのか。
そう問うと、リオは静かに首を振った。

「ううん。その子には、叶えたい願いとかはないの。
 だけど、黄金の国に行きたいと思ってる」
「願いがないのに?」
「うん。あ、違うかな。その国に行くことが、その子の願いなんだ。
 あ、そうか。だったら、願い事叶えてあげることになるのかな」

自分でそう呟いて、そのまま気が付いたかのように、ぽんと手を打つ。
しゃべりながら、自分の頭を整理しているようだった。
どういうことかと問いただしたい気持ちを抑えて、ゆっくりとロイは先を促した。

「…つまり?」
「その子見つけて、ここに連れてこれば、その子の夢叶っちゃうよ!」
「……ん?」


リオの言う黄金の国が何を示しているのか気が付くのに、一瞬の間が必要だった。
ここオーラムが、そう呼ばれることもあるのは、ロイも知っていた。
王や側近が、その色を身に着けていることも。
黄金の国、黄昏の聖域、黄金の門。
そう、異界と繋がっている黄金の門は、この地にある。
となると、リオがその黄金の国と黄金の国オーラムを同一視するのも自然なことに思う。
だが、この国に来て願い事が叶うなんて。
本当だったとしたら、何度も繰り返される戦の歴史はなんだというのか。
浮かんだ疑問を、ロイは首を振って払った。
願いが叶うというのは、おとぎ話だ。
さきほどから、リオも言っているではないか、「絵本」の話。おとぎ話だと。

「…つまり、その子をオーラムにつれてきたい、と。
だったら、前にドロシーやダリアを連れてきたみたいに、リオがつれてくればいいじゃないか」
「むりだよ。その子は、繋がりがない子だからね。ワタシには無理なの」
「繋がり?」
「……えっと、ひみつ!」

誤魔化すことが下手なリオは、しまったという顔をして、ぺろりと舌を出して笑った。
それにのって、誤魔化された振りをするのは楽なことだったが、どこまで彼女の思惑に乗ろうかと、迷う。
リオのことは、大切な仲間と思っている。必死に何かを為そうとしている様子に、力になってやりたいとも思う。
このまま彼女の言うとおりに力になってやることは、ロイとしては構わなかった。魔神としては面白くないことではあるが、ロイ個人としては、好意的に力を貸してやることは問題ない。力になりたいと思う。
ロイは、所詮リオに召喚された魔神だ。
だってこれはあくまで彼女の問題。
彼女の思惑に乗るだけでいい。力になってやることはできる。
ロイが口を出すべきではないのかもしれない。
力になってやる気なら、このまま何も聞かずに彼女の言うとおりに…。

「秘密は、いつまで秘密なんだ?」

言うとおりに、と思いながら、口をついた言葉は真逆だった。

「キミがいくつか言わないでいること、いつかは教えてくれるのかい?」
「へ?」
「それだけ教えてくれたら、あとはおれはキミの言うとおり働くよ。望むままに、力を貸す」

これは、ロイにとってもぎりぎりの譲歩だった。
彼女を今問いただすわけでもなく、知らないふりで流すこともしない。
どう動くか、ロイ自身も決めかねている、ギリギリのライン。
その線に、リオは少しためらった後、そっと乗った。

「ロイくんが知りたいなら、もうちょっとしたらわかるよ」
「……」
「知りたくないならそのまま。ロイくんに迷惑かけないよ」

彼女に預けた選択を、そっくりそのまま返されて、しばしロイは言葉に詰まる。

知りたいと言うのも、知りたくないとそのままにしておくことも、どちらの選択肢も平等だった。
彼女がなぜここに来たのか。
黄金の国に何があるのか。
何故ジャラヒには言えないのか。
ロイとリオ。それから、ここにいる仲間たちの、彼女の言う繋がりとは何なのか。
そして、彼女はいったい何がしたいのか。
知りたくないと言うと嘘になる。
だが、たやすく足を踏み入れることの危険性を、ロイは知っている。

「あのね、ロイくんはね、特別なの。
 だからロイくんなら、知りたいって思ったら、ワタシが何も言わなくても、なんでもわかるし、何だってできるんだよ」

ね、とリオは笑った。
屈託なく。いつもの笑顔で。

それがあまりにもいつもの笑顔で、魔神のような、人を嵌めて陥れようなんていう世界とは、本当に遠い、ロイの知っている笑顔だったので。
ロイは、それほど心を揺すぶられずにすんだのかもしれない。
小さく息をついて、ロイは考えとくと苦笑し、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。









□■□■□■□■□■□■



ダリアがオーラムの地に来たのは、今回で二度目だ。
一度目は、ワートン総帥からの依頼で、息子ジャラヒ・ワートンを護衛するため。
出会った不思議な少女、リオディーラに導かれて、ダリアはブリアティルトのオーラムにやってきた。
お伽話のブリアティルトの黄金の国、当時、7度目の巡りを迎えていたオーラムへ。


ワートン総帥のお膝元でもある街のギャングたちを一掃し、新たな街のギャングに収まっていたという、非情で有名だった青年は、オーラムにいた。
銃を向けたダリアに、情けない姿で撃つなと言ったジャラヒは、とてもではないけれど、冷酷なギャングのボスには見えなかった。
呆れながらも、仕事だからと共にすごした三年間。
わかったことがある。
ジャラヒはきっと、戻る気はない。
とりあえずは、今のところ、元の世界に戻って、父親に復讐しようなどと、考えているわけではなさそうだった。
少し、意外に思った。
彼の過去や経緯を聞いて、復讐を考えないなんて、ダリアの感覚ではありえない。
そして、それはジャラヒの感覚でも、本来はありえないだろう。
彼は決して、日和見の能天気な男ではない。
脳天気な顔をしながら一つ一つじっくりと駒を進め、勝てるときに動く男。
表では笑っていても、裏ではきっと、じっくりと、復讐の機会をうかがっているに違いない。
言うなれば自分側の人間だとダリアは感じていた。



「なぁダリア」

ある晴れた日、ジャラヒはダリアに言った。

「おれ、たまにこれ、夢じゃないかって思う」

薄く笑って、ドロシーの入れたコーヒーを飲みながら、どこか遠くを見るように。

「だから、ある日起きたら、みんな死んでんだよ」

食卓で、熱ィなんてコーヒーに文句を呟きながら、何でもないようにそう言う。

「そんで、おれはほっとすんの」

ぽかぽか陽気は暖かくて、台所でドロシーが鼻歌をうたっているのを遠くで聞きながら、上機嫌に。

「悪い夢だったなって」

意味を問う前に、ごちそう様とジャラヒは席を立っていた。
意味が解らない。
と思いながらも、同時にダリアは納得していた。

熱いコーヒー。
暖かい陽だまり。
楽しそうな鼻歌。
愉快な仲間。

全部、悪夢みたいだ。趣味が悪い。
お伽話の世界に紛れ込んで見せられた悪夢。
幸か不幸かお伽話の世界にも戦争はあって、その戦場の感覚に、ダリアは救われるとすら感じられることもあった。
だから、ダリアはジャラヒの自嘲の意味がわかった。
表面上ではわからない、ジャラヒの同質の匂いも。

それでいて。

ジャラヒが、この趣味の悪い悪夢を、手放す気がないと。

それは、復讐を捨てて、この世界で楽しく生きるなんて、前向きの理由では、きっとない。

気持ち悪い夢と承知で、彼はそれに縋っている。
明るさで覆い隠して、執着しているそれを、逃すまいと。
「それ」というのはつまり、一人の少女だ。
リオディーラという不思議な少女。
ダリアをここに連れてきた娘。
明るくて優しくていつも笑っていて、陽だまりみたいな少女。
彼女が望む世界で、彼女の望む世界を構築するために、ジャラヒは笑っている。
仲間たちに囲まれて、楽しさに悪夢だなんて思いながら、あの少女のために、必死で。
その姿はとても滑稽だった。滑稽で、気持ち悪くて、歪んでいる。
でもダリアは、その彼の姿のその先が、見てみたいと思ったのだ。
どこまで歪んで、崩れるのか、それとも彼が本当に幸せに陽だまりの中いられるのか。


だから、一度、元の世界に帰ったダリアは、ワートン総帥に言った。
彼は、幸せにやっていて、もう帰ってくることはないだろうと。
すると、総帥は、短くうなずいた。
「そうか」と。連れ戻してこいとも、本当にブリアティルトはあったのかとも、何も聞かずに、ただ頷いた総帥は、それだけ聞いた後、ダリアを下がらせた。




ダリアが、再びこのブリアティルトに来ることになったのは、別の話である。
ワートン総帥から謝礼をもらい、通常の仕事に戻って、幾ばくか経ったときのことだ。
腕利きの暗殺者として名を広めていた『黒桜』は、仕事に戻っても、すぐに勘を取り戻した。長い間…といっても、元の世界では数か月間…仕事を離れていたが、どうということはない。むしろ、体感時間三年間、傭兵業務についていたため、体が軽く感じるくらいだ。

「ダリア」

一人の男が、ダリアを呼び止めた。
振り向かずともわかる。
神出鬼没で、躊躇いなくダリアの本名を言う男。
コードネーム黒桜と呼ばずに、気軽に名前を呼ぶ男は、ブリアティルトの連中を抜くと、一人しかいない。
ダリアは振り向かずにそのまま歩みを進めると、近くの酒場の扉を開けた。
そして躊躇いなく奥の席に座る。
客は数人、入ってきた黒づくめの少女にちらりと目を向けたが、そのあとに続く男の姿を認めて、そっと目をそらした。
そんな客たちをちらりと見て、ダリアはふうと息をついた。

「…座っていいなんて言ってないんだけど」
「お前の許可が必要とは、知らなかった」

ダリアの許可も取らずに、目の前に腰かけた男は、カウンターにエール2つと投げかけて、それからダリアに顔を戻した。

久しぶりに見る男に、ダリアは思わず眉を顰める。

「金髪?」
「地毛だ」

目の前の男は、眼鏡を面倒くさそうに外し、レンズを布で拭った後、掛け直した。意味のない動作。何をするにも面倒くさそうな顔。微動だにしない目。
無造作に後ろにまとめられた髪の色が金色な以外は、ダリアのよく知る男の顔である。
染めたのかと思ったが、くたびれたその色は毛根まで金の色で、傷んでいるようではあったが、作られた色には見えない。

「…知らなかったわ」
「金は目立つ」
「知ってたら高く売ったのに」

ようするに、男はもともと金髪なのを、普段は黒に染めていただけだったのだろう。
ダリアの知っている男は、黒髪だった。

たしかに、金髪で仕事をするには目立ちすぎるだろう。

仕事…つまり暗殺。
目の前にいる男は、ダリアの同僚であり、先輩である。
ダリアが幼い頃、物心ついた頃から、男の姿は近くにあった。
ふらりと現れ、いつのまにか消える男。
幼いころは不思議に思っていたが、いつしか気にしなくなった。
ごくたまに共に組んで仕事をすることもあったが、彼の腕に間違いはない。
腕はいいのだから、暗殺ギルドの幹部たちも何も言わないのだろう。
だからダリアも、この男はこうやって、突然現れるものだと、驚かないことにしている。

「…で、今日は何かあるの?ジェイン」

名前を呼んでやると、男の眉がぴくりと動いた。
コードネームは月という男を、名前で呼ぶ。
本名はどうかは知らない。ジェインなんて女性名、似つかわしいとは思えないが、どちらにしろ、その名を呼ぶ人物は限られているのだから、どうでもいいのかもしれない。
眉を動かしたジェインだったが、その顔はいつもの無表情で、感情の色は見えなかった。
ただ、ダリアの顔を見つめて、口を開く。

「弟が、世話になったと聞いた」
「は?」

突拍子のない言葉に、ぽかんと口を開けたのはダリアの方だ。

「何の話?」
「聞いた。ダリアの世話に、弟がなったと。父から」
「あんたの弟なんて知らないわよ私」

首を傾げながらも、よぎったのは嫌な予感。

「弟って…」
「ジャラヒ・ワートン」
「……ジャラ…ヒ…?」

それはもう、知らないはずがない名前だった。
覚えている。
ついこの間まで、一緒に暮らしていた男の名前だ。
弟。
兄。
脳内にある男の顔と、目の前の顔をまじまじと見つめる。
ジェインが黒髪にしていた時には全く思わなかったが、目の前の金髪は、言われて見れば、あの男の顔にどことなく似ていて。

「……あんた。ワートン家の御曹司だったんなら、ここ奢りなさいよ」

何からツッコミすればいいのか追い付かず、ダリアはとりあえずそう口にして、男がこくりと頷くのを見た。






その男、同僚だったはずの男、ジェインからの依頼で。
ダリアは再びこの地、ブリアティルトに来た。
ジェインの依頼は一つ。
『ジャラヒを見張り、判断すること』
判断とは何かと尋ねると、仕事だと返ってきた。
仕事、つまり、暗殺。
殺すかどうか、判断しろという。
弟が世話になったと言ったその口でそんなことを平然と述べる男。

何故自分で判断しないのか、何故ダリアに判断させるのか。
そう問うと、ジャラヒのことは、ダリアのほうが詳しいと言う。
なんでも、消えて初めて弟のことが気になったらしい。
それまで、弟のことを気にしたこともなかったと真顔で言うので、ダリアとしては、さもあらんと溜息をつくしかない。
あの男らしい。
意思の疎通すら難しいマイペース男と、ジャラヒがどんな兄弟関係だったかなんて、想像するに言葉も無い。
そもそも、あの暗殺男が、あのワートン財閥の息子だったなんて、驚くと同時に、あの男が何をしても驚かないと決めたのだったと諦めるしかない状況だ。

「殺したほうがいいと思ったら、そうしろ」
「…別に私は、ジャラヒを死んだほうがいいなんて、思ってないわよ?」
「…そうか」

仮にも三年間仲間として、護衛をしていた男だ。
仕事で殺害を命じられたら別かも知れないが、生かすかどうか選べるなら、手に掛けることもない。

「言い方を変える。生かす価値があるのか見極めろ。ないならやれ」
「……それは、よほどの理由がない限り、ころせってこと?」
「そう言っている」

生かしたいならそれ相応の理由を用意しろと。
そう言われて、ダリアは一瞬息を飲んだ。
反射的に、彼を生かすべき理由、とやらを考える。
あれでいて、頭の良い男だから?そんなのこの男の前では理由にならない。
もうワートン財閥に近づくつもりはなく、復讐もしないだろうから、ワートン家の邪魔はしない?
鼻で笑われるだけだ。彼の価値にはならない。
そもそも、ジェインの思う生かす価値とは何なのか。
それに見合うだけのものを、ジャラヒは持っているのか。
何か他に…

ぐるりと考えを巡らせて、同時に気づく。
なぜ自分はジャラヒを庇おうとしているのだろうという疑問と自嘲。
一瞬で色んな感情が頭を巡り、それからダリアは、ジェインの依頼を承知した。






ブリアティルトに行くのは簡単だ。
一度来たら、もう簡単に来れるんだよと、ダリアが元の世界に帰る時、リオディーラは笑って言っていた。ブリアティルトにダリアを連れてきたのも彼女だ。なぜかは知らないが、ブリアティルトを行き来する力を持っているらしい。
「えーっと、そうだなあ。どうしよっかな。んー…あ!そうだ!
かかとをね!ほら、こうやって、三回鳴らして、『お家に帰りたい!』って言うの!そうするとね、黄金の門が開いて、ダリアちゃんはここに戻ってこれるよ!」
そんな胡散臭いことを本気で言ったリオは、いつでも戻ってきていいからね!とダリアの手を取ったのだった。

半ば疑いの気持ちでやってみると、くらりと目眩がして、気がついたらブリアティルトだった。
あまりにもあっさりと戻れたので、夢か何かかと思う。
だけど、ここはブリアティルトだ。
黄金の門の気配と、森の静けさ。
それから、言葉に出来ないブリアティルトの空気。



そうやってやってきた、二度目のブリアティルト。

ダリアが懐かしくオーラムの街並みを歩いていると、目当ての人物にはすぐに会うことが出来た。
死にそうな、情けない顔で街を歩いている。
呼び止めると、驚いたように顔を上げたジャラヒは、見知った顔に一瞬気安そうな顔を見せ、それから警戒心を持って、ダリアとの距離を開けた。
『次に顔をみせた時、敵か味方かはわからない』そう言ったのを覚えていたのだろう。
その理知的な行動には、ダリアは好感を持っていた。
明るく軽口を叩きながらも、油断はしないジャラヒ。
だが、今日の彼は何があったのかは知らないが、そのいつもの明るさの武装は、上手くいっているとは言えない。
軽口を装いながらも、いつも貼り付けている明るさは影を潜めていた。
そんな情けない顔に、ダリアは何でもないように言ってやる。

「次の部隊長、あんたがやりなさい」
「は?」
「近くで見て、決めるわ」
「…何をだよ」

憮然とジャラヒはこちらに顔を向ける。
機嫌が悪そうにダリアを睨んで。
こんなに悪意を顔に出したジャラヒを見たのは、ダリアも初めてのことだ。


(面白いかもしれない)

彼に生かす価値があるのかどうか。

きちんと見極めてやろう。
ジェインの依頼通り、彼を手にかけるか。それとも、彼の価値とやらを見つけて、彼を護るのか。

「もちろん、貴方を護るか、手にかけるか、よ」

2013-11-08 : SS : コメント : 0 :
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【絵】オークション用

絵を描く時間が取れそうだったので依頼権をオークションで流させていただきました。

ってことでマキちゃん。クッキー好きな女の子ちゃんです。

maki.jpg
maki-kao.png
2013-11-03 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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【絵】捧げ物

今日の捧げ物絵。
イベントの景品で。
リデルさん。
遅くなって申し訳ございませんでした!
rideru.jpg
rideru-kao.png
rideru-kao2-.png
2013-11-03 : 依頼絵など : コメント : 0 :
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